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『La croisade de l'ange 1:Reims』 ⑤

『Reims ‐ランス‐』



室内はしんとしていた。
さすがに声をひそめ、シャルルが扉を開いた時には窓からの月明かりだけが室内にある。廊下のランプの明るさが敷物の上を走り、背後でそれを遮って覗き込んだ伝令兵の影が足元で動く。
「し」と。まるで白イタチにするように指に人差し指をあてる。
部屋は随分広かったが、衣装棚のようなものと、ベッド、小さな一人掛けの椅子が見えるだけだ。
ベッドの天蓋は様子を隠し、ロイの寝顔は見えない。
ふわと、夜風を感じ、「これじゃ寒いよ」とささやいて、シャルルは少しだけ開いていた窓をそっと閉める。小さな窓からは、目が回るような景色が見えた。
思った以上に高いところにある。逃げられる心配がないから窓も開けたままなのだ。
敵だとロイが言っていた。
『私を利用するならすればいい』あの時。捕まる寸前にそう、言っていた。僕を庇ってくれた。


振り返ると、伝令兵がベッドを覗き込んでいた。
「どいて」と、押しのける。
少年は静かに眠っていた。青白い顔は月明かりのせいなのか、それとも。
不安になってそっと額に手をあてる。
ひゅうと男が口笛を吹くから、シャルルは思い切り男の足を踵で蹴ってやった。
静かにって、言ってるのに!
「いてえな!」
余計に声をあげるから今度は腕をひっぱたく。
「この、ガキ!!いい加減にしろ」
「あ、わ、やめろ、起きちゃう」
「うるさい!」
せめてロイから引き離そうと男の皮の胸当てに両手をついてうんと押してみる。
やはり体格が違う。
「暴れるなよ、お嬢さん」と男はシャルルを抱き上げようとする。
「やめろ!放せってば!」

「その子に手を出すなと言ったはずだ」

少年の声に伝令兵が動きを止めた。宙に浮いたシャルルは思い切り男の腹をけり上げる。さすがに急所を狙わなかったのは、ロイの前だからか。多少の恥じらいは持っている。

「ぐへ」と腹を抱える男の前、ロイを庇うようにシャルルが立ちふさがった。
「あんたは出ていけ!大司教様に訴えるぞ!」
「ふん、せいぜい面倒見てやれ。どうせ」
言いかけて男は言葉を止める。
「何?」
「いや、なんでもない。じゃあな」

男が出て行くのをしっかり確認して、それからシャルルはゆっくり振り返る。
さっきから、自分の手を後ろから握っているロイ。それが、どうにも気になる。
熱い手をそっと両手で包むと、覗き込む。

「どうして、ここに」
ロイは起こしていた体をゆっくりと横たえるとシャルルを真っ直ぐ見つめた。
「ええと。お前のお世話係になったんだ。大司教様に命令された」
「…いらない」
「あ?」
「出て行ってくれ」
ちょっと待て、「僕はお前を助け出そうと思って!」
「無理だよ。どこかへ行け」
「なんだよ、その態度はさぁ!気になるだろ!?人の目の前で捕まってさ、敵だとか追われているとか。お前なんなんだよ!」
「君に名乗る気はない」
ぷいと向こうを向くと、ロイは毛布を頭から被った。
名乗るって、じゃあ、ロイって名前じゃないのか?
頬を膨らませたまま、シャルルはしばらく睨んでいた。なのに、相手は眠ってしまったのかぴくりともしない。
なんなんだ、心配して来てやったのに、この態度は。
「分かったよ、僕は帰る。バカらしい、振り回されて損しちゃったよ。夜中の聖堂に忍び込むなんて罰当たりなことしちゃったし」
むかつきをわざとらしい溜息で吐き出すと、シャルルは扉を開いて外に出ようとしたが。
重い扉はびくともしない。
「……、あのさ」
ロイは応えない。
「僕も、閉じ込められてるって、ことなのかな」
振り返ってみてもロイは動かない様子。
くそ!
「開けろ!ばか。ロンロン、開けろってば!」
派手に扉を叩いてみる。拳が痛いから、足で蹴る。裸足で痛いから体当たり。
どれも痛い。
ぎぎ、と。やっと扉が外から開かれた。
じろりと衛兵が覗き込み、「静かにしろ。俺たちは眠いんだ、明日にしろ」とあくびをしながら話すと有無も言わせず扉を閉める。
「ま、待って!」
がちゃん、と。閂をかける音。衛兵の足音は遠ざかっていく。

はぁ。
「僕まで閉じ込められちゃったよ。どうするんだよ、ロイのせいだ」
扉を背に座り込む。
誰も応えないとわかっていても腹立たしさに止まらない。
「大体さ、僕がなんで、こんなことになるんだ。水車小屋で偶然に出会っただけじゃないか。もともとロイは追われていたわけだし。僕がいてもいなくても捕まったかもしれないし。僕が責任感じてこんなことする必要なかったんだ。ただ、様子を見たかっただけなのに。これで僕に『ありがとう、嬉しいよ』とかさ、『助けて欲しい』とかさ。可愛げのあることでも言うならまだしも、迷惑って顔されてさ」
僕一人、バカみたいだ。
ちょっと、さ。気になったのが間違いだ。

シャルルは悔しくて滲んできた涙を抱えた膝に擦りつけた。

修道院に帰ったら院長様に怒られるのかな。大司教様の命令でここにいることになったんだから、大丈夫だよな。
…あれ?
大司教様は確か、誰にも話してはいけないって言っていた。じゃあ、僕、どういう話になるんだろう。院長様に怒られてその上どこかの男に売りつけるみたいに嫁がせるのかもしれない。
「それじゃ、僕、ぜんぜんいいことないじゃないか!」
しかもまた、少し腹が痛い。寝る前にアンに下着を替えてもらって身体をきれいにしてもらった。お腹が痛ければアンは背中をさすって一緒に寝てくれた。
なのに。
シャルルは泣き出していた。
「だから、女なんか、嫌なんだ」
「どうして?」
「わ!」
目の前にロイが立っていた。
驚いたけど、くやしいから平気な顔をしてみせる。
「……なんだよ」
「あ、いや」
「病人は寝てろ、ばか」
随分乱暴な口調になっている。そういうのはすべて、街からの行商人や聖堂で裁きを受ける罪人を真似ている。修道院でそういう言葉を使うものはいない。
それがまた、院長の不興を買うのは承知だけれど、大司教様のような綺麗な言葉だけじゃ言いたいことが言えない。
あまりの口調に以前のルーのように言葉を返せないでいるのか、ロイは黙ってシャルルを見下ろしていた。
睨んでみるのに、丸くしたままの大きな目でじっと見下ろされ、シャルルも我慢できなくなる。
「あのさ!」
ぎゅ、と。抱きしめられた。
あわわ?と声だか悲鳴だか自分でも分からない言葉を発してシャルルが突放すと、よろりとロイは後ろにしりもちをついた。
あ、病人だった。
何をしたいんだ、こいつ。
「お前、変態?」
シャルルの口をついて出たのはそれだった。

ロイは尻もちをついたまま「ぶ」と噴出すと、笑い出した。
笑うと止まらないのか苦しそうに腹を押さえ、そのうちまた、息が切れて咳き込む。
「ああー、バカ。笑うところじゃないし、自業自得になってる」
仕方なくシャルルが歩み寄り、背中をさすってやった。
苦しげに何度も咳をする。
ロンロンが言いかけた「どうせ、もう」が脳裏をかすめ。シャルルは首を横に振る。
そういう意味じゃない。大丈夫。
それでも、そういう咳をして死んでいった子どもを何人も見ていた。小さい子どもが病気で死んでしまうのはよくあることだ。十歳を過ぎれば身体も丈夫になるけれど、それ以下の子どもはとても弱い。

「ほら、大丈夫か?」
シャルルの言葉にロイは頷いた。
「君が出て行かないなら、ベッドを使うかい?」
「へ?」
ロイは真っ直ぐシャルルを見上げていた。間近にいると香水みたいな匂いがして、それはどうにもシャルルをどきどきさせた。
「ばか、病人から寝床を奪う真似するわけないだろ。僕は床で寝るよ」
「いや、一緒に寝ても大丈夫なくらい、広いし。私は構わない」
「嫌だ」
「なんで」
なんで、って。
なんでって「その…」
香水がドキドキする、なんて言えない。
「ほら、寒いから丁度いいよ」
ロイは先に立ち上がるとシャルルを引っ張る。案外力のあるそれにつられるように、シャルルもふらりと立ち上がった。
「あ、でもだめ!」
「なんで?ほら、早く」なぜかロイはやけに嬉しそうだ。
「お前さ、帰れとかいらないとか。ひどいこと言わなかったか?」
「帰れるのに残るのと、帰れなくなっているのとじゃ意味が違うから」
わけがわかんないぞ!
「難しいこと言うな、僕はお前を助けたいと思ってきたんだ、ありがとうとか言ってもらえないと嫌だ」
われながら駄々っ子のようなことを言っている、とは思うけど、さっきまでの情けない気分もここに来た原因もすべてロイにあるんだから、「ありがとう」くらい要求したっていいだろう。
ロイは怒るでもなく笑うでもなく、シャルルに言わせればそう、お祈りを教わる時の子どもたちみたいな顔をして言った。
「助けて欲しいとはいわない。だから礼は述べない。優しくして欲しいというならしてやるけど、優しくして欲しいとは思わない」
「お前よくわかんない」
「いいから、おいで。シャルル」

少し熱っぽいロイの手は、細く白く。シャルルは納得がいかない気分を抱えたまま、ロイの隣にもぐりこんだ。なんだかひどく疲れていた。毛布は暖かく、それ以上にすぐ隣に人がいるのはシャルルを安心させた。アンの横と同じだ。
「温かい」呟いたのはロイ。
「うん、アンと寝るときと同じだ」
「君には一緒に寝てくれる人がいるのか」
「いつもだよ。狭い部屋で孤児の子どもらと一緒に寝てる」
うるさいくらいだよ、チビたちは全部で十三人もいるんだ。とシャルルは天井に指で示してみせる。
「羨ましいな」シャルルの手を眺めて、ロイは呟く。
「貴族様のこういうベッドの方が、僕には羨ましいけど」なんたって、天蓋が付いていて、綺麗な模様が書いてある。
「広すぎる」
「……ふうん」
ロイが言いたいことが少し、分かる気がした。
いつもは子どもたちの寝息や寝返りの音に囲まれている。生き物の息遣いの中で眠るのは生まれる前の母親の中と同じだと、院長が言っていた。なのにここはひどく静かで、隣にロイがいなかったら世界で僕は一人きりと言う気分になる。
ロイがいつもそんなだとしたら。とても淋しい。
いつの間にか、ロイの少し甘い匂いはシャルルを落ち着かせていた。

続きは8月10日公開予定です♪


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chachaさん♪

ありがとうございます!!

コメント、すぐに表示されないみたいで、chachaさんも二回送ってくださったんですね!
どうやら、しばらく新しい記事を書いていないために、コメントが自動的に承認が必要な設定になっていて、表示も遅いみたいなんです。
私が自分でコメントしたのまで、表示されなくて(苦笑
すみません♪
もうすぐ1000文字小説アップするので、そうしたら直ると思います!

展開の速さ。うん~。進む時にはさくっと進むんです。でも、この作品、ところどころ複雑な動きになってしまって、展開がみえない~と。苦しんだ部分もあります…
きっと、読み進んでいくと分かりますよ~(^^)/

ロイ。何気にこういう子、好きだったりします♪
うふふ、楽しんでいただけると嬉しい~!!

深夜に…

ひとまず、今日はここまで♪
初っ端から動きのある展開に、私は気持ちよく身を投げ出して流されております(笑)
こういうのが、飽きない作品と呼べるんでしょうね~楽しいのです~^^
私はまだまだ、どうにも動きが鈍い作品ばかりで@@;
らんららさんの作品を読むと、いつも刺激されるのです♪だから、また読みにきたくなる☆もちろん、お話がとっても好きだから、というのもあります^^

シャルルちゃん、おてんば(?)で、でも自分に嘘をつかない辺りがとっても好感持てます♪守ってあげたくなる!あぁ、でも「そんなのいらないやい!」と言われちゃいそう…(笑)

ロイ君、一体ナニモノなんでしょ?
ロイロイ(笑)が残していった捨て台詞的なものも気になります。どうせ、何ーー??><

それにしても、らんららさんの作品って読む手が止まらなくなる~♪
いつも続きを読もうかやめようかと迷っちゃいます^^
でわ、また来ますね~♪

kazuさん♪

ロンロン、最近なぜかお気に入りで…。(^^;)
すれた大人の部分が同感できます。一応、二十歳直前くらいの設定ですが…それにしても可愛げないなぁ(笑)
こんな甘いシーンを見せられたら、ちぇっと舌打ちしちゃう淋しい大人♪
でも大人の事情ってのもあるんだぜ、なんて、密かに思っていたり。

ロイ君とシャルル、もっともっと近くなるといいなぁ~ふふふv-391
『音の向こう…』でさんざんオリビエのv-343なシーンを書いてきたので、大胆になっております♪お楽しみに~♪

こんにちは^^

確かに、甘い☆
いいな、こんな甘さを欲する三十路です。

人のぬくもりって、不思議ですよね。
感じるだけで安心できる。
次回はもっと甘く?
楽しみです~♪

ロンロンが言いかけた言葉がすっごく気になります・・・
ううぅ、ロイくん・・?

花さん♪

うふふ~♪
子ども同士だとこういうの描けるから楽しいの♪
次回さらに甘~く♪
ブラックコーヒーなど用意してごらんあれ~♪

うふふふふふw( ̄∀ ̄)ニヨニヨ
もう、シャルルちゃんったら、ロイ君ったら!!
風花はなんとコメントしていいか分からないですよ!w
甘々だなぁ♪
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