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「音の向こうの空」第二十五話⑤

第二十五話:祖国へ



リエンコの見つめるそれは、以前とは違った。

川にかかる橋はそのままだが、川岸に沿って城壁に似た壁と見張り台。その周囲には馬やテントが見える。少し見下ろす位置のそこからはっきりと、サーベルを携えた衛兵たちの姿が見えた。壁に作られた木の門は兵士が護る。焚かれた松明は夕暮れに周囲の森を黒々と際立たせた。

「オリビエ様、どうしますか」
「……あれは、この辺境の軍かな?だったら、この辺境領のバーゼル伯爵は侯爵様と懇意になさっていたはずなんだ。説明すれば通してくれると思う」
風が変わった。頬に触れたそれと同時に、なにか。音を感じる。
オリビエが「あれ…」と声を上げ、リエンコはナイフを構える。
二人が聞き取った方角から、木々を掻き分ける音。踏みしめ鳴る枝、サーベルの鞘の音。あっという間に、十数名の男たちに囲まれていた。

「お前たちはなんだ」と男たちの代表らしい、一つだけ羽飾りのついた甲冑を身につける男が呻くように尋ねた。
聞きたいのはこちらだが。

オリビエは「あの」といいかけ、リエンコが「商人です」と応える。
「商人?」
明らかに顔を緩ませた髭面の男が先ほどの男の背後から一歩前にふみだした。馬がかすかに緊張し、鼻を鳴らす。
オリビエは慌てて手綱を掴みなおす。
「どこが商人だ?荷の一つもないのか?」
「食糧でも持ってるなら出してもらおうか」
「ああ、それともこの男が商品か?」
口々に好き勝手なことを言いながら、囲む輪を縮める男たち。
どこかの軍隊らしいが、皆下級兵士なのは訛りで分かる。
「よくみりゃ、クランフ人じゃないか、こいつ」
そう言った男が顔の半分を覆う白い包帯からじろりとオリビエを睨む。
「…そ、そうだけど」返事をしている途中に反対側から誰かがオリビエの脚を掴んだ。
「わ!!」
「やめろ!!」リエンコが叫ぶ。
リエンコが短剣を取り出せば同時に男たちはサーベルを振りかざす。

オリビエはただもう、必死だ。
サーベルを持つ包帯の男がオリビエを引き摺り下ろそうとする。
「離せっ!」
振り払おうとするのに。
構えられた刃がチカリと光る。
わー、と。叫ぶのと目をつぶるのと、思い切り暴れるのとで精一杯。勢いで馬のわき腹を蹴っていた。
ぐらと視界が揺れる。
馬がいなないて走り出した。

ものすごい勢いで流れる風景の中、オリビエはただ必死にしがみつく。
遠く、自分の名を呼ぶリエンコの声がしたようだ。

馬は一気に川辺の砦にまで駆け下りる。
派手に揺れる視界、かつて落馬した経験からオリビエはますます身体を堅くして、馬の首にすがり付いていた。

人の叫び声。ずると体勢が崩れかけ、思わず目を開ければ城壁が迫っている。
慌ててよける兵士たち。
止めてほしいと叫んだ。迫る壁。
「わぁー!」
ぶつかるつもりなのかと目を閉じ、身を硬くする。
馬がいななく。
息を荒く吐き出し、がつがつと地を穿つ蹄。

「もう、大丈夫だ」

大丈夫?
その声にオリビエは目を開ける。
気づけば馬は不満げに身を震わせているものの、しっかり抑えられた手綱に脚を踏み鳴らしていた。
馬の首にすがりついたまま、顔だけを上げれば目の前に衛兵の顔があった。
見たことのあるそれは。
「あ!」
「相変わらず、馬には乗れないんだな」

笑い方が派手で、豪快な黒髪の男。それはファリでであった近衛騎士だ。
にやりとオリビエに笑ってみせる。
「マルソーさん!」
「久しぶりだな、こんなところで会うとはなぁ」
「!!あ、そうだ、仲間が山賊に襲われて!」
勝手に山賊と決め付けオリビエは慌てて馬から降りようとする。
支えようとしたマルソーは、オリビエが予想以上にすんなり降りたので目を丸くした。

降りてみればやはり、マルソーはオリビエより頭一つ大きい。白いスカーフが首元に巻かれ、濃紺の上着には金の星がいくつも並んでいる。
「あ、あれ?マルソーさんがいるってことは、ここって、クランフ王国の軍隊?」
改めてオリビエは周囲を見回す。馬の手綱を預かってくれた衛兵が「国民衛兵といいます」と誇らしげに胸を張る。その小さな顔、白い肌。マルソーの背後にいる兵たちも、皆リエンコより小さい。クランフ人たちだ。
国民衛兵……革命を起した人民が、国民議会を開きそこで承認された軍隊。それは国軍でもあり、民衆の軍隊でもあると噂に聞いた。
侵攻している、とは、聞いていたけど。
複雑な気分になる。あの葡萄農家の主人が恐れた勢力はすぐそばまで迫っている。
マルソーたちは国境を越えてしまっているのだ。国境を越えるための橋を確保し拠点にする、ということだろうか。

「中尉どの、山賊らしき男がおりましたが」
と十数名の騎馬隊が囲んでつれてきたのは大柄なロシア人。
リエンコはロープでつながれながら、オリビエを見るとホッとしたように目を細めた。
「一人か?」
「あ、いえ、周囲に十数名の脱走兵らしき男たちが倒れておりました。あれは先日のルールズで逃げ出した衛兵だと思われます」

ルールズの逃亡兵…。オリビエはマクシミリアンの話を思い出す。それが、戦況を変えた要因だった。そのために、リツァルト侯爵は捕まったのだ。
「皆、倒しました」と。リエンコはオリビエに向かって笑った。
その笑顔の意味がオリビエを切なくさせる。
「ありがとうリエンコ。あの、マルソーさん、彼は僕の友達です」
オリビエは縛られているリエンコに駆け寄り縄を解いた。一瞬剣を向けようとした兵たちをマルソーが止めた。
「オリビエ、そいつはロシア人だぞ?」
「あ、うん。護衛してくれてるんだ」
ふうん、と納得のいかない表情のマルソーは、じろじろとリエンコを眺め回した。
リエンコはクランフ語の意味が分かっているのかどうか、時々見せる怖い顔でマルソーを睨み返す。

大柄な二人が腕を組んでにらみ合う姿は迫力がある。黒髪のマルソーに白っぽい金髪のリエンコ。例えるなら黒と白の熊。二頭は立ち上がったまま互いに唸り声を上げている、ように思える。オリビエは二人の距離が縮まらないうちに間に入った。
「……あ、あの睨みあわなくても」
「ま、いい。二人とも俺のテントへ。話したいことがある」

先に視線を緩めたのはマルソー。リエンコも表情から力を抜いた。
マルソーはオリビエの肩を二度叩き、傍らの部下らしき男に顎で何か示すと歩き出す。
後姿にサーベルが夕日を煌かせた。
「リエンコ、大丈夫。知り合いなんだ」
オリビエはドイツ語で説明すると、リエンコの手を引いてマルソーの後についていく。

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