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「音の向こうの空」第二十三話③

第二十三話:強く、強く。



夕食前には、レイナドや楽団の皆が侯爵家に訪れた。
リツァルト侯爵に、「大公様から、預かってきました」と。あの、オリビエのサインのある契約書を手渡した。

丸められたそれは外気をまとって手に冷たく、ブルーのリボンを解いてオリビエは中を確かめた。確かに、あの時の契約書。これで。契約は果たされたことになる。
オリビエは自由だ。
肩を侯爵に叩かれ、顔を上げれば囲んでいる皆が微笑んでいた。

「おめでとう」
そう、ルードラーが祝福した。

「あの、レイナドさん、大公様のお屋敷でお祝いがあるんじゃないんですか?」
エミリーが肩をすくめた。
「お祝いなんて状態じゃないんだ。もともとマクシミリアン候はカール四世様ほど、オペラ好きってわけじゃなかったからね」
その肩を支えるようにアントニオが叩く。
「ま、いいからさ。今日のところはお祝いだ」
いつも通りの笑顔のアントニオとは裏腹に、劇団員は皆浮かない表情だ。

嫌な予感がする。オリビエは皆を見回した。
「どういうことですか?何かあったんですか」

「大公様は、宮廷歌劇場での公演を辞退するおつもりなのさ。そうなれば、あたしたちは必要ないだろ。ま、あんたがいないんじゃ、詐欺だもんね。コンクール優勝のオペラって触れ込みなんだしさ」
「オリビエのせいじゃないさ。オリビエがいなかったらコンクールにも辞退するハメになったさ」
「だからせめてオリビエを祝ってあげたいって、皆で押しかけたのよ」とヒルダも笑う。

劇団を解散させる、というのか。

優勝した劇団は宮廷歌劇場で一年間公演できる。その後は各地でその作品で上演して回る。それが通常だった。
僕が、辞めるから。

「ってのは、建前でさ。オリビエ、ねえ。本当に、あんたとはもう一緒にやれないの?あんたがいてくれれば、大公様もお考えを変えてくださるかもしれないだろ?」
皆が口に出しにくい言葉を一番に発するのは、やはりエミリー。オリビエの手を取る。

「リツァルト侯爵、是非、オリビエの力をお借りしたいのです。オリビエのことは、私達が護りますし」
レイナドの言葉に、楽団の皆が頷いた。
コートも脱がずに訴える彼らを侯爵は微笑みもせず眺める。

「オリビエが決めることだ」
リツァルト侯爵は静かに言った。

許可と受け取った何人かがわ、と沸き立ち、冷静なレイナドがオリビエを見つめる。
その視線を追うように、全員が契約書を持ったままのオリビエを見つめた。

皆で作り上げる音楽は、楽しかった。刺激に溢れていたし、新しい発見もたくさんあった。契約や暴力で縛られていなければ、いや、脅されてもそれでも楽しかったのだ。
何の心配もなく彼らとの共演できるならそれほど素敵なことはない。可能であるなら続けたいと思ってきた。

「……あの。オルガニストも続けたいし、僕は侯爵様の楽士だから…契約とか、そういうのなしでできるなら」
オリビエが双方を見比べながら口を開く。アントニオが頷いている。楽屋で話したことが記憶に昇る。
一度にすべては出来ない、だけどうまく調整が出来るなら。侯爵家での時間が減ることになるが、それも侯爵様が許してくださるなら。

オリビエは雇い主をじっと見つめた。
本当に侯爵様は何も口を挟むつもりがないらしい。
かすかにオリビエに応えて頷いたように見える。

「待った!オリビエ。何、馬鹿なこと言ってるんだよ!ただ働きするつもりなのか!?僕が契約の内容を確認してやるからさ。ねえ。侯爵様。これからオリビエは自分の音楽だけで食べていけるくらいに有名にならなきゃいけないんだから。いつまでも侯爵様のお世話になってるようじゃだめだからね!いい加減お人よしから卒業しなよ」
ヨウ・フラがオリビエとレイナドの間に立ち両手を広げる。

「なんだ、生意気だな」とアントニオが睨みつけると、ヨウはふん、と笑い返す。
「ヨウはほんと、しっかりしてるよね」
オリビエが面白そうに笑う。ヨウ・フラは「頼むからさ、オリビエ、他人事じゃないんだから、もう少し緊張感を持ってさぁ」と頭を抱え、その姿に皆が笑った。

これで公演ができるかもしれない、私から大公様に頼んでみるよ、とレイナドがその場をまとめた。


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