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「音の向こうの空」第二十三話①

第二十三話:強く、強く。



コンクールの三日目。すべての公演が終わったところでロスノは他の審査員とともに劇場の奥にある広間に集まっていた。
そこには昼の食事が用意されている。
この季節に脂の乗る白身魚のグリルとジャガイモのグラタン、温かいトマトのスープ。給仕が順に配るものを視界に納めながら、順に審査員の顔を眺める。
もちろん上座にはアウスタリア帝国皇帝レオポルト二世。今朝の寒さが応えたのかかすかに鼻を紅くしている。ロスノの隣には芸術院会員の詩人、文学者、哲学者、法学者。周辺の領邦の選帝侯や大司教が顔をそろえる。
「おや、バイエルヌのカール四世侯のお姿がないが?」
ロスノが気付き、隣にいた哲学者が肩をすくめた。
「どうも、カール四世侯は体調を崩されたらしいですよ。噂では危険な病ではと、ね。だから、バイエルヌの歌劇団は弟君のマクシミリアン候が率いておられた」
「…病、とな」
ロスノは眉をひそめた。ここには、コンクールに参加した他の領邦の選帝侯も居並ぶ。カール四世の代わりにマクシミリアンがというわけにも行かないのだろう。だとすれば、オリビエのバイエルヌは不利ではないか。
代表を送っている選帝侯はそれぞれの歌劇団を押すに決まっているのだ。つまり審査員十五人中四票はライバルの歌劇団に入る。
「今年は面白い作品が多かったな」
そう、レオポルト二世皇帝がワインを味わいながら、審査員を見回した。

「シュタイアーマルクの楽曲は面白みのあるものでしたな」と、文学者がひげをなでれば、「いや、あのピアノだけのバイエルヌも見事だった」と哲学者が笑う。ザルツブルクの大司教も大きく頷いた。以前、オリビエには聖堂で演奏してもらったことがあるのだと大司教は静かに語った。
興味深そうな皇帝レオポルト二世の表情に、ロスノはいい手ごたえを感じていた。あのオリビエの演奏に、皇帝陛下はひどく感動していたのだ。隣で見ていたロスノは立ち上がってオリビエに拍手する皇帝陛下を見ていた。
その後も、オリビエの生い立ちや、どんな青年なのかとロスノに盛んに尋ねてきた。皇帝の一票は重い。

「あのバイエルヌの作曲家の演奏、あれは即興のものだそうですよ」と、シュタイアーマルクの選帝侯が肉を切りながら話す。
「どうも、なにか問題があったらしく、仕方なくあの形式になったらしい」
「それで伝統的なオーケストラではなく、ピアノだけだったのか」
感心する様子の哲学者に、「しかし、あれは奇抜すぎた気もするが」と文学者が眉をひそめた。


「即興、とは。二度と聞けないということか?」
レオポルト二世がフォークを置いた。「ええ、もちろん、そういうことでございます、陛下」と、半分バカにしたような口調でシュタイアーマルクの選帝侯が話す。
「もともと、このコンクールで賞を取ったオペラは、この宮廷歌劇場で公演する決まりになっています。即興で、二度と同じ演奏が出来ないのであれば、たとえ入賞となっても上演できない。あのバイエルヌは審査から外すべきですな」
「大体、ピアノだけのオペラなど、寒々しくていけません。あのような形で陛下の御前で演ずるなど、本来なら辞退すべきだったと思いますな」

「今回、ツヴァイブリュッケン家はカール四世公のご都合で、弟君のマクシミリアン候が指揮したようですが、そこがまず間違いでしたな。かのマクシミリアン候は芸術には縁がない。戦場で走り回ることを生きがいにしているような人物ですからな」
「音楽を聞く耳など持ち合わせておられないでしょう」
冷笑が沸く。

コンクールに参加している選帝侯たちが、盛んにこの場にいないバイエルヌを貶めようと悪口を並べ立て始めた。
ロスノは眉をひそめ、これがオリビエの悪口にでもなったら反撃してやろうと口に残るジャガイモをワインで流し込む。

「私も、同じだ」
短い一言を発した人物を皆が見つめ、黙る。
レオポルト二世、アウスタリア帝国皇帝だ。

「私もマクシミリアンと同様、芸術には縁がない。お前たちの言うとおり、音を聞く耳を持たず、感動する心もないかもしれん」

ごくりと。ロスノの隣にいたシュタイアーマルクの選帝侯は唾を飲み込んだ。

昨年即位したばかりのレオポルト二世は前皇帝のヨーゼフ二世の改革政策をことごとく修正し、反対の姿勢をとっている。芸術にも金をつぎ込むことをよしとせず、これまで皇室に可愛がられてきた芸術家それこそ著名なヴォルフガング卿さえも解雇し、宮廷室内楽団をも解散させたのだ。そこにも前皇帝との違いを顕にしていた。

それらの政策は啓蒙思想を普及させようとするヨーゼフ二世の改革路線とは正反対なために、「芸術に理解のないお堅い皇帝陛下」という非難じみた記事となって新聞に載った。もちろん、それは皇帝自身の耳にも届いているのだ。

「いえ、あの、決して、陛下のことを申し上げたのではございません」
慌ててとりなそうとするが。
皇帝は腰を浮かしかけた彼らをジロと睨む。

「この宮廷歌劇場でのオペラの公演は減らす。そう決めてある。即興演奏のためにあのオペラが再現できないのなら、このコンクールで入賞した歌劇団の公演もなくてもよい。公演のためにコンクールをするのではあるまい?そうだろう?ロスティアーノ」

芸術を高貴なものと位置づけ、理解できないものに対して不遜な態度を取る。そういった貴族たちを皇帝レオポルト二世はうっとうしく思っていた。
けっして、皇帝自身が音楽やオペラを嫌っているわけではなかった。ただ、それらを利用し、芸術家ぶる諸侯が気に入らないのだ。
ロスノはよく分かっていた。

「おっしゃるとおり、オペラの芸術性を競い、優れた演出と作曲を選ぶためのコンクールでございます。だた、陛下。優れた作品を国民に開放し公演することを通じて、より多くの国民に言語を普及させ、教会の教えを広め、もって安泰な治世に資することも可能。先ほどのバイエルヌの即興の演奏も、一度きりというわけではございません。今回同様、次も即興で演奏できるでしょう。陛下、次にご覧になられる時には、また違う感動を与える作品になると思います」

ロスノの言葉に、皇帝は表情を明るくした。
明らかに嬉しそうな皇帝に、ロスノは付け加えた。

「あの演奏をしたオリビエは、パールス教会のミサでオルガンの即興演奏を毎週行っております。そのおかげでかの教会は信者を増やし、より多くの人を導き、喜ばせている。芸術とはこうあるべきだと、私は思います」
ふむ、と満足げに頷く皇帝。

「し、しかし、ピアノだけなど……」と食い下がるシュタイアーマルクの選帝侯に、「何の話だ。私は聞く耳を持っていないのでな。私が思うとおりに決める」と。レオポルト二世はにやりと笑って見せた。

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