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「音の向こうの空」第二十三話②

第二十三話:強く、強く。




オリビエは久しぶりに侯爵家でゆっくりとした午後の時間を過ごしていた。
この日、教会の仕事は休み。結果の発表をマクシミリアンの傍で待つのも落ち着かないので侯爵家に留まっていた。レイナドたちはオリビエもと誘ったが、オリビエは何処で聞いても結果は同じだからとにっこり笑った。
気が早くお祝いだと駆けつけた『足長の店』の主人が腕を振るい、二人のメイドも夕食は盛大な晩餐会だと張り切っていた。広間でばたばたと準備を進める彼らの声が時折響き。侯爵はうるさいのか眉をひそめる。

もし、入賞できなければここにはいられず、リツァルト侯爵のために奏でることも出来なくなる。この少しの時間をも惜しむように、オリビエは居間でピアノを奏でる。侯爵は昼食後のコーヒーを運ばせ、そこでオリビエの演奏を聴きながらゆったりとした時間を過ごしていた。
エリーゼとアナンも時折庭を眺めながら、落ち着かない様子で紅茶が冷めるに任せていた。

午後になってようやく晴れ間を見せた空から、庭には少しばかりの陽だまりが出来る。傾いた日差しの残照が木々を白く染め、眩しそうにそれを眺めながらエリーゼは公園に集まり始めていた人々に気付いていた。
オリビエの曲を楽しみに教会に通い、オリビエがコンクールに出ることを知った彼らが集まっているのだと想像した。皆、オリビエを応援したいと思っているのだ。
当の本人は演奏に夢中で、心地よさそうに音を浴びている。
気付いていないのだろう。

大勢の人間がオリビエの音を愛し、讃えていることを。
そのおっとりとした人柄さえ不思議な感動を誘うことを。

庭に、何かが迷い込んだ。
穏やかな風景を乱す少年が、小走りにかけてくる。
手を振って。

エリーゼが立ち上がった。
「ヨウだわ!」

オリビエもさすがに演奏をやめた。
庭を横切ってきたヨウ・フラは、手に何か持っている。
それを盛んに振りながら、満面の笑み。

「やったよ!!オリビエ!一等だ!一番なんだ!オリビエのオペラが一番になったんだ!」
その声は庭にも、居間にも響き。
公園から人々の拍手が届く。
それを背にヨウ・フラは一気に駆け寄るとオリビエに抱きついた。
「おめでとう!」
おめでとう、そう繰り返しながら、ヨウ・フラの視線は侯爵に、そしてエリーゼに。その場にいる皆に祝福を振りまき、もう一度最後に目の前の青年の腕を取って見つめる。

「オリビエ、バイエルヌの歌劇団が一番なんだ!街の広場で宮廷の伝令が触れ回っているよ!皆、大喜びだ!」


ヨウ・フラが持ってきた紙には、コンクールの結果が記されていた。
一位バイエルヌ、二位にシュタイアーマルク。オリビエは目を細めた。
「よかった、アーティアも」
「それ、ちょっと納得いかないけどさ」
ヨウ・フラが口を尖らせるが、「だって、曲はオリビエさんのだもん、当然よ」とエリーゼが笑い、「当然だもん」とアナンが真似る。
「仕方ないか」と、少年が肩をすくめれば、「まるでお前のことのようだな」とリツァルト侯爵が笑った。
「ですけど、侯爵様。当のオリビエがこんな様子だから。僕が代わりにごく普通の反応をしてみせてるんです」
「え?なにが?」
オリビエは庭先からの拍手に応えるために庭に出ようとしていたが、首をかしげて振り返る。
「だから。ほら、オリビエ、みんなが待ってるからさ、行きなって」

オリビエの傍らにはリエンコが立ち、開かれた扉から歓声が漂ってくる。庭に立ったオリビエは公園に集まった人々が庭を囲うフェンスの向こうで手を振り、投げかけられる祝いの言葉に笑って応えている。

「ほんと、よかったわ」ポツリとエリーゼが。
「うん、ホントに。怪我をさせられてきた時にはどうしようかと思ったけど」
ヨウ・フラも少女の隣で頷いた。
「ね、侯爵様。よかったね」とアナンがリツァルト侯爵の手に小さな手を伸ばす。さりげなく手をつないだ少女は、見上げて首をかしげた。
「侯爵様?」
「いや、あれも、かつては幼かったが」
何度か眩しそうに瞬きをし、窓からオリビエを眺める侯爵をアナンは不思議そうに見ている。
「侯爵様はオリビエのお父さんみたいね」
「アナン!」
エリーゼが恐れ知らずな妹に慌てる。
「あれが、息子ならと。……思ったこともある」
目を細める侯爵の言葉に、ヨウ・フラもエリーゼも目を丸くした。

彼らの視線など、侯爵にはどうでもいいようだ。ただ、じっとオリビエを見詰めていた。

子供のいない侯爵がどんな想いをオリビエに向けてきたのか、ヨウ・フラはいくつか想像してみるが。僕には父親の気持ちは分からないなと、死んだ自分の父親を思い出していた。

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