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「音の向こうの空」第二十八話⑦

第二十八話:牢獄の天使



ズレンとリエンコが牢獄を出たときには夜空に月が浮かんでいた。
昼間天気が良かった分、夜風は冷たい。
「オリビエ様、風邪を引かないといいですが」
心配をもらすリエンコにズレンは呆れて幾度目かの溜息を吐く。
「寒いな。リエンコ、部屋で飲ませてもらえるんだろうな」
「狭いですが」
「かまわないさ。だいたい、バスティーユが広すぎる。牢獄の癖に俺の部屋よりでかいんだ」
「元は要塞ですから。あそこから出たところを狙うしかないでしょうね」
「物騒な話か」
「ええ。大体の構造は理解していましたが、やはり難しい。貴方はテュイルリー宮殿には詳しいですか」
「おいおい」
テュイルリー宮殿はズレンの職場だ。

「ルーブル宮殿なら私でも出入りできますが、そちらはそこそこ警備が厳しい」
テュイルリー宮殿は裁判所もあるが、国民公会の議場でもある。現在の政府機関が置かれているのだ。それに比べ、テュイルリー宮殿と『水の回廊』でつながっているルーブル宮殿にはファリの市庁舎と同時に王立芸術院として使われているだけで、誰でも自由に出入りできた。
ズレンは目の前の大柄な外国人を眺めた。何をするつもりなのか。
「まあ、それなりには理解している。大臣の執務室にも出入りしているからな」
「では。協力していただける、ということですね。オリビエ様はよいご友人をお持ちです」
「友達じゃない」
「じゃあなんです?」
「……」
言葉に詰まったズレンの背を、音がするほど叩いてリエンコは笑った。
「上手く表現できない時は友達でいいのです」



先ほどの宿に着くと、にぎわうカフェの隅でおしゃべりに乗じていたメイドが駆け寄ってきた。
「お帰りなさい。今ね、赤い幽霊の話を聞いていたのよ」
娘は父親に報告する子どものように頬を染めリエンコに話しかける。上着を受け取ると胸に抱えた。
「赤い幽霊?」ズレンが問えば、娘が先ほどまで張り付いていたテーブルを振り返る。
見知った女、キシュが手を振った。
「どんな話なのかな」
「あ、お話しするわ、ちょっと待ってね。母さん、リエンコさんが戻られたからお夕食をお願い。そちらの方もご一緒でいいよね?」
中途半端な敬語にズレンがにやりと笑い、どう受け取ったのかメイドは嬉しそうに満面の笑みで返す。


赤い幽霊はね。そう、語り出したのはキシュ。
「今から五百年前に、テュイルリー宮殿が出来たころ、そこで殺されたジャンっていう男の幽霊だって言う噂なの。当時、王宮内で起こった何かを知ってしまったジャンは、口封じで殺されたんだよ。それ以来、王宮の主が替わる前触れとして、体中を血に染めた真っ赤な幽霊が宮殿に現れるの。それが怖くてルイ十四世はベルサイユに移り住んだって話まであるんだから」
ズレンは目の前に置かれたワインを眺める。リエンコは聞いているのかそうでないのか、肉を口に運んでいる。これだけの料理を出すのだ、相当な宿賃を払っているらしいとズレンはそんなことも思う。
「話はここからなんだ」
キシュの声が低くなる。いつの間にかそのテーブルを囲むように集まっていた人々は息を呑んだ。
「つい最近。見た人がいるんだ」
キシュは大きな目をしっかり見開いて、周囲にいる一人ひとりを見つめる。
「タンプル塔の国王様が、赤い男が来たって、衛兵に訴えるんだって。だけど、だれもそんな男を見ていないの。だから幽霊じゃないかって噂が広がったの。国王様は自分が死ぬんじゃないかと怯えているんだ。毎日熱心にお祈りを捧げて、お可哀想な位だって」
「そういや、議会で国王様を裁判するとかなんか、そういう話になってるって聞いた」
「裁判ってことは、死刑もあるってことか?国王様なのにか?」
国王裁判。禁忌を犯すようなそれは、市民にとってある種の畏怖を思わせる。有罪になれば死刑なのか、そうなったら誰がこの国の主になるのか。そんなことをしていいのか。集まった人々の話題はそちらに移り、キシュは満足そうに笑うと、自分の肉にフォークを刺した。
「…何を企んでる」
そっと呟いたズレンに、ちらりと視線を流し、キシュは再び肉に向かう。
「皆知ってるよ。騒ぎになるのを恐れてテュイルリー宮殿では赤い服を禁止しているくらい。知ってるでしょ?衛兵は赤い服の男を見かけると追いかけるんだ」

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