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『音の向こうの空』第二十四話③

第二十四話:待ち、願う



オリビエにとって二度目となるホーエンブルク宮殿は、クリスマスのためか前回はそこまで気が回らなかったのか、以前よりずっと華やかさを増しているように思った。遠いイファレア南部から送られてくる季節はずれの美しい花々を配し、芳しいワインの香りと女性の香水が入り混じる。
オリビエたちが馬車から降り立つとロスティアーノが駆け寄った。
「遅いぞ、オリビエ。陛下もお待ちかねだ」
手袋をしたオリビエの手をまるで貴婦人にするように引くリエンコ。
「え?」
振り返ればヨウ・フラはエリーゼをエスコートしている。
これじゃまるで。と思うまもなく、「ほれ、行くぞ」ともう片方の手をロスノに取られ、オリビエは親に引かれる子どものように人混みの間を抜ける。着飾った貴族や名士たち。花畑と比べるには香水の強すぎるそこを縫うように進む。好奇の視線、どこかで自分の名を誰かが呟き噂する。
恥ずかしくなって「あの、一人で歩けるんだから」と反論したところで、左右に流れていた華やかな人垣が消えた。

目の前には真っ白なピアノ。美しい銀の装飾がシャンデリアの明かりを鏡のように映す。
リエンコが雪に湿ったコートを脱がせ、ロスノが椅子を引く。
周囲にはピアノを中心にした人の円が出来上がっている。丸い舞台、そこにオリビエはピアノとともに取り残される。
ささやき声は拍手に変わる。
オリビエは冷たくなった手を握り締め、そして開き。
美しく磨かれた鍵盤を見つめると息を吐いた。
いつの間にか静まり返っている周囲に気付きもせず。

向こうに立つリエンコを少し振り返り、その隣のロスノ、ヨウ・フラ。エリーゼ。大切な友人たちを順に見つめた。見守ってくれる彼らに最大限の感謝を込める。
指先が織り成す柔らかなタッチの音。深く染み入る温もりを音に変え、オリビエは語るように抱きしめるように奏でる。
リツァルト侯爵を送り出したあの日以来、オリビエは重い枷を心に抱いていた。それは引きずっても持ち上げても、叩いてみても消えることなく。常に心にのしかかっていた。昼間は一時忘れることが出来たとしても、眠るために目を閉じれば恐ろしくなった。
眠れない夜を恐れるあまりピアノの前で夜を明かすことも何度もあった。
だがそれは、自分ひとりだけではない、皆が。周囲にいてくれる彼らが供に分かち合ってくれている。
皆が侯爵様のご無事を祈っている。
それが天に届くように、神に伝わるように。
そして、皇帝陛下の心を動かせるように。
オリビエはこの聖夜に相応しい美しい旋律を奏でる。誰でも知っているミサ曲からいくつかのフレーズを借り、オルガンとは違う絹のような和音を響かせた。
再現部の最後をゆっくりはかなげに演奏し終わると、余韻を惜しむように静寂が満ちる。
聴衆の溜息があちこちでこぼれ。
「素晴らしい演奏だった」と。いつの間にか目の前にいたレオポルト二世の言葉と供に拍手が沸き起こった。

立ち上がり皇帝陛下に挨拶をすると、オリビエは再びピアノの前に座る。
軽やかな円舞曲を奏でても、バラードを披露しても。そこに集まった人々は踊りもせず立ったまま聞き入っている。
オリビエは数曲を終えたところで手を休めた。
「あの、どうか皆さん。折角のお料理が冷めてしまいます」
あ、と。広間に広がる香ばしい肉のにおいに気付いた聴衆は慌てて周囲を見回した。
メイドたちが困ったようにテーブルの脇で待ち構えている。サーブしようとしている料理は一つも減らず、ずっと持ったままだったのだ。
「どうぞ、オリビエ様も」
そうメイドに声をかけられ、オリビエも立ち上がる。
ワインを受け取ると芳しい香りに空腹を覚えた。
どこかで呼ばれた気がして顔を上げれば、ロスノが手招きしている。そのすぐ横に立つ皇帝陛下と視線が合い、オリビエは今日の最大の目的を思い出す。

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