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「音の向こうの空」第二十九話⑤

第二十九話:空に羽ばたく



演奏は、いつの間にか終わっていた。
誰もが気付かないくらい心酔していた。
かた、と。小さな音を立ててオリビエが立ち上がる。
それ気付いた誰かが素晴らしい!と叫んだ。それをきっかけに拍手と歓声が包み込んだ。
オリビエは演奏会でしていたように頭を下げた。
そして手を上げると人々は静まり、息を潜めてオリビエの言葉を待った。

「ライン軍の歌は。誰のものでもありません。歌う国民皆のものです。私がこうして音楽を奏でられるのも、多分これが最後です。だから。私は私だけが奏でることのできる、私だけが贈ることのできる最大限の感謝を。我が父であり、主人でもあったリツァルト侯爵様に捧げます」

「でもそれじゃ、オリビエちゃん!」
キシュが叫んだ。
オリビエは微笑んで応えた。
「僕は、この才能を与えてくれた両親と育ててくれた侯爵様、そして僕を見守ってくれる大勢の人に感謝してる。それを伝えたかったんだ。ごめん、キシュ」
泣き出したキシュは何も言葉を継ぐことができない。
パーシーが「あんたはよくやったよ」と笑った。
「失っていいのだと思いますか」
そう、口を開いたのはズレンだった。よく通る声は、まだ演奏に酔った人々の心に染み入った。
「音楽を奏でることで生きてきた青年が、その全てを犠牲にしてエスファンテの民を救った。自らの地位や財産を固持しようとする貴族や僧侶どもと同じではない。彼の精神は尊ぶべきであり、彼の演奏する音楽は神にも近い。それを、人である我らが裁くことが出来るのか」
観衆が、そこに集ったすべての人が一斉に歓声を上げた。
自由を。彼に自由を。
それはうねるように包み込み、オリビエは呆然と立ち尽くしていた。
「すべての人に自由を!革命は皆のために。自由のために」
市民の誰かが、持っていた帽子を投げつけた。それにつられるように、様々なものが降ってくる。衛兵たちはそれを止めさせようとバルコニーへと続く階段に殺到し、その瞬間、誰かが投げた小さな箱から真っ白な煙が立ち昇り始めた。
「神聖なる裁判をなんだと思っておる、静まれ」
「か、火事だ!」誰かが叫んだ。

煙はあっという間に人々の視界を奪う。慌てた市民は駆け上ろうとした衛兵など突き飛ばし階下へ逃れようとする。すでに足元には白い煙が這い、転ぶものもいる。
「衛兵!」ズレンは叫び、大臣たちを庇いながら通路に立った。
ふと大柄な衛兵が近づく。
白く濁った空気の中、衛兵の姿をした男は立ち止まりズレンを見つめた。
リエンコだ、ズレンは瞬時に理解する。
何をしても救い出す、か。
「任せた」と。ズレンの軽く上げた手が語ればリエンコはかすかに笑ったように見える。


「何をしているの、衛兵!」
白い煙に加え響く女性の声が二人の間に割り込んできた。
逃げ出す群集に押しのけられ、転びかけたフラン夫人が衛兵と勘違いしたのだろうリエンコにすがりついたのだ。どこかで何かが爆発しさらに甲高い悲鳴を上げる。昔から女性の悲鳴が苦手なズレンは眉をひそめ、それが伝わったのかリエンコも表情の無いまま夫人を引き離そうとする。

「助けて!私を外に……」
腕をつかまれ押しのけるように突放そうとするそれが、衛兵でないと夫人ははじめて気付く。
「お前は誰…!?」
夫人が口を開け。
叫ぶまでの間に、二人が動いた。
ズレンは夫人の前に駆け込み、リエンコは今喰らいつこうとした得物に短剣を振り下ろした。
「きゃあ」
フラン夫人の台詞はズレンに抱きとめられ平凡な悲鳴に終わる。周囲の喧騒に紛れ誰も気付かない。ズレンはとっさに左手で引き抜きかけたサーベルでかろうじて短剣をわき腹で留めていた。
この男を背にする、それは瞬時に脳裏をかすめる戦法をすべて否定するに値した。ズレンは夫人を抱えたまま、身動きが取れない。
リエンコの左手はズレンのサーベルを握る手を押さえつけている。
「く……」
「なぜ、庇う」耳元で囁くリエンコ。
右ひじを背後に繰り出し身を翻すと、ズレンはやっと自由を得る。
そこは本能。夫人はズレンの背後に隠れ、こともあろうかズレンの腰の銃を掴んだ。
「止めなさい!」
「何者なの!衛兵!衛兵!」
叫びながら夫人は銃を振りかざすが。
リエンコは白い煙の中悠然と立っている。その姿は白銀の戦場に立つ獣。
「そんなもの、庇ってどうする」揶揄するように笑って見せた。
「政府や政治家がなんであれ、この国に革命は必要だった。今この人を殺させるわけには行かない。あんたがやろうとするなら、俺は防ぐしかない」
「護るものがあるなら、それはいいことだ、と。侯爵が私に遺した」
リエンコはふわりと身を翻した。リエンコが護るものは煙の向こう、すぐそこで助けを待っている。

夫人が震える手で弾を装填し、火薬を詰め終えた時にはリエンコの姿はない。
「フラン夫人、遠方から狙うならばともかく。接近戦に手間のかかる銃は役に立ちません。危ないですから、返して下さい」
しがみつくように震えて銃を握る夫人。ズレンは溜息を吐き、その肩を抱いた。

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