08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「音の向こうの空」第二十五話⑥

第二十五話:祖国へ



テントの中は広く、マルソーは肘掛付の椅子に座った。大きく開いた膝、寄りかかる姿勢に、なにか以前のマルソーと違うものを感じ取る。
「…マルソーさん、もしかして、偉くなったのですか?」
ぶ、と。噴出したのはマルソーだけではなかった。
隣に立つリエンコまで笑うから、オリビエは顔を真っ赤にした。
「なに笑うんだよ、変なこと言ってないよ?リエンコも言葉が分かるならあんな態度取らなくてもさ……」
「あの肩の徽章、あれは中尉です。見れば分かります」とリエンコがオリビエの肩を叩いて笑う。
「そ、そうなんだ。リエンコはよく知ってるね」
軍隊の上下関係などオリビエには興味がない。演奏会にくるような軍人は大将とか、将軍とかだけだ。それ以外の位階はしらない。リエンコの言う中尉がどれくらい偉いのか分からないが、ここでは一番偉い様子だ。

「ま、そんなところだ。そいつは軍隊経験があるんだろう。悪いがオリビエ、そいつの武装を解いて欲しいんだ。示しがつかないからな」
だいたい足音立てない奴なんて恐ろしくて、と。マルソーは笑いながら続ける。
「あの、僕らは別に……」
「オリビエ、言うなよ」
マルソーの目が険しくなる。どくり、と自分の鼓動を聞いてオリビエは黙った。いつの間にか胸の前で拳を握っていた。リエンコは腰の短剣を外して地面に置いた。
その手が離れると同時にマルソーの部下が拾い上げる。その機敏な動作に、自分たちが危険人物だと思われているのだとやっとオリビエは気付いた。

三歩離れた位置でマルソーは両腕を組んで二人を見つめている。
日に焼けた頬は少し痩せて、かつて奔放な近衛騎士だった頃とは何か違った。
「前回のルールズでは中々、いい戦績でな。亡命貴族を大勢帰国させた。お前の雇い主も国に帰った」
「!!侯爵様は!」
飛び出しかけるオリビエをリエンコが抑える。
「雇い主がいなくなれば、お前も帰国できるだろう?」
マルソーの低い声音は有無を言わせない凄みがある。

帰国?どういう意味だろう。
「侯爵様は」
「お前は何も持たず、雇い主も仕事も失って、帰るのだろう?」
畳み掛けるようにオリビエの疑問を一薙ぎ、マルソーはオリビエには何も言わせないつもりらしい。
オリビエは黙り込んだ。マルソーが何を考えているのか分からない。リツァルト侯爵の行方を知っているなら教えて欲しいのに。


「はい。国に帰ります」
答えたのはリエンコだった。
「オリビエ様の国に帰ります」
マルソーが不器用なクランフ語で話すリエンコに目を細めた。
「ああ、共和政府は協力するものは歓迎する。オリビエ、今夜はここに泊まるといい。明日には橋を渡れるだろう」
マルソーは部下にいくつかの指示をし、オリビエたちは衛兵に連れられて小さいテントに押し込まれた。


警戒されているためか、ランプ一つない。
暗がりでオリビエは膝を抱えて座っていた。
リエンコは先に運び込まれていた荷物を確認し、マントを引っ張り出すとオリビエの肩にかける。
それでもオリビエはじっとしていた。

「マルソーさんはあんな感じの人じゃなかったのに」
オリビエは覚えている限りのことを話した。
ファリで出会った頃は王妃付近衛兵で、オリビエをファレ・ロワイヤルに連れ出してくれた。そこで自由について語った。
「ああ、思い出せば、今マルソーさんが共和政府の軍隊にいてもおかしくないんだ。そうだな……そういえばバスティーユ監獄の時も活躍していたってヨウ・フラが言ってた」

そうだ。共和政府や革命にはマルソーもエリーも、ヨウ・フラも賛成なのだ。彼らは貴族じゃない。じゃあ、亡命貴族である侯爵様やその養子になることを決めた僕は、彼らからしたら敵なんだ。
自分が何を選択したのか、遠く感じていた革命が目の前に現れたかのようだ。
「貴族だからとか。関係ないです。マルソーさんは今もオリビエ様の友人ですし、ヨウ・フラも軍人を嫌っていますが、友達です」
肩を叩かれ、オリビエは「そうだね」と呟く。
「マルソーさんは、オリビエ様が貴族であることを隠してくれました。彼は味方です。きっと、オリビエ様がどうしてここにいるのか、分かってくれています。彼の言うとおりにするべきです」
リエンコは荷物から干した肉とチーズ、パンを取り出す。チーズをナイフで器用に切ると肉とともにパンに挟んでオリビエに渡した。
「ありがとう」
「ほら、荷物の中はそのままです。きっと、明日になれば馬も帰してもらえます」
「うん。侯爵様の居場所、聞けないかな」
水の入ったビンが目の前に置かれるのを見つめながらオリビエは手にしたパンを大事そうに抱えていた。
「…私は、動くと怪しまれます」
リエンコはナイフをテントの外の松明の明かりに光らせてみせる。
それは眩しくてオリビエは何度も瞬きした。
「僕、なら?」
「マルソーさんは、お友達でしょう」
リエンコは静かに言った。それは「やってみたらどうです」と声にならない言葉が聞こえるようだ。オリビエはごくりと唾を飲み込んだ。
僕なら聞きだせるかもしれない。
中尉どのと呼ばれるマルソーは以前の彼とは違って見えた。何を考えているのか分からず、だから少し怖い。マルソーは侯爵様を捕まえたのだ、僕のことも捕らえてもおかしくない。
自分が相手にとって捕まえるべき敵なのだという感覚は必要以上にオリビエをおびえさせる。子供の頃から鬼ごっこは苦手だった。
「…これまで誰かに憎まれたことが、ないのですね」と。リエンコは笑った。
籠の鳥、と誰かが表現した。
秘蔵っ子。
温室の薔薇。
「でも、大丈夫だよ」
オリビエはジーストの暴力に耐えていた頃を思い出す。あの時も恐ろしかった。でもやるべきことはやらなきゃならない。侯爵様のために。
手にしたパンを一気に頬張る。
むせかけて、リエンコに笑われた。

「これを。マルソーさんに差し入れです」リエンコが荷物から取り出したそれは、あの葡萄農家で貰った一本のワイン。オリビエがあまりにも美味しいと喜ぶので、持たせてくれたのだ。オリビエは夜の冷気に冷たくなりかけているそれを抱えて、テントを出た。

次へ
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。