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「音の向こうの空」第二十五話④

第二十五話:祖国へ



「旅の方が、珍しいことですね」と、司祭は笑った。
翌日リエンコが案内した礼拝堂は村の外れにあったが、そばに広場と泉があるために今も子供たちの駆け回る声が聞こえていた。

オリビエがよろよろとぎこちなく椅子に座る。
「この時間は誰も来ませんので、自由に弾いてくださってかまいませんが。大丈夫ですか?」
「馬に揺られるのが、慣れなくて。自分の足じゃないような気がする」
初めて触れるオルガンは幼い頃から親しんだかのように指が走る。痺れているはずの足も巧みに足元のペダルを踏んだ。
小さなオルガン。礼拝堂の中に響かせるのが精一杯のそれから、オリビエはなんとも甘い音を引き出す。葡萄の産地だけあって窓には葡萄のたわわな実が描かれ、深い赤紫が昨夜のワインを思い出させた。
ここしばらく、侯爵のことを思えば同じフレーズが浮かんでくる。自然奏でるそれは、オリビエの悲しみを表現する。ヨウ・フラが悲しい曲ばかり弾いているといったそれだ。
オリビエの中で侯爵のレクイエムにするならば、これだろうとかすかに思いはあるが。まだ、カタチにする気にはなれない。侯爵様は、きっと、きっと大丈夫。
思えばますます熱がこもり。
あの夏の牧場での苦い思い出もよみがえる。

「オリビエ様」小さなリエンコの声に我に返り、手を止める。
いつの間にか集まった子どもたちや村人の拍手を受け、慌てて立ち上がると礼をする。
「いやぁ、すごいですね」
「きれいだった」と子どもがすがりついた。

綺麗。
悲しい曲も想いも、未来ある子どもにはそう見える。
オリビエはかすかに救われた気持ちになって子どもの頭をなでた。
「オリビエ様、そろそろ発ちましょう」国境へ、とリエンコの厳しい表情は語る。
オリビエは静かに頷いた。



スタルガルトを過ぎるとそこは辺境の地。急な斜面を登り続ける馬は息を切らせ、リエンコは途中から歩くことにした。オリビエだけを馬に乗せ、自分は馬を引こうというのだ。それにはオリビエが反発し、「僕も歩くよ」と危なげながらも一人で降りる。
「では、あの峠までです」
リエンコは山道など歩いたことのないオリビエが、ぎりぎり歩けるだろう目標を指差して見せる。が、示された当人は足元の小さな草花や木々の向こうで葉を揺らす生き物に気をとられている。
「甘い匂いがする」
と、引き寄せられるように林に踏み入ろうとするから、リエンコは片手に馬の手綱、片手にオリビエという風体になる。
「オリビエ様。その花は茎にトゲがあって手を痺れさせます。ダメです」
「そうか。綺麗なのに」
まだ、そちらに気をとられて、ともすれば林の方へと近寄る。その足元を小さな蛇が走った。
「わ~」
情けない悲鳴らしきを上げた青年に、リエンコは「オリビエ様、面倒です。馬に乗ってください」と睨みつける。
「手綱を二つも持つのは大変です」
両手がふさがれての山歩きは大変なのだ。
「今の、蛇?だよね?」
「馬に乗ってください」
「すごいな、綺麗な模様だった」
「オリビエ様。侯爵様を助けに行くのではないですか?」
「……分かったよ」

促されてオリビエはまた馬上の人となる。
本当のことを言えば、なれない乗馬で尻が痛むから、歩きたかったのだ。
ふざけていたわけではないけれど、山の風景がものめずらしいのは仕方なかった。

馬に揺られ、ただ、前方の祖国を見つめているのは息苦しくさせた。
山々の向こう、川を隔て丘を越えたあの先にはエスファンテ。懐かしいと同時に不安がのしかかる。予定ではエスファンテで出来るだけ装備を整え、ファリに向かう。状況は分からないが、侯爵様が捕らえられているのはおそらくバスティーユ監獄。ヨウ・フラに聞いて描いた構造図はリエンコが持っている。
説得して助けてくれる政府ではないだろう。決められた期限までに帰国しない亡命貴族は死刑だと、そういう法律が制定されたという。そんな期限など一年以上前に過ぎている上に、リツァルト侯爵は戦場で敵として共和政府に歯向かったのだ。
裁判が行われていないことを祈るしかない。そうして、助け出す。
無謀なことだと分かっている。
ヨウ・フラだけがそれを口にし、反対した。

空気がさらに冷たくなって、空に黄色みが差す。アルフの山々が白く恐ろしいほどせり立って見える。かすかに山頂がかすむのは、強い風が雪を舞い上げているからだろう。
つんと鼻を刺す冷気に思わず顔を押さえ。黙り込んでいるオリビエを励ますようにリエンコが手を取った。
「リエンコ、ありがとう」ついてきてくれて。
「……オリビエ様、国境です」

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