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「音の向こうの空」第二十三話 ④

第二十三話:強く、強く。



広間に料理が並んだ頃、ロスノとパールス教会の大司教も祝いに駆けつけた。さほど広くないそこに思い思いの料理を皿にとって、予定外の立食パーティーとなっている。ワインを片手に審査の経緯をロスノが面白そうに語るのを、侯爵をはじめ皆、興味深く聞いていた。
ロスノはニヤと笑って、「オリビエ、その内皇帝陛下からのお召しもあるかもしれんぞ」と。わしが推薦しておいたからと自慢げに胸を張った。

「ほら、もっと飲めよ」とアントニオがワインを手に取る。オリビエはすでに酔った様子で「ええと…」と優柔不断。
実際、かすかにぼやけた思考でオリビエは自分が今つまんでいるフリットが海老なのか魚なのかすら分かっていない。
「もう、だめです」
なぜか隣に立つリエンコが生真面目にアントニオを睨んだ。
「お?なんだ、ロシア人。こんなおめでたい時に、相変わらず硬いなぁ!ほら、代わりにお前が飲めよ」
注がれたワインをリエンコが顔色一つ変えずに一気に飲み干したのにはアントニオも言葉をなくす。
「ロシア人は酒に強いんだな!」にしてももったいない飲み方をしやがって、と侯爵の秘蔵のワインを惜しそうにアントニオは自分のグラスに注ぐ。
「すごいね!あんた、あたしと勝負するかい?」
なぜかエミリーがリエンコに宣戦布告し、喜んだアントニオが両手に今度はもっと安いワインのボトルを抱えてきた。
ヨウ・フラはエリーゼと寄り添って庭を眺めているし、アナンは楽団の皆に可愛がられてはしゃいでいる。ロスノと大司教、侯爵は小さい丸テーブルを囲んで腰を下ろし、ルードラーはヒルダと向かい合ってチキンをつまみながら親しそうに話している。
オリビエはふと熱くなった溜息を吐き出すと、楽器に向かう。

もともと、楽士は皆が楽しんでいる影でその場の雰囲気作りに力を注ぐ。決して主役になるものではない。
オリビエは丁度正面に見える、ルードラー医師とヒルダの間に特別な感情が生まれかかっているのではないかと目を細め、スローテンポのバラードを奏で始めた。二人は丁度同じくらいの年齢に思えたし、誠実で温かいルードラー医師がいつまでも一人なのはおかしいとオリビエは常々思っていた。
バイオリニストのヒルダはバッサウの出身で小柄で聡明な美しい女性だ。ぴったりなんじゃないだろうか。
二人の笑顔はオリビエを幸せな気分にする。
この居間には、笑顔が溢れている。
僕はこれからも、この楽しい人たちと音楽を続けられる。
侯爵様に曲を聞かせることが出来る。
この手に馴染んだピアノで、たくさんの想いを紡いでいける。誰かが、それで幸せに感じてくれたら。
ああ、きっと今は、僕が。この中で一番幸せな気分だ。
酔いも手伝ってオリビエは夢中になる。

その演奏はいつの間にかその場の主役になる。奏でている本人はまったく気付いていないが。オリビエの演奏はいつもそうだ。
人を心地よくする。
皆が聞き入り、拍手するタイミングを待ちわびているのにも関わらず、オリビエはただ夢中で奏で続けていた。


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