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片翼のブランカ 25話(最終回)

<<ココちゃんの冒険も、終わりが近づいてきました。
皆さんに「ココちゃん可愛い」と、応援していただきました。
このお話とかわいらしいココちゃんが、皆さんの心に何か残してくれること、らんららも期待しています。
さあ、ココちゃんの冒険第25話、最終話です!!>>



第4章  転生

そっとなでる、カータの手の下で、ラタが、ピクリと動いた。
それは、彼の意思には関係なく、ただ、命の最期の瞬きだったような気がした。
急速に生気を失っていく瞳。黒く、潤んだそれは、今は、何を見ているのだろう。
かつての、シェインと見た下層の景色だったのかもしれない。
カータは、泣いた。
自分が、ルーノに命じられたとはいえ、フウガもまさかラタがこうなると思っていなかったとはいえ、自分に力があれば、こんな事にはならなかった。
ラタは、生まれた時から、シェインと一緒だったという。この、神殿で生まれたのだ。少年の頃の彼が、初めて所有した、空角。
神殿の慣わしで所有したけれど、相棒なんだと、言っていた。可愛がっていた。
「契約を解いてあげればいいものを…」
ポツリと、カータとともに覗き込んでいた、白い衣装の医官が、穏やかな小さな目をしばたいた。
「違うわ、シェインは所有の契約を、あなた方のようには使わない。ラタは契約がなくてもきっと、そばにいた。契約することで、ラタを守ることができる。相手を操るための契約では、ないのよ」
「立派なことを言っても所有していたことに変わりはない」
ルーノがラタの横で、膝をついて様子を見ていた。
「触らないでよ!」
「黙れ」
カータは動けなくなる。
「どうして、そんなに、シェインを憎むの?兄弟、なんでしょ?」
カータは震える手を、胸元で握り締めた。
すぐ横に、ルーノの整った、しかし冷たい顔が見える。
「憎んでなどいない。蔑んでいるだけだ。あれほど、期待され、老にも可愛がられ、朱席にまでなっておきながら、神官の身分を捨てるなど。
あきれる。当時、緑席だった私は、許せなかったよ。彼と私は異母兄弟だ。彼の母親は私の父の所有の契約を裏切り死んだ。
同時に、父も第一の契約により亡くなった。それでも、神殿では大切に扱われてきたものを、裏切るなど」
「…昔から、憎みあっていたのね」

「片翼のブランカ」第一話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-51.html

 「片翼のブランカ」前回のお話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-89.html



「ふん、そうでもなかったさ。尊敬していた時期もあった。だからこそ、彼の裏切りは、許せない」
カータは、ふと、視線を感じて、そちらを見た。
リアータ神王が、じっとルーノを見詰めていた。
その表情は、あくまでも穏やか。考えていることなど、想像もつかなかった。

不意に、泉の水面が泡立った。
ざっ!!

真っ白な水しぶきとともに、大きな白い塊が飛び出し、音もなくカータの脇に降り立った。
フウガ、そして、シェインだった。シェインの前には、小さなブランカがしがみついていた。
カータは立ち上がった。
「シェイン!」

ひらりと飛び降りると、シェインはカータのすぐ目の前にいた。
ぬれた髪のしずくが、頬に当たる。
「あ、ラタが…」
言いかけたカータのみぞおちを、シェインは殴った。
カータは白い絹のドレスを揺らし、崩れる。
その体を抱き上げ、低い姿勢で待つフウガの背に乗せた。
「ラタ!」ココが驚いて、叫んだ。

「待て!」
止めようと、手を伸ばすルーノに、シェインは振り向きざまの肘うちでけん制した。
飛びのく神官。
シェインの背後で、フウガは音もなく立ち上がり、ルーノを威嚇した。
長い尾を左右にゆっくり揺らす。
シェインは、一つ息を吐くと、ラタの傍らに膝をついた。ラタの命は尽きていた。
そっとその白い首をなでる。
静かに、背後の神官に言った。

「逃げはしないさ。安心しろ。ただ、これ以上、カータを利用することは許さない」
意識のないカータは、フウガの背と翼に支えられて、横たわっていた。
「フウガ、守ってくれ」
ばたばたと、音がして、ココがフウガの背から飛び降りた。
地面に落ちる寸前で、フウガの出した前足に乗って、すべるように地面に座り込んだ。
「!ココ!」
「あの」
「ばか、お前降りてどうする!」
「だって、ラタが」
シェインが気をとられた瞬間、ルーノが懐からクリスタルを取り出す。
『風』
言葉を放ったのはシェインが先だった。
ルーノの手のひらの上で白いクリスタルは、小さな突風となり神官たちの周りを一薙ぎして消えた。
「慌てるな、ばか」
シェインの深い色の瞳に睨まれて、ルーノは苦い顔をする。

フウガは、三人の周りを少し歩くと、ひらりと駆け出して、背にカータを乗せたまま中庭の上部、ドーム状の天井まで一気に飛び上がった。
吹き抜けになっているそこは、最上階のバルコニーにつながっている。
そこにフウガは舞い降りて、背のカータの腕を軽くくわえ、そっと下ろした。
「ラタ、ねえ、ラタ?」
ココの声が、フウガにも聞こえる。
泣いている。
高いバルコニーから、はるか下の小さなブランカに、フウガは声をかける。

「泣かないよ、泣かない。でも、ラタ…」
フウガと何を話すのか、ココは、顔を覆ったまま、首を左右に振る。
その銀の髪を、シェインがなでた。
「ラタは、安らかな旅立ちをしたか?お前に分かるか?」
ココはシェインを見上げ、もう一度首を横に振った。
「…そうか」
シェインが、瞳を閉じる。
「ラタは転生しないの?」
「ああ、できない」
「いなくなるの?ネムネ先生みたいに、いなくなるの?」
「…」
傍らに座り込んでいる小さいブランカを、シェインは抱きしめる。
「ふん、おかしなブランカだな。お前も、シェイン、空角ごときに、何を感傷的になるのか」
シェインが、ゆっくりと立ち上がった。

ココは、シェインの後ろにしがみついて、こわごわルーノを見つめていた。
「おや、どうした?ココ、変った服を着ているな。人間に出会ったか?怖かっただろう」
揶揄するように笑う紫席の神官に向かって、ココは顔をしかめて言った。
「ココ、決めたの、人間になるの!」
一瞬、空気が緊迫した。
リアータ神王、その背後に並ぶ神官たち、みな、ざわざわと見回したり話したりした。
「ルーノ、ココの契約は効いてない」
シェインがにやりとする。
「ブランカは言葉の力が通じない。守人ごときが、どうこうできる存在ではないのだ」
「怖い神官」
ココが頬をプクリと膨らませ、ルーノを睨む。

「ルーノ、今カータは意識がない。お前の言葉も届かない。ココとの契約も無効だ。ココをどうやって殺すつもりだ?」
ルーノは、ふん、とシェインをあごでさした。
「お前、あの女のためなら、何でもするだろう?」
「ああ。ルーノ、提案がある。俺を、カータの代わりに所有したくないか」

ココが傍らの男を見上げる。
泉の向こう側で、リアータ神王が厳しい表情をした。
一瞬、言葉をつまらせたルーノが、口元をゆがめた。にやりと、笑う。
「ほう。だが、お前は私の命令を無効にするかもしれん。お前ほどの力があれば、矛盾をつくなど造作ないだろう?」
「さあ、分からないだろう?所有してみたくはないか?お前は、昔から、俺を憎んでいただろう?
今なら、大人しく、お前の意のままになってやろうって言うんだ」
「…代わりに、女をとけ、と?」
「ああ」
シェインには、それしか、考えられなかった。
自分なら、傷つこうが、危険だろうが、なんとでもなる。
今、上着のポケットに、クリスタルがある。先日ルーノから、奪ったものだ。
ココのためにと、いつか、ココが大人になったときに必要だと、忍ばせたものだ。
所有され、ルーノに逆らって命を落とすようなことになっても、今のココなら、何とか、たぶん、大人にしてやれる。

「いいだろう。それも、一興」
ルーノが笑う。
「待て、ルーノ」
白席老だった。
「紫席の神官ともあろうものが、そんな下賤の者の力を借りなくては、できぬのか?」
ルーノは眉をひそめる。
「それでは、ルーノ、お前がシェインより力ないもののように思われるだけではないか?
エノーリアを救った功績に名を残すのは、シェインとなってしまうのだぞ」
「何を、おっしゃりたいのですか…」
シェインも、じっとリアータ神王を見つめる。
「シェインが、できないことを、できるのはお前だけだろう、ルーノ」
ルーノの笑みが消えた。
車椅子をきしませ、白席老は杖を支えに立ち上がった。従者が横に寄り添う。
「シェイン。お前は昔から、何事にもその理由を求めた。なぜ、何のためにそうなのか、言葉、契約、守人。
その存在の理由にお前はこだわった。
ルーノは、違った。
理由などどうでも良かった。ルーノは、それをいかに利用するかを考えた。常に、力を求めた。
それはな、ずっと、シェイン。お前に、勝ちたかったからだ」

「老、何をバカなことを。私はそんな、」
言いかけたルーノに、白席老は低く強く、言った。その言葉には、強い力がこもっていた。
「お前は気付いていなかった、ルーノ。私が、ことごとく、兄とお前を比較した。
それは、いつからか、お前と兄を遠ざけた」

「老…?それは、いったい、…」
シェインは、深い色の瞳を見開いて、老人を見つめた。眉をひそめる。
傍らのルーノの顔と、見比べる。
ルーノの顔は蒼白で、じっと神王を見詰めていた。

幼い時からの?
ルーノの記憶によみがえる。
そうだ、私は常に、比較されていた。
ことあるごとに二つ年上の兄と、比べられた。老は言った。
お前にはシェインほどの才能はない、お前は神官にふさわしくない、お前は兄より力がない。
そう言われ続け、いつの間にか、尊敬していた優しい兄に反抗するようになった。

シェインが神殿を去ったとき、老は言った。
お前は、シェインとは違う、神官であることの大切さが分かっておる。そうだろう?
責任ある地位につくほどの力は、同時にエノーリアを守る責任を負う。お前ならできる。

内心、手のひらを返したようなそれは、神王に対する畏敬の念を失わせた。だが、同時に、嬉しかった。
おかしいことだったかもしれない。だが、嬉しかったのだ。
老が、仕方なくだとしても、認めたのだ。私を。常に、ダメだといい続けておきながら。
それは、心地よいことだった。

あれほど、求めた力。それを、手に入れた。紫席という座を。
だから、ココと契約を結んだ。
ココが人間になることを思い出し、残る一つの翼を失えば、それは同時に、ブランカを傷つけたことになる。
多くの命を救うためとはいえ、自らが平気とは限らなかった。
だが、紫席の神官であるゆえに。自ら行わなくてはならない。
力あるものとして、その責任を果たすために。

「怖い…」
シェインにしがみついて、ココが震えていた。
翼が痛んだ。ないはずの左の翼が、ずきずきと痛む。もやもやしたものが、ココの頭の中をかき回し始めた。
どきどきする。止まらない、ココ、どうしちゃったの?
胸の奥が熱い。ヨハンナとキスした時みたいな、どきどきが、いっぱいに広がって。
ココは、ぎゅっと目を閉じた。
小さく、震えている。

目の前の、紫席の男も、同じように、小さく震えていた。

「のう、ルーノ、お前は、兄とは違った。
このエノーリアを大切にし、その地位を守ることを喜びとした。お前なら、このエノーリアを救えると、そう、信じた。
だから、お前を紫席とした。そうだろう?お前なら、命を賭しても、そのブランカを、殺してくれるであろう?」

「!」
ルーノの表情が変った。
「老、何を!」
シェインの言葉を無視し、さらに白席老は続けた。

「ルーノ、幼いころからお前は、わしや皆に認められようと、兄より少しでも評価されようと、努力してきた。
お前にはその責任を果たすだけの力がある」
「ええ、ええそうです。兄上ができないことでも、私はできる…私だけが」
目を見開いて、神王を見つめていたルーノは、視線を、地に落とした。
白い顔、無表情なそこには、悲しげな淡緑の瞳がある。

「おい、ルーノ、お前?何を言われているか、分かっているのか?お前、老に、死ねといわれているんだぞ!おい!」
シェインは駆け寄った。力なくうなだれる神官の肩をつかんで、シェインは揺らした。
「兄上、…」
ルーノは、今までの不適な笑みとは対照的な、さびしげな表情だった。
「何だよ!お前、どうしてそんな、…」
「私が、死んだら所有されるあの女も死ぬからか?だから、そのような」
「ふざけるな!おかしいだろ!何も、殺す必要なんかない!お前が死ぬ必要なんかないだろ!
老がなに言ったって、お前はお前のしたいように、…」

ルーノがうつむいた顔を上げた時、その手には、小さなクリスタルが光った。
『裂』
白く鋭い光が二人の間に広がり、シェインは吹き飛ばされた。
「きゃあ!」
風圧に、ココが頭を抱えて座り込んだ。
囲んでいた神兵の幾人かも、倒れている。仲間を助けようと、神兵たちの輪が崩れる。
ざわざわと、距離を保って、神官らも見つめていた。
「シェイン!」
ココが駆け寄る。
中庭と回廊を隔てる柱の下に横たわって、シェインはうめいた。
鈍い痛みに、咳き込む。
吐き出した唾は血の味がした。

「ルーノ、止めろ、…死ぬな」
「私は紫席を預かるものとして、ココを殺す」
「死ぬ必要なんかない!ココも、お前もだ!老、あなたは、なんていう、ことを…」
ルーノは、肩を揺らして笑った。肩にかかる金髪も揺れる。
「…ルーノ」
シェインは痛みの増した肩に当てた手を、きつく握り締めた。
「私は、紫席を預かる神官として、このエノーリアを守る義務がある。
アースノリアを、多くの命を守る。
そのために私の力は有る。私は、兄上とは違う…」
「間違ってる…」
「兄上のように、一人の女のために犠牲になるより、ずっと、ましだな」
「悪い神官!」
ルーノを睨みつけると、ココは悲しそうに地に手を着いて、起き上がろうとする男の頬をそっと、なでる。
ココの口調に、シェインは表情を緩めた。
「お前はここにいろ、離れるなよ…老、ルーノ、間違っている。ココが人間になったとして、それが、なぜ他の生き物を滅ぼすと決め付けるんだ!今の人間のあり方では、絶滅に向かっているからこそ、ココが生まれた!人間は、変るんだ!」
「…保証はない」
神王は、あごに手を当てて言った。
「シェイン、このエノーリアを守るつもりはないのか。お前は、エノーリアを治めるものとして期待されておったのに」
シェインは、太い石の柱を背に、座り込んだ。口元の血を拭う。
「老、守人はエノーリアを守るためにいるのではありません。生まれ出でたすべての生き物を守るためにいるのです。アースノリアに生きるすべての生き物を、です。」
そこで、一つ息をついた。
「人間は確かに、多くの過ちを犯し、それがために今、自ら滅びようとしています。おろかで、それに気付いているかどうかも分かりません。
だからこそ、ココを人間に、大人にする必要があるのでありませんか?
今のまま、アースノリアを放っておく事が、本当に正しいことだと、思われるのですか?
変えなくては、ならないのでは、ありませんか…
アースノリアに生まれた新たな種は、それだけでは生き延びられない。
我々が、見守る必要があります。本来の、守人としての使命です。
…私はずっと、不満だった。この矛盾したエノーリアのあり方に。
力あるものがすべてを支配するのであれば、それは、
人間がしていることと、なんら変わりないではありませんか!
その社会を守るために、ブランカの命すら奪おうとする、それのどこが人間と違いますか!
私は今のエノーリアを守りたいとは思いません」

「ふん、下らん」ルーノは笑った。

「シェイン、ココをこちらに渡すのだ。あの女の契約を解いてほしくはないのか」
ルーノの薄笑いにシェインは睨みつける。
「そうだ、ココ、お前は人間になるのだろう?大人になるのだろう?
来い、神官である私のみが、お前を大人にできるのだぞ。お前がこちらに来ないと、シェインはもっと痛い思いをするぞ」
ルーノの言葉に、ココは一瞬シェインをちらりと見て、歩き出そうとする。
「ココ、ばか、行くな!」
「ココ、人間になるの!決めたの!それにシェインが痛いの、いやなの」
シェインは体を起こして、ココの手をとった。
「だめだ、殺されるぞ」
「でも、ココ大人になるの!ヨハンナと、約束したの、誓ったの」
振りほどこうとする。
「ココ、俺がお前を、大人にしてやる、だから、行くな!」
ルーノがシェインの言葉を遮る。
「ココ、本当に大人になれるのか?お前は出来損ないだろう?」
やけに優しげな声を出すルーノに、ココはムキになる。
「違うもん、ココは、ココは出来損ないだけど、でも、何になるか分かったの!人間になるの!」
どきどきしていた。苦しいほど、どきどきしているのに、なぜか嫌じゃなかった。
ココは大きな金色の瞳を、ぱちぱちさせた。
いつの間にか、涙がこぼれている。大丈夫だよ、泣かないで、そう、いつかラタが言った…
「怖いんだろう?」
さらに揶揄するルーノに、ココは怒った。
胸の奥がとても、熱かった。ぽかぽかと、ココの頬を火照らせる。
不思議と涙ばかりが、こぼれ落ちる。
「怖くないもん!約束したの!」
大丈夫だよ、ラタにいわれている気がする。

「じゃあ、来い。大人にしてやる」
ココは、シェインのほうを振り向く。
「放して、シェイン」
睨みつける金色の大きな瞳。

「ばか、お前…ルーノも、目を覚ませ!」
そこで、咳き込む。

「シェイン、あの女の契約、解いて欲しくはないか?」
遮るように、言ったのは、リアータ神王だった。
「老、やめさせてください!どうして分かってくださらない!
あなたは、こんなことをしてまでも、このエノーリアを、神官のためだけの世界を、守るおつもりですか!」
シェインの声は、届いているはずだった。神王は、豪華な車椅子に座ったまま、微動だにしない。幾重にも刺繍の施された豪奢な衣装をまとい、じっと、シェインたちを見ていた。
リアータ神王は、目を細めた。
シェインの顔色が、変った。
「何を、笑って、いる…」
「いや、頼もしく、思っておるだけじゃ」
「老…」

「いいのか?シェイン。私が死ねば、あの女も死ぬ。所有の契約を解かねばな」
ルーノを睨む。
「シェイン、放して」
ココが、覗き込むように、悲しげに言う。その瞳からは、また、一粒、涙がこぼれる。
「それとも、シェイン、あの女のために全てを捨てるなど、口先だけか?」

シェインが、視線を地に落とした。
ココを押さえていた手を、緩める。
一歩、歩き出してココは振り返った。
「あの、ココね、大好きなの、シェインも、カータも、ヨハンナも、ラタも、みんなみんな、大好きなの。
あのね、大好きな人と、ずっと一緒にいるって、約束するの」
そういって、ココは、男の閉じられた口に、軽くキスをした。
「!」
驚いて見上げるシェインに、ココは笑う。
「えへ、どきどきする!」
にっこり笑って、身をひるがえすと、ルーノの所へと駆けていく。
「ココ!」

立っているルーノの前まで来ると、後ろから出てきた黒い服の神官たちが、ココを取り囲んだ。
「あの、えと、大人に、なるの」
ドキドキが収まらなくなる。
じわじわと、近づいてくる、大きな神官たち。
怖い。真ん中で、ココは前を後ろを、不安げに見回す。
不意に一人が手を伸ばす。
「ココに触るな!」
シェインの強い言葉が、神官たちに染み渡る。
神官たちの輪は、ざわりと広がった。
ココを囲んでいる神官たちの輪を押しのけて、ルーノがココの前に立った。
ルーノが懐から、クリスタルを取り出す。
「ココ、逃げろ!」
ココは逃げようとして、身をひるがえす。転ぶ。
赤い小さな球がココの背に当たる瞬間、ルーノは低く唱えた。
『燃』
それは赤い炎の塊となって広がった。
『無』
シェインがそれを、言葉で止める。傷が痛む。
今は言葉しか彼に武器はない。

「うわ!怖い!」
ココが小さく床にうずくまる。
大きく目を見開いて、震えている。
背中が、痛む。
どきどきする。ラタの声が聞こえない。
怖いのと、不思議な気分とで、ココはただ、シェインのほうだけを見ていた。
助けて…。
「ココ!ルーノ、止めろ!お前を死なせたくない!死ぬな!」
シェインの言葉に、ルーノはちらりと、視線をかつて兄だった男に向けた。
「ふん、安心しろ、女は解放してやる…せめてもの、敬意だ」
ルーノは言うなり、小さく何かを唱えた。
「シェイン!」
ココが、よたよたと、這って来た。
シェインのそばに行こうとする。
どきどきが止まらなくて、苦しい。
シェインが、そこにいる。
大丈夫だと笑ってくれる。
「ココ!」シェインの伸ばした手が、指が、ココの手に触れる。

「お前は、死ぬのだ」
ルーノの手が背後から、ココの翼をつかんだ。
「いや!痛い!」
もがきながらココは、シェインのほうに手を伸ばした。
引き離される。
神官は右手の剣を振り上げた。
「止めろ!」
シェインの叫びは、空気を振るわせた。びりびりと、張り詰めた力が、泉の水を揺らす。
バルコニーに横たわるカータの頬をなめていたフウガの動きも、止まる。

「きゃ…」
ココの、悲鳴は続かなかった。
静まりかえっていた。

「ココ、ココ…」
シェインが、体を引きずって、ココのそばに、這いよった。
白いブランカは、体中を、赤く染めていた。
もう、翼はなかった。

閉じられた瞳は、シェインがゆすっても、動かない。

音もなく、シェインの背後に、フウガが降りた。
シェインはそっと、ココを抱きしめた。
フウガが、小さくうなって、ココの傷をなめる。
「ふ、私は…」
両方の膝を地について、ルーノは、手に持った翼と剣とを、落とした。
そのまま、ぐらりと前に倒れる。
「ルー、ノ…」
シェインは、にじむ視界で、ルーノを見つめる。
青白い顔は、既に、息絶えていた。

「優しいお前には、悲しいことだろうが、のう、シェイン。
もともと、ルーノには神官たる器が足りなかった。
お前が、私を裏切ったから悪い。このエノーリアのすべてを、お前に譲ろうと思っておった…」
神王の言葉に、シェインは振り向きもしない。

そっと、小さなブランカの、額をなでてやる。
「ちょっと、待ってろよ」
静かにそういうと、シェインはクリスタルを取り出した。
金色の、小さな、球を。

フウガの低いうなりに誘われるように、シェインは、ココを抱き上げた。
まだ、かすかに息はあった。

フウガも、ココを覗き込んだ。血のついた頬をなめる。

「!シェイン、何をする!」
止めようと、近寄りかけた神王と神官たちを、シェインは見つめた。
その、怒りに満ちた冷たい表情に、気圧されたように、神官たちは留まる。
「シェイン、やめるのだ!」
「…」シェインは、再び腕の中の小さなブランカを見つめた。
守れなかった。
俺は、カータを、選んだ。
それでも、大好きだと、ずっと一緒だと、お前は約束した。
守人にとって、キスは互いを所有しあう時にのみ、交わす儀式。
言葉を力とするために、互いの口をふさぐそれは、相手にすべてを委ねる証だった。

「ココ、怖いことなんてない。大丈夫だ。
お前は自分でちゃんと見つけたんだ。
きっと、人間になれる。人間の新しい種だ。
きっと、すべての生き物に優しい、お前みたいな人間になる。
約束、したよな。俺が、見守ってやる。ずっとな」
シェインの表情は、言葉は、とても、優しかった。
優しい力がこもっていた。
「…おめでとう」
小さな口に、クリスタルを含ませた。
ココの体が光る。
金色にまばゆく。
一瞬にして金色の小さな粒子になって、宙に止まる。
そして、ふわりと消えた。
「フウン」
フウガが悲しげな声で、小さく鳴いた。




空がとても青い。
ビルの間から吹く風にしては、心地よく感じる。
一瞬、何か白いものが横切ったように見え、眩しくて少女は目を閉じた。
「ヨハンナ!」
傍らに走りこんできたタクシーの窓から、声をかけられる。
少女は笑った。
病院のロータリーに止まった黄色いタクシーから、背の高い男性が降りてくる。
慌てたように、少女を抱き上げると、早足で歩き出す。
「もう!遅いんだから!」
ヨハンナは、教授のスーツの背に腕を回す。上質なウールの感触が気持ちいい。
「ごめん、これでも、講義を途中で切り上げてきたんだが」
「すっごく可愛いの!あのね、瞳の色がね、ココちゃんに似てるよ」
「え?」
「名前ね、ココちゃんにしたの!ヨハンナ決めたから!ママは、先生に聞いてからよって言うんだけど。
私、お姉さんなんだから、いいでしょ?ねえ、もう決めたの!」
教授は微笑んだ。
「そうだね、それもいいかな」

1989年8月1日 スイス:ジュネーブ

END

あとがき

あらすじと、設定は一晩で考えました。
書き出すと、ココちゃんたちが可愛くて、どんどん筆が走りました。
らんらら自身が、とても楽しませてもらいました。
未熟な作品を最後まで、読んでくださって、応援してくださって、皆さんには本当に感謝してます!!
コメント、待ってます!!

2006.7.31 作者拝


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theme : 自作小説
genre : 小説・文学

史間さん♪

おお!?一気ですか!!う、嬉しい~(><)
このお話、らんららの作品の中で一番短いし、まだまだ、へたくそな文章ですが、だからこそココちゃんらしさがでているかなぁと。
らんららにとって大切な作品です♪
(今思うとよく、いろいろ考えたなぁと…^^;)
本当にありがとうございます!!ようし!らんららも早速…ふふふ♪楽しみですよ~♪

いっき読みです…

こちらでははじめまして、史間です!
コメントいただいたので、さっそく遊びにきちゃいました!
色んなお話が置いてあるので、どれにしようかな~と迷い、タイトルに魅かれてこちらへ。

で、
すごい、感涙です!
世界観がとても素敵。ココちゃんの純粋な言葉と行動、シェインの意志の強さ、カータの一途な想い、感動しましたっ。
大きなテーマですね。人間の傲慢による世界の分裂、見捨てられた世界への希望の光がココ。うん、転生できてよかったね!
契約=口づけの設定もよかったです!
ああ、なんてまとめたらいいのか分かりません(力不足;)!
他の物語も少ずつ読んでいけたらなぁと思います!
感動を有難うございました★

ひろさん

ありがとうございます!
本人も今読み返すと、どんな気分で書いていたのかすっかり忘れていて。いや、今からコレはもうかけないって感じです。
楽しんでいただいて本当に嬉しい!

やっとです^^)

自分の方が少し落ち着いたのでやっとこの物語を最後まで読み終えることができました。
発想力、世界観の構築。そして、ちょっとした人間風刺も利いていて、すごく素敵な物語にまとまっていました!
ココの可愛さもさることながら、私はやっぱりシェインが好きです。かっこいい!!!(><)
また、他の作品も読ませていただきますね。

最終回、涙、涙の話でした;;
シェインが本当にかっこよくて
ココが本当に可愛くて純粋で・・・
ルーノも嫌いになれなかった。嫌いになったのは老だ!(笑)
カータも無事で良かったです^^

本当に最後までドキドキで、心が温まる作品でした☆
楽しかったです!最高でしたよ!!

また別の作品もあるみたいなので、次はそちらを読んでいきますね^^
お疲れ様でした☆

リンクOKですか!ありがとうデス。
確かにHN呼びにくいですね。。今連載してる分終わったら、多分変えると思います。
こちらこそ、これから宜しくお願いします♪

小説家さん

はじめまして!
ありがとうございます!
あの、ハンドルネームそのままでは呼びにくいので、
小説家さんでいいでしょうか?
読んでくださって、嬉しいです!
リンク大歓迎!
らんららも遊びに行かせてもらいますね!
これからも宜しくお願いします(^^)/

初めまして!片翼のブランカ、一気に全部読ませていただきました。
凄く、優しい物語ですね。最後ちょっと泣きそうになりました。
荒んだ駄文しか作れない自分には、ホント羨ましいです。。
次は蒼い星を読もうと思います。また少し、時間があくかもしれませんが(汗
もしよろしければ、リンク貼らせて頂いてもいいでしょうか?いつでも来たいので。
ホント自分勝手で申し訳ないです。。

影法師さん

コメントありがとうございます!
長い話が多くて、本当に申し訳ないのですが。
読んでいただけて、その上コメントまでいただいて
ほんとに嬉しいo(^▽^)o
らんららも、また、遊びに行きます!
よろしくお願いします!

 たった今読み終わりました! 遅くてごめんなさい(><)
 不思議で、でもしっかりした世界観や最後の紐解ける感じが見事でした!! 描写も綺麗で私の中にも各々の風景や人物、声が響いてくる感じです。すごく尊敬(☆☆ ) そして最後の最後まで純粋なココちゃんが大好きですv 可愛すぎvv
 次は『蒼い星』を読みますね♪ こちらも感想遅くなるかもしれませんが、御了承……(^^;)

ユウキさん

ありがとうございます!
次回作、ただ今製作中です!
更新少し遅くして、じっくり、
更なるレベルアップ目指して、
がんばります!
また来てくださいね!
らんららも行きます!

お疲れ様でした。

最後ドキドキでした。
結末が読めなかったのでどんどん読み進めていきましたよw
最後再会できたことが非常に嬉しく感じました。
次回も期待しておりまーす

龍くん

やっぱり、バレてたのね(^^;)
次回作はじっくりじっくり書きます!
ありがとう、また読んでね!
本当言うと、龍くんは、もっと、ここが、とか、あそこがって言ってくれるかと、(どきどき)思っていたので、(頼りすぎ?)
ほっとしたような、不安なような(^^)
とりあえず、合格なのかな?
修正して、どこかに投稿できればしてみようかなと、
思っているのだけど。
無謀かな(@_@;)(いや、頼らず自分で考えよう(>_<;))
がんばります!

こんにちは

人間に生まれ変わるんだろうなぁ、とは思いましたがこんな変わり方だったとは意外でした。
でも、綺麗にまとまっていて良かったですよ。
次回作、しっかりと考えて素晴らしい作品にして下さい。
これからも期待してます。

団長さん

風邪、大丈夫ですか?
お見舞いに行くつもりが、先に来てもらっちゃった(^^;)
どうでしょう、ラスト一章に、いろいろ、どうしても
詰め込んでしまうので、分かりにくいカナとか、
もうちょっと、本当はシェインとルーノの兄弟の確執、表現すべきだったかな
とか、でも、でもと、いろいろと悩みました。
何とか、理解できる範疇かな。(だといいな…)
子供から大人までのコンセプトにしては、ちょっと、難しかったかもしれない。
勧善懲悪って嫌いなので、つい、悪者にも生きる理由を
つけてしまいたくなるのです。
また、団長さんとこで修行して(?)で直します!
後で行きます!

アポロさん(T_T)

泣いてくださって、ありがとう!
アポロさん、もしかしてらんららと同じくらい
泣き虫?(^。^=)
らんららも、初めてこのエンディング思いついたとき、
泣きました(^^;)
嬉しいです。
次作はちょっと、恋愛色強めにしようかと、模索中。
また、来てくださいね!
らんららも、最近ポチつれて、散歩しまくってますので、
また空ちゃんに会いに行きます!!

eigoさん

ありがとうございます!
こういう終わり方も、面白いかなと、
エンディングは一番初めのプロットのときから、
ずっと変わらず、決まってました。
(^^;)でも説得力に、自信なくて。苦労しました。
ココちゃん、もう書けないけど、らんららにとっても、
可愛い大切なキャラクターになりました。
これから、もう少しゆっくりペースで、丁寧な作品作り、
心がけます!
また来てくださいね!

おお、今回は最後に考えさせられる事もいっぱいです^^
凄い面白い!
キャラもとっても個性的でしたし
内容もいろいろ複雑になっていて
最後に解決とっても、いいです☆
ちょっと悲しいところもあったけど(>_<)
やっぱりなんか暖かい気持ちになれました♪

うぁぁ(;□;)

待ちきれなくて職場から読んじゃいました。そして今一人でぐすぐすしてます・・・。
シェインが「・・・おめでとう」って場面でためてたもの全部流れちゃいましたよぉ(ノω;
ん~シェインとカータの仲も気になりますが^^
すっごく楽しく読ませてもらいました♪
次回作もがんばってくださいね♪

おお!!
一気に読ませていただきました!
こういう形でヨハンナと再会したんですね!
いいですねぇ。なんか、続きがすごく読みたくなります!
いやぁ、何か今作品の余韻に浸ってます。
うーむ、又ココちゃんや、シェインや、ヨハンナやカータに会いたいです!

次回作更新が楽しみですが、暫くはらんららさんの日記やショート・ショートの方を楽しみにさせて頂くます!
では、今日はこの辺でぽちっと!
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