08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『La croisade de l'ange 1:Reims』 ③

『Reims ‐ランス‐』



いつものように走り回ることもできず、アンの手伝いをするように言い渡されて四日目。シャルルは早朝から厨房の隅でジャガイモの皮をむいていた。いくつもいくつも。数えるのも面倒なくらいになったころ、院長の部屋へと呼ばれた。
アンが戻ったらジャガイモのミルク煮を作ってくれると約束したので、シャルルは少々機嫌を直しスカートを手で押さえながら階段を上る。
「やだな、やっぱり。スースーする」
肩にこっそり乗ってきたクウ・クルは尻尾でバランスを取りながらなだめるようにシャルルの耳元にすり寄った。
黒っぽく塗られた両開きの立派な扉の前に立つと、クウ・クルをそっと両手で床に下ろす。
「待ってなよ。お前が入ると院長様怖いから」
開かれる扉の向こうを興味深そうに眺め、白イタチはシャルルを見送った。
「院長様、シャルルです」
あらあら、と。甲高い院長の声にクウ・クルはびくりとし、廊下をぐるぐると走り回った。


そんな声を、院長様が出すこと自体理解できない。シャルルは駆け寄った院長に思い切り眉間にしわを寄せて見せていた。
「似合うじゃない。やはり女の子ね」引き寄せようとする手を避けて、するりとシャルルは二歩下がる。
それがかすかに院長の機嫌を刺激したが、それくらいで怒鳴る人ではない。喧嘩したら街一番の剛腕だという噂だが、とりあえず修道女の鑑たる女性のはずだ。
「シャルル、お前はいくつになったかしら」
「…たぶん、十一です」知ってるくせに。
やけににこやかなのが気に入らない。何か企んでいるのかそれとも、仕方なくスカートをはくシャルルを面白がっているのか。人の災難を喜ぶなんて、それでも聖職者か。
「お前も晴れて立派な女性。実はね、お前を娶りたいという話はいくつか来ているのよ」
めと?
「はぁ!?」
院長の胸の前で組んだ手がうれしそうにわくわくしている、それは!
「お前は確かに見てくれがいいわ。でもそれだけじゃない。我が修道院で、私が育てたのですからね。信用が違うのですよ。感謝なさい。貴族様とはいかなくてもフランドルで広く商業を営むベーテールさんのご子息、街の中では一番広い農地を持つ豪農のルミルエさん。どちらも十分な結納を約束してくれていますしね、これからも我が修道院のためになる、よい縁談です」
十二を過ぎれば結婚する者も多い、だけど!
「ふざけるな!僕は結婚なんかしない!」
言い終わる前に気配が横切る。
鋭い院長の蹴りを飛びあがってよけると、シャルルは扉に向かって一目散。
「逃げても無駄よ。お前の帰る場所はここしかないのですからね」
くそ院長!と怒鳴った声が届いたかどうか。とにかくシャルルは煮えくりかえる腹をどうしてやろうかと叫びながら階段を駆け降りる。
通りかかったアンにぶつかりそうになって、踊り場におかれた花瓶をひっくり返した。ぶつかりはしなかったのにアンは弾みで持っていた織物を取り落とす。その上に派手な音を立てて花瓶が欠片と水とを振りまいた。
座り込んだアンの足元には花と水と花瓶の破片とでドロドロになった真新しい生地。
「な、何の騒ぎ!シャルル!」
やさしいアンも、せっかく作った織物が花まみれになったのには我慢が出来ない。

「だって!」僕は避けたのに!
「女らしくなさいって言っているでしょう!ミルク煮はお預けだからね!」
「!」
この世にいいことなんか一つもない!

シャルルは泣きながら駆けだす。どこがどうなのか分からない。とにかく走った。
お前の帰る場所は。そう、わかっているけど分かっているけど。


森を駆け抜けると、遠く水車小屋が見える。そこに行けば一人になれる。
シャルルはそこに向かって走った。

「待て!」
またない!
誰だか知らないけど僕はそれどころじゃないんだ。

思いっきり走っているのにその声は次に前から聞こえる。
目の前に馬、と気づくとどんと馬の白い足にぶつかった。その腹の向こうには見たことのある、皮の袋。嫌な予感が的中し、馬上からぐんと髪をつかまれた。
「ほお?お前、女だったのか」

あのシャンパーニュからの伝令兵だった。

パンを残す贅沢な嫌な奴。シャルルはそいつの黒いあごひげをじろっと睨んだ。高すぎてそのぐらいしか見えないのだけど。
「なんだ、そいつは」
「街の子か?」
しかも、男の背後には三頭の馬、つまり三人の騎士。面白そうに小さな獲物を眺めている。
「放せ!」
「ふん、可愛げがない。誉れ高いラエルの修道院も恥ずかしくて表に出せないわけだ」
「恥ずかしくなんかないよ!僕はフランドル伯の血を引くんだぞ!汚い手で触るな、馬鹿!」
手が緩むと同時にシャルルは駆け出す。
逃げても馬で追われればかなうわけもない。
「何を言っている、小娘が!」
背後で笑い声が小さくなる。

しばらく走って振り返れば、他に何か目的があるようで騎士たち四人は遠く麦畑の向こうへと向かっていった。
「畜生!!あいつら~むかつく」

シャルルは唯一の自分だけの場所、水車小屋に駆け込むと、扉を閉めようとした。
「待って!」

二度目だ。だから待たないってば!と、焦って閉めようとすれば重い木の扉は言うことを聞かない。
ぬと白い小さな手がそれを遮り、驚くシャルルを抱えるように押しのけて、ロイが飛び込んできた。
「ロイ!」
偽物貴族、そうだ短剣を盗んだんだこいつ。とシャルルが怒りを改めている間に、少年は扉をぴったりと閉め、閂をかけた。
今日は一人の様子。

ロイが振り返ると同時にシャルルはその肩につかみかかった。真っ白な絹のブラウスが慣れない手ざわりだったが、かまうことはない。
「おい、ロイ!僕の短剣を盗んだだろ!」
ロイは勢いに目を丸くして、それから改めてシャルルを上から下まで。
そう、眺めた。
「!!!!今、僕のこと舐めるように見ただろ」
若草色のスカートは緋色の糸で刺しゅうされて、上着には大きな襟が付いている。ああ、自分の姿を水に映したあの時の気持ちがよみがえる。
「最悪だ、気持ち悪いな!」
自分の姿が急に恥ずかしくなるとロイを突き飛ばし、シャルルは小屋の奥のほうへと進む。気になるスカートの裾を両手で押さえた変な恰好のまま。
女の格好をしているのを見られる、それがどうにも心地悪く、シャルルは小屋に来たことを後悔し始めていた。

窓の外をふと眺める。川の流れを水車の向こうに見つけ、深いそれを見つめていると少しだけ気持ちが落ち着いた。昼の光にきらきらときれいだ。
何やってるんだ、僕。
結婚なんか嫌だ。帰ることもできない、でも、ほかに行くところはない。
こんな、女の格好で。
情けなくなってきてシャルルは窓に身を乗り出し両手をだらりと下ろした。冷たい風が手に当たる。
「今日さぁ」
ロイに話しかけたつもりだった。
「おい、あそこだ!」
窓の外。河の向こうに先ほどの騎士たち。こちらを見て何か怒鳴っていた。
「何だ、あいつら!」
「捕まえろ!」と聞こえる。
捕まえる?
「おい、なんか変なのが来る」
シャルルは変なのに絡まれる前にここを出ようと振り返る。
少年は戸口に座り込んでいた。
「何してるんだよ、ロイ?」
そういえば何も口を利いていない。
少年は座り込んだまま、顔を上げた。窓からの日にさらされ、白い顔は彫像のように美しく、シャルルは思わず声を失う。
昨日は暗くて気付かなかった。
「あの、どっか痛いの?怪我した?ごめん、僕力が強いからさ」
動こうとしない少年に近づく。

「ごめ、ん。追われてる」
「…この前もそう言ってたよね」あれは嘘だった。
ロイは両手で顔を覆った。ひどく落胆した様子だ。
「この間のは従者、今日のは敵」
敵?
同時に何の音かと思うほど、扉が叩かれた。
古いそれは軋んでがたがたと隙間から外の明かりを漏らす。
「出てこい!大人しく出てこないと蹴破るぞ!」
あの伝令兵だ。
初めて修道院に来た時と違う、低く脅す声。
「出てこい!」
怒号に驚き、シャルルは反射的にロイにしがみついていた。
伏せていた顔を上げ、少年の驚いた顔はすぐに柔らかい笑みに変わった。
「ふふ、やっぱり女の子だ」
「ち、違う!」
何がどう違うのか説明は出来ない。
そんなことより。
シャルルは思いっきり顔をしかめていた。
「あんた、熱があるよ?すごい熱いよ!」
掴んだ少年の手は細く頼りない。儚く感じて、シャルルはひどく心配になった。
「敵って、追われてるって?」
「いいから。惻隠の心は仁の端なり、君を巻き込むわけにはいかない」
そくいんのこころ?
一瞬、外国語を聞いた気分になる。
「何難しいこと言ってるんだよ!出たらひどい目にあうよ!?」
殺されちゃう、かも。この土地は大司教が治める大司教座だから戦乱はない。だけど、一歩離れれば諸侯が領地を取り合って戦闘が繰り返されているという。傷ついた騎士や兵が村に紛れ込むこともまれにあった。

「あけろ!開けないと小屋ごと火を放つぞ!」
どかどかと殴りつけるように扉は叩かれ、それにあわせて埃がはらはらと落ちてくる。

「シャンパーニュ兵が大司教座の水車小屋に火を放つなど。できはしないくせに」と小声で呟き、ロイはふらりと立ち上がる。これ、と。蒼い短剣をシャルルに渡すと、戸口の前に立った。

「大丈夫だよ、私は。何の武器も持っていない子供を殺すとは思えない」そう微笑むと顔を上げる。
子供とは思えない静まった表情、まっすぐ扉を見据える瞳はきれいに澄んでいた。
丸いのぞき窓の向こうには、たぶん男たちの姿。ロイはそこに向かって声を張り上げた。

「大声を出さなくてもいい。今、そちらに行く。私を利用したければすればいい。ただし、ここにいる子は無関係だ。少しでも手を出せば、私は自ら命を絶つ」

た、絶つって。
シャルルは座り込んだまま、震えていた。手をロイに伸ばし立ち上がる。シャルルを背後にかばうように立ったまま、ロイはゆっくりと閂を外した。

扉が開く。
明るい外光に視界を奪われ、同時にシャルルは悲鳴を上げていた。
誰かにつかまれ、必死でしがみついていたロイの手も引き離される。
「ロイ!」
少年は軽々と男たちに担ぎあげられ、視界から遠ざかる。
ロイに乱暴なことするな、騎士の背中に怒鳴ってわめいた。


「やっと、静かになったか」
そう伝令兵が笑い。その背後に乗せられているシャルルは男の背中を叩いた。馬の背は想像以上に高さがある、飛び降りてやろうにも少し勇気が足りない。
「怒るな、お前、俺たちを蛮人か何かだと思ってるだろう」
「……そうとしか見えない」
肩をすくめて、男は前を行く騎馬を眺める。
そこには縛りあげられたロイが乗せられていた。ぐったりとして、一緒に騎乗している騎士に抱えられている。
「熱があるんだよ、乱暴なことしたら死んじゃうよ」
「死なれては困るな」
「じゃあ、もっと優しく」
「逃げられても困る」
シャルルはしっかりと抱えていた蒼い剣を手のひらに感じる。今、ここで、これを。
「フランドル伯ジャンヌ様もお前と同じ髪、同じ瞳の色をしておられる。まあ、年齢からみてもお前がその娘だと頷けないこともない」
ぽつりと、伝令兵がつぶやく。

この男、フランドル伯を知っている。シャルルはひそかにこぶしを握り締めた。

「状況を見ろ。お前は何も知らないんだ」
「お、教えてくれないだろ!?子供扱いしてさ!都合のいい時ばかり大人扱いで結婚とかも勝手に決めるんだ!」
くく、と。男が笑うのが伝わる。
「面白くない!笑うな」
「お前が本当にジャンヌ様の血を引くなら、俺がもらってやる」
!!!
思わず短剣を抜きかかる。
と、動けなくなった。
「短気なところも、女伯にそっくりか」

手ごと短剣を押さえ込まれ。騎馬を操りながら片手で押えられただけなのに、シャルルはもう身動きが取れない。悔しくて足をバタバタとさせた。

続きは7月27日公開予定です♪
関連記事
スポンサーサイト

花さん♪

はい♪この時代、特に、貴族は十代前半で結婚するのが当たり前ですし、寿命も短かったから。女性は早く結婚して産めるだけ産め的な扱いです。
人権なんて言葉も生まれていないので、子どもは「大人の役に立つため」にいるのですよ。
今の時代に生まれてよかったとほんと、思いますよ♪

花ちゃんは自由を放棄!?
いえいえ、「いつか自由を得るための準備としての合理的取引」では?(^∇^)

最近の格差社会をみるにつけ、昔のような「子どもが自分の意思ではどうしようもない違い」を背負わされる気分で、切なかったり~(←急にまじめ?)
私のキャラたちにはその辺をがんばって主張してもらいたいな~♪

ふふ、女の子のジレンマ。ですね。
そっか、結婚か…日本も昔は十代で政略結婚だったんですよね。今の世の中の如何に自由なことか=3
まぁ、その自由をドブに捨ててるバカがここにいますがw
にしてもロイ君、第一印象はあんまりでしたが…なかなか素敵じゃないですか♪
あの嫌いな権力の犬が思いがけずロングランですが…どこかで罰が当たりますように、っと☆

kazuさん♪

うふふ…院長様のはもちろん、愛がこもっているはず(笑)ですけどね。シャルルにはわかんない。なにしろ11歳ですもん。納得がいかないことも多いと思うけど。いつか、分かる時がくるかな?(そういうシーンも入れようかな)と思いつつ描いています。
ロイもシャルルも。これからが冒険の始まりですから~♪
いつものごとく、「大人の事情」と「子どもの事情」と。
対比しながら読んでいただけると嬉しいです♪

院長様・・・

え・・・、そう言う事?
思わず呟きました。
院長様はシャルルちゃんのことを、本当に利用しようと?
それが、彼女にとってもいいと思って・・・?
う~ん・・・、大人の事情・・・?
はてなマークとやりきれない思いで、シャルルちゃんがなんだか悲しいです。
そして、ロイくん。
なんだか・・・カッコイイなぁ~
上に立つ者としての、雰囲気を感じますね。
連れて行かれてしまった、2人。
どうなってしまうのか、ハラハラしながら次回待ってます^^
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。