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『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑤

『Laon ‐ランの風は苦く‐』




にんまり笑うロトロアを睨みあげてシャルルは兜をつける。
キ・ギは馬にまたがるシャルルを手助けし、「いいか、間合いはお前のほうが不利、だが小柄なお前に比べて相手は大男だ。標的はでかいほうが当てやすいし、喉元より脇腹が効く。とにかく打ち合って馬上に残っていたほうが勝ちなんだぜ、よく考えろよ」とささやいてくれた。
夕方の日差しにシャルルの白銀の兜がきらりと輝く。鎖帷子はずしりと体を締め付けた。体格に合わせて甲冑は金属製でなく、シャルルのそれは革製に鉄鋲を打ったものだ。籠手と槍、左手にはロトロアの紋章、獅子が立ち上がる模様の入った盾。
立派に騎士らしいそれを付けても小柄なのは隠せない。
「坊主、気をつけろよ」
「マスル、手加減してやれよ」と周囲の揶揄が飛ぶ。

大男マスルと対面し、槍を軽く合わせてから、互いに距離をとった。
大男は余裕で「吹っ飛ばしてやるぜ」と笑った。


槍を持つ手がしびれているような気がする。
練習ではリシャール相手に好き放題飛び込んでいける。リシャールは強いし、狙っていいところ悪いところをわきまえてる。でも、この相手は違う。あいつに力いっぱい喉を突かれたら、いくら競技用で先端を丸めてあったとしても命の保証はない。落馬するだけでも、足の一つくらいは折れるだろう。
確かにキ・ギの言うとおり、大男の兜で覆われた喉元を突いて落とすのは難しそうだった。シャルルがどう努力しても腕力はかなわない。
僕のほうが身軽、小さい。
一撃目をかわして懐に入るか。

それしか、ないか。

喉がひりつく。
二つの騎馬が十分な距離をとったときには、シャルルの耳に周囲の声は聞こえていない。
集中し、じっと菫色の瞳で敵を見据える。

ふん、と。相手の息遣いが聞こえた気がする。その瞬間。
「はっ!」
同時だった。
馬はシャルルの動きに見事に反応し駆けだす。
ロンフォルトの歩調が呼吸と合う。シャルルはまっすぐ槍を構えた。
ぎらと陽光が男の兜を右から照らす。互いに右利き。無意識に槍をもつ右側で相対する。

大男の長い腕、太い槍が先にシャルルを狙い定め。
切っ先は喉を狙う。
当たった、と思っただろう。それほどに男は軽々と槍を操り、慣れた槍さばきで敵を突いて来た。
その一瞬の表情の緩みは、すぐに緊張を取り戻す。
小柄な挑戦者は馬の右肩に体を傾け、その左に持つ盾がぎらりと陽光を反射した。
「うぬ」
男が瞬きしたと同時にばりっと衝撃が走った。
何だったのか。観衆のどよめきが男の背中に届いた。馬はすれ違ったのち、戦場の端まで来ると反転した。周囲を囲む人垣は口を開けて男を見上げていた。
ぶる、と首を振る黒馬。
大男は気付いた。
男の持つ槍が中ほどで折れていた。

「何?」
小柄なシャルルも今、馬を反転させた。その拍子にがらん、と。盾と左の籠手の間から、挟まっていた槍の先端が転がり落ちた。
シャルルは自分が馬から身を乗り出す勢いと、男が繰り出す力を利用して左手の盾と籠手の間にはさみひねった。
長槍のもっとももろい部分。木製の柄の中ほどで先を失っていた。
だがシャルルも無事ではない。勢いで革の留め具がちぎれ、足元に獅子の盾が転がった。
ふん、と大男は笑う。
「こざかしい事をするから盾を失う」

シャルルは笑った。
「敵に武器がないのに盾はいらない」
襟元からはみ出し、風になびく髪は金色。兜で目元は暗がりに沈むが、口元は緩やかに笑っていた。
これで距離の不利はなくなった。男の懐に飛び込めるのだ。
「盾も柄も、手にしたものすべてが武器だぞ、小僧!」
怒鳴るなり、マスルは黒馬の腹を蹴った。

シャルルは長槍を構え。男は盾を使うために左合わせで突き進む。シャルルの突きを予想し男は残った槍の柄を真横に持った。近づいて横からシャルルを突き倒そうというのだ。長槍は至近距離に弱い。一回の突きをよけて懐に入ればそれは有効。マスルが狙ったのはそこだ。
しかし。同じ瞬間をシャルルも待っていた。
男が盾でシャルルを殴りつけようと寄せた瞬間、シャルルはくるりと槍を持ち替えた。
とん、とシャルルの槍が地を突き。少年の気配が消える。

がくん、と派手な衝撃を背後に受け、すでに左に身を寄せていた男は前のめりに崩れかける。重い盾で片腕がふさがり、槍の柄を持つ右手だけで持ち応えようとするが。馬が頭をもたげ右足が地を蹴る振動、それはわずかな可能性を消し。男はずるりと手綱を手放した。
どしん、と全身を打つ衝撃は周囲のどよめきと同時だった。

砂ぼこりの中、大男が肩を押さえ身を起こす。

シャルルは足踏みするロンフォルトにまたがり、地に差した長槍を抜いたところだ。
「なにが、あったんだ!?」
頭を振りながら兜を脱いだ男を、背後にいた騎士が助け起こした。
「猫みたいな奴だ、地に差した長槍を軸に馬から飛び出してぐるりとな。回転しながらあんたの背中にひざ蹴りを入れたんだ」
「いや、あれは軽業師のような」
「見たことがないぜ」
「単純なようでいて、身軽さを生かすために、あの盾はわざと捨てたんだ。マスル、お前との間合いを有利に持っていくことも含め、全部計算ずくだ」
物知りげに語る男があごに手を当てて分析すると、周囲はおお、と改めてシャルルを見つめた。
「末恐ろしいぞ、さすがはロトロア様の従者だ」
歓声の中、槍を持つ手を掲げ応えると、シャルルは兜を脱いだ。
ふわりと金髪が広がる。
汗に乱れた髪は獅子のように印象的な顔を縁取り、「獅子の子だ」と誰かが叫ぶ。
「リオン・ド・リタ!」
リオン、リオン。
ロンフォルトとともにぐるりと巡って、歓声に応えると、キ・ギがロンフォルトを押さえた。シャルルは槍と手綱を渡し、馬から降りた。

地に足をつけると、シャルルはよろめく。
「おいおい、しっかりしろよ」支え、笑いながら。ロトロアはシャルルを立たせる。右腕をとり、高く掲げた。
おおー。
「我がセネシャルにして、幼き獅子、シャルルだ」ロトロアが宣言する。
歓声に包まれ、シャルルは目を輝かせた。
怖かった、だけど。
僕は、勝ったんだ。
「騎士の誉れを、この子供に与えてよいか」
ロトロアの言葉におお、と叫ぶ騎士たち。その間をぬけ、白髪、黒い鋼を身に付けた騎士が姿を現した。周囲が道を譲り、ラン伯はロトロアとシャルルの前に立った。
「我が名のもとに認めよう。ロトロア、勇敢な獅子を育てたな」
シャルルは胸を張って、笑った。認めるってつまり、騎士の叙任をしてもらえるっていうことだ!
「わしに仕えるか」
風が止んだように取り巻いていたざわめきが消える。
ラン伯だった。
ロトロアとラン伯の確執を知らないものはない。
たった今、ロトロアが我がセネシャルだと宣言し、幼いながらもその実力を認めさせたばかり。それを奪い取るように周囲には感じられた。シャルルの肩に置かれたロトロアの手に、わずかに力がこもった。
「僕は」
シャルルはにっこりと笑って見せる。
「僕はいずれ、国王陛下のオマージュを受けます!」
く、と。
笑ったのはロトロア。
ラン伯は苦い表情を白いひげの下にかろうじて隠し、「まだ子供じゃな」と苛立った息を吐いた。



シロンの店、とは酒場のことだった。香ばしい肉の焼ける匂いと、ワインの甘い香り。シャルルは初めて入る酒場でテーブルを前に座っていた。周りの大人たちは酒が入り、大声で歌ったり怒鳴ったり。煩いことこの上ないが、シャルルも「お前、すごかったな」とか、「立派な騎士だな」とほめられるから悪い気はしない。出された羊肉のローストも美味しい。ここしばらく馬での旅で、ろくなものを食べていなかったから余計に美味しい。自分のナイフ使いの問題はさておいてシャルルは夢中で肉にかぶりつく。
隣に座るリシャールは、カウンターの前に立ち店主や他の客たちと話をしているロトロアを遠目に眺めつつ、またワインの杯を空ける。

「ロトロアって、人気者だね」
「ええ、皆知っています。ランの街の基礎を築いたロトロア様のお父上は皆に慕われていました。いち早く商工業者での組合を作り、ともに街の発展を担ってきた方です。気さくな方でこのシロンの店にも幼いロトロア様を連れて遊びに来られていました。現在のラン伯は商売に疎い方で先代を懐かしむ人も多い。ですからラン伯はロトロア様を警戒し、ことあるごとにけん制するのです」
「ふうん。……じゃあ、あの。僕がラン伯のオマージュを断ったの、まずかった?」
シャルルはフォークに刺した肉で皿のソースをぐりぐりとなでていた。話しながら食べるときの癖のようなものだ。リシャールはそれが嫌いで今もぐるぐる回るシャルルの手をひたと押さえ。
「おや、多少は気にしていたんですね」
「それはさ、わかるよ。あれだけ周りがピリピリしてたら。でも、あれ以外に僕はやり様がないと思ってさ」と置かれた青年の手をぺちぺちと叩いて肉を口に運ぶ。
二人がともに食事をするというのはテーブルが戦場に変わるということなのだ。
「そうですね。頷けばロトロア様を裏切ることになりますし、はっきり断れば角が立つ。子供らしくごまかしたのは正解でした。単純なばかりと思えば、あの槍試合もなかなか巧妙でしたし。少し見直しましたよ」やはり指導者がいいんですね、とシャルルのマナーを気にするのを諦めたのか、結局自分をほめているリシャールは色には出なくとも酔っているのだろう。
「だが、あれは無理があっただろう」
ぐんと頭を押さえられ、見上げればロトロアが少し赤くなった顔で笑っている。シャルルを挟んでリシャールの反対側に座った。
「身軽なお前だからできたが、ロンフォルトが機転を利かせとどまらなければ落馬していたし、そのつもりではなかっただろうが、手綱を放してしまっていた。まあ、震えるほど怖かっただろうに、頑張ったのは認めてやる」
「なんだ、シャルル、怖かったのか?」キ・ギがすかさずからかう。
「う、うるさいな!」
「いやいや、ロトロア様。シャルルにはやはりまだ早かったと思いますぞ」
黙って食べていたローレンツも、そこは同情してくれた。怖くないわけがない、相手は大男だったし。いきなりの実戦だったんだから。
「そうだよ、強引なんだ」ロンロンは、とシャルルは最後の肉を口に突っ込んだ。
「そうか?だれも、断ってはいけないと言っていないが?」
ええ?
目を向いたシャルルを見て、リシャールが噴き出した。
「シャルル、戦場ならば命がけです。不名誉を覚悟で退くことも重要ですよ。受けて立つなら自らに責があり、今更文句を言うくらいなら受けなければよかったのです」
「なんだよ、それ!」
「騎士として戦いを受けたのなら、愚痴はこぼすべきじゃない。まあ、震えているお前も可愛くていいが」けらけらとロトロアに笑われ。
シャルルは我慢できずに「このー!」とフォークを握ったまま殴りかかる。
「お前、危ないだろ、馬鹿だな」
「うるさいっ」
じゃれあう二人を眺めながら、キ・ギがぽつりとつぶやいた。その髭にはやっぱりワインがこぼれている。
「なんだかんだ言っても、ロトロア様はシャルルを可愛がっておられるな」
「ふん。ああでもしなければ、あの年でセネシャルなど誰も認めはせん。しかも女。特にこの領内では人気の高いロトロア様のこと、周囲の嫉妬を避けようとのお考えじゃ」とローレンツは眉を寄せ。
「不器用なんですよ、面白いからいいじゃないですか。あれでいてシャルルはなかなか、女性としても魅力的ですよ」と笑うのはリシャール。実は先日…と。不器用なまま終わったあの晩の不名誉な話は、こっそりとセネシャルたちの酒の肴にされている。
そんなことも知らず、シャルルはワインを飲ませようとするロトロアに蹴りを入れた。


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花さん♪

うっはは♪ロンロン、嫌ってましたからね~始めのころ♪
いいんですよ~^^
花さんの期待(?)に答えて、ただのいい男にはならない予定ですし。
シャルルが抱える孤児という寂しさや空虚より、彼の持つ過去のほうが重くて暗くて~。そばにいるリシャールにもそれは当てはまるのです。
だから。逆にシャルルちゃんが眩しかったりするんでしょうけど、本来相反する二人だったりも(笑
惹きあうのか反発しあうのか。結論はまだまだ♪

じっくり見据えて楽しんでくださいね~♪

お見事っ!!

流っ石シャルルちゃん、身のこなしと素早さは天下一品ですね!
勝どきの『リオンの獅子』の姿が鮮やかに脳内再生されてね、思わず私も描いてみたくなっちゃいましたよw
大立ち回りの勇ましさも素敵だけど、私が感心したのはむしろその後の切り返しの方だったり。
しかしロンロン、どんどん男前キャラになっていくぞ…どうする?(初印象が悪かったので、認めたくないだくなのです^^;)

ふ、藤宮さん~!!!!♪

ひゃ~!!!可愛い~っv-10
クウ・クル、その白いふわりとした尻尾、小さい耳、くるくるした黒い目♪いいです~v-413むにむにしたいっ♪
そして~♪うふふ。
シャルルっ!!ええ、ええ、そうです。こんな感じですっ♪可愛いくせに視線はキリリと。時に気弱、実は泣き虫。なのですがっ♪
そんな感じがにじみ出てる~♪
差し出した手の先にいるのは…ロイ?それとも?
いや、この真っ直ぐな視線で見つめるのはロイだろうなぁ~♪
すみません、我を忘れる可愛さにっ妄想が♪
うふふ、無断でアップしちゃうから♪隠されちゃったらいけないから~♪って、いいかな?
(…しかし、この小説専用テンプレ、小説は読みやすいんだけどイラストとかどうしたらいいんだろ…)
ああ、言ってなかった!!
ありがとう~♪素敵なクウ・クルとイラストも~♪
ありがたく誘拐させていただきます♪

kazuさん♪

うは~♪そういっていただけるとっ♪嬉しいっv-344
この時代はまだ、あんまり戦術とか進んでないので、私の適当な頭でも考えられましたっ^^;何とか。
今後のお話の中の戦闘シーンとか、冒険シーン。今からどう書いたらいいのかと、どきどきです。

おお…ロンロン、ついに花婿候補に昇格!?(笑
どこかでロイの株を上げておいてあげなきゃ~(←迷わせて楽しもうと思っている…黒い…)
さて、ランの街。どんな展開になるか~楽しんでいただけると♪嬉しいですっ!

本日、秋色、こげ茶のニットにラズ・ログイメージのネックレスとピアスです♪ああ、お気に入りです~♪

すごいなっ!

まさしく変幻自在の戦いぶり!
簡単に引かない強さが格好よすぎる……さすがシャルルちゃん!
周りから少しずつ認められ始めて、騎士になる日も夢ではないかな~と、思ったり。

でも、ロトロアとの絡みを見ているとまだ子供な部分もあって。
そういうアンバランスさが、どうにもかわいく見えてしまいますね。言ったら蹴られそうだけれど(笑)

最終的にシャルルちゃんは、誰の騎士になるんだろうかとこっそり想いを馳せながら。

また楽しみにこっそり伺いますね~♪



……あ、前回のクウ・クルの件なのですが。
無断もいいところで恐縮ですが、羊毛ぬいぐるみ&おまけを作ってみました。
もし、のぞいてやろう、というお気持ちがありましたら、名前の横のURLに貼り付けておくので、よろしければ……(汗)
いろいろアレなところがあるので……生温かい目で見ていただければ……ふふふ(?)

かっこいいーーー!!

シャルルちゃん、カッコイイ!!
もう、ちゃん付けはやめたほうがいいかな^^
自の不利を見極めて、利を持って相手を制す。
それでこそ騎士さま~♪
ロンロンもまわりにシャルルを認めさせることができたし、一石二鳥以上ですね^^
ラン伯のオマージュの断り方も、あえて子供を演じるその機転、凄いです。

あぁ、ロイくん考えると複雑だけど、ロンロンとシャルルうまくいってくれないかなーなんて。

楽しみにまたきます^^

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らんらら

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