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『音の向こうの空』第二十四話①

第二十四話:待ち、願う



オリビエが加わることで、バイエルヌの劇団は宮廷歌劇場で週末ごとオペラの公演を行うことになった。コンクールで優勝した台本にオリビエが改めて作曲しなおしたものだが、レイナドの意見で、毎回第二幕の冒頭と朗唱の伴奏はオリビエの即興演奏になった。それが公演のたびに違うということがヨウ・フラの記事で話題となり、中には何度も足を運ぶ貴族もいた。「あの演劇嫌いのレオポルト二世を夢中にさせた」それだけでも民衆の興味をそそり、いつも盛況だった。

マクシミリアン候はジーストが言っていたとおり、その年の内に戦場へと向かった。
そうして、侯爵家は主のいないクリスマスの季節を迎える。

珍しく雪の降らない静かな夕刻。オリビエは居間の扉に飾られた小さなりんごのリースにちらりと目をやり、興味もなさそうに目をそらした。あの日以来、オリビエは教会のミサから帰ると一人居間にこもった。夕食も、友人が尋ねてきているとき以外は一人で黙々と食べ、時には手をつけないこともある。そうして、リツァルト侯爵がまるでそこにいるかのように遅い時間まで一人で演奏を続けていた。
積もった雪は残照で薄桃色に染まり庭に浮かびあがる。暖炉の薪が時折音を奏で。オリビエは一人ピアノの音を振りまいていた。
「あのさ、オリビエ、今夜の約束」
上着を片手にヨウ・フラが顔を覗かせるが、ピアノの前で音にのめりこむオリビエには隙がない。しばらく待っているうちに、ヨウの背後にリエンコが立った。リエンコも正装している。二人は視線を合わせ、困ったようにオリビエを見つめた。
この夜、レオポルト二世から宮殿のクリスマスの舞踏会に呼ばれていた。そろそろ馬車が迎えに来る。
伝えてあったはずなのにオリビエは心ここにあらずで、降り積もる雪のような調べは悲しく冷たく。いつまでも鳴り止む様子がない。
しばらく黙って様子を見ていたヨウ・フラは、意を決しオリビエの隣へ。
その走り続ける手を掴む。

「!?」
まるで。今初めてヨウ・フラの存在に気付いたかのようにオリビエは目を丸くした。
「あのさ。今日の夜なんだけど。ロスじいから聞いてるよね?皇帝陛下のお招きで宮殿に行くって」
やっと肩の力を抜いて、オリビエは笑った。
「あ、そうだね。そう聞いていたね。広間でピアノを弾くんだった」
「…あの、オリビエさ」
何、と。あれ程悲しい音を奏でていたくせに、いつものフワフワした笑顔でオリビエは笑った。そうして笑いながらこれまでも多くを耐えて来た。その経験がオリビエをこうさせるのかもしれなかった。
オリビエは柔らかな色の髪を一つに束ねている。丁度肩に乗る小動物に似て、するりと背に隠れ姿を消す様はヨウ・フラの視線を誘う。侯爵が戦場へと旅立ってからというもの、決して髪を切ろうとしなかった。オリビエの想いがそこにいる。そっと背に隠れた想いは常に離れず肩に乗り、頬ずりし。きっと、オリビエを傷つけている。
「急いで着替えるよ、ごめん」オリビエは立ち上がっていた。
ヨウ・フラはなれない高い襟の上着の下で首をほぐし、覚悟を決めた。
「侯爵様のことなんだけど」
ヨウの言葉にぴくと。掴んだままのオリビエの手が震えた。ヨウ・フラはそれでも放すものかと力を込める。
「あのさ。皇帝陛下に頼んでみたらどうかな」
オリビエの強張った表情が少しだけ緩んだ。
「え?」
「だからさぁ、戦場から戻してもらうんだよ。だって、皇帝陛下なんだからさ、誰よりも権力があるんだ。オリビエのことを気に入ってくれているんだから頼んでみればいいんだよ。直接話せる機会なんかそうない、だから今日話してみればいいんだ。ロスじいだって協力してくれる。上手く行けば侯爵様、戻れるかもしれないだろ?」
一呼吸置いて大きく息を吸うとオリビエは目の前の少年を抱きしめた。

「オリビエー」と、ヨウ・フラはあきれる。もう、オリビエのほうが身長は低いくらいで、だからすぐに突き放された。
「ヨウ!ありがとう!!そうだよね、そうだ。頼んでみるよ。そのためなら僕は何でもできる!」
何かが解けたような笑顔をこぼすオリビエをヨウ・フラは見守っていた。
いつの間にか傍らに立つリエンコがオリビエの肩を叩き、「心配です」と一言。それにも満面の笑みでオリビエは頷いた。
「そうだよね、侯爵様、ご無事でいてくださるといいな」

ヨウ・フラも深い溜息を吐いた。
「心配なのはオリビエのことだよ。あのさ。ごめん、オリビエ」
「どうしたんだよ、二人して。皇帝陛下に頼んでみるよ、うまくいけば侯爵様、帰れるかもしれない。そうだよ!」

リエンコとヨウは顔を見合わせた。口を開いたのはヨウ・フラだ。
「ごめん。ずっと黙っててさ。もう、オリビエは察しているんだよね?侯爵様がどうして、戦場に行くことになったのか。分かってるけど、僕らが黙っているから知らない振りしてたんだろ。侯爵様のこと心配なくせに、何も言わないでさ」

「…ヨウ…」
重苦しいそれを腹に感じオリビエは椅子に座り込んだ。
想像は出来ている、それも、ひどく嫌なものだ。
認めたくない、真実と知るのも怖い。

少し伸びた前髪が額にかかり、それを払おうとする手が表情を隠す。ヨウ・フラは続けた。
「僕もリエンコも。ルードラーさんもロスじいも。皆、知ってるんだ。侯爵様はオリビエが…」
「ヨウ!」
オリビエは両手で耳をふさいでいた。
「聞きたくない、と思うけど……」
ヨウ・フラは拳で自分の胸を押さえた。
のんきな笑顔でいつもどおりを貫こうとしているオリビエ。見ているのが、どうにもつらかった。自分たちが隠していることはオリビエに感づかれている。それなのに周囲に気遣ってオリビエは知らないふりをする。無理をさせている。

ヨウ・フラはオリビエの隣に膝をつき、椅子に沈み込んだままのオリビエを見上げる。
背後に立ったリエンコは、そっと耳を塞ぐ手を掴んで引き剥がす。オリビエは綿で出来た人形のようにくたりと手を下ろした。力ないそれを元気付けようと、ヨウ・フラはまず、言っておかなければいけないことを口にした。

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