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「音の向こうの空」

第二十九話:空に羽ばたく



響く声だった。
そこにいた多くの人と同様、オリビエも顔を上げキシュの赤い髪を見つめた。
「名前だけは侯爵様だけど、本当はただの意気地なしの楽士なんだから!ライン軍の歌を作ったのも、この人なんだよ!皆知ってるでしょ?」

なにを言う、と。陪審員の一人が立ち上がり、「あれは作曲者が他にいる」と怒鳴り返した。
「あの人はあたしが聞かせた歌を覚えていたんだ。それを元にライン軍の歌を作ったんだ。偉大な歌だよ!大勢がその歌を歌って、勇気を出して戦ったんだ!オリビエちゃんはこの国にたくさん貢献してる!」
喧騒が増す中、陪審員の一人あの年配の調査委員が立ち上がり、手を上げた。
「裁判官、ライン軍の歌はわが国に確かに大きな恩恵を与えている。その作曲者が彼なのかは、審議するに値すると思うが。傍聴の皆も賛成だろう」
どよめきとそれを上回る拍手が場内に広がった。
面白ければいいのだ。亡命貴族の裁判など、人が変わっても判決は毎回同じ。今回の珍しい裁判の成り行きは市民に期待を持たせた。
オリビエはただ、口をあけて取り囲むバルコニー席を見上げていた。

裁判官は「では、オリビエ、お前が作曲者だとどう証明する」と。
問われてもオリビエにはそんなことは分からない。
証明も何も、あれは。すでに僕の曲ではない。
視線を落とすと上から声が降りてきた。
「その人の演奏を聞けば分かります。同じ歌であって、でもまったく違う。もっと、なんていうか」
国民衛兵の一人だ。あのエスファンテの古城でオリビエの演奏に聞き入った男だ。傍聴席の隅で肩をすくめるようにして立ちながら、そう叫んだ。
「感動するんです!ホンモノだって思う。私たちでは歌いきれない、革命の深い思想を感じられるんです!」
拍手が。
男の言葉に傍聴席から歓声と拍手が沸き起こった。
普段の傍聴席と違う様子に、裁判官は眉をひそめた。
司法長官がなんだ、今日は騒がしい、と呟き。隣に座るズレンは「田舎ものが多いのでしょう」と笑った。
その通り、傍聴席の大半がエスファンテの市民だったのだ。それが分かるズレンは、高みの見物とばかりに腕を組んで裁判の成り行きを見守る。
傍聴席の隅に陣取るエスファンテ衛兵の数人がズレンに向かって小さな敬礼をする。かつて、ズレンの部下だった第三連隊の連中だ。
「あいつらまで……」
呟いたズレンを司法長官が睨む。
「なんだ、ズレン。知り合いか」
「ええ、まあ。古い友人がファリ見物にでも来たようです」



裁判官は「静粛に」と繰り返すが、オリビエの演奏を求める傍聴席の声は大きくなるばかり。その内、キシュが謳い始め、場内にライン軍の歌がこだまする。
その歌はどうにもクランフ人の心を沸き立たせるのか、いつの間にか陪審員やズレンの周囲に座っていた議員まで口ずさんでいた。
その席の一角、金色の髪を一つに束ねた男がそっと裁判官に近づき、耳打ちをする。
裁判官は男の顔を見直し、「しかし…」といったようだ。
「責任は私が取ります」と。にこやかに応えた将軍は、黙って手を上げた。
どこか、カリスマ性のある男なのだ。
盛り上がっていた傍聴席は繰り返していた歌をやめた。
静まり返ったところで、エリーに促された裁判官は「ルーブル宮殿にある楽器を運ばせる。その後で演奏させよう。それまでしばし、休廷だ」と宣言した。
拍手とざわめきの中、オリビエは係官に肩を叩かれるまで立ち尽くしていた。
その場の椅子に腰掛けると、改めて陪審員を見つめる。あの高齢の調査委員はエリーと何か話している。
演奏、させてくれる。
それはエリーが約束を守ってくれたということだ。

見つめていると、その内エリーはオリビエのほうに歩いてきた。
「少し話したい」と係員に言うと、係員は数歩離れた。
「リツァルト侯爵に敬意を表するからこそだ。毎夜お前の演奏を思い出すと語っておられた。皮肉なことだな。養子であるお前が捕らえられたために、侯爵の処刑が早まった。結果は同じとしても、言葉を交わすくらいはしたかっただろう。伝言だ。お前の音楽とともに生きられたことは幸せだったと」
エリーは整った顔に何の表情も見せず淡々と語った。
「……ありがとうございます。ピアノを弾けるのですか」
「いや、チェンバロだが。楽器ならどれも同じだろう。幸い、ここは宮殿。立派な楽器が保存されている」
「ありがとうございます」
オリビエは笑った。
その笑みにエリーは怪訝な表情をし、不機嫌そうに立ち去って行った。

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