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片翼のブランカ 21

ココアのコップに手を伸ばそうとして、毛布をもこもこしているココに、シュナイダーさんが微笑んだ。
「たぶん違うのよ、ココ。あなたの言っているお友達のラクっていう鳥と、教授が言っているのとは」
「そうだな、どう考えても、ココが生まれた頃にはその種は絶滅していた」
「ぜつめつ?」
「ココ、この世界には、いろいろな種類の生き物がいる。それは分かるね?」
ココはうなずいた。空角のラタを思い出した。
「それらはね、環境や、生態の特殊性によって、ずっとその子孫を後世に伝えるものもあるが、著しい環境変化に耐えられず、絶滅してしまうこともある。」
「ぜつめつ」ココは顔をしかめた。よく分からない。
「そうよ、ココ。たとえばね、朝見た白い蝶々。あれと同じ蝶々が、一匹もいなくなってしまうことを言うの」
「さびしい」
ココはドキドキした。ラクがいなくなったときを思い出した。
「そうだな。それは自然淘汰ともいえるし、人間の仕業とも言える。なんともしがたいことだ」
「ココ、もう寝なさい。ほら、ココア飲んだら、ね?」
うつむいて泣き出しそうな顔をしている子供に、シュナイダーさんが言った。
「子供が考えても仕方のないことですよ。明日、ヨハンナも来るわ。ね、きっと楽しいわよ」
ココはにっこりする。ヨハンナの大きな青い目を思い出す。ヨハンナ、大好き。
「ココアおいし」
「ええ、そうでしょうとも」
シュナイダーさんが、カップを抱えたままのココを寝室に連れて行った。
「種…か。ブランカ、新しい種…」
ライアン・ブッフェルト教授は、あごをなでる。
ブランカと言う生き物が、なにかの新しい種なのだろうか?ラクとやらが、新しい種だったように。
ココの、翼は本物だった。ココの全身の骨格は翼を使って飛ぶことを意味していた。人間のそれよりずっと軽い構造になっている。骨が少ない。片翼でなければ、ココも羽ばたくことができただろう。
片翼のために、筋肉の発達に偏りが見られるが、歩き方もまっすぐだし、それほど大きな問題でもないような気がする。足首から先はネコ科と同じ。爪の形態から、よりライオンに近いように思われた。翼が体重の半分を占める。その重い翼を支えるに足る、強い骨格が足には必要ということなのか。手や顔は人間と同じだろう。肘から先が、少し長いような気もするが、形態分類に影響するような差でもない。人間の個体差のほうがずっと多様だ。

 「片翼のブランカ」第一話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-51.html

 「片翼のブランカ」前回のお話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-85.html




何の、生き物なのかは、不明。今の子供の姿以上に成長することは、翼とのバランスから考えてありえないことのように思う。色素がないと思われる肌、髪。人間に近い思考レベル、言語を有しそれを解する。エノーリアとかいった、そこには、彼らのような生き物の社会があると考えていいだろう。社会があるから言語も発達する。
それが、どこにあるか。ココの言ったブランカ、守人とは何を意味するのか。
短絡的に地球外生命とするのは、職業柄避けたいことだ。
ここにいて、息をして、言葉を話すのだから、これを未知の生き物と棚上げしてしまうことは、学者として許せない。しかし、ココを病院にいれ、研究調査のために切り刻むことも、あまり気が進まない。エノーリアという場所が、地球上のどこかの島とか、未開の土地であるという可能性もある。
ふうと、煙草の煙を吐き出す。
暖炉の上に飾られた、ベルリンにいる母親の写真を眺めながら、教授は椅子を少し揺らした。
それにしても、と考える。
村人の異なる生き物に対する狭量なこと、日々穏やかな村だからこそなのか。これほど、未知なる生き物に対して、残酷なことができるのは、不思議でならなかった。
田舎だからか。
知識が足りないから?
そうでもないか。
ふと、嫌なことが思い浮かぶ。
十五世紀から十七世紀。ヨーロッパで宗教改革の波の元に行われた通称「魔女狩り」。いや、そんな目にあうことは、ないだろう。
あれは、実際、経済的利益を目的とした殺戮であったことはすでに自明の理である。
ただ、その陰惨さが際立っていた。宗教の名を仮りたことも一つの要因だろう。人々の持つ疑心暗鬼も、拍車をかけた。
いつ自らが同じことになるか分からない、その不安が、さらなる残虐性を生んだ。
だが、それは、新たに富裕層に加わり始めた豪商や、騎士たちのその存在の強さに怯えたものではなかったか。
そこに、教授は興味があった。遺伝子学的見地から、人間の行動を、その結果の歴史を解いてみる。それは、多少専門からは外れるが、楽しい作業だった。ネオ・ダーウィニズムに代表される種の進化に欠かせなかった自然淘汰は、当然人間にも起こっていたはずだ。

遡れば紀元前から、人間は多くの民族、国、文明を滅亡させつつ、今に至る。
大航海時代、ヨーロッパの多くの国々が、南アメリカやアフリカ、インドなどにおいて行ったこと。
人間が、社会性を持つ人間を、その社会集団ごと破壊した例は多々ある。
それらは、全て、金や欲のためと解決されているが。
その根底に、生き物としての本能的な恐れがあったのではないか。
自らの存在を危うくする、自らより優れたと思われる民族を、逆に野蛮人と称して亡き者にする。
その根本的な殺意や恐れは、生き物としての遺伝子に組み込まれた防衛本能とも取れる。だから、人間は争いをやめられない。

新たな種が生まれることは、非常に困難で、多数の要因に恵まれなければ、それは種として成立しない。
逆に、種として成立するほどの、生き物としての強い生命力、順応力を持つ新しいそれらは、必ず旧種を凌駕する。脅かす。

ふと、一つ息を吐いた。頭を一振りする。

明日、もう一度、ロザーナに会う。
やせて、思いつめた表情の彼女を見るのはつらかった。
ヨハンナと引き離してしまえば、きっともっとひどくなる。
精神医学は専門家じゃないが、どう考えても母親と子はそばにいるべきだろう。
もし、本当にロザーナがそれを望んでくれるなら、体調がよくなるまで、ココの問題が何かしらの結果に落ち着くまで、一緒に住んでもらってもかまわない。

幼い頃から友達なのだ。助けてあげるのが当然だ。
教授は、隣でもあったし、年齢は三つ違ったが、幼い頃よく遊んだ。
それこそ、ココが今ヨハンナと遊ぶようなものだった。
今のヨハンナは、あの頃のロザーナによく似ている。
可愛かった。
ふと、シュナイダーさんの言葉を思い出した。
「素敵な結果に…」
そんなに、都合のいいものじゃないさ。
パチ、と暖炉の薪の音で、我に帰る。
一つ頭を振った。
想いを伝えたことは一度もなかった。
けれど、彼女ははじめから、私のことをそういう風に見ていなかったし、彼女の好みが豪快で優しくて、
男気にあふれるハンスだったとすれば、私とは、正反対だろう。
私のような、研究者は、とかくそれに没頭しがちだから、女性を大切にできない。
いや、自分では大切にしているつもりなのだが…大体、つまらない人といわれて、終わる。もう、十年近く、恋なんかしていない。

今は、仕事が楽しいのだ。


翌日は、よく晴れて、朝から風が強かった。
アルプスを望むこの山にも、遠く高い山頂からの粉雪が、ふわりと風に漂ってみせる。
ココは、朝早くからお庭に出て、腕も翼もぐんと伸ばした。
あふ、気持ちいい!
まだ、村の半分は山の陰になっていて、ココのいる庭から見ると、青くしんみりした日陰の下に、赤い屋根がいくつも並んでいた。時折冷たい風とともに、ちらちらと降る雪が、日陰の青い色を背に、白くきれいにきらめく。
不思議な世界。エノーリアと違う。空と町が一緒にある。ヨハンナやママは、守人と違う。
ヨハンナは、人間なのよって、言った。人間。人間は、守人とは違うのね、そう、ココが言った。
ヨハンナは首をかしげた。
「私は守人を見たことないから分からないの、でも、ココちゃんだって人間みたいよ」
ココ、ブランカだけど、人間に似ているのかな。

庭の、木でできた白いフェンスに腰掛けて、足をぶらぶらしてみた。風が裸足に気持ちいい。
「ココ、お顔は洗ったの?」
シュナイダーさんが、部屋の窓からココを呼んだ。
「まーだ!」
ココは笑って、器用に柵に腰掛けたまま、靴を履く。かけ戻っていった。

「おはよう!」
そういって、駆け込んでくるなり、抱きつくココに、シュナイダーは目を細めた。
あまり、経験のない感情。
この小さい子供は、本当に天使のように、誰にでも愛情を振りまいているように思えた。
こんなことなら、子供を産むのもよかったのかもしれない。
見た目よりずっと軽いココを抱き上げて、シュナイダーはバスルームに連れて行った。
鏡に映る自分を見て、ココが言い出した。
「あのね、ココ、鬣をきれいにしたいの!カータがね、えと、こうやって、編んでくれたの」
「あら、それも可愛らしいわね」
シュナイダーは鏡を見て、不器用に編み込みしようとするココを笑ってみていた。


昼過ぎになって、教授が、ロザーナとヨハンナを連れて、帰ってきた。
ココが駆け寄ると、ヨハンナより先に、ロザーナがココを抱きしめた。
ロザーナの後ろでヨハンナはじっと見つめていた。
「ココちゃん!ああ、よかった。無事だったのね、大丈夫?もう安心だからね」
「ママ、苦しいよ」
ココが翼をパタパタさせる。
ヨハンナがすぐ横で、ニコニコ笑っていた。瞳には涙がこぼれそうになっていた。
ココは、手を伸ばした。
ヨハンナがその手を握った。
「へへ、ヨハンナ、あんまり泣かないんだけど、今日は、ちょっと感動しちゃった」
「ココ、ヨハンナに会いたかった」
ココの素直な言葉に、ヨハンナは泣き出した。

そのヨハンナの頭を、優しくなでて、教授が言った。
「さあ、どうぞ。狭いけど、シュナイダーさんが快適にしてくれているからね」
「はじめまして。お待ちしてましたのよ。さあ、どうぞ、お昼にハムを焼いたのよ。ココの好きなチーズもたくさんね」
「わあい!」
ココが嬉しそうに居間に走る。
「すみません、私、すっかりご好意に甘えてしまって」
ロザーナに、教授は微笑んだ。
「いえ、かまいませんよ、知らない間柄でもないし、私はハンスとも友人だった。
知らせを聞いたときにはロンドンに出張でね、失礼してしまった。ずっと気になっていたんですよ」

その言葉に、ロザーナの美しい笑顔が消えた。
「あの、その話は、止めてください」
「あ、ああ、これは失礼した」

ふいと、視線をそらして、ココの後を追うように歩く母を見上げながら、ヨハンナは、教授の服を引っ張った。
「ん?なんだい?」
「あのね、ごめんなさい。
ママ、パパのご病気のこと、話したがらないの。
ヨハンナもよく分からないんだけど、ママとっても嫌がるの」
「そうか。ごめんね、おじさんが悪かったよ。
ヨハンナが謝ることじゃないよ。優しい子だね」

肩にそっと置かれた、暖かい大きな手に、ヨハンナはまた、少し、涙が出そうになった。
パパならきっと、こんな風に優しくしてくれる。

 「片翼のブランカ」続きはこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-87.html


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eigoさん

大人ですね!
いろいろ考えてもらえて、嬉しい!
ただ、らんららの基本は大人から子供までなので、
あまり深い史実とかその裏とか、
人間の心理とかは、追わないようにしてます。
第一、主人公があの、ココちゃんですので(^^;)
書きながら、矛盾する社会、矛盾する人間、言葉、力、感情を表すこと、
生き物のこと、守るって事、そういうことを、少しでも改めて考えてもらえたら、嬉しいかなぁ何て。一応、ターゲットは12歳くらいから15歳。(読んでないよね、きっと^^;)
何て、目標ばかり高くて、届いてないですね。
また来てくださいね!

団長さん!

そうか、お泊りだ!
ディズニーだ!
いいなぁ!
ここからの展開はあっという間だよ(^^)
帰ってから、さらっと読んでね。
最終章は、本当に短くて。
でも、一気に読んで欲しいので、どんと月末にアップ予定。
団長さんのディズニー話を楽しみに、
また、遊びに行きます!

こんばんわ!!
深夜にお邪魔してます!
うーむ、そうですね、僕も差別っていうのは、基本的に自分より優れた存在、自分に脅威を与える存在を自分より下に見ようとする心理から生まれると思います。
自分に脅威を与える存在を否定してバカ呼ばわりしたり、しがちですもんね。
あと、未来派は「戦争が世界を浄化する」、なんていって闘争や戦闘を正当化しましたけど、僕も闘争本能っていのは防衛本能だと思ってます。
なんて、いろいろな事を思い出しました。
20代の頃はここいらへんについて僕も色々研究してましたから。
しかし、うーん、この先どう展開していくんだろう?
らんららさんの話の広げ方っていうのはすごいな、と思います。色々な経験や知識がないと中々話って広げられませんから。
なんか、話が長くなってしまいました。すいません。(泣)
では、次回更新を楽しみにしながら、今日はこの辺でぽちっと!

今月中に終わりなんですか!?
私明日からお泊りでお出かけですから
すぐには読めないです、残念(>_<)
ここからどんな風にラストに行くのか全然わからないです!
可愛いココがどうなるのかドキドキ見ています♪

アポロさん(^^)/

あっりがとう!
今、次の作品考えてます!
ココちゃんのは、ラスト、気に入ってもらえるかな、どうかなぁなんて、
ちょっと不安になりつつ、
公開の日を待っています。
今月中に、終わる予定。
また来てね!
らんららも今からのぞきにいきます!
楽しみ!

やばぁい

おもしろすぎるよ~>ω<
世界が広がって続きが楽しみぃ。
ココちゃんカータたちに会えるのかなぁ。ドキドキ
又覗きにきますね~♪♪
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