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「音の向こうの空」第二十九話 ⑦

第二十九話:空に羽ばたく



石の柱にうずくまるオリビエを、背後に庇ってリエンコは振り返った。
暗がりの通路の中。かすかな音に、眼を閉じたままオリビエは意識を保とうと耳を澄ます。
足音、かな。

「五人だけとは、侮られたものだな」
リエンコの声がじわりと石壁に響く。
誰もいないと思われた通路、円柱の影からゆっくりと男が姿を現した。
オリビエは背にした柱にもたれながら、それを見上げていた。
何が起こるのか、確かめようと頭を振る。
見たことのある男だ。
リエンコが足元に置いたランプに照らされ浮かび上がる。
「エリー、さん……」

金色の髪を獅子のようになびかせ、エリーはふと笑みを浮かべた。
「この暗がりでお分かりとは。流石ですね、将軍。オリビエはともかく、貴方を黙って逃すわけには行かないのです」
「私は祖国を追われた身だ。捕らえたところで何の得がある」
「本当に、目的はオリビエだけだというのですか。ここまで来て。タンプル塔に忍び込んだことこそ、貴方の真の目的でしょう。国王陛下は貴方に救われ国外に逃れるのだと信じておられる。貴方が訪れて以来、随分元気になられました。困りますよ。革命は国王裁判で一つの区切りを迎える。真の共和国が誕生する。今国王を逃すことは出来ない。ですから、貴方はだれに知られることもなく、ここで死んでいただかねば」
くと笑ったのはリエンコだろう。オリビエは何度も目を擦り、頭を振る。途絶えかかる意識を取り戻そうと拳を握る。その手にかすかに足元の砂がつかまれたことも、理解できていない。
「国王の妄想を真に受けたか」
「真実だろうとそうでなかろうと、貴方を国内で自由にさせておけるほど、今の我が国に余裕はないのです」
エリーの言葉は硬質な響きで、オリビエの耳に届く。

なぜここで、国王陛下の話になるんだろう。
必死に何か考えようとする。
ふ、と。リエンコが笑う独特な声が聞こえた。それはいつも、どこか不思議な気分にさせる。
オリビエが聞いていられたのはそこまでだった。


リエンコは被っていた帽子を取り、頭を振った。
短い金色の髪、精悍な顔をエリーと衛兵たちに向けた。
彫りの深いそこに瞳は翳を帯び、かすかに細く笑う。
「信じるべきものを誤っているとしか思えんな」
かつてロシアの軍を率いた男は本来の表情を浮かべた。
「惜しいですね、オリビエにその姿を見せてやりたかったですよ。貴方が下男など、ありえない」
言い終わらないうちにエリーはリエンコの最初の一撃を一歩下がってかわした。
指示する前に衛兵が飛び込み、それはすぐに血を吐いて倒れる。
白い肌、鋭い薄い青の瞳。血にまみれるリエンコは狩りを楽しむ狼のように。研ぎ澄まされた感覚で衛兵たちの隙をついた。
一人、二人。
三人目がサーベルを地に落とした音が通路に響いた時には、遺された衛兵が横たわるオリビエにと視線を向けた。
丁度ロシア人の男はエリー将軍と切り結び、短剣の不利な間合いを生かし逆に一気に詰め寄ったところ。この隙にこの男を人質に、と。衛兵はそう考えた。
不用意に近づき、オリビエの傍らに置かれたランプの明かりを遮る。影がリエンコの視界を横切り、それと気付かせる。
「オリビエ様」

呟く瞬間をエリーが見逃すはずも無く、サーベルの柄でリエンコの剣を持つ手首をひどく打った。
「!?」
表情一つ変えず、リエンコはその腕をつかむと引き寄せ、足払いをかけた。
渾身の打撃だったはず。ロシア人の太く長い手足はどれだけ頑強なのか。エリーが体勢を保とうとした足元、緩んでいた石畳の凹みにバランスを崩す。

オリビエの胸元を掴みあげた衛兵がサーベルを頬に当て「この男を」と。声を上げつつ振り替える。目的のロシア人は、目の前。
「!?お前…」
衛兵はサーベルを握る手首に衝撃を感じ、それが短剣で切られたのだと気づく前に。喉が裂かれた。

噴出した血は暗がりにどす黒く、周囲の石にしみこんでいく。
オリビエの頬にかかったそれを親指で拭うと、リエンコはゆっくり立ち上がった。
残る一人。
エリーは立ち上がり、腕についた砂埃を払った。
それすら優雅。
「以前は優男だったが。強くなったな」
「嬉しそうですよ、将軍」エリーは荒い息を悟られまいと、声を低く抑えている。
「嬉しいが、悪いかな」
「殺りがいがある、というのでは趣味が悪い」
「そういう趣味は無いな。エリー。革命は多くの血を吸った。もう十分ではないか」
「私は私の信念を貫きたいだけです」
「革命など、天候と同じ。信念でどうにかなるものでもない」
「だからこそ、自分が思うとおり行動するのみ。嵐だからとこもっていては何も出来ない。それがどう評価されようと、正義でなかろうとかまわない」
「ふん。以前の私はお前と同じように尽くした国に捨てられた。お前も一度失ってみるといい」
リエンコの声は冷たく響いた。
「自分が生きる目的としていたものを、な」

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