08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「音の向こうの空」第二十三話⑥

第二十三話:強く、強く。



現実なのだ。
これは、よく分からないが。どうしてこうなっているのか、おかしな気がするが。
本当に、起こっているのだ。

「オリビエ、お前の両親の事故のことを、知っているかな」

オリビエはびくと、拳に力を入れた。
うつむいたまま頷けば、ロントーニが突き止めた事実もか、と。侯爵は静かな視線を向ける。
「はい。あの、事実かどうかはともかく、両親は、あの、当時の司教会に殺されたと」
「仔細は語るつもりはない。そのためにお前がよい気分になるはずもない。ただ、当時の国王暗殺の陰謀を隠蔽するために、二人は殺された。その事実をわしは知っていたが。恩人であるロスレアン公のお立場のために、口を閉ざした。……憎んでもよいのだ」

憎めといわれても。
両親の死が、誰かのせいだとしても。オリビエの心に沸きだすのは悲しみだけだ。

「…では、あの。なぜ、僕を引き取ってくださったんですか」
「お前が生まれた年。丁度、アンナが二歳になる娘を亡くしてな。あれは、嘆き悲しみ……想像できるであろう?ここ最近のようにずっと塞ぎこんでいた。
それが、ふらりと出かけて戻ったと思えば、赤ん坊を抱えていた。ビクトールに尋ねれば、屋敷に出入りしていたラストンが、妻と生まれたばかりのお前を連れてわしからの祝いの礼にと尋ねて来ていたのだ。アンナはそれを見かけ、お前を母親から預かると自室にこもってしまった。

メイドたちも、皆、慌ててな。わしはアンナが可哀想でならなかった。ラストンにお前を養子にしたいと申し出た。侯爵家の跡取りとしてだ。悪くない話だ。ラストンは迷った。
だが、お前の母マリアは毅然として言った。子を失う母の想いは私も同じだと」

部屋に閉じこもったアンナは半日でてこなかった。お前をわが子のように扱おうとしたのだ。だが、すでに乳は枯れ、泣き出したお前に困ったアンナはメイドを呼ぶために部屋を出た。そこで、わしが取り上げたのだ。
泣き崩れるアンナに、マリアが言った。
「この子を愛してくださるというなら、この子が支えを失った時、手を差し伸べてください。私達がこの子の世話を出来なくなった時、病気でも事故でも、そうなったときに是非、わが子として可愛がってください」とな。

お前の両親は、あの事件で死んだ。
わしはあの時の約束を思い出していた。
すでにアンナの心も癒え、落ち着いていた。お前を奪おうとしたあのときのことなどすっかり忘れているようだった。
それでもお前を引き取ったのは、お前を子供としてかわいがるためではない。音楽家を必要としていたからでもない。ただ、ただ。罪悪感だったのだ。お前の両親を見殺しにした、そのためにお前は独りきりになった。
罪悪感だった。

嬉しくはないだろう?真実など、そんなものだ。
人の感情など分からぬものだ。
大人しく従うお前を見ていれば、わしは更なる罪悪感にさいなまれた。まるでお前を引き取るためにお前の両親を見殺しにしたかのような錯覚に陥ることもあった。何も知らず笑うお前を見て憎んだことさえある。

お前はただ、従順に音楽を奏で続けた。
わしはお前を閉じ込め、縛りつけ、こんなにも世間知らずな男にしてしまった。だが、お前は、笑って「幸せだ」というのだ。
わしに音楽を聞いてもらえるのが嬉しいと、笑う。

お前は、不思議な男だ。
わしはロスティアーノが言うような芸術の理解者ではない。
ただお前の音楽を誰よりも長く聞いてきた。
いつの間にかそれが、わしにも救いになっていた。
わしは罪深い。多くを奪ってきた。若い頃は戦争にも行った。一族は時代の流れに弾かれ、故国から追われた。こうして、クランフ王国からも逃げ出し、アンナを失い。ヴィエンヌでも留まることを許されない。
あまりよい人生だったとは。お前のように幸せだったとは言えん。

亡命しこの異国に来た。毎日工場に通うようになり、家族を養う大勢の工夫を見てきた。わしは理解した。人は何かを得るために生きているのではない。護るために生きているのだと。この歳になってな。やっと分かったのだ。

自分のためでなく、護るべき愛するもののために生きる。それが、生きるということなのだと、な。だから今、戦場に向かうのだ。

オリビエ、人生は長いようでいて短い。
お前は、お前の愛するもののために生きるがいい。もう、閉じ込めようとは思わん。
お前の。多くを奪ってきた。

すまない。

「侯爵様……」
「わしは、お前に出会えてよかったのだと思う。オリビエ。わしのために、レクイエムを作ってくれないか。お前の音楽が、わしの生涯を安らかなものにしてくれる。お前に命じる、これが最後だ」

レクイエム。それは、死を覚悟しているのか。

「戦争に、など。行ってほしくありません。私が、一人前になろうとしたのは貴方から離れたいからではありません、貴方を支えたいからです。ずっと、ここにいろとおっしゃったじゃないですか」

「ばか者。泣く歳ではあるまい?わしは死にに行くのではないぞ。わしが帰るまでに曲を作っておきなさい。マクシミリアン候はもうお前に手出しすることはない。バイエルヌのレイナドと契約を結ぶのもお前の自由だ。ただし、ヨウ・フラやロスティアーノ、周囲の人間に必ず相談しなさい。お前一人では何を約束させられるかわからんからな」

溜息を吐く。侯爵は静かに笑った。穏やかな笑みで、「身体には気をつけるのだぞ」と身を翻す。
慌てて、オリビエが立ち上がると手を上げて制した。
「見送りなどするな」

「侯爵さま!僕は、待っていますよ、ずっと、だから」
必ず無事に戻ってください。
その言葉は扉の向こうに消えた侯爵に届かなかった。

次へ
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。