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「音の向こうの空」第二十二話⑥

第二十二話:そこから見つめる未来



リツァルト侯爵はルードラー医師とエリーゼと供に先に屋敷に戻ったという。ヨウ・フラは早速記事を書くんだと意気込んで新聞社へと向かったらしい。リエンコはそれを見送ってきたのだ。
次に会うのが宮殿であることを互いに祈って、オリビエはアントニオに別れを告げた。受賞した劇団員は宮殿に招かれることになっている。

「明日の発表まではゆっくり屋敷で休むようにと、侯爵様のご命令です」
リエンコはいつもどおりオリビエの傍らに立ち、音も立てずに歩く。
歌劇場のロビーは次の演目が始まっているためにがらりとしていた。
その片隅、日の差さない場所に男が一人。

「あ、あの、リエンコ、僕」
アーティアだ。
オリビエが駆け寄ろうとしたのをリエンコが阻む。
「リエンコ、大丈夫だから」
「よくない男です」
腕をつかまれたまま振り返れば、アーティアは足早に外に出て行くところだ。
行ってしまう!
「放せって!」
オリビエが珍しく怒鳴る。響く声にリエンコの手が緩む。

次の瞬間にはオリビエの背中を見ながら、リエンコは白い息を吐く。
バイエルヌの劇団を賞賛する観衆の中にあってただ一人、アーティアは立ち上がることが出来ずに頭を抱えていた。その後姿をリエンコは思い出していた。
アーティアがどれほどの力を尽くしたのか知らない、それでもたった一晩で書き上げ、即興で演奏するオリビエのほうがはるかに魅力的な演奏をした。
現実を突きつけられたアーティアが何を思うのか。「自業自得、か」と。ロシア語のそれは誰にも聞き取られずに流れて消えた。

「アーティア!」
聞こえない様子で、冷たいみぞれの降り出した通りを男は早足に歩いていく。
「待って!アーティア」
物売りの声に負けないようにオリビエが叫ぶ。
ぬかるんだ足元、水溜りを避けようとした紳士とぶつかりそうになり立ち止まると、目の前を乗合馬車が通り過ぎる。
「アーティア!」
届くだろうか。
ひどく悲しげな背中に。

栗毛の馬が吐く白い息の向こうにアーティアは立ち止まっていた。
こちらに背を向けたまま、他を拒絶する後姿は冷たい空気に溶け込もうとしている。

「あの、アーティア」
振り向かないその手を掴めばひどく冷たい。
正面に回りこんでオリビエは少し背の高い男を見上げた。
眉間には深い皺、以前よりやせて見える。鋭い視線はまだオリビエをそれと認めていない。一度その視線の先をオリビエも振り返るが、何があるわけでもない。
「アーティア、大丈夫?あの、アーティアの演奏……」
視界が黒く。
「え?」

抱きしめられていた。
「すまない」
耳元に聞こえてくるそれ。
「お前の曲を俺は盗んだ。なのに、お前は何も言わなかった」
アーティアの表情を確かめたい衝動に駆られ仰ぎ見ようとしても、近すぎて見えない。オリビエは黙ってうつむいた。
僕は、素直に信じられなくなっているんだろうか。
どんな顔をしているんだろう、僕は。
オリビエはそのまま、ただじっとしていた。アーティアの肩で溶けた雪が頬にあたり、ちくと冷たい爪を立てる。
「生きていくために仕事が必要だった。俺は、卑怯な真似をした。すまない……怒っているんだろうな」
くぐもって聞こえる声に、小さく応える。
「僕は、怒ってはいない、よ」
「そうか、よかった。お前は優しいな」
やっと解放され一歩離れれば、アーティアは笑っていた。
これは、仲直りなのだろうか。
オリビエはかすかに首をかしげながら。それでも先日とは違うアーティアに期待を隠せない。
「怒ってなんかないよ、きっと、何か理由があるんだと思って」
「オリビエ、お前の演奏はすごかったよ。やっぱり才能があるんだろうな。俺が、曲を盗んだことでお前がどうなるか心配だったけど、安心した。あれならきっと、入賞する。そうなったらお前はバイエルヌに行くのか?あの領邦の劇団は有名なんだ。羨ましいな」
いつの間にか傍らにリエンコが立っていて、オリビエの肩にコートをかける。
「いや、僕は入賞できたら辞めるんだ。ここヴィエンヌを離れられないから。そういう契約なんだ」
アーティアの目が丸くなる。そして、笑顔。
「じゃあ折角入賞しても、バイエルヌの劇団には作曲家もピアノ弾きもいなくなるのか!?」言葉とは裏腹にアーティアの声は弾んでいる。
うん、とオリビエが頷けば今度は肩を掴まれた。
アーティアの笑顔がなぜか苦い気がしてオリビエは唇を噛んだ。なんだろう。

「俺のシュタイアーマルクの契約はこのコンクールまでなんだ。お前の後任にぜひ推薦してくれないか……」
背後のリエンコが何か怒鳴りかける。
その腕がアーティアを掴む直前に。オリビエはアーティアを突き飛ばしていた。
「な、にするんだ」
自分でもどうした衝動なのか説明がつかない。だけど。
それは。あまりにも都合がよくないだろうか。
「あの、アーティア、君はバイエルヌの皆に迷惑をかけたんだよ?彼らは盗作騒ぎのためにコンクールの舞台に立てなかったんだ。これまで準備して、練習してきた彼らの努力をすべて、無駄にしたのに……」
それなのに、彼らの中に入りたいって言うのか。
アントニオが笑わせ、レイナドが皆をまとめる、あの仲間に?

「作曲家が必要だろう?ピアノを弾く人間も。お前が出来るなら俺だって出来る。それとも俺にお前の代わりは勤まらないとでもいうのか」
アーティアの表情は一変した。見開いた目は人のものとは思えないほど冷たい光を讃える。痩せた頬は引きつり、あからさまに憎しみを放った。
思わずオリビエは一歩下がる。
だけど。
「そうじゃない、彼らは真っ直ぐ必死で努力してるんだ。アーティア、君みたいに」
「……なんだよ」
「卑怯なこと、しない。他人の痛みの分からない人たちじゃないんだ……大切な、仲間なんだ」
かみ締めるように吐き出した言葉にアーティアは目を見張る。
「だから、彼らに近づくのはやめて欲しいんだ!」
「お前こそ、のうのうと俺に笑いかけるじゃないか、俺がお前の演奏を見てどれほど呵責に苦しんでいたか、どれほど打ちのめされたか!何の苦労もないお前に何が分かる!どれほど力が足りなくとも、俺は生きていかなきゃならないんだ!」
飛び掛るアーティアからリエンコがオリビエを護る。
つかみ合いになり、オリビエはリエンコの背に押され、よろめいた。
通りを歩いていた人々が「なんだ、喧嘩か」と群がり始めた中、誰かが「ありゃパールス教会のオルガニストさんだ」と声をだし。「大丈夫ですか?」とオリビエに声をかける。
大柄なリエンコに突き飛ばされ、幾人かの見物人に支えられたアーティアは、ふんと顔を背け、「俺はマクシミリアン候に気に入られている。お前の世話にならなくても入れるさ」と残し、人垣を掻き分けるとその向こうに消えていった。
「オリビエ様、大丈夫ですか」
オリビエは頷いた。

「アーティア…本気なのかな」
「入っても、あのイファレア女に首を絞められます」
くす、と。オリビエは表情を緩めた。エミリーならそうかもしれない。

『マクシミリアンに利用されただけのあの男が、正式に雇われることはないだろう。盗作を暴露されれば雇い主の評価も下がる、そんな捨て駒に慈悲などかけまい。噂が広まればあの男を雇うものなどいない、どこに行っても門前払いだろう。だがそれを知れば、この人はまた同情してしまうか』
ロシア語でぶつぶつと呟くリエンコにオリビエは首をかしげる。
「何?」
「いいえ。風邪を引きます。屋敷に戻りましょう」
そっと肩を叩くリエンコの手は、温かかった。


次回、第二十三話「強く、強く。」は2月16日公開です♪

オペラの物語、どこまで描くかすごく迷いました~。結局、脚本らしく(?)書いてしまったけど…古典劇だから単純かつどこか詰めの甘い内容にしてみました…どうだったかなぁ?

さて。次回。コンクールの結果は…その後のオリビエは?
たくさんの人に支えられてオリビエは成長していく…?(笑)
楽しみにしてくださると嬉しいな~♪
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藤宮さん♪

こっそりとうれしいです♪
オペラ…。よかった~。皆さんにちゃんと舞台が想像できるといっていただいて~(^∇^)

オペラって同じ台詞同じ歌詞を繰り返して歌うんです。きっと、字幕なんかなかった頃の観客が分かりやすいために、なんだと思います。
そういうあたりも少し意識し見たりしまして…。

さて。オリビエ君たち…。今後どうなるのか~!!
うふふ。楽しみにしていただけると、もっともっとがんばっちゃいます~!!

藤宮さんを唸らせる展開、できるかな~!?(^∇^)

その奏は空を翔けるのか?

お、オペラが…。

オペラが目の前にある…!

すごいです、目の前に舞台があるような表現。
さすがらんららさんです、もう、感動ですよ~♪

オペラの物語も、素敵でしたし、言うことなしです。

アーティアのおかげで、どうなる事やらと思いましたが、オリビエ君の演奏で、何とか乗り越えられましたね。

…あとは、結果待ち…ですか。

と、言うか、アーティア、なりふり構わなすぎですが…。
彼も、マクシミリアン候の被害者かもと思うと、少し可哀そうな気も…ごにょごにょ。

…一番被害を被っているオリビエ君からすると、可哀そうじゃすまないかもしれませんが。

さあ、もうすぐオリビエ君たちの運命が決まりますね!
果たして入賞できるのか…。
そして、マクシミリアン候は、どう動くのか?

楽しみにさせてもらいますね!

では、またこっそり柱の陰から応援してます♪

銀杏並木さん♪

わ~、お久しぶりです!嬉しいです♪
オペラよかったです?…うう、うれしい~ホッとしてます、侯爵様以上に!!
当時のオペラの風景は見られないけど、いろいろと調べて、妄想してみました♪
今あるウィーンの有名なオペラ座は18世紀にはまだないので、具体的なモデルがなかったのです。
だから、ほとんど妄想の産物♪
火事を防ぐために真冬でも暖房一つなかったというのは、本当のことらしいです。

この後さらにいろいろと、うふふ。展開を用意しておりますので♪
楽しみにして下さいね~!!

kazuさん♪

よかった~!!オペラね、すごい不安だったの~(>_<;)
何本か見たのだけど、それらしく描くのに随分迷ったんです~。
オペラだけで小説を?うう、嬉しいお言葉!
オペラはホンモノを観ることをオススメします~♪難しい現代劇より分かりやすいし、登場人物の行動原理が単純だから楽しめます♪
アーティア…さすがにオリビエくんも「ちょっとまて」でした(笑)自分のためにはあまり行動できないけれど、ここにきて「オリビエは人のためにならがんばるキャラだよね~」と。一人うんうん、頷いています。

次回、kazuさんを喜ばせるのか悲しませるのか!
お楽しみに~♪v-391

拍手喝采!

こんにちは!お久しぶりです♪

見ちゃいましたオペラ!聞こえました観客の歓声!!

オリビエ君の演奏も歌手のみんなの演技もすごいけど、それを書けるらんららさんが一番すごい!尊敬~(>_<)

ここにくるまで沢山大変な事があったオリビエ君、舞台が成功して本当にほっとしました。

続き楽しみに待ってます♪

らんららさん~!!
オペラの物語、素敵!!><
オペラの物語だけで、小説書いてほしいくらいです!!←中世好き☆
ホントにね、オリビエくんのオペラが見たいです。
物語を読みながら、最後で涙が浮かびましたよ、もう。
素敵でした~

オペラを奏でることのできなかった団員たちの姿がとても辛そうでしたが、なんというかその原因を作ったアーティア・・・。
そこに入りたいって、もう・・・
私がかわりに、怒りの鉄槌を!ー”-

侯爵様も、ホッとされたでしょうね。
レイナドさん、よく言ってくださった!!
マクシミリアン候を恐がりながら、次回更新待ってます♪
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