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『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑥

『Laon ‐ランの風は苦く‐』




翌日。
シャルルとキ・ギを残してロトロアたち三人はラン伯の城へ向かった。
わざわざジャンがシロンの店までロトロアを迎えに来たのを、シャルルは「むかつく」と睨んでいたが、ロトロアに「戻るまで自由に市街を見物していい」といわれると機嫌を直した。雨雲を抱える寒い朝だったが、ぶつぶついうキ・ギを引っ張り、シャルルは昨日気になっていた市場へ繰り出す。

「僕はさ、まだ自分の剣がないんだ。買ってもらうんだ。だから、好きなのを選んでおこうと思ってさ」
「ロトロア様がそうしろとおっしゃったのか?」
「違うけどー、そうさせる」
「お前、ローレンツがいたら怒鳴られてるぞ」
呆れる大男に「そんなの気にしないからさ」とにっこり笑うリタの獅子はどこまでも不遜だ。剣や槍、盾をずらりと並べた店先で、指をくわえんばかりにあっちこっちと見とれている。
「まあ、血が騒ぐのもわかるがな」とキ・ギはずらりと並ぶ剣を眺めた。
木製の彫り物を柄にした方刃の短剣を一つ一つ、抜いては陽にかざす姿を目にとめて、商人が声をかける。
「若旦那、そりゃあ、いい手の作だよ。鍛冶も磨ぎも柄も、全部一人でやる職人でね。刀身と柄の重心をきっちり計算してある。フランドルでもなかなか手に入らない品物だ。安くしておくよ、どうだい」
うーむ。と一人前に顎に手を当て、声に出して唸ると、シャルルはふいとそれを振り下ろす。
「わ」と商人が一歩下がる。
「あ、ごめん。もう少し細身のがいいな。こういうのはもうあるから、もう少し、長くて細くて。ロトロアの獅子紋の剣みたいなのがいい」
「おいおい、シャルル、ありゃお前には無理だぜ」キ・ギが笑い。
商人はキ・ギとシャルルを見比べ、頭をかいた。
「ロトロア様の従者の方ですか。キ・ギさんの言う通りで。ロトロア様の品は、全部注文で鍛えられたもんです。鉄鉱石の産地まで指定されたものですよ」
「じゃあ、僕もそれがいい!」
「だから、お前。これから背が伸びるだろう?力も体力も変わる。今はまだ、成長の途中だろうが。良い剣というのは使う人間の力を補うものだぜ。そのためにはまず、己の力量や癖を知り、鍛冶の知識も持ち、それで初めて何をどうしたいのか注文をつけられる」
商人がうんうんと頷く。
「そうですよ、騎士見習いの方。鍛冶師も認めた人間の言うことしか聞きませんや。有名な職人になればなるほど、注文で鍛えてくれるのは稀でさ」
「そうだぜ、シャルル。重さ、長さ、重心、柄の形状、鋼の硬度や粘度。鍛冶師と対等にそう言った話ができなきゃ、相手にされない。諦めて、適当なのにしておけ。ロトロア様と同等など、土台無理な話だぜ」
「…じゃあ、今度にする。僕もいずれ、作ってもらう!」
「あのな」
「そのための見習いだからさ。いつかロトロアみたいになる」
ふうん、と見下ろしたキ・ギはにやにやと笑っていた。
「なんだよ?」
「いや、お前も可愛いところあるよな。ロトロア様に憧れてるんだろう」
「は!?違うよ!ロトロアみたいに剣を作るって話!」
「いい、いい。それは皆同じだ。いいか、シャルル」
キ・ギのロトロア自慢が始まる。それは、毎度のことだからシャルルは聞きあきたよと言いながら、先に歩きだす。
リシャールも、キ・ギも。お年寄りのローレンツはもちろん、みんなロトロアのことを褒めるんだ。
溜息を吐き、面倒だからキ・ギを置いて行こうかと足を速める。
昼はまだ先だが、屋台に並ぶ焼き鳥の匂いにシャルルの体は欲望のままそちらに向かう。網の舞台の上、炙られた肉は美味しそうな魔法の一滴を滴らせ。赤い炭は「じゅうっ」と歓声をあげて。だから鶏は美味しくなる。うん。
「おじさん、それ、三本ちょうだい!」
「へい、どうぞ、焼きたてが二本、あと一つはちょいと待てくれよ」
「うん」言いながら、硬貨を渡すとシャルルは置かれていた二本を両手で一つずつ持ち、交互に炭の恩恵に預かる。歓声を上げる。
「美味しい!」
「ああブリュージュから荷揚げされたもんだ。カレスの街も運河はあるが、やっぱり北のほうが羊にしろ鶏にしろいいものが入る」
「ブリュージュは入港料も安いしね」
「おや、詳しいね」
「住んでるんだ。フランドルの港町であそこが一番賑わってるんだよ。バイイ(地方代官)があちこちの商工業組合を誘致しているから、取引所がたくさんあってさ。ロトロアもルジエの商工業組合のために運河に近い一等地に一区画買い取ったんだってさ。それで、組合に貸して、代わりに保護してる。裁判沙汰とかになったら、バイイと交渉したり、いろいろやるんだ」
男は目を丸くし、それから顔をしわくちゃにして笑った。
「なんだ、おめえさん、ロトロア様の知り合いかい?」
「シャルル、ってんだろ。昨日、槍試合みてたぜ」と、大柄の騎士が硬貨を置きながら声をかけた。丁度焼きあがった五本を片手でがっしりと掴みとった。
「あ、それ、僕のだよ!」
「おお?小さい事は気にしないもんだろ、セネシャル様なんだろ?」
にやりと笑う。
「セネシャル?この子がかい?」店主も目を丸くし、シャルルはそんなことどうでもいいから僕にあと一本くれと手を差し出す。
「どうせ貴族様のおぼっちゃまだろ。槍試合は見事だったけどなぁ」酒臭い息をして酔っている様子の男は、赤ら顔をさらに赤くして大声で笑う。
その口に五串全部、突っ込んだ。
「ああ!」
「こんな可愛い顔してるんだ、そりゃあロトロア様も血迷うぜ。女なら俺だってあやかりたいってもんだ」
へらへらと笑う突き出た腹を睨み、シャルルは手にした串を握り締める。
「おい、シャルル、お前迷子になったかと…」追いついたキ・ギが丁度駆け寄り。
「騎士の旦那、あの、それはまずいんじゃ……」店主がまあまあ、とシャルルをなだめようとする。
駆け付けたキ・ギの姿を見ると騎士は口をもごもごさせたまま、慌てて一歩下がる。手は剣を探してもぞもぞと。その直後、男はひっくり返った。

「お?」
キ・ギが口を開くまでもなく。
男を投げ倒したシャルルは手にした串を男の喉元にあてていた。
「僕の鳥、かえせ!」
「うぐぐ」串をくわえたままだった男は、目を白黒させている。何が起こったのか分かっていない。ぐうと何か唸ってシャルルを振り払うと、起き上りざまに抜いた剣を振り回す。
それはしっかり空を切り。ごん、と鈍い音とともに男の剣が蹴り飛ばされた。すっ飛んだそれはグルンと回って地面に突き刺さる。
「うぉ、お前」
唸る男に、キ・ギは呆れた顔で肩をすくめ、屋台の店主に「俺に五本、くれ」と注文する。
「あ、あの。旦那、あの坊やは大丈夫で?」
「男の方が心配だが。まあいい。ロトロア様を侮辱したんだ。それ相応の報復は覚悟してもらうさ」
ふ、と笑いだし。なんだかんだいって、あいつは懐いているんだよなぁと独り言。
背後でシャルルが「なんか言えよ!串刺しにされたいのか!」と怒鳴るのを聞き、さらに噴き出す。苦しそうに腹を抱えて笑いだす。
見物人に囲まれた男とシャルルの喧嘩は、一方的だった。男が立ち上がったところをシャルルは腕を掴み投げつける。「畜生」と唸りながらシャルルの足に掴みかかるそれも、身軽なシャルルはふわりと飛び。ついでに男の肩を足場代わりにする。
飛びあがり宙で振り向きざまに放つ蹴り。踵が男の顎に入り。
決着はあっという間だ。


「まだ、というか。シャルル。お前に剣はいらんだろう」
鳥が焼きあがる頃には、何事もなかったかのようにシャルルはキ・ギの隣に座る。ちゃっかりキ・ギが頼んだ焼き鳥を半分もらい、上機嫌だ。
「何かすっきりした」
「腹が減っていただけだろ」
「かもね」
店主がサービスだと麦酒を出すからキ・ギも上機嫌。
シャルルは葡萄のジュースをもらい、少し早い昼食と決め込んだ。

「槍試合も素晴らしかったけれど。獅子の子の意味が分かるわね」
ふわりと。甘い香りが周囲を取り巻き、シャルルはむ、と飲み込み損ねた鶏肉にむせた。
二人が振り返れば、修道女が一人。
槍試合を褒める辺り、聖職者とは思えないと、シャルルは座ったまま睨みつける。
聖職者は騎士が行う試合や決闘を忌み嫌っていた。シャルルが育ったラエルの修道院でも、剣や槍等の武器は侮蔑の対象だった。だから、シャルルは武器を使わない拳法を身につけていた。
「あんた、誰?どこの修道院だよ?」
シャルルが無遠慮に問いかければ、修道女は「あはは、坊や可愛いわねぇ」とかぶっていたフードを背に回す。その手先にはきらきらと石をつなげた飾り物が揺れる。白い細い指先を追って視線を下ろせば、ふわと広がった赤毛がくるくると胸まで落ちる。高い位置で一つに結ったそれは細く白い首と綺麗な耳をむき出しにして、彩る。にっこりと、笑いかけた女は二十歳前後の。
「あ、あ」とキ・ギが言葉を詰まらせるほど、美人だった。
赤毛はこの地方では珍しく、シャルルはじっとそれを見ていた。目が会えば、女はにっこりと笑い、「ロトロア様のセネシャルって、ほんと?」と首を傾げてみせる。ぱちぱちと瞬きしてみせる重そうな睫、その上目遣いが小悪魔的に美しく、多分男なら呆然となるんだろう。大体、コートは修道女のものだけど、下に着ている服は溢れそうな胸を強調して、とても聖職者とは思えない。腰に短剣もあるじゃないか!
シャルルは肩をすくめて見せた。
「騎士見習いだけどセネシャル。子供だけどセネシャル。何が悪い」
ジャンといい、槍試合での反響といい、いい加減面倒になっていた。
「あら、拗ねちゃったの?」
「子ども扱いするな!串刺しにするぞ!」丁度、肉は胃の中で。手には裸の串が一本。それを女に向けてみる。
「あはは!可愛いっ!君になら串刺しにされたいなぁ、シャルルくん」
どういう意味だ、それ。
いつの間にかキ・ギとの間に座り込み、女はシャルルの肩に手を廻している。
「ねえ、まだ経験ないんでしょ?串刺し」
「はぁ?」
ごほん、ごほん、と派手な咳払いでキ・ギが女の注意を引いた。顔が真っ赤だ。
今のうち、とばかりにシャルルは立ち上がる。
女が伸ばした手をさらりと避けて、「キ・ギ、僕先に帰ってる!」と。キ・ギに女性を押し付けて、いや、女性にキ・ギを押し付けて。シャルルは市場の散策を決め込んだ。


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chachaさん♪

うふふ!ありがとう~(>∇<)
馬上槍試合、かつて映画で一度見たきりで、後は資料を読んだのですが。
細かいルールがわからなかったので、かなりアレンジです♪
実際、かなり危険な催しだったらしいので、そのドキドキ感が出せたらと♪

シャルルの姿!そう、実はこの物語の登場人物は、自分では一度も絵にしてないんです~。
なんとなく、なんですが。
何かでうまく絵になったら…公開してみようかなぁ~♪
串刺しされたくなっちゃうようなかわいい男の子として♪(←をい

すごーい♪

シャルル!すごいすごい!大男をやっつけちゃった♪
しかも槍試合でも見事!勝っちゃったし♪思わず身震いしちゃいました^^やった~♪さすが~♪
らんららさん、描写がお見事でした!首を傾げる部分がなかったですよ☆ちゃんと頭の中に映像が浮かびました♪

でで。
また何やら怪しげな(笑)女性が現れましたねー@@;
そうそう。時々すっかり忘れちゃうんだけれど、シャルルはしっかりと男装しているんだった^^;
シャルル、綺麗な顔立ちだし。男性として見てもかなりの美形!?うーん。見てみたいっ♪

串刺し(笑)ちょっとちょっと!お姉さん、シャルルにはまだ早いお話ですよっ!これっ!←

うう~ん、やっぱりらんららさん。真面目なシーンもコミカルなシーンもお上手です!楽しい~^^

また来ますっ♪

藤宮さん♪

純粋なのね(笑
私も普段はそういう話題は苦手なのだけど、キャラには語らせなきゃと。

シャルル、強くしていきます~!今はまだ、素早さだけだけど。いずれ、剣とか鍛えてもらって。
でも、まあ。可愛いところもなきゃいけないから♪
きっと、串刺しの意味を知ったらそれなりの反応を示すでしょう♪
複雑にしないためにじわじわと展開しています~。がんばりますっ♪

花さん♪

うふふ~ありがとうございます!
アン、懐かしい♪再会はもちろん、いつか。
ええ。

ところで、もしやアンのことを少女だと思ってらっしゃるかしら?と言う気がする…私の表現がよくなかったからv-356アンはシャルルにとってママ的な存在です♪なのでかなり年上なの。

一波乱、といっていいのか。
なんだか、ぐるぐると大変な旅になりそうです♪もっとさくさく展開させるつもりが、盛りだくさんの内容に…下手なんですよね~情報をうまく小出しに出来ない(^^;)
難解にならないよう、がんばります~!お楽しみに~♪

kazuさん♪

ぬおっ!!v-344キャラアクセ!?本当ですか!?
嬉しい~v-354
ロイくん。どんなものになるんだろう~!!わくわくっ♪
いつ登場か…むむ。
再会は保障しませんが(←?)イメージがわくようなシーンはこのあと、もう少し後に。ええ。
お待ちください♪
串刺し…読者に男性がいないので理解度薄いのは確実なんですが(笑
シャルルには当然、分からないですね~
流してやってください♪
今回短かったけど、次回はすこ~し動きますので♪お楽しみに~!!

いやはや

なんだか怪しい女性登場♪
というかそれ以前に、シャルルちゃん強すぎます。
別に騎士が弱いわけではない……ですよね~? 
この歳でこの強さ、シャルルちゃんの将来が恐ろしい(笑)

一瞬女性の話が分らなかったのは私です(爆)
さすがに一瞬あとにはわかりましたが。
シャルルちゃん、どんなに強くてもまだ純粋なのね~と思ったり思わなかったり。

でも、焼き鳥美味しそう。
文章から美味しそうなにおいがしてきておなかがすいていしまいましたよ♪

さて、この先どうなるのか。
じっくりまた追いかけさせていただきますね!

うん、焼き鳥が食べたい^^(違
そっかー、やっぱりシャルルちゃんあんなに目立っちゃモテちゃうよねぇ。聖職者とは思えない…うーん、アンちゃんが恋しいよぉ><
獅子の子、シャルル。これから一波乱ありそうなこの街、シャルルちゃんの活躍を期待してますよ!

焼き鳥が食べたい♪

って、違うか(笑
シャルルちゃん、カッコイイなー
大の男をやっつけちゃいますか(笑
剣がなくても、堂々と渡り合える、凄くかっこいい気がします^^

おぉ、小悪魔的女性が登場ですね♪
串刺し……
ここは突っ込んじゃいけないところ?(笑
彼女の存在が気になりますね^^
次回更新、待ってます~

あ、キャラアクセ♪
作りたい方が三人いて悩んでいるので、しかも一人はロイくんだから、再登場を心待ちにしていたり^^
出来ましたら、ご連絡します~♪
作るのが、楽しいのです~
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らんらら

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