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「音の向こうの空」第二十七話 ④

第二十七話:革命の表裏



昨日の荒れた天気を塗り替えるようにファリは見事に晴れていた。ぬかるんだ道を馬はご機嫌よく走り、シェビエはライン軍の歌を鼻歌に都を眺めながら進む。
通りの両脇には五階建ての共同住宅が並び、尖がった屋根からはかすかに煙が流れる。昼を前にして街は一日の始まりから少しだけ落ち着きを取り戻したかのようにまばらな人馬を残して静まっていた。通りかかった水売りに声をかけ、馬と自分のための水を買う。

「ファリは初めてなんだ、随分立派な町だな」
シェビエが笑えば、水売りはそんなもんですかい、とたいして嬉しそうでもない。
水を分けるひしゃくに視線を奪われていたシェビエが一口喉を潤そうとした時、大きな鐘の音が鳴り響いた。
思わずむせて、危うく大切な水をこぼすところだ。
「な、んだ、今の。こんな時間に鐘が鳴るのか」
水売りは遠く聖堂の方角だろう、そちらを眺め、呟いた。

「また、誰かが処刑されたんですよ」
「そうか。…仕方ないさ。そういう、ご時勢なんだ」
政治犯は許されない。この新しい体制を守るためには、反乱の種は種のうちに。それは軍隊の中でも同じだ。シェビエは一気に飲み干した。
「血が流れるから花が売れる。人が飢えるからパンが売れるように」

若い伝令兵の言葉に水売りはかすかに皮肉な笑みを浮かべて見送った。


人が群がる処刑場の脇をシェビエはわざと選んで通り抜けた。
見物席の脇には儲けた席料を数える商人が、小物じゃ金にならんと呟いている。
処刑が終わったために人々はばらばらと波が引くように減っていく。その後に踏みつけられた新聞が風にあおられた。ふと目に止まりシェビエはそれを手に取った。
裁判、反乱、亡命貴族、とだけ大きな文字が目に入る。後はよく分からないが、兵舎の誰かに読んでもらおうと荷物の中にねじ込んだ。
広場に作られた柵の内側には不気味な機械が見える。ギロチンとはこれか、とシェビエは眉をひそめた。重そうな刃を持つその禍々しい機械は人々の視線を集め、まるで教会の聖像だなと皮肉な気分になる。

国民公会の方針に従うと宣誓しなければ僧侶は僧侶とは認められない。旧勢力の貴族出身の僧侶は反発したり騒動を起したり、亡命したものもある。
教会の資産、つまり僧侶の資産もまた国に没収されていた。

すべての人が平等で、すべての人に幸せになる権利がある。そう説いてきた神の教えは人の力で実行に移される。祈るだけではかなえられないと皆が知ってしまったのだ。

再び鳴り響いた鐘。
立ち止まっていた自分に気付き、シェビエは馬を引き歩き出した。




シェビエが陸軍本部に到着し、エリー将軍に面会できたのは昼すぎのことだった。詰め所の一階で兵士たちが席に座り、休憩を取っているその片隅で小さなテーブルを前にシェビエはエリーと向き合った。若い将軍は金の巻き毛を一つに結わえ、涼しい蒼い瞳で手渡した書状に眼を通す。

「あの、こんな場所では話もしにくいのでは」と。余計とは思いつつも、周囲の笑い声にシェビエはさらに声を潜ませ将軍に提案する。場所を、変えたほうが。

「いや、執務室には誰の目があるか分からないからね。ここでいい」
冷静に答えるエリーは視線をシェビエに向けることはない。
書状の内容を知らないシェビエはエリーの表情から伺おうとじっと見つめる。若い将軍だとは聞いたが、マルソーより年下に見える。くるくると伸びた金の髪は貴族出身なのではないかと思わせた。エリーの整った容貌にいつの間にか興味が移り、背を丸め上目遣いで見つめるいつもの癖が出る。

「君、一人なのか」

え?と。言われた意味が飲み込めず、シェビエは椅子にのけぞるように顔を上げた。
「同行したものはどうした」
「あ。ええ、オリビエっていう男を連れて行くように、マルソーさんには命じられたのですが、エスファンテで亡命貴族だと判明したんですよ。それで、その地の駐留軍に任せてきました」
溜息が聞こえた気がして、シェビエは手紙を手にしたエリーの顔を覗き込もうと首をかしげた。
「あの、なにか」
「いや。エスファンテ、か。かの地はどういう様子だった。豊かな土地だと聞いている。ここ数年、あの街では飢饉の影もない」
「麦は生っていましたけど。農民と街の議会がもめているようでしたよ。土地の所有を巡って、意見が対立しているのです。あの街を去った領主は市民に街を委ねたらしいですが、今の法律じゃ亡命貴族の資産は国のもの。市民はそこに反発しています。よせばいいのに」
「……前線の背後を護る、大切な土地だというのに」
エリーは呟く。
前線には、親友のマルソーがいる。

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