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『音の向こうの空』第二十四話④

第二十四話:待ち、願う



「お前の育ての親、というわけなのか」
皇帝が椅子の背に身体を預ければかすかにそれはしなる。オリビエは頷いた。
「はい。リツァルト侯爵様は啓蒙主義者というわけではありませんが、理解しようとされていました。人民を大切に考えられておられます」
亡命した時の経緯を語ればレオポルト二世は興味深そうに聞いていた。クランフ王国から発した啓蒙主義の革命が各国に余波を与えているのだ、興味がないわけがなかった。ファリでの三部会、国民議会の発足などファリの様子を尋ね、それにはヨウ・フラが緊張しながらも応えた。

「寡黙な男と聞く。逃げ出してきた、というわけではないのだな」
「はい、エスファンテのため自ら身を引かれたのです。各地で起こったような農民一揆が起これば、傷つくのは農民だけではありません、衛兵たちも町の人々も。ただでさえ食料が不足するような状態ですから、食糧の作り手である農民を戦いに向かわせるなど愚行であると。人民のために土地も武力も置いて来られたのです。町を出るときには、多くの市民に惜しまれました」
その時の様子を知っているのは、オリビエしかいない。あの時、オリビエは恋に破れ、町の様子など気にかけることもしなかった。
オリビエは自分自身のことで精一杯だったのに、侯爵様は自分以外の皆のために行動されていた。改めて周囲の人々を思い出した。
ズレンも、ビクトールも。アンナ夫人すら。
僕は、子供だったんだな。

「決まりとして僕が戦場に赴かなければならないなら、喜んで出兵します。ですから、侯爵様をお救いください。老齢にこの寒さは堪えます」
レオポルト二世は人差し指を軽く上げる仕草で側近を呼ぶと、飲み物を運ばせた。
広間の一角を大きなタペストリーで仕切った小部屋は、五人ほどがくつろげる広さで、毛皮を敷いたソファーが黒檀のテーブルを囲んでいる。
そこには今、オリビエとロスノ、ヨウ・フラ、エリーゼとリエンコだけが皇帝と向き合っていた。

「オリビエ、お前を戦場に送ることは出来ない」
皇帝の返事はそう始まった。
「馬にも乗れない貴族など、戦場に送れば迷惑だろう。曲がりなりにも貴族の称号を持つものを歩兵というわけにも行かん」
く、と小さく噴出したのはヨウ・フラ。
「し、しかし!」
「よいか、クランフ王国の軍の規律は乱れておる。かの国の軍事の多くを取り仕切ってきた士官たちは皆、貴族だ。大半が亡命した上に、残された士官たちも決して今の国民議会に従順ではない。市民から集めた素人の兵士とやる気のない士官。決して恐ろしい敵ではない」
ヨウ・フラが強く頷いた。新聞や噂でいろいろと知っているのだろう。
皇帝は続けた。
「ところが。オリビエ、我が軍も決して一枚岩ではない。ライン戦線周辺は、小さな領土を持つ領邦が治めておる。彼らの中には、すぐ隣に位置するクランフ王国の都市と親しく交易をしているところもある。民族としても隔たりはない。プロシアのフリードリヒ二世に感化され啓蒙思想を讃える選帝侯もいるだろう。彼らにしてみれば、帝国に席は置いているものの心はクランフ王国を求めている。いつ寝返るかもしれない」
オリビエは国境の村を思い出した。
自警団が自らを護ろうとしていた。
「そんな我が軍に、啓蒙思想を持つ指揮官はいらん。たとえ、経験豊富な亡命貴族だろうとな」
皇帝の口調が強まる。
「え?」
「リツァルト侯爵を除隊とする。不名誉かもしれん。それでもよいか?」
オリビエは思わず立ち上がる。
ヨウ・フラ、ロスノ、リエンコ。皆を見回す。
リエンコがはっきりと頷いた。それは、優しくオリビエの背中を押す。
「はい!ありがとうございます!」
オリビエは深く頭を下げた。

これで、侯爵は戻れるのだ。
出兵から一ヶ月。大丈夫、きっとご無事のはず。

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