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「音の向こうの空」第二十二話④

第二十二話:そこから見つめる未来



すべてを、出し切った。
オリビエは鍵盤から両手を放した瞬間。そう、実感した。
ピアノの余韻と供に胸に何かが満ちる。
振り返れば、レイナドが手を差し出し、それを取って立ち上がる。
うわんと会場内が唸ったように思えた。それは聞いたこともないような大きな歓声だった。

「こっちよ」と。間近な声に振り返ると、エミリーが笑っていた。引かれるまま、舞台へと昇る。
歌手たちが一列に並ぶ真ん中に、レイナドとともに立った。

生まれて初めて、舞台というものに昇った。
そこは、人々を見下ろすところではなかった。
遠く未来を予感し思いを馳せた、あのライン川の川岸を想う。見たことのない景色をこれから見るのだと、力強く感じた、あの熱い思いが胸にこみ上げた。あの時隣に立った侯爵様は、今向こうで見守ってくれている。
僕は不器用だけど、間違ってなかった。苦しんでもがいて、空を想った。飛び立つことを願いつつ、飛び立てばいつか落ちるのではないかと恐怖した。自分が弱かったのだ。
こうして、皆に支えられ見守られ。飛び上がったそこから遠く見通す世界には、まだ見たことのない、感じたことのない感動が待っているのかもしれない。


背を叩かれ、エミリーが抱きつき。だれだろう、頭をなでられた。
もみくちゃにされながら、控え室に戻る。
途中、ヨウ・フラとエリーゼ、ルードラー医師が待ち構えていて、「すごかった!」「感動したわ!」と讃えた。
リエンコにも同じように抱きつかれ、オリビエは「苦しいよ」と笑う。
その向こう。リツァルト侯爵が穏やかに見ていた。そう、いつもの二人きりの演奏の時のように。
オリビエは姿勢をただし、しばらく見つめてから、頭を下げる。

「リツァルト侯爵様、貴方は本当に素晴らしい音楽家を育てました。昨晩ほとんど寝ないで全十五曲のアリアを作曲したんです、その上、あの即興の演奏。素晴らしい出来だった!」
レイナドがオリビエの肩を叩き、侯爵に感謝を述べる。
その時にはもう、楽団員たちも集まり、にぎやかな集団は廊下一杯に広がりながら、控え室へと移動を始めた。

と、不意に先頭の誰かが動きを止めた。
「!」
せき止められるようにして、オリビエも立ち止まる。
少し前を歩くアントニオが脇に避けると、その向こうからマクシミリアンが姿を見せた。
傍らには、ジースト。
「奇抜な演出でしたね、レイナド」響く声がひやりと水を浴びせる。
「あの、大公様。これには、わけが」と、レイナドが険しい表情のマクシミリアンに説明しようとする。
「理由などどうでもいい。オリビエ、一人きりで、まあ、よくやったと言っておきます。お前一人で済むものなら楽団員はいらないですね」
全員が静まり返った。
いらない、とは。どういう意味なのか。
「ですが、あの。もし、入賞できれば私は残らない約束です、それでもいらないと……」
手をあげてオリビエを制するとマクシミリアンは「く」と笑った。
「どちらでも結構。劇団が残るのか、お前が残るのか。入賞を逃してもお前を手元における。あの演奏が私のものになるならそれもまた、一興です」
ぞく、と。オリビエが震え、傍らのヨウ・フラがその腕をぎゅっと握り締めた。
「きっと入賞します。新聞の一面に、僕が記事を書きます」
「……」
「形式は変わっていても、その芸術性はどこよりも優れていました。脚本もよく出来ていましたし、歌手もいい。同じ台本のシュタイアーマルクと比べても明らかです。何しろ、今日のあの作品は二度と聞けない。これを見ることが出来たものは幸い。貴重な感動を決して忘れてはいけないと、記事にします」
ヨウ・フラの胸のうちにはすでに記事が出来上がっているようだ。

「ふん、生意気な。まあ、どちらでもいいでしょう。明日が、楽しみですね、侯爵」
リツァルト侯爵は黙ってマクシミリアンを睨んでいた。


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