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『La croisade de l'ange 1:Reims』 ⑨

『Reims ‐ランス‐』



シャルルは扉の前でじっとしていた。
扉に耳を押し当てても、聞こえるのはごーという変な音だけ。騒ぎで立ち去ってしまったのか、衛兵がいる様子がない。
どうしよう。じっとしていると、カツカツと足音が聞こえる。
サーベルの鞘鳴り。
ロンロンだ!
もう参事会が終わったってことか!
シャルルは見回すが、逃げ場はない。
慌ててベッドにもぐりこんで毛布をかぶった。


寝たふりをするしかない。
息を殺して、毛布の下でじっとしている。

扉が開かれた。
室内に入ってくる、足音。武装しているのか、騎士の拍車がしゃりと嫌な音を立てた。
男の持つランプの明かりが頭上を照らす。

「おい」
ポンと肩を叩かれる。

どうしよう。
ぎゅ、と目をつぶる。
「おい、起きろ」
「…」
どっかいけ、ロンロン。シャルルの祈りもむなしく、騎士は毛布に手を伸ばす。
引きはがそうと掴み。
その瞬間シャルルは飛び出した。毛布の反対の端を掴み、勢いのままぐるりと毛布を騎士に巻きつけ、走り去る。
「おわ、シャルル!お前!なんでお前が!」
一歩踏み出そうとした瞬間、騎士は派手な音を立てて転んだ。足元にかかる毛布は踵の拍車に絡みついて芋虫状態だ。
「くそ!待て!」
シャルルは扉の向こうに姿を消す。

待つわけないだろ!

暗がりの階段の途中、シャルルはずるりと何かに足を滑らせた。
「わぁ!?」
人、みたいなものが。尻の下に。手をついた脇に、靴。
足が上に、ある?
じっと見つめ、暗がりに目が慣れるとそれが逆さまになっている衛兵だとわかる。
「…なんで、動かないんだよ…?」
手についた何か、ぬるっとしたそれが、独特の匂いをさせる。
血!?
し、死んでる?
そして、踊り場のこの金色の衣装は。
「大司教様!!」
思わず悲鳴を上げた。
ま、まさか、これ。ロンロンが殺したのか!?
振り返ると階段の上にその騎士の姿。慌てて立ち上がろうと壁に手をついた。
うめき声と同時に大司教の手がシャルルの足首をとらえた。
「ひゃあぁ!」
老人の血にまみれた手をばたばたと暴れて引きはがすと、転がるように階段に。
と、襟首をぐん、と掴まれた。

ロトロアはシャルルを押さえつけ、首に剣を押し当てた。
「シャルル、王子はどうした」
「お、おうじ?」
「あの子供だ。ロイは仇名、アンファン・ド・ロイ(王の子供)のことだ。フランク王国ルイ八世のご子息」
「ロ、ロイが…?」
この、国の、王様の。
「どこにいる!言え」
ひねりあげられた腕がきしんで、シャルルは悲鳴を上げた。
「や、めなさい」
足元で大司教が頭を押さえて体を起こした。
暗がりでもその小さな目が、しっかりと騎士を睨みつけているのが分かった。
「大司教様、ご無事で……」
「黙れ!シャルル、王子をどこに逃がした!このまま逃がせば、大司教、このランスでの一件は単なる迷子では終われませんよ?いいんですか?」
「うぬ……」
「こうなれば、王子を捕らえるしかないでしょう。このまま王子が王領へ逃げ帰ればランス大司教座は宮廷の敵となる。すでに後には引けないのです」
「ま、待ってよ!ロイを捕まえてどうするんだよ!だいたい…」
頬を叩かれ、シャルルは大司教の足元に転がった。
肩を支えられ、すぐ近くに見える大司教のしわ深い顔は、思いつめたようにこわばっている。
「大司教様!お願いだから、ロイにひどいことしないでください!」必死の頼みもロトロアが遮った。
「お前が逃がしたからだぜ、シャルル。大司教、わが軍をこのランスに侵入させることをお許し願いたい」
「やめろ!ロイを助けて!」
「シャルル、あの方をどこに逃がしたのですか。居場所を知っているのですか」
肩を掴む老人の手が、痛い。
どうして、どうしたらいいんだ。
「ロイを、助けてくれる?ロイは安全?」
「王子は我らシャンパーニュが引き受ける。それが一番でしょう?大司教様。ランスは無関係だった。それが唯一、この大司教座を救う道です」
「ひどいよ!馬鹿!絶対に、ロイは……」
「黙れ。来い、お前は王子の居場所を知っているんだろう?」
嫌だ、嫌だ!
どれだけわめいても暴れても、シャルルの力ではかなわない。しまいにはうるさい、と口をふさがれる。逆さまに見える背後では、ふらふらと大司教が立ちあがった。その顔には生気がなく、ロトロアの言いなりになることは疑いもなかった。


ロトロアはシャルルを馬に乗せ、騎士を集めた。聖堂の前の広場は、人影もなく。まだ寝静まるには早い時間だが、降り始めた雨と風、物々しい騎士たちを遠く窓の内側から密かに見つめている。
騎士の一人を郊外に待つ軍隊に走らせ、残りは捜索に向かうことになったらしい。
「いいか、暴れても絶対に殺すな。子供に抵抗され剣をふるうなど騎士にあるまじき行為だぜ」
子供を人質にする行為は騎士道に恥じないのか、とシャルルは布を巻かれた口でわめいたが、どうしようもない。
ロトロアはシャルルの口をふさぐ布を解いた。
冷たい夜風と大粒の雨が目に入り、シャルルは何度も瞬きした。はたはたと頬を打つ髪の向こう、街は暗く遠い雷鳴に怯えている。

泣いている場合じゃない。
僕が、ちゃんとしなきゃ、僕が。

「さて。シャルル。話してもらおうか。王子はどこにいる」
「い、言わない」シャルルはぎゅ、と唇をかんだ。
「強情だな」
背後から顎を掴まれ、シャルルは思わず指にかみついた。
「こ、この!」
がん、と頭を殴られくらりと視界が泳いだ。
斜めの景色が歪む。息が、できない。
目の奥がひどく熱くなって、シャルルは喉を締め付ける男の腕を引きはがそうとした。
それがふとゆるむ。
「はあ、う、はあ」
ひりひりと痛む喉、苦しさに男の腕にぐったりとしがみついていた。
脇に立つ騎士の一人がじっと見下ろしているのが見える。
誰も、助けてくれないんだ。
大人なのに、騎士のくせに。
ぼんやりとした中、耳元で「殺されたいか?」と男の声が響く。くらくらする頭にそれはひどく重い。
「ロイ…」
「そうだ、どこにいる」
「やだ」
「会いたいだろう?」
「いや……」どうして、どうしたらいいんだ。
「ふん、子供のくせにいい根性だ、女にしておくには惜しいな。……水車小屋だろう」
びくりと、不覚にもシャルルは動いてしまった。

「だろうなぁ。子供の出歩く範囲など高が知れている。お前が管理できる、唯一の場所なんだろう。そういや、以前もあそこに立てこもっていたし、ほら、ここにあった鍵がいまはない」
胸元を大きな手のひらで押さえられ、慌てて引きはがそうとした。
そう、いつもここに水車小屋の鍵がぶら下がっていた。それは今、ロイの手にある。
「違う!違うよ!」
「当たりだな。行くぞ、水車小屋だ」
二人の騎士を連れ、白馬はすでに見覚えのある道をまっすぐ、水車小屋のある郊外へ向かっている。
「単純だなぁ、子供は」
「嫌だ!駄目だよ!やめろ」
シャルルが叫べば叫ぶほど、騎士は楽しそうな笑い声をあげた。



街から水車小屋のある場所まで行くには、修道院の敷地を横切る必要がある。修道院の城壁はそのまま街の門なのだ。
二人の修道女が気づき、一人が立ちふさがる。もう一人は人を呼びに走ったようだ。

泣き叫ぶシャルルを馬上に見つけたアンが、何か叫んで騎士の前に立ちふさがった。
すでに大粒の雨にぐっしょり濡れて、それでも丸みを帯びた小さな手を必死に振り上げ、「お待ちください!その子を、シャルルをどうしようというのですか!」と。アンは、助けようとしてくれた。
「アン!助けて!助けて!ロイが」
言いかけた所で口をふさがれ、シャルルはもごもごと身をよじらせた。
「お待ちを、ロトロア様」
アンの後ろ、中庭を囲む回廊からゆっくりとアデレッタ院長が姿を現した。その左右に修道女たちが並ぶ。回廊の柱に掲げていたランプをかけ、影のかかる院長の表情は雨粒のカーテンの向こうでかすんでいる。
ふん、と騎士は笑った。
「大司教様の許可をいただいてある。このものは私がもらいうける」
「ロイを、助けて!」院長に訴えるシャルルの声は周囲にはううう、としか聞こえない。暴れてももがいても、背後からしっかりとまわされた腕、口をふさぐ手にどうしようもなくて、シャルルは泣いていた。
涙で曇る先にアンが院長と騎士を見比べている。
「そのものはこの修道院の子。行く末は私が決めます。放しなさい。どのような理由があっても、幼い子をそのように扱うのは騎士道に悖るでしょう」
アンが目を輝かせ、一歩歩き出そうとする、それを修道女の一人が無言で止めた。
ロトロアは、剣を抜いていた。
雨粒が鈍く光る刃を流れ伝う。
シャルルはその切っ先から目が離せない。

ただ、雨の音だけが周囲を支配し、誰ひとり、動くものもいない。

怖い。こいつは人を殺した、聖堂の衛兵を殺しておいて、平然と大司教様を脅しつけた。
ここでアンに剣をふるうのも平気だ。
シャルルは衛兵の血のついた自分の服に気づく。
雨に流れ、滲む。新鮮な赤。
不意に現実味を帯び、吐き気を感じた。
うう、と目を閉じ震える少女をさらに強く抱きよせ、ロトロアは笑った。

「では、院長。あなたにも責任を負っていただくことになるが。このものが大聖堂で起こした件により、我らもこのランス大司教座も被害を被ろうとしている。一修道院の問題ではない。罪人は裁かれる。たとえ幼い子供であろうとも、な。通してもらおう」
何が、罪人だ!
叫んでも通じない。
院長はじろりと今度はシャルルを睨んだ。
「お前は、また悪さをしたのですか!」
「院長様、シャルルはそんな悪いことをする子じゃありませんよ、何か理由が」
アンが院長にすがる隙に、ロトロアは馬の腹をける。

風が流れ、止まっていた時が動き出す。
「子供一人でランスを救えるのなら、安いものだろう!」
修道女の一人が槍を構える。
院長は不動。
その場の視線が院長一人に集まっているなか、三頭の馬は修道女たちを蹴散らすように中庭をすり抜けていく。
「シャルル!シャルル!」アンが叫ぶ。
それはすぐに雨と風の音に消えた。ああ、と。シャルルは目をつぶった。
悲しいのか、悔しいのか。
アンだけが最後までシャルルの名を呼んでいた。


暗がりの森の中、馬はまっすぐ里へと向かう。
森の道は、泥水の河。そこを馬は踏みしめ、走る。
もうすぐ、水車小屋についてしまう。
水車小屋にはロイが。
どうすれば、ロイを、せめてロイだけでも逃がすことができるだろう!


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花さん♪

おお!!ロンロンのことを!?どうぞ、惚れてやってください♪
面白い関係に持っていく予定ですし~♪

もちろん、シャルルのせいなんかじゃないです、はい。
ロンロンはわけのわからない理屈で思うように事を運ぶの得意ですから♪
シャルル、がんばれるか…楽しみにしていてくださいね♪

松果さん♪

はい。王子様設定♪なのです。
この無条件に乙女心をくすぐる設定のおかげで話は大きくなってしまう…
でも、好きなんですよ~(笑)
政治とか、政略とか。

そういうのの犠牲になるのはいつも、弱者。
シャルル、がんばれるか!!
応援よろしくお願いします~^^

ロンロン…そんなコトするから、一瞬好きになりかけたけど、やっぱり敵かと思っちゃうんだぞ=3
でもホントにシャルルちゃん達の所為なのかな?ロイ君がいたらいたで、状況は変わってない気がするんだけどなぁ。シャルルちゃんが関わったかどうかで、院長先生が本気になるかならないかの違いぐらいで。
結局大人の恣意通りに事が運ぶの、気に食わないけど。
成長したシャルルちゃんに期待です!負けるなシャルルちゃん!

うわ~

ロイくん、普通の貴族のお坊っちゃんではないと思っていましたが、王子様? そりゃーますます大変。
シャルルちゃんピンチですが、騎士を目指すのならこういう時こそ頑張り時ですよ。どういう状況でも負けちゃダメだよシャルルー!

藤宮さん♪

ありがとう!
んむ~。そう、子どものがんばりも、大人の前では…。

プロローグ的なものなんです、これ。

シャルルの冒険は始まったばかりですから♪

いずれ、ロンロンには打ち勝ってもらう予定です♪

kazuさん♪

二人を応援してくださっているのに、心苦しい作者です(笑)
ロンロン、口も達者で悪賢いのでどんな状況でも自分に有利にもっていっちゃいます。
シャルル…勝てるかな…。

そう、ロイ君は王子様、なのです。なのでちょいと大人びています。もっと、本当はひねた性格にしようとしたのだけど、それじゃシャルルが嫌うだろうと…。
次回は役者が揃って…ごにょごにょ。

ううん…

ロイ君とシャルルちゃん……すごいピンチですね…。
子供の決意は、大人の謀略の前に屈してしまうのでしょうか?

シャルルちゃんなら、何かを覆してくれるような気もするのですが…、甘くはないですかね…。

うう、先が気になりますが、ひどいことになっていたらどうしようと思ったり(泣)

立ちふさがる壁を乗り越えられるのか、ドキドキしながら続き、お待ちしてます~…。

そんな

裏目に出てしまったわけですね;:
ロイくんとシャルルちゃんの、脱出作戦は。
でも、あの状況でロイ君がいたらロンロンに連れ去られていたんだろうし、どちらにしろ最悪な状況になったんだろうなとは思いますが・・・。
それでも、シャルルちゃんの責任にさせられてしまって、悲しい><

ロイくんはどうなっちゃうのか。
フランク王国の王子様だったとは。

続き待ってます
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