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「音の向こうの空」第二十六話 ①

第二十六話:故郷を去る者、還る者



翌朝、まだ日の明けきらない時刻。
オリビエは冷え込む中、リエンコの隣で毛布に包まっていた。
オリビエの中で最も鋭い感覚が先に目覚める。
人の声。無視しよう。目を閉じた暗闇の中、甘い夢とともにキシュの面影を何度もなぞるように思い出し毛布の端を握り締める。どこかで聞こえるライン軍の歌。それがキシュを思い出させる。

「連れて行くんですか」
けだるそうな青年の声。テントの外から聞こえるようだ。
「オリビエ様」囁くリエンコはすでにしっかりと目を見開いて外の様子を伺っている。オリビエは温かい毛布が惜しくてもう一度額を擦り付け甘えて見せるが、それはすぐに取り上げられた。マルソーと飲んだワインがまだしばらくは思考を妨げそうだ。
「眠い」
「オリビエ様。また、ワインですか」
知らず毛布を取り戻そうと伸ばした手はリエンコに掴まれ引き起こされた。
同時にふわりと冷たい空気が流れた。丁度、マルソーが入り口を大きく開いたのだ。
「なに毛布を取り合っているんだ、お前たち。すぐに支度しろ。伝令と供にファリに行ってもらう」

マルソーが示した伝令の青年はシェビエと名乗り、痩せた頬に迷惑そうな表情を載せて肩をすくめた。
「足手まといはごめんだから。あんたたちがどうしてファリに行くのか知らないけど、俺は伝令を目的とし、それが使命だ。言うこと聞かないならすぐに置いていく」
オリビエと同じくらいの年齢に見える青年はリエンコが睨んでいようと平気な顔で、さっさと自分の馬に荷物を乗せた。
リエンコが自分の白馬に荷を括りつける間、オリビエはマルソーのそばに駆け寄った。
「あの、おはようございます」
「ああ。シェビエと行けばエリーに会える。シェビエに持たせた手紙にお前のことも書いてある。ただし、協力してもらえるかどうかはお前次第だぞ。俺がエリーに命令できるわけじゃないからな」
はい、とオリビエは頷き礼を述べる。
「本当に、ありがとうございます」
「ま、俺にしてやれるのはここまでだ。いいか。忘れるな。お前は口に出来ないことを抱えて敵地に踏み込むんだからな」
まだ明けきらない空を背景に白い歯を見せるマルソーは朝日のように眩しい。侯爵様にただ会いたいだけじゃない。助け出したい。それはマルソーには言えなかった。オリビエは大きく頷き罪悪感を振り払うと「マルソーさんもどうか、ご無事で」と別れを告げた。


伝令の若者シェビエは二人の前を馬で駆け、オリビエが話しかけてもほとんど返事をしなかった。二人の道連れが迷惑なのだといわんばかりだ。
このまま国境を越えればエスファンテだ。オリビエはどの道を通るのかと尋ねたが「黙ってついて来い。ファリへの到着は七日後だから」とそっけない。
知っている人間に出会うわけには行かなかった。かといってシェビエはオリビエが亡命貴族だとは知らない。
理由を話す訳にもいかず、だから「どこを通るのか」とか「どの町に立ち寄るのか」とか。遠まわしな聞き方をするしかないオリビエはもどかしい。
初めて質問した時から半日経って、いよいよエスファンテが近づいた頃、丁度道の脇に河が見える静かな場所でシェビエは馬を止めた。

馬に水を飲ませているシェビエにそっと近づき、オリビエは三回目の同じ質問をした。
「あの、どの町を通るのか知りたいんです」
馬の耳がびくりとこちらにむくのと同時にシェビエの後姿も反応する。
振り返れば予想通り眉間にシワを寄せ小柄な身長から首をかしげた斜めの視線でオリビエを睨みあげる。
「お前、耳とか頭とか変なのか。黙ってついて来いっていっただろ」
負けるわけには。
「あの、だから、途中どういう街によるか教えてほしいんだ!」
「ファリ」
短すぎる返事にオリビエは言葉を失う。ファリって、それは目的地で。
途中どこにも寄らない、なんてことはまずありえない。
「シェビエさん、あの。途中にはどこにもよらないのかな?」
「知らないな」
「知らない!?」
オリビエの声が大きくなるとたまりかねたようにシェビエは耳を塞いだ。
「お前だって知らないだろ?そこのでかいロシア人。俺もスタルガルトの出身だから。クランフ王国の小さい村なんか知らないし、覚える必要もない。方角と、道さえ分かればファリにはたどり着ける」

ああ、そうなのだ。帝国領スタルガルト領邦の出身とすればシェビエは外国人。土地に不案内なのだ。地図はもちろん持っているだろうが、細かい地名など覚えてはいないだろう。わざわざ地図で道を指し示すほどの親切な性格でもない。
「あの。エスファンテはすぐそこの街で……」
「だから、俺に聞くな!」
「……そう」残念そうなオリビエにシェビエは腹立たしげに怒鳴った。
「大体、お前らが勝手についてくるんだろう?なんで、俺が不案内だからってお前らに申し訳なく思わなきゃならないんだ。違うだろ!」
大きな声を出すと一つ派手にため息をついて背中を向ける。シェビエは馬の鞍を締めなおしていた。
リエンコが白馬の脇に立てば馬は甘えるように頭を擦り付けた。オリビエはリエンコの背中を眺める。国境までの道のりはリエンコに任せていたけど、それはすごいことなのだ。僕も知らない道を、リエンコは簡単な地図とコンパスだけで的確に進む。

「あの、感謝しています。僕たちだけじゃファリには辿り着けないし。エリーさんにも会えない。シェビエさんの仕事を邪魔して申し訳ないと……」
「俺には関係ないから。寄りたいなら勝手に行けばいいし、寄りたくないなら避けて通ればいい。どちらにしろ、どこからがエスファンテでどこまでがそれなのかも俺は知らないから」
そういうとシェビエは馬にまたがった。前方の空を眺める。

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