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「音の向こうの空」第二十七話⑧

第二十七話:革命の表裏



ズレンがオリビエの到着を知ったのは、それから半日してからだった。
今、その報をもたらした女性を目の前に置き、住まいの近くのカフェで遅い夕食を取っていた。
「あ、これ、なに。美味しい」
逞しさすら感じさせるキシュは、目の前の魚の燻製をひっくり返した。
「お前の嫌いな魚だ」
う、と。動きを止めるキシュにズレンは呆れた溜息を吐く。
「大体、何でお前は単身ファリになんか出てきたんだ。俺は世話しないからな」
「うん。見届けたいの」
「リツァルト侯爵なら」
「違うよ。オリビエちゃん」
皿に視線を張り付かせたまま、キシュは敵のように肴にナイフを入れる。
「助けたい。でも、助けられないかもしれないんだ。だから力を借りたいの」

「あれがファリに着たのか」
ズレンの言葉に初めてキシュは顔を上げた。目を丸くしている男にキシュも口を尖らせた。
「なに、知らないの?」
「俺が何でもかんでも知っていると思うな。ま、情報は少なくとも、判断力がお前の数倍だからな。聞かせろ」
キシュは肩をすくめた。
「相変わらず。オリビエちゃん、いつの間にか侯爵様の養子になっていて、だからファリで裁判されるって言うんだ。そういうもんなの?」
頼りになる年上の幼馴染は、ファリや政府の法律に詳しい。質問の答えを待ってキシュはじっとのぞきこむ。青年の応えのうちに少しでもオリビエを救う何かが見つけ出すことが出来るかもしれない。
キシュの期待を裏切り、ズレンはフォークに刺した魚が頭から墜落するのもかまわず、じっとキシュの顔を見つめる。つまり二人は沈黙のまま数瞬見つめあう。
「養子、か。だから、そうか!」
だから侯爵は不用になり、裁判が早まった。
フラン夫人の問いの意味が分かる。オリビエの存在が政府に知られ、侯爵は不用になった。
リツァルト侯爵がうんと言わないなら、エスファンテを継ぐオリビエに譲渡の書類を書かせればいいのだ。それゆえ、公会はオリビエの到着までにこちらを片付けた。
オリビエも望んでいたわけではないだろう。公爵も知っていたはずはない。
それでも二人の関係が、決定的な離別を演出したのだ。


くそ、と。歯噛みする青年をキシュは不思議そうに眺めた。
「何か、あったの」

まずは。この娘にことの説明をしなくてはならない。オリビエが捕らえられたために侯爵は命を落とした。その事実を、どのタイミングでオリビエに知らせるにしろ。キシュに余計な動きをされては、助けられるものも助けられない。
侯爵は、最期まで寡黙で立派な男だった。

「ズレン?なに、泣いているの?」
キシュは見たことのない表情をした。
この際、理由など、どうでもいい。自らが後悔しない選択を。
ズレンは手にしたグラスを静かにテーブルに置いた。まだ、一口も飲んでいない酒はその夜、二度とズレンの口に運ばれることはなかった。
「いや。泣いている時間があるならば。しなければならないことがある。飲んでいる場合じゃない。キシュ。リツァルト侯爵様は。今日、処刑された」




不思議なほど、静かな午後だった。
裁判が滞りもなく決し、迅速に刑は執行された。
ズレンが処刑場に駆けつけたとき、すでに鐘の音が響き人々は「亡命貴族」という悪に一通りの悪態をついて侯爵の死を穢した。
この地に生まれた人ではなかった。遠いプロシアで生まれ、時代に翻弄されこの国に住んだ。国王の時代には軍に属し偉業を残したという。そのためにこの国の貴族として称号を得、国王の遠縁に当たるアンナ夫人を娶った。
この国で、生涯を安定のうちに終える予定だった。
革命を知り、民に土地を譲り退いた。
最期まで保身のために民の土地を取り上げることを拒んだ。誰もそれを知らず、誰もそれを賞賛しない。
今、ファリの市民が石を投げ、つばを吐きかけるその遺体が、どれほど愛情に満ちていたのか。エスファンテの市民なら理解しただろう。

キシュは小さな頭を震わせて泣いた。
「オリビエちゃんは、まだ」
「知らない」
「あたしが、あたしが悪いんだ。オリビエちゃんのこと、ばらしちゃった。だって、あんなところにオリビエちゃんがいるなんて、思わなくて。だって」
頭を、数回なでてやる。幼い頃から、キシュとはそんな関係だった。
「侯爵様に頼まれているんだ。あいつを助ける」
キシュはただ、頷く。
「方法はある。俺に任せてお前は大人しくしているんだ。余計なことをしでかしたら、今度こそオリビエを失うぞ」
「やだ」と。小さく呟いたキシュに、ズレンは苦笑する。素直さに欠ける。そこがこの娘の悪いところでもある。
「一つ聞いておきたいんだ。あの歌は、オリビエの作曲なんだな?お前、あの歌をあちこちで歌ってただろう。エスファンテに新しい義勇軍が通りかかるたび、酒場で歌を聞かせていただろう。なぜだ」
歌はいつの間にか革命の歌としてライン軍に広がった。ライン軍のストラスブール駐在中にある大尉が詩をまとめ司令官に献呈した。それが革命の歌となり、今やファリでも歌われている。それはキシュの企みかと、歌を耳にするたび疑問が渦巻いた。
「だってさ。ライン軍のあの人たちは、アウスタリアに向かうって言っていたし、あの人たちが歌えば、その。オリビエちゃんに届くかもって思って」
は、と。ズレンは切ない息を吐いた。
「だったら最初から、亡命させなきゃよかっただろう」
「だめ。侯爵様のそばにいなきゃ、オリビエちゃんは楽士でいられないんだ。あんなに手を大切にしていたオリビエちゃんが畑を耕すなんて出来ない。だけど。エスファンテに留まったら、それをしないと生きていけないんだ」
唇を噛んで、キシュはうつむいた。
「今度こそ、素直になれよ」
ズレンの言葉の意味をキシュは握り締めた拳と供に膝に抱えていた。

次回、第二十八話「牢獄の天使」は5月18日公開予定です!
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藤宮さん♪

いらっしゃいませ♪
一気に…ありがとうございます!v-354
そう、そろそろ完結に向かっております♪
物語を書き始めるとき、必ず決めているエンディング。描くのが楽しみでもあり淋しくもあるんですよ~♪
満足いただけるといいなぁ!

久々に…です

お久しぶりです~。
かなりご無沙汰していますが、何とか追いつきました…。

侯爵様…!(泣)
何という運命の皮肉、オリビエ君の行動が結果的に裏目に出たなんて。
オリビエ君が知ってしまったらどう思うのか…。
考えただけでも辛い…せめて何か一つでも救いがあれば良いのにと思うのは、我がままでしょうか。

ズレンたちは果たして、オリビエ君を救いだせるのか?
ついに迫る結末、どうなっていくのか楽しみに、またこっそりお邪魔しますね!

ではでは、近いうちにまた♪

松果さん♪

連休、終わりましたね~v-390
あっという間、しかも何のイベントもなしでした…引きこもり夫婦ですv-388
運命の皮肉…いい響きです。良くも悪くも人は人によって人生を変えていく。
長い物語ももうすぐ完結です…どきどきっ

楽しんでいただけるといいなぁ!!
あ、お知らせ♪
「水凪の国」がもしかしたらアルファポリスのpickupに出るかもです。(打診のメール、思いっきり気付かなくてスルーしていたんですけど…^^;)

kazuさん♪

おはようございます~!
そうです、こんな展開になっております…
まったくあれは…と苦笑い、(ナイス妄想♪)ですよ~。侯爵様、うむ~始めから重要な人物だっただけに失うのは私も淋しいです…
この長い物語も後二話くらいで終わる、予定。
あぅ~今からそれが淋しかったり…。
kazuさんのご期待に沿えるかな?
がんばります!!

ぐわー!

こんばんは。
連休最後のイベント(?)としてらんららさんの作品世界に浸りにやってきました。

侯爵さまー!なんたること…
オリビエも、侯爵も、キシュも。
大切な人のために心を痛めて行動しただけなのに、
なんっちゅう運命の皮肉。

どうかズレン、そしてキシュ。後悔しない選択をして欲しい。
うう~(涙)続きが気になって仕方ないです…

侯爵様・・・

えっ、うそ?
叫びました、本当に。

らんららさん、おはようございます。
うぅ、当日にこれませんでした><残念;;
次は当日日参するのです!!


侯爵様、天に召されてしまったんですね。
オリビエくんが侯爵様を助ける為にファリを目指して。
それがこんなことになってしまうなんて。

でも。それでも。
侯爵様は、エスファンテにオリビエくんが来たと聞いて嬉しかったはず。
まったくあれは・・・と苦笑いしながら、きっと。

うぅ・・・、でも侯爵様・・・
知った時のオリビエくんの苦しさ、想像するだけでも辛いです。

ズレンくん、オリビエくんをお願いします。
キシュちゃん、素直になってね。
私の望む、キシュちゃんの本音に、なって欲しいな。

ではでは、次回!
楽しみに参ります~♪
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