08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑦

『Laon ‐ランの風は苦く‐』




その頃。
ロトロアはラン伯のセネシャルたちと参集した諸侯、ジャンも並ぶ円卓に席を連ねていた。
「ロトロア様、昨日は面白いものを見せていただきました」セネシャルの一人が笑う。
「あれは、ランスの修道院で育ちましてね。東方の格闘技術を会得しているんですよ。それで獣の子のように身軽なんです。リタを与え、騎士見習いとして傍に置いています」
「見栄えもいい、宮廷はそういうことも気にするというから、国王陛下にお仕えするというのも遠い話ではないかもしれんな」諸侯の一人が笑った。
数人が頷き、それに揺らされた熱い茶の湯気が円卓の陽だまりを横切る。
とん、と音を立てて杯が置かれた。手につけた多くの宝石、指輪がギラリと光る。ラン伯だ。
「今の宮廷が、そのままであれば、の話だろうが」
物騒な自分の台詞に悦に入ったのかにやにやと笑い。
「そうだろう?ジャン」と返事に窮するのを期待して少年に話を振った。
ジャンは問いかけたラン伯ではなく、ロトロアをまっすぐ見つめた。
「シャンパーニュ伯はあくまでもブーローニュ伯にご協力差し上げる約束をなさったに過ぎません。ブーローニュ伯は戴冠式の時期に合わせて、ブルターニュ公、マルシェ伯、サン=ポール伯等の諸侯をコルベイユに呼ぶおつもりです」
「では、シャンパーニュ伯もそこにおいでか」
ロトロアの問いに、ジャンは頷いた。
「ですから、ここには僕が使わされました。ブーローニュ伯の目的がどの程度のものなのか、見極めてから改めて、ラン伯様をはじめとした皆さまにご下命があります」
「例のルイ八世の死因について、追及はなされるのか」
「追及はありませんでしたが、ティボー四世・シャンパーニュ伯は戴冠式への出席を宮廷に拒絶されました。遠慮するように、とのご下命でした」
ざわ、と。
総勢11名の騎士たちは互いに見合わせた。
ロトロアは手元のワインを一口。その酸味にかすかに眉を寄せてから、改めて一気に飲み干した。
「ジャン。もしや」
「はい。ロトロア様。シャンパーニュ伯はこの戴冠式の時期にコルベイユへ向かうに当たり、貴方様のご同行を願っておられます」
ふん、と。息を吐き出したのはラン伯。
「我らは不要か、ジャン?」
今度こそ言葉に窮してジャンは何度も瞬きをしてうつむいた。伝令のジャンに当たっても仕方ないのは分かっているだろうに。ロトロアが引き受ける。
「叔父上。コルベイユでの会議がどのようになるにしろ、貴方にはランスに近いこの街にとどまっていただくのが最も有効とのことでしょう。戴冠式はランスで行われますし、ラン領内の諸侯を束ねておけるのは貴方だけですから。シャンパーニュ伯の護衛は私が行ってまいります」
「五騎もいらんだろう。二騎はランに残せ。わしが面倒を見てやる」
ラン伯の攻撃はここぞとばかりに甥のロトロアに向かう。ごくりと誰かが無理やり茶を飲み込み、諸侯は二人を見守る。
静まり返った席上、ロトロアはしばし間を置く。沈黙を破ったのは少年の高い声だ。
「シャンパーニュ伯の求めは、ロトロア様お一人でも構わないとのことです。役に立たない見習い騎士は不要ですよ」
ジャンがにっこりと笑う。
「そうだな、獅子の子は預かろう」と同調し、ラン伯も満足そうにあごひげをなでた。
人質かと。
ロトロアはラン伯を睨む。
「いいでしょう。リシャールとシャルルを残します。ジャン、お前はここに残るのだろう、よろしく頼むな」
「私も途中までご一緒に……」
ジャンは言いかけ、言葉を飲み込んだ。ロトロアの目は決して笑っていなかった。
「お前には伝令の使命があるはずだ。ランスの様子も確認するんだろう?」
「……はい」

会議後の昼食は味気ないもので、ロトロアはさっさと食べるだけ食べると出立の準備があると席を立った。
諸侯は残念がったが、「二人をお願いします」とロトロアに頭を下げられ、ラン伯の同席するなか数人の諸侯が強くうなずいた。彼らはその意味するところを十分理解していた。
ただでさえ少人数しか伴えず、たった五人の従者。それを人質のように二人残せと命じられれば、不安もある。
気懸りを残したまま、さらに困難な場所への旅は、ロトロアから持ち前の笑顔を奪っている。ラン伯の嫌味など笑顔で流せるが、この状況は厳しい。
親しい諸侯の数人が、ロトロアを扉まで見送り「有事の際にはお守りする覚悟です。どうぞ、ロトロア様は心置きなくコルベイユへ」と勇気づけた。


主人を待つセネシャルたちの集まるサロンにロトロアが顔を出すと、リシャールが駆け寄る。
「お早いですね」
リシャールは口調とは裏腹に、いつロトロアが戻ってもいいようにと、食事も酒もとっていなかった様子。この親友は、ロトロアにとってラン伯と同席することが何を意味するのか分かっているのだ。ロトロアの表情が和らいだ。

「何かあったのですかな」
ローレンツも口に運びかけた肉を戻し、席を立ち出迎える。
「俺はシャンパーニュ伯と共にコルベイユへ向かうことになった。ローレンツ、キ・ギと来てもらう」
「…私は」
「リシャール。ラン伯が、この地に二人残せとおおせだ。悪いがシャルルを頼む」
「……ええ」
リシャールはほほ笑む。その落ち着いた表情に苛立っていたロトロアも安堵する。リシャールならば、シャルルを任せても大丈夫だろう。
「何事ですか!コルベイユはパリより南、ここからさらに五日はかかりますぞ」
しわがれた声を恥かしいくらい張り上げるローレンツ。そのタイミングはロトロアを冷静にさせる。青年は笑顔を浮かべた。
「大きな声を出すな。ローレンツ。話は後だ。とにかく宿に戻り準備だ」



宿の部屋は、なぜか甘い香りでいっぱいになっていた。
「シャルル、なんだこれは!」鼻を押さえるロトロア、リシャールは「いい香りですね」とくんくんと息を吸いこんでいる。
シャルルは着替えたのか軽装で、室内のいすに座っていた。束ねた髪が肩にかかるのも気にならない様子で、テーブルに伸ばした自分の手に顎を乗せてぐったりしている。
「どうした?キ・ギは?」
「臭い女のとこ」
「は?」
「市場に行ったんだけどさ、変な修道女と一緒にいたいみたいで置いてきた。絶対あれ、惚れちゃったんだ。顔が真っ赤だったし。それがさぁ、派手な女で香水臭くて、しかもなれなれしくべたべたと触るもんだから」
「それが、この匂いですか」
「そう、臭いだろ?もう、ぐったりだよ。着替えたのに臭くてさ、何食べても同じに思えるし、最悪」
「で、キ・ギは?」
「市場だよ。その修道女と一緒じゃないかな。僕もホントは市場にいたかったんだけどさ」
この匂いが染みついて、とてもじゃないけど外歩けないよ、ものすごく注目されるんだからさ、とシャルルは口を尖らせる。注目される理由が香りだけとはロトロアには思えないが。

「クウ・クルも嫌がって近づかないんだ」
「はあ」と。ロトロアはため息をつく。
「私がキ・ギを連れてきます。ロトロア様、どうぞ、ご準備を」
「ああ。リシャール、間違ってもキ・ギの女に手を出すなよ」
「さて、それは相手次第です。ロトロア様のご帰還を待つ間、丁度よい余興になります」
こういうときほど美青年騎士の笑顔が輝くときはない。リシャールが銀の髪をなびかせるのを、そこにいた全員がため息混じりに見送った。
「シャルル、あきらめろ。ここには我が家のような湯はない。ローレンツは馬を頼む」


シャルルが「水浴びたい~」「臭いよ~」と一人ベッドで唸っている間、ロトロアは荷物をまとめ始める。
「お腹すいたのに食べたくないし!クウ・クルに嫌われたし」
「鼻をつまんで食べればいいだろう」
「味しなくなっちゃうだろ!」
「…好きにしろ」
ロトロアはひらひらした絹の上着を脱いだ。
旅用の軽装に着替える。逞しく鍛えられた背中に、シャルルはつい視線を奪われる。
「……ロトロア、何してるんだ?」
「見てわかるだろう」
「どっかいくの?」
「ああ」
「ふうん。行ってらっしゃい」
「…ああ」

シャルルのほうを振り返りもせず、ロトロアはマントを手にとり、剣の皮紐を結びなおす。
通常のものより少し細身で刀身の長い剣を好む。ロトロアは剣の名手だと聞いたが、その実践はあのランスで見た以外はない。もっぱらシャルルに指導するのはリシャールだ。
剣の一突きで人を死に至らせる。簡単に聞こえるが、余程の技量がなければできないことだ。シャルルの力では、まだ、藁人形を突き通すのがせいぜい。
ロトロアくらい鍛えていれば、あっという間に人を殺す。
そう、ランスでも。
思い出せば、恐ろしい気持ちだけが胃を重くさせる。ただ、今その手にする剣は複雑な獅子の彫り物の施された立派なもので、窓の向こうの街並みを背景にきらきらと美しい。獅子紋の剣と呼んでいるものだ。
やっぱりキ・ギが言うとおり、見て回った市場のどの店のものより立派だ。普段それを見慣れているから、市場の武器はどれも物足りなく思えた。
剣に見とれ。
その手さばきに見とれ。
シャルルは枕を抱きかかえ、それに頬を預ける。

「剣が欲しいか」
シャルルは慌てて起き上った。
「うん、ほしい!」
「ならば、これを預ける」
それは。
青年の掲げたそれは金色の牙をこちらに向ける獅子。大切な剣。
「あの、だって、これ。ロトロアの」
「俺は他にもある。預けるから、きっちり返せ」
「なんだ、くれるわけじゃないんだ。ケチ」
顔をしかめる少女に、ロトロアは笑いもせず見つめ返す。
「しばらく会えん。このランで何が始まるかは、まだわからん。リシャールを残すから、言うことをよく聞けよ」
「……じゃあ、じゃあさ!僕が活躍したら、これもらっていい?」
何の活躍だ、と。いつもなら馬鹿にしたように言う、はず。
「ああ」
そう言うなり、ロトロアは視線をそらし、立ち上がると荷物をまとめる。
「…もう、すぐ、行くの?」
「ああ」
「…ふうん」

「必ず、帰る」
「うん」
「待ってろ」
「うん」
シャルルは枕と一緒に剣をギュッと抱きしめた。


関連記事
スポンサーサイト

chachaさん♪

<なんでもっとこう、何があったの?とか、どこ行くの?とか聞かないんだ~~おまえ~~(笑)

シャルル:「別に、あいつがどこに何のために行ったってさ、僕には関係ないし。気にもならないしさ。どうせ、聞いて答えるやつじゃないよ」
クウクル:うなずく←?

ロンロン:「…必要ない」

という感じです~(笑
素直じゃないです、二人とも♪

二章でのシャルルの冒険は、これからです♪
いろいろと、大変で。
盛りだくさんになってしまったけど。
楽しんでいただけるといいなぁ!!!

シャルル~!!

なんでもっとこう、何があったの?とか、どこ行くの?とか聞かないんだ~~おまえ~~(笑)
こんな風にさらりと別れちゃったら、後々後悔することにならないかしら…なんて、一抹の不安を覚える私。うーん、マイナス思考(笑)

ロトロアの意思というか気持ちというか。それがこの何気ない言動に含まれている気がして。
シャルルをしっかりと見ないのも、やっぱり不安だからかな?離れたくないから?怖いから?本音はわかりませんが><

大切な剣をシャルルに預けて。大切な親友と共にシャルルを置いてコルベイユへ。
どうか無事に帰還して欲しいものです…;;

また来ます♪リシャールがあの女性をどう思ったのか気になりますし♪(笑)

風花さん♪

きゅん、ですか♡
ふふふ~

ロンロンとはしばらくお別れ♪
シャルルも残った仲間とうごき出します!
お楽しみに~

ロンロン…うーん、大人の世界って難しい…(´・ω・`)
たった2騎で大丈夫なのかしら。腕は心配してないけど…
シャルルちゃんと別れるの、惜しむような信頼するような複雑な心境のロンロンの姿に、ちょっとキュンときた風花なのでしたw

p.s.アンちゃん、アン母さまだったのね;;
勢い読みの風花はてっきり、シャルルちゃんより少し年上めのしっかりした少女かと^^
失礼ッ!

kazuさん

あぅ、ご心配をおかけして
大丈夫です。ぶつけられたけど怪我もなくて。
ただ一日中、仕事にならなかったの。現場検証の後に病院で念のため検査して。終ったのが午後3時。
後は、保険の手配とか。
事故はいやですね~

ちょっ……

事故って? 事故って、大丈夫ですか??
こうしてコメントの返信を書かれているので、大丈夫とは思ったのですが、すみません、心配性で……。

ジャンリシャールの時計、ぐぐって見てきました^^
一番安くても50万円以上……。
ジャンとリシャールは、私にとって高嶺の花のようです(笑
ちなみにうちのブログの記事は、ダイエット関連。
なんか、誰かからの指令のような気がします^^(笑

藤宮さん♪

ありがと~!!
ジャン、ええ。活躍予定ですよ♪
歴史上の人物でもあります。
書いて書いて~!!利口そうで生意気そうで。あ、でもこの後彼のまた違う一面が見られるかも。
シャルルとの絡みが多くなりますので、お楽しみに♪

ああ、歴史の大きな流れ~。描き切れるか。今からドキドキ♪

kazuさん♪

お返事遅くなりました~^^;
職場の昼休みに、なんて思ってたら、事故しちゃって~。

うふふ。
ちょっと、楽しんじゃいましたよ、二人のシーンは♪
さりげなくいい感じになっていくのは、私の願望かしら…
この後、ジャンも色々と絡んできます♪

それにしても、記事の後に宣伝が三つ表示されるけど、「ジャンリシャール」なんて時計ブランドがあるんですね(笑
毎回、作品中のキーワードを拾って表示されるから、案外笑えます♪
そんなとこも楽しんでいただけると、より一層楽しいかも?

はー…(ため息)

なかなかつらい状況~……はー……。

激動の時代の予感……。
シャルルちゃんたちは、その真ん中にいるのですねー。

ロトロアの言葉が不安をあおります。
必ず帰る、そういう言葉って、約束されてもどこか帰らない瞬間を思い描いてしまって……うう、不安~。
だいたいいざとなれば、シャルルちゃんたちも安全ではないし……ロトロアがいない分、何か起こっても自分で切り抜けなきゃならないんですよね……そっちも不安ですー。

しかしジャン君、やっぱりシャルルちゃんが気に食わないのね~と。
この感じでそのうち好敵手になったり……するんでしょうか?
でもちょっと気になる子ではあります。
……描いてもいいですかー?とかだめもとで聞いてみたり(爆)

ま、まあなんにせよ今後の展開を期待して。
ドキドキしながら追いかけていきますよ~♪

えっ、えっ

いい雰囲気~♪
ロンロンとシャルル、いい雰囲気を醸し出してませんか?
必ず帰る……、ちょっ、ロンロン、かっこよすぎーっ!!
置いていかれるなんてけんか腰になっちゃうかなーと思ったのに、シャルルの言葉少なな返事は、やはりロンロンの態度がいつもと違うことに、不安を隠せないのかな。

ジャンくん、私も睨んじゃうよぉ
人質をとられる上に、シャルルは名指しでおいて行かなきゃいけない、そんなきっかけ作んないでー><
あーうー、じたばたしながら次回待ちます><!!
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。