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「音の向こうの空」第二十六話 ⑦

第二十六話:故郷を去るもの、還るもの



オリビエはこの二日、一人マリアの肖像とだけ向き合い自問自答を繰り返してきた。
このまま侯爵様を救うこともできず、それどころか自分も。噂に聞くギロチンとやらにかけられるのだろうか。答えのないそれをもてあまして抱え込み、ベッドに丸くなっていた。
夜になれば部屋は真の闇に沈む。うとうとし、目覚め。その内自分が眠っているのか目覚めているのかも分からなくなる。夢なのか現実なのか。
僕は捕らえられ、確実に死に向かおうとしている。

かすかな物音に耳を澄ませば、闇になれた目に眩しいくらいの明かりが当てられた。
「オリビエさま」
囁くそれはリエンコだった。

明かりが必要以上に漏れないよう、覆いをした小さなろうそくを掲げ、リエンコはオリビエの脇に座り、のぞきこむ。
「……まだ、この地にいたんだ」
とっくにヴィエンヌに戻ったのかと思っていた。
「オリビエ様、必ず救い出します。ですから、お食事はきちんとなさってください。いざという時に歩けなくなっていては困ります」
「リエンコ、僕より侯爵様を助けて欲しい」
横たわり、顔だけをそちらに向けるオリビエに、リエンコは溜息をつく。
「私の目的は貴方を護ることです」
「……目的?リエンコ、侯爵様を助けるために来てくれたんじゃないのか」
「はい」即答。オリビエは思わず体を起こした。
水分も食事もとっていなかったために、かすかにめまいがする。それでもじっと、リエンコを見上げた。
「なんで?わからない」
「私が侯爵様に命じられた内容は、貴方とお屋敷を護ることです。わしに何があろうとも、お前がすべきことは一つだと、そう言われました。それに。私はリツァルト侯爵が好きではありません」
「は!?」
思わず、声が大きくなりかけ、リエンコが口を塞ぐ。
数回瞬きしたときには脳裏で三回、リエンコの言葉を反芻した。
侯爵様が好きじゃない?
「どういう、こと?」

リエンコは肩をすくめる。
「下男など、私のする仕事ではありません」
「?」
リエンコはオリビエの隣に腰掛け、話しはじめた。
「私の両親は戦争で死にました」

―――私は物心つかないうちに、両親を殺した男に引き取られました。
その男の役に立つように、兵士として育てられました。男は私を子供のように可愛がり、私は男のために戦い勝利しました。
勝利を繰り返すことで私は地位を上げました。
そうなれば妬む者がいます。
男は周囲に嘘を吹き込まれ、私が男を恨み、両親の敵を討とうとするのではないかと恐れ始めました。
私を信じられなくなった男は、私を国から追い払いました―――


どこか、僕の境遇に似ている。
オリビエは時々単語を選ぶようにゆっくり語るリエンコを見上げた。
僕の両親を見殺しにしたと、語った侯爵。真剣で悲しい眼差しをリエンコに重ねた。

視線が合い、「僕に、似てる」と呟けば、リエンコは目を細めた。短い金髪と高い鼻の鋭い容貌に柔和ともいえる表情が生まれる。
「私は貴方と同様、男を父親と慕っていました」

「裏切られ絶望し、ヴィエンヌに流れ着いて目的もなくただ生きていた。侯爵のビール工場でただ身体を動かしつかれて眠り毎日は、何も考えなくてよかった。ただ生きているのにちょうどよかった」

「侯爵は私を下男にと、屋敷に呼んだ。そんな仕事はしたくなかった。でも、貴方がピアノを弾くのを聞いて気が変わりました。初めて音楽を美しいと思った。演奏する貴方は聖なるものに見えた。だから私はあなたの前では緊張し、笑うことも出来なかった。それを侯爵様に尋ねられたのです。なぜオリビエに口を利かないのか、と。仕えるのが不満なのかと」

そう、出会った頃リエンコはオリビエに口を利かなかった。
ヨウ・フラは言葉が分からないからだとからかっていたが。

「私は正直に話しました。かつて軍を率いた私が下男などというくだらない仕事は性に会わない。工場で作業していた方がましだと。ただオリビエ様の音楽は聞いていたい。私の話に侯爵は笑い出し、大切だと思えるものができたのなら、それはいいことだと言った。貴方を護ってほしいと頼まれた」

「私は貴方を護るためにそばにいる。下男としてではない。言葉が拙いために、私を見損なっているのです、あなたは」
「だ、だけど……」
「以前、マクシミリアン公の屋敷で貴方は私に言いました。自分のために誰かが傷つくのは嫌だと。違います。生きる理由など失っていた私は、貴方を護るという理由を見つけた。生きる理由とはすなわち、命を賭けるに足る理由です」
「でも」
「侯爵が私を下男に選んだのは、私が元軍人で貴方を護ることが出来るからです。彼は私を利用し、私は自分の目的のためにここにいます。侯爵のためではありません」
おかしいですか、と。首をかしげるリエンコにオリビエは何も応えられない。

侯爵様を救い出してくれれば、それでいいのに。
「僕より侯爵様……」
「いやです」

「そ、そんなこというなら、僕も嫌だ!」
「……子どもですか」

わけの分からない押し問答になりかけていることに気づき、オリビエはぽてんとベッドに横たわった。
「リエンコに目的があるように、僕にも目的があるんだ。協力してくれる、よね?」

かすかな溜息と静寂。
視線をリエンコに戻せば、珍しく笑っていた。
「とにかく、今は食事をしてください」
リエンコは部屋の隅で冷たくなっている食事の残骸を指差した。

オリビエがろうそくの明かりを頼りに不味いスープを飲み干すと、満足した様子でリエンコは戻っていった。
空腹に冷たいそれは重く感じられ、横になるとすぐに眠気が襲った。久しぶりに深く眠れた気がした。
そうしてオリビエはこの日を迎えたのだ。

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