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片翼のブランカ 20

ココが、連れてこられたのは、ヨハンナのおうちからすぐ近くの、緑の屋根の白いおうちだった。
庭に、きれいな花のプランターを並べていた、金色の髪の女の人が、先生にお帰りなさいと言った。とがった鼻、とがったあご、薄い唇と細い瞳。きりっと結い上げた髪は、小さな頭に張り付いているようだ。
ココを見て、少し首をかしげて、それから、じっと見おろした。
「こんにちは!」
ココはヨハンナに教えてもらった言葉を使う。
「あ、こんにちは」
驚いたまま、挨拶を返すメイドに、ブッフェルト教授は笑った。
「ココ、シュナイダーさんだ。おいしい食事を作ってくれるんだよ」
「!ごはん!お腹すいた!すいた、すいた!」
ココがニコニコするので、教授は面白そうに笑った。

それは食べたことのない、美味しいものだった。
ココが上手くスプーンを使えないために、テーブルの上がべたべたになった。
シュナイダーさんが、じろじろとにらむ。
ココはそんなことお構いなしで、ニコニコ笑って、もっともっとと、暖かいとうもろこしのスープをせがんだ。
「ちょっと待って、テーブルを一度綺麗にしましょう」
シュナイダーさんが布巾を取りに、キッチンに向かう。
「あのね」
振り向くと、銀色の小さな子供がついてきていた。
「ヨハンナにもあげるの、ママにも。美味しいから」
ニコニコ笑うあどけない表情。汚れたままの小さな手で、シュナイダーのエプロンをつかむ頼りなさが、なんともいえない気分にさせる。
「お隣にはお隣のお夕食がありますよ」
「やだ、これ、おいしい。ママ病気だって先生が言ってた。ヨハンナもお腹すいているよ」
その姿に、神経質なはずのシュナイダーさんも、嬉しげに言葉を返していた。
「後で、持って行きますから。あなたも、あんまり食べ過ぎると、お腹を壊しますよ」
「こわす?」
「そうです。痛くなりますよ」
「…」
不意に、ココの表情がくもる。丁度、様子を見に、教授もキッチンに入ってきた。
「おや、どうした?どこか痛いのかい?」
「ココ、痛いって言ったのに、だめだった」
「何がだい?」教授が笑う。ココを抱き上げた。

「えと、守人はね、ココが痛いって言うと、ココに悪いことできないの。ブランカを傷つけちゃいけないからだって、シェインは言ってた」
「守人?」
「うん。シェインは強い守人なの。言葉に力があるんだって。でも、シェインも契約でブランカをいじめないの」
「ココ、私にはよくわからないな。少しずつ、教えてくれるかい?」
ココは少し胸を張って、嬉しそうに笑った。
「うん。ココのお話、面白いってヨハンナも言ってた」
「そうかい。ヨハンナのことは好きかい?」
ココは、またどきどきした。
頬が赤くなる。
ココをテーブルの席に座らせて、先生は優しく見つめている。
「大好き」
「おやおや、恋をしているのかな?」
ココは首をかしげた。
「こい?」

 「片翼のブランカ」第一話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-51.html

 「片翼のブランカ」前回のお話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-82.html




「そうだ、人はね、誰かを特別に大好きになる。それを、恋というんだ」
「恋」
あの不思議なのを思い出す。キスって、ヨハンナは言っていた。
頬を赤くして、シュナイダーさんがスープを入れてくれた小さいお皿を、両手で抱える。
教授のほうを上目遣いで見上げて、照れくさそうな顔をしていた。

「キスするの?」
どきどきする。
先生は、一瞬目を丸くして、次に大きな声で笑い出した。
ココは違うこと言ったのかと、シュナイダーさんを見る。
シュナイダーさんは変な笑顔だった。
「なんだ、キスしたのか。すごいな、ココ、ヨハンナもまだ、七歳だったな」
「面白いこと?」

ココは、熱く感じる頬を、両手で押さえて、先生を睨んだ。頬をぷっくりさせる。
「教授、可哀想ですよ、まだ分かってないのに」
シュナイダーがココの髪をなでた。
「いや、ごめんな、真剣だもんな」
「しんけん?」
「あ、いや、まあ、ココはヨハンナのことが大好きで、恋しているわけだ」
「えらい?」
「ああ、真剣に人を好きになることはえらいことだ」
「えと、ココはいっぱい好き!先生も、シュナイダーさんも好き!スープさんも好き!恋なの?恋」
嬉しくなって、ココは好きなものをたくさん並べた。
くす、っとシュナイダーさんが珍しく笑った。
「まだ少し、難しい概念だったかな」
笑いすぎて涙が出たのか、目をこすりながら、先生が言った。


お腹いっぱいになって、温かくなって、安心したのか、ココはシュナイダーさんがデザートにと果物を切った頃には、眠っていた。
「教授、この子は、なんなんです?」
テーブルに切ったオレンジの皿を置きながら、シュナイダーさんは眉をひそめた。
「ああ、まだ分からないんだ。村長が、確かめてくれというんだが」
「…ベッドに運びますか?」
「私がやるよ。今日は荷物の片づけを任せてしまって、申し訳なかったね。早めに休みなさい」
「はい」


翌日、ココが起きたときには、教授はおでかけしているとシュナイダーさんが言った。
ココは、シュナイダーさんの後ろについて回って、いろいろと質問した。
「ねえ、あのね、あのね、今、きれいなの飛んでいたよ!ひらひらする、白いの!」
「ああ、あれは蝶々ですよ」
「うはーきれい。ココ、蝶々になったブランカは知らない!ねえ、鳥は?ラクって名前の鳥は?」
「ラク?鳥ですか?さあ、私には分かりませんが。教授は生物分類学の権威ですからね、聞けば分かるかもしれませんよ」
「せいぶつぶんぶん」
「ぶんるい」
「ぶんるい…」
「生物分類学。生き物のいろいろな種類の区別を勉強しているんです」
「えと。えらい?」
「ええ、偉い方です」

ココは、満面の笑み。
「うっれしい!」
その様子にシュナイダーは笑い出した。
少し勘違いをしているようだが、この変わった子供の笑みは、不思議と彼女の気持ちを和ませた。
ただ、姿だけが、普通と違った。

「ココ、お茶にしましょうか」
「お茶お茶、ケーキケーキ!」
シュナイダーさんが、プラスチックのトレーに紅茶とキルシュ・トルテを乗せて、リビングに歩いていく。ココは、その後を嬉しそうについてきた。
「ケーキは知っているの?」
「ヨハンナと食べる!」
「ヨハンナがお気に入りね?」
「ココ、ヨハンナも好き!ケーキと同じくらい好き!」
ココはソファーに腰掛けると、トレーの上の淡いピンク色のケーキを見つめて、足をパタパタ、ついでに翼もパタパタさせた。
「ヨハンナもケーキが好きなの。ケーキもヨハンナのこと好きかな」
おかしな発想ね。シュナイダーはまた、笑った。

「ケーキは、ココのことも、ヨハンナのことも、みんなのことが大好きよ」
「大好き!」
切り分けてやりながら、シュナイダーは、ふと窓から見える、ヨハンナのいる小さな家を見つめた。教授が、丁度、出てきたところだった。
戸口には、村の役場の男たちが二人、猟銃を背に、物々しく立っていた。
小さくため息をつく。
こんな、愛らしいものが、たとえ天使じゃなくても、人間でもなくても、悪いもののはずはないのに。
そっと、ケーキを夢中で食べているココの頭をなでた。


「ただ今、戻りましたよ」
教授の声がする。
「お帰りなさいまし」
シュナイダーはあわてて、玄関に迎えに出ると、教授のコートを受け取った。疲れている様子の教授は、それでもメイドの後ろからついてきていたココを見ると微笑んだ。
「ケーキを食べていたのかな?バタークリームがついているよ」
「ケーキ、先生も食べる?」
「ほう、どれ、私もいただくかな。お茶の時間に間に合うとは、ラッキーだった」
教授は、ココの頭に手を置いて、リビングに歩き出す。
「シュナイダーさん、もしかしたら、その、ヨハンナを引き取ることになるかもしれん」
小さく、教授は言った。
「また、可愛いお客さんが増えるんですね」
むしろ、嬉しそうなメイドに、教授は目を丸くした。

「何か?」
「いや、いや、シュナイダーさんは小さい子供が嫌いだと思っていた。すまない、誤解していた」
「あ、そうですね。私自身、子供がいなかったものですから、慣れていないのは確かです。
けれど、まあ、その、案外楽しいものだと、思いまして」
初老のメイドは、先を歩くココを見つめた。
「ふん。それで、ケーキなんだね」
シュナイダーは少し頬を赤くした。
お茶の時間に、ケーキなどを焼いたことはなかった。
自らもそれほど甘いものを好まなかったうえに、教授もお菓子という年齢でもない。
果物やビスケット以外のお茶受けを用意することなどなかった。

「ヨハンナは、どうしているんです?」
シュナイダーの言葉に、ココも顔を上げた。手についたバタークリームをなめる。

「ロザーナが、どうも不安定なんだ。幼馴染なんだが。もともと、あまり丈夫なほうでもなくてね。一年ほど前に夫を亡くしてから、ずいぶん弱ってね。
半年振りに会ったけれど、やせていた。
相変わらず、美人には変わりないんだけどね」
「あら、教授が女性についてそういった話をされるの、初めて聞きましたわ」
シュナイダーは笑った。
「あ、いや、まあ。彼女は昔からこの辺の男たちの憧れでね。
私も、それなりには、想ってもいたわけだ」

照れを隠すように大きな塊を一口に飲み込もうとして、教授はむせた。
「あらあら、大丈夫ですか?ベルリンのお母様も心配なさってましたし、素敵な結果になるといいですねぇ」
ますます顔を赤くする若い教授を、シュナイダーは面白そうに見つめた。
「そ、それは、まだ、いや、なんとも…」
「先生、大好き?恋?」
「ココ!」
「ちがうの?」
首をかしげるココに、シュナイダーは笑い出した。

「ごほ、とにかく、だ。彼女は、今精神的に参っていてね。
私は医者じゃないから、詳しいことは分からないが、どうも、下の町の病院に入院したほうがいいんじゃないかと。
体力がないからね、余計に、精神的によくないんだ。
ココをハンスからの贈り物のように思っていてね。
私が会ったときも、ココちゃんはどこって、泣いてばかりなんだ。
大切に扱っているから、元気だからとなだめても、聞かなくてね。
今は食事も作ろうとしないし、あのままではヨハンナがかわいそうで」

シュナイダーは一つため息をついた。
「一緒に、ロザーナさんもここに住まわれたらどうです?
幼い子とココちゃんだけでは、
確かに現実を見られなくなってしまうでしょうけど、
教授がおそばにいてくださって、
私がちゃんとお食事をご用意できれば、お元気になられるのでは?」
その提案に、ブッフェルト教授は、飲みかけた紅茶を吐き出した。
「あ、いや、急にそんなこと…」
思った以上に派手に汚したシャツを、慌てて手で払いながら照れる教授。
黙って、ナプキンを手渡して、シュナイダーは続けた。
「私が、口を出すことでは、ありませんが。もしそうなれば、私は歓迎いたします」
無表情な中に、暖かい笑みを含む言葉だった。

ココはケーキの残った皿を、抱えて、窓際に歩き出そうとしていた。
「おや、ココ、どうするんだい?」
「鳥にあげるの」
「鳥は、食べるかなぁ?」
ココは、開いている窓から、鳥を呼んだ。
小さな鳥が二、三羽、降りてきて、ココの手に止まる。
鳥がケーキのくずをつつくのを眺めながら、ココは首をかしげる。
鳥たちは、ラタやフウガみたいなお話はしないのかな。
ココの顔を見上げて、一羽が首を可愛くかしげる。
「そういえば教授、ラクという鳥がいるかって、ココが尋ねるんです」
「ラク?」
「ええ」
ふん。教授は考え込んだ。
「調べてみよう」


その夜、ココは、チーズの乗ったラザニアをたくさん食べて、お腹いっぱい、幸せな気分でリビングの暖炉の炎をじっと見つめていた。
食事の間中、ココはエノーリアのことを先生にお話した。
途中変に脱線する話を、先生がうまく尋ねなおして、エノーリアに上層、中層、下層があり、その三つを生命の木がつないでいることまでは、何とか理解できた。
ココが、その中層で生まれて、育ったことも。
ココの傍らで、肘掛け椅子に座って、煙草をふかしながら、ココの話を反芻する。
手元の開いた本は、先ほどからページをめくられないままだ。
違う世界の、生き物、か。ため息のように、煙を吐き出す。

ココは膝を抱えてじっと見上げる。シェインも、煙草をすっていた。煙がフワフワするにおいだった。
「先生、ココ、帰りたい」
「どこへ帰るのかな」
本から目を上げて、茶色の小さい目が笑った。
「エノーリアに。ココ、シェインに会いたい。カータにも」
「お友達だったね」
ココはうなずいた。
お腹がいっぱいなのと、温かいのと、暖炉の火がちらちらとゆれてまぶしいのが、なんだかココの目を閉じさせようとしている。
シュナイダーさんがかけてくれた、柔らかい毛布の下で、翼を少し伸ばす。それはそのまま、あくびになって顔に出た。
「大切な友達なんだね。ココのいう、エノーリアとやらが、どこにあるか、分かればいいのだがなぁ」
「ココ、ラクにも会いたい。ラクは鳥になったの。鳥の新しい種になったの。シェインが言ってた」
「ああ、そうだ、ラクという鳥だが」
ココは膝についていた頬を上げた。銀の鬣が揺れる。
「北アフリカのアマツバメ目のシロアマツバメ科の亜種だったよ。
現地の言葉でラクという名で呼ばれていた」
「呼ばれていたって、どういうことですの?」
シュナイダーさんが、テーブルに暖かいココアを置いた。
そのにおいに、ココは目を細めた。
「もう二十年前に絶滅しているんだ。
背に白い筋の入った、美しい鳥だったという。
まだ、RDB(レッドデータブック)もない頃だったからね、写真も残ってないらしい。
丁度その二年前に、発見されたばかりの新しい種でね、発見者が大々的に発表したものだから、密猟が増えたんだ。
とても美しい鳥だったからね」
「ぜつめつ?」

 「片翼のブランカ」続きはこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-86.html


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genre : 小説・文学

龍くん(TT)

ごめんねー(>o<)
ろくなことしないなぁ、らんらら。
とても、こんなクオリティでは…
って、とにかく、無事(?)でよかった!
小説の投稿の、いろいろありがとう!
そうか、長いのね、長すぎるのね。
大体どこも、年に1回なんだね。どこがいいとか、あんまりないけど、
もともと、RPGのシナリオ書きたくてはじめた小説
なんだよね、だから、ファミ通さんでもぜんぜんいい。
別にRPGとは関係ないかな(雑誌読んでないのでよく分かってない^^;)

とりあえず、マイペースで。
ちょうどいいのが書けたら、投稿してみます!
がんばります!!ありがとう!

団長さん

く、クオリティですか!
(^^)>うれしいなっ!
がんばります!!
これで、らんらら、人間のクオリティが上がると
いいんだけどなぁ…(>_<;)

え、えーと、こんばんは

コメントありがとうございました、でもあれ半年以上前の記事なんです。
え、えーとですね、今日はサイトの記事の並べ直しをしていてですね、そのさいに間違えてUPしちゃったんです。
だから今はふつーにパソコンも使えるし、更新もちゃんと出切るので遊びにガンガン来てくれて大丈夫です。
せっかく書いてくれたコメントですけど、ちょっと矛盾しちゃうので消させてもらいますね。
ホントすいません。ご迷惑おかけしました。
では、おやすみなさい。

どうも

えーと、まだ読み終えてないですがらんららさんにコメを返しに来ました。
そうですね、「蒼い星」と「片翼のブランカ」両方とも実力的には中々良いと思います。
ただ一番多いところでもファミ通文庫のえんため大賞で、四百字詰め原稿用紙で五百枚、ワープロだと百五十枚程度ですので、容量オーバーしそうな気がします。
もし応募しようと思うなら、ブランカを書き終えてから新しい作品を作ったらいかがでしょう。
ちなみにえんため大賞はもう期限が過ぎました。
富士見ファンタジア大賞は八月のいっぱいまで。
電撃大賞は三月の終わりくらいまでだった気が。この大賞は、営利目的以外のサイトに掲載したものはオリジナル作品とみなして、応募OKと心が広いです。そのさいはアドレス、サイト名を忘れずに。
角川スニーカーは十月の半ばあたりまで。大賞が中々出ない狭き門ですよ。
最後に一つ、らんららさんの作品はファンタジーの部類だと思います。
執筆、頑張って下さい。では。

面白い!
現実と絡めた事でクオリティーもグンと上がりますし☆
いろいろ気になる事も増えてきます♪
ラク絶滅しちゃったんですか!!
もうココと会えないの(;_;)?
どうにか、どうにかしてあげたい!!
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らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
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