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「音の向こうの空」第二十七話⑦

第二十七話:革命の表裏



ズレン・ダンヤが深夜の面会を果たした数日後。急遽、リツァルト侯爵の裁判が行われた。八月に設けられた特別裁判所が今や「特別」の枠を広げ、革命に反するものの裁きを引き受けていた。
十六人いる陪審員はブルジョアや哲学者など。中には貴族もいた。
ズレンがそれを知り、テュイルリー宮殿の法廷に入ったときには人の生死を諮る儀式とは思えないほど倦怠した空気が漂っていた。
議員席の司法長官がズレンに気付くと手招きした。
「随分、早い裁判ではありませんか」
そっと尋ねれば、長官は腹をなで「うむ、大臣のお考えだ」と髭を丸い指先で整えた。

「では、亡命し、我が国に反旗を翻すアウスタリア帝国軍に加担したことを認めるのだな」
そう、裁判長が侯爵に話しかけた。
「お待ちください!私はかつて、リツァルト侯爵の元で衛兵を勤めておりました。侯爵が亡命なさった時、故郷では市民が蜂起し、耐えられない状況でした!かのヴィエルテで難を逃れるため国境を越えたのと同様、侯爵も仕方なかったのです」
ズレンは立ち上がり、陪審員と裁判官に語った。
陪審員の一人として臨んでいたフラン夫人はまあ、と。めったに見ない青年の情熱的な姿に目を細めた。
隣に座る取り巻きの議員が小さく舌を鳴らす。

「ところが、だ」
裁判長は落ち着いていた。
先ほどまでの、淡々と麦を踏むように進めていたつまらない裁判にズレンが吹き込んだ風が心地よいとでも言わんばかり。声にまで張りがある。
「ヴィエルテと同様、と主張する亡命貴族はこれで十三人目なのだ」

く、と。笑ったのはリツァルト侯爵。
「ズレン、わしを恨むのは勝手だが、大人しく裁きを受けようというのだ、さらに貶める必要もあるまい。死の際に市民を犠牲にするほど業の深い人間ではない」
「侯爵……」
「裁判長、わしとこの男はかつて関連があった。だが今は何の関わりもない。追い出してくれんか」

裁判長が手を上げ、それに答え衛兵が駆け寄る。
両脇を固められ、ズレンは法廷を後にした。幾度も侯爵を振り返る。
リツァルト侯爵は二度とズレンのほうを見ることはなかった。

「ほら、出て行け!これ以上、侯爵に味方するなら、お前も反逆罪とみなして逮捕するぞ」
そう脅しつけ、ズレンを突き飛ばすと衛兵たちは戻っていく。
侯爵はズレンを巻き込むまいとわざと突き放した。
オリビエと同様、自分も庇われているのだと思えば、ふがいなさにズレンは座り込んだまま地を殴る。


「なかなか、麗しい信頼関係なのね」
透き通った女性の声。見上げればフラン夫人が扇子で口元を隠し立っていた。
向こうに見える夕日に後れ毛が金色に輝き、華奢な白い首を異常なほど美しく見せた。
分かっているのだろう、それを。ズレンの視線を促すように首から胸へと扇子が誘う。女流文士から今や立派な議員の一人である夫人は「これで刑が確定すれば、大急ぎで執行されるわ。今や議会は国王裁判でそれどころじゃないものね」と笑った。
ズレンは衛兵に投げつけられたマントのほこりを払い、手に抱えると立ち上がった。
夫人を完全に無視している。

「おかしいと思わない?この間まで、後回しにされていた裁判が急に行われたの」
「……国王裁判が忙しいからでしょう」
そう、自分で言ったでしょう、と。冷ややかにズレンは夫人を眺め裁判所を後にする。
そうしながらも、夫人の言葉が脳裏を駆ける。おかしい。なぜ、急がせた。かのエスファンテの土地を確実に所有したいと願えば、政府は忍耐強く侯爵を説得するべきだった。
なぜ、それを突然放棄したのか。それとも。共和党のうち、侯爵を引き入れれば戦力となると考えるジロンド派に対し、地方より中央集権を優先するモンターニュ派がその腹の内を行動に移してみせたのか。モンターニュ派は九月の反革命容疑者の虐殺騒ぎの主犯ではないかと新聞が書きたてたために独裁的な行動は控えていたはず。
司法大臣はモンターニュ派。やれないこともない。

このままでは。エスファンテの土地はどちらのものともつかず、早まった市民が反乱を起こせば。真にヴィエルテの二の舞。



鐘が鳴っていた。
不思議なほどそれはオリビエの気持ちを安らかにした。
パールス教会の音とは違う。それでも鐘が鳴ることは誰かが祈っているのだと思えた。ファリに到着するといわれた日の午後。覚えのある橋を抜け、建物が高くなるのを馬車から眺める。鐘の音が迎えるように包み、オリビエはそっと窓際に身体を預ける。
囚人として運ばれる心地は、悪夢に似ていた。両親を失った日、結末を知っているのに自分だけ納戸に閉じ込められた。だめだ、それじゃだめだ。お父さん、お母さん、と叫んで夢は終わる。結末は、繰り返す。どれだけ変えようとしても過去は変わらないのだと、目覚めるたびに思い知らされる。それでも夢に見るたびに、今度こそ、僕が両親を救うのだと必死になる。
それに似ていた。
侯爵様を救いたい。
救いたいのに僕は何もできないかもしれない。
その不安が悪夢を見せる。

うなされ目覚めると鐘の音に癒される。
衛兵が心配し、「医師がいるといいのですが」と、オリビエの額に手を当てた。

ファリに到着したのだと、馬車が止められた時。オリビエは熱のために歩けないくらいだった。衛兵に支えられて降り立てば、「私が薬を持っています」と、リエンコが荷物から薬を取り出した。
「風邪でしょう」と、衛兵に話しながらリエンコはオリビエの口に粉薬を注ぎ込む。
苦く甘いそれは吐き出したくなる。
「オリビエ様、飲んでください」
口元に水の器を当てられればオリビエは苦しくて、一気にそれを飲み干した。
ざらりとした薬の感触と、喉を刺激する水が飲み干した後に安堵に似た溜息を吐き出させる。
「もう一杯、水を」
火照った喉に水は心地よかった。
「ルードラー医師に頂いたものです。貴方は風邪をよく引きますから」
リエンコが笑い。オリビエはありがとうと礼を言う。
衛兵にオリビエを預けると、リエンコは「私はファリでも見物します」と、一人馬に乗った。
大柄なロシア人を見送りながら衛兵は「変わった人だな」と、呟く。
「見物も何もないだろうに。オリビエさん、貴方がもし」
死刑になるなら…。
そういいかけ、衛兵はいつの間にか眠っているオリビエに気付く。
「なんだ、背負わなきゃならんのか」
薬が効いたのか、青年の寝顔は穏やかだった。

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