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「音の向こうの空」第二十六話 ⑤

第二十六話:故郷を去る者、還る者



「クランフの国民議会、今は国民公会というそうですが、国家の財政難を克服するために亡命貴族の領地に目をつけたのです。接収し、国民に買い取ってもらう。つまりこのエスファンテの広大な農地は大半が国有財産ということになるのです。ですが、この街では公爵の亡命が早かったために先に民衆による自治が進んでいた。既に公爵様の土地は共同で耕され、街のために使われていたのだそうです。それを今更買い取れという政府に意見が分かれ、従おうとする街の議会と反対する農民とで争いが起こっているらしいのです」
「ダンテス中尉の隊は、街の議会に協力しているんだね」
「そりゃそうさ、いまや革命を妨げるものはすべて敵だからな。あの収穫されない麦畑を見れば、反乱を起こしているのが農民たちだってわかる。馬鹿だよな、したがっておきゃいいのに。どうせ、これまでだって、領主に従って麦を納めてきたんだ」
オリビエはシェビエを見つめた。
「なんだよ?革命は厳格な父親だぜ?無学な農民は革命の高い理想を理解できないのさ。躾に反抗してたらそりゃ殴られるさ。幼い民は成長して初めて父親の言っている意味が分かる。それまでは黙って従うべきだ」
「……農民がいずれ成長して、誰かの父親になれるなら、ね」
シェビエはオリビエの肩をドンと突き飛ばした。
「なれるさ!農民だって理解すれば分かる!俺の親父みたいなこと言うな!俺は貧しい農民のせがれだ、だけどな。革命の意味を理解して協力している。いずれ議場に立つような、国を動かすような仕事をして見せるさ!」
オリビエは目を細め、ただ黙った。
革命でのし上がるものもいれば追い落とされる身分もある。


その夜は古城で泊まり、翌朝発つと言い残し、シェビエは先に自分の部屋へと戻っていった。
「オリビエ様、そういえばこの城にオリビエ様にそっくりな絵があるそうですよ。マリア、聖母と題された絵画だそうで。見て見たいと思いませんか」
沈んだ様子のオリビエを元気付けようとするそれは、オリビエをますます大人しくさせた。
「……そう、そんなのがあるんだ」
男爵が好んで眺めていたあの母さんの肖像画。リエンコの中で聖母と天使という符合が一致するようで興味があるのだろうが。オリビエは嬉しくなどない。
「オリビエさま?」
不思議そうなリエンコが気の毒だが、全てを説明するのも気が進まない。オリビエはただ「ごめん、眠いんだ」と、一人先に毛布を被って横になった。

眼を閉じ、エスファンテの侯爵家を思った。確かここから馬なら遠くない。ロントーニの手から逃れ、市民が集まりだしている屋敷に辿り着いた、あれを思い出していた。あの時はズレンが護っていた。今は見知らぬ衛兵が、ダンテスの指示で護るのだろうか。反乱軍は農民たち。手に鋤や鍬を掲げ、パンを、と。
市民同士が争い、男も女も殴りあい殺しあう姿は思い出したくないのに浮かんでくる。
ぎゅと眼を閉じ、むかむかする胃を押さえ込むように丸くなる。
その内リエンコの小さないびきが聞こえ始め、低い音の一定のリズムに不思議な安堵を感じオリビエも眠りに落ちた。

悲鳴のような。甲高い声。
夢の続きだろうか。再び毛布に深くもぐって耳を塞ごうとするのにそれは、オリビエの聴覚に訴える。
人の、ざわめく声。怒鳴る声。
中庭だろうか。
三階のこの部屋も、窓が面しているから音が響く。オリビエは起き上がる。
聞いたことのある声が今ははっきりと耳に届く。
窓に駆け寄れば、朝日が昇る前の青白い空気の中、日陰の中庭に松明が白々と焚かれている。窓を開き覗き込む。
芝生と石畳、そこに兵士と市民らしき姿がある。上から見ればはっきり分かる。三十名くらいだろうか、市民は小さな丸になって庭の真ん中に集められ座り込んでいる。その周囲を兵士が槍を手に囲んでいる。
一際派手な赤い羽根飾りはダンテスだろう。
「静まれ!」怒鳴る声。
「あたしたちは正しいことを言ってる!あんたたちの言う法律が決められたのは去年のことだよ!その前の年にもう、この街の土地は皆のものだったんだ!今更、救世主ぶって革命政府ですって来られたって迷惑なんだ!」
赤毛、だ。

オリビエは部屋を飛び出していた。
背後にかすかにリエンコの声が聞こえるが、そんなことより。
あの赤毛、あの通る声。あれは。

階段下のあの兵士が「おはようござ」といいかけ、オリビエはただ、走り抜ける。
「あの!オリビエさん!?」

回廊を走り、アーチを抜け、中庭。冷たい早朝の空気に松明の苦い香り。
「キシュ!」
気付いた衛兵が横からオリビエを押さえつけた。
「キシュ!」

振り向いた少女は。美しく結い上げられた髪はもう少女というより女性で。頬は汚れ、殴られたのかかすかに腫れている。燃えるような赤の髪、縁取られる表情の強さは以前と変わらない。
あの、淡いブルーの瞳がいつも眩しかった。

「お、オリビエちゃん!」
ちゃん付け、なのかと微妙な表情の兵士たちに気付く余裕もなく、オリビエは振りほどくと駆けつける。
「キシュ」

あれ程悲しみ、二度と会わないと誓ったのに。
抱きしめ、それはずっと変わらない、華奢な痩せた感触。
しなやかで悪戯な猫のまま。
「キシュ、会いたかった」
と。口をこぼれた。
ずっと、ずっと願っていた瞬間。それはオリビエの中で何かを溶かした。溢れ流れる想いは春の雪解けに似ている。どう、表現していいのか。会いたかったのだ、ずっと。
会いたかった。

もう一度顔を見つめ、思わず口付けしたい衝動に駆られるが、頬の痛々しい傷がとどめた。
「……キシュ、君はどうして」
「こっちこそ、言いたいよ!亡命したあんたがどうしてここに」
ざわ、と。オリビエの中で警鐘が鳴り、駆けつけたリエンコが名を呼ぶのと同時。ダンテスが口を開いた。
「亡命だと?」

背後にダンテス中尉の気配。
振り返れば衛兵に囲まれ、オリビエも叛徒と同じ円の中にいる。

「亡命とは、どういうことですかな。リエンコ殿、確か商人の子息で外国へ勉学のために行っていたのだと、聞きましたが」
オリビエを追ってきたあの階段下の衛兵は隣に立つリエンコに槍を向けようかと構える。
オリビエはとっさに首を横に振る。
だめだ、リエンコまで捕まったら、いけない。

「私もそう聞き、雇われました」
表情に微塵も出さず、リエンコは言い切った。
「私も騙されたのです」
「ふん、なるほど。だから、あの肖像画、か。オリビエ殿、あの肖像画は貴族が描かせたもの。貴方にゆかりのある女性ということですかな」

「オリビエちゃん、あたし……」背後のキシュがごめんなさい、と呟く。しゅんとして素直なそんな姿は記憶になく、新鮮で可愛らしい。それを味わう余裕もなくオリビエは少女を背後に庇うように立ち尽くしていた。

敵陣に踏み込んでいたのだ。それを忘れた。

オリビエはダンテス、そしてリエンコを真っ直ぐ見つめた。

「あれは。僕の母、マリアの肖像画です」


次へ♪
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kazuさん♪

ありがと~♪
早すぎ?と思いつつこんな展開です。
オリビエ君、キシュちゃんと再会したけど…。

演奏シーン、毎回オリビエの演奏にはめいっぱい妄想するんです。
そこ、力が入っていますからね!感動だなんて~めちゃくちゃ嬉しいです!

最近、帰りが遅かったり、時間があっても眠くなって集中できなかったり…。ストックも少ないのでドキドキしながら連載してます~(@@;)

ゆっくり更新になっているけど、おつきあいくださいね♪

うっ・・・うぉぉぉ

つっ続きが早く読みたい!!

と、のたうつkazuです。こんばんは^^
早速ばれちゃって、どうするんだオリビエくん;;
でも、まさかキシュちゃんがいるとは、その驚きが・・・嬉しさがオリビエくんを動かしてしまいましたね。

なんだか。
お前の生き方そのものが、立派な思想って。
オリビエくんの音楽を聴いてマルソーさんが言っていた言葉を、古城でオルガンを弾いた場面で思い出しました。
勇猛なライン軍の歌は、オリビエくんの作った曲がもとなのに、オリビエくんが奏でると違う思いを抱かせる。
オリビエくんは唯一の存在で。
なんていったら分からないけれど、なんだかとても感動しました。
誰が作り変えようと、それはやっぱりオリビエくんの曲なんだって。

あぁぁ、どうなっちゃうんだろう@@;
ドキドキしながら、続きをまちます^^ はっ、長くなりました!すみません!!
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