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『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑧

『Laon ‐ランの風は苦く‐』




その晩のシロンでの夕食はリシャールと二人きり。機嫌を直したクウ・クルも入れてやっと三人。リシャールは酔っても酔わなくても大騒ぎしたりする方じゃない。昨夜の賑やかさに比べ、随分さびしいとシャルルは感じていた。
結局、ロトロアにどこに何をしに行くのか、いつ帰るのか、聞けなかった。
聞いてもよかったんじゃないか、と今は思うけれど。
ふん、と羊肉にナイフを突き刺し、何となく腹立たしい気分を紛らわす。
「シャルル、敵じゃないんですよ?ハムと言い、肉と言い。剣さばきも下手ならナイフも下手ですか」
リシャールの口調が嫌味に受け取れるのは、気のせいかもしれない。
「いいんだよ、どうせ食べるんだ」
「同席する人の気分が悪いでしょう?マナーが問われますよ」
「同席って言ってもリシャールだけじゃん」
「…」
無言に青年の怒りを感じ、シャルルは言い過ぎたかと顔をあげた。
噛み切れていない肉をもごもごさせているのだから、申し訳も何もないが。
「ロトロア様がいないとさびしいですか」

ぐさ、と。罪のないジャガイモはナイフの餌食。
「意味分かんない」
「八つ当たりは御免ですよ。私もお前なんかより、ロトロア様と同行したかった」
「行けばいいだろ」
「思慮の足りない子供とは違いますよ。主君の命は絶対です」
「足りない子供ってなんだよ」
「お前のことです。他に誰かいますか」
「八つ当たりしてるの、そっちだろ!僕がここにいてほしいって言ったわけじゃないし、ここに残されたかったわけでもないよ!」
「…ほら、やっぱりロトロア様と一緒にいたかったんでしょう」
「違うよ!」
「恋する乙女は我を見失うものです」
「ふざけるな!」
「お前こそ、いい加減にしなさい」

冷たい怒りを放つ青年に、シャルルはついに立ち上がる。
手にはナイフ。フォークはジャガイモを今振り落とし臨戦態勢。クウ・クルも察したのか、シャルルの肩に乗って威嚇する。

「恋する乙女って誰のことですか?」
戦士は二人、同時に振り返る。そこにちゃっかり座っているジャンを見つけた。
テーブルの戦場に一人、肘をついて二人を眺める。仲裁になるか、野次馬を決め込むのか。
「ジャン、貴方は……」
「僕も今夜はここに泊まろうかと思います」
と、にっこり完璧な笑顔。
「え?」

そんなはずはないのだと二人には分かるが、少年は「はい。ロトロア様にお願いされたんですよ」と。ぺろりと嘘をつく。
否定する材料を頭の中でこねているシャルルに、「これ、可愛いですね」とジャンはクウ・クルに手を伸ばす。
ふん、とすり抜け白イタチはシャルルの肩の反対側へと移動する。
「白イタチだよ。僕の友達」
そこでぷ、とジャンが噴き出した。

今の笑いはなんだ。
「僕以外にはなつかないから、下手に手を出すと噛まれるぞ」
「ふうん。リシャール様、いいでしょう?僕は一人ですし、ラン伯のお城よりこっちのが楽しそうですよ」
尋ねておいてシャルルの台詞のほとんどを無視する。ジャンはリシャールの隣にすり寄った。
「ええ、いいですよ。盛りの猫みたいな誰かとは違いますから。落ち着いて食事ができそうです」
「へえ、なるほど、テーブルはひどい有様ですよね。さすが孤児」
シャルルはむっとしたまま、立ちあがるが。リシャールの手ががっしりと手首を捕まえていた。
「落ち着きのない子供は嫌いです。今食べなければ、食事はなしです」
「…」くそ~。
『ローランの風』マニア同士。気が合う二人。
長い銀の髪をさらりと揺らす美青年と、黒髪の小生意気な瞳をくるくるさせるジャン。
どうぞ、二人で宮廷風気障な騎士の恋愛物語でも大いに語り合ってくれ。リシャールも香水臭くてちょうどいい。
シャルルは話すこともなく、二人を無視してどんどん食べる。
アヒルの肉と豆を一緒に煮込んだ料理も、クレープに卵とハムを乗せて焼いたものも。パンも、ニンジンのスープも。どんどん食べる。
そして、食べ過ぎる。


「苦しい…」
部屋に戻ると、一人先にベッドにごろんと横になった。
「卑しく何でもかんでも食べようとするからです」
リシャールの嫌味も聞き流す。
確かに少し食べすぎなのだ。
眼を閉じ、静かにじっとして腹が落ち着くのを待った。

「シャルル?」
無視だよ、リシャールなんか。女剣士ミンヌはローランに夢中だ。
「もう寝ちゃったんですか?すごいですね」
なにがすごいんだよ、ジャン坊や。ラ・ステラの座はめでたくお前のものだ。
僕には『ローランの風』なんか分からなくて結構。
ロトロアがどこに何のために行ったのか、聞いたらきっと知らないのかって馬鹿にされるだろうし。でも聞きたいし。
くそー。
枕に顔を押し付けぐるぐると思考をめぐらせているうちに、本当にうとうとしてきた。
クウ・クルが顔のそばでごろごろと体を転がす。
くすぐったいな。

「……シャンパーニュ伯のお心はお決まりですか」
リシャールの響く声が夜の静けさに沁みた。
お心?
うっすら片目だけ明ければ、目の前は白い山。かすかに揺れるから、クウ・クルの腹だと気づく。山の向こうにリシャールが背を向けている。向かいにはベッドに腰掛けたジャンが変に大人ぶった様子で肩をすくめた。
子どもの癖に。
「もし、ブーローニュ伯のご提案が、ルイ九世を亡き者にし、王位を奪うなどという強引なものでしたら、迷われると思いますよ。ブーローニュ伯は、幼いルイ九世が継承するより、前王の弟である自分が継ぐのが正当だというお考えです。摂政になるブランシュ王妃を外国女呼ばわりするんですよ、シャンパーニュ伯ティボー四世様はいい気分ではありません」
シャルルはぼんやりとジャンが並べた名前を思い浮かべる。
ブーローニュ伯。ルイ八世の義弟だった。
ルイ九世。今度戴冠式をする新しい王様。ロイかもしれない。
ブランシュ王妃はカスティーリャ王の娘でロイのお母さん。フランク王国に嫁いできた。だから「外国女」なのか。
シャンパーニュ伯ティボー四世にとって愛しの王妃ブランシュ。思いを寄せるあまり、前王ルイ八世とは不仲だった。だから同じ立場のブーローニュ伯と親しくなった。だけど、ブランシュ王妃を巻き込むのは嫌なんだろうな。
会ったことはないけれど、シャンパーニュ伯がなんだか身近に感じる。
会えない誰かを、想いを伝えられない誰かを想い続けるのはつらい。
気持ちはよく分かる。

「ブーローニュ伯はルイ八世の異母兄弟。同時にコルベイユに呼ばれたブルターニュ公も同じ立場。双方とも外腹の子には代わりはありませんし、どちらが正当、というのも難しいところですね」
リシャールが飲み物をテーブルに置く音がする。
「継承権で言うなら、やはり多くの諸侯がルイ九世を支持しているようですよ。ブランシュ様は外国人ですが、これまでルイ八世の王妃として諸侯の信頼を得ています。このままブーローニュ伯に従うのは、実はシャンパーニュにとって良いことではないと、僕は思っています」
「そうですね。そのあたり、ロトロア様も十分ご承知でしょう。大丈夫です、ティボー四世様がロトロア様を必要とする限り、そのご判断は正しい結果を呼ぶはずです」
「はい。感謝しています」

「ルイ九世ってさ」
びく、と。シャルルが予想した以上に二人は驚き振り向いた。
「起きていたのですか」
「ルイ九世って、誰?」
二人とも口を開けて、うだうだとベッドに転がるシャルルを見ている。注目を浴びつつ獅子の子は腹を晒して一回転する。リシャールの視線はみっともない、と言わんばかりで、枕を抱えるシャルルを睨む。
「なんだよ?誰って聞いているのにさ」
ジャンは憐れみの笑みを浮かべた気がする。
リシャールが立ち上がった。
「シャルル、その件はお前が知らなくていい事です。ロトロア様との約束ではありませんか」
ロイに関して知ろうとするな。知れば殺す、話せば殺す。
ルイ九世の正体を知ろうとすることでリシャールがそう言うなら、ルイ九世とロイはやっぱり関係がある。

「誰って、変な質問だね」
ジャンが二人を見比べながら首をかしげた。
「ルイ九世はルイ九世、他の誰でもないと思うけど…」
「ジャン」
「リシャール様、そんなに神経質になるところではないですよ。いずれ、戴冠式を済ませれば各地に伝令がきますし、誰もが知るところでしょう?ルイ九世、故ルイ八世陛下の次男に当たり今年十二歳になられる」
リシャールが止める間もなく少年は自慢げに語る。遮られる前にと、シャルルは飛び起き、ジャンの隣に座った。急いだので枕は抱えたままだ。
「あのさ!ええと」
ロイって、呼ばれていた?と。喉まで出かかるが、あの約束が脳裏をよぎる。
ロイという名を声にするのは、ロトロアの前以外なかった。
「……お前のそれは、ルイ九世のことです」
呟いたのはリシャール。
その言葉を、待っていたのだ。
ルイ九世はロイ。
感激でシャルルは言葉にならず、上目遣いでリシャールを見上げる。

「なんですか、気持ち悪い。シャルル、私が言ったことはロトロア様には内緒ですよ。お前にそれを知らせれば、契約など無視してパリに向かうでしょう。だから、ロトロア様は黙っておられた」
シャルルはリシャールの言葉を聞いているのかいないのか、抱きしめた枕を相手にダンスでもするかのようにぐるぐると回り、自分のベッドにぽんと身を投げ出した。
驚いた白イタチが飛びはねて、部屋を駆け巡ったのでジャンまで思わず悲鳴を上げる。
「シャルル!」
「わかった!ありがとう!生きてたんだ!生きてたんだ!!!やったーっ!!」
良かった。
そう思うとこみ上げる何かが熱く目を潤ませる。
慌てて枕に顔を押し付ける。

金色の髪を振り乱したシャルルがベッドに突っ伏し、理解できないシャルルの行動を二人が見守ること、数分。
動かなくなった子ライオンに、リシャールが声をかける。
「シャルル?」
怪訝な顔でリシャールがのぞきこもうとすると、伏せたままの少女の足がばたばたと毛布を打った。
「わ、お前は!」
「あははは!よかった!リシャール、嬉しい」
満面の笑顔で飛びつく子ライオンから逃れられるはずもなく、青年はしっかり抱きつかれる。いや、元来リシャールは女性の抱擁を嫌がったりしない。
肩までの身長のそれをしっかり抱きしめ返す。
「嬉しいよ!教えてくれてありがとう!」
その心地がやはり女性、と変に納得している青年の内心は知るはずもなく、シャルルはもう一度ぎゅと力を込める。
同じことをジャンにしようとしたら止めようとリシャールがその肩に手を置く。

「あの、話が分からないのですが」
一人ジャンが首をかしげる。
「いずれ、私から話しますよ。シャルル、ロトロア様には秘密ですよ。お前が恩をあだで返すようなことがあれば、遠慮なく殺します」
「へ?」
あまりに普通に話すから、嬉しさが顔に張り付いたシャルルには青年の言葉は乾いたパンみたいに呑み込めない。
「お前はロトロア様のセネシャル。裏切るなら殺します」
リシャールの銀の髪が見上げた目の前にある。さらさらとまっすぐなそれの先にブルーの瞳。それは笑っていない。
本気だ。
「分かりましたか?」
シャルルは壊れた人形のように首をぶんぶんと振った。
「わ、わかった、わかったよ!教えてくれてありがと!」
慌てて飛び離れると、シャルルは足元に転がっていた枕を拾う。


白い綿の入った枕。
ロイと一緒に眠ったあの晩。大きな枕は半分こした。一緒に寝てくれる人がいるのを、羨ましいと言っていた。
あの夜以来、僕も一人きりで寝てるよ。
ロイも、今も一人かな。
ロイ。
生きて帰って、王様になるんだ。
良かった。

大切そうに枕をささげ持ったまま、そろそろとベッドに向かうと、もう一度抱きしめてシャルルは横になった。
僕がしたことでロイを救えたのなら。あの思い出も全部、幸せなものに変わる。
これで、僕は大人になったらパリへ行って、国王陛下に仕えるような立派な騎士になればいいんだ。
そうしたら、ロイに会える。


シャルルが無気味な様子でベッドにもぐりこみ、静かになったのを見届けてジャンがささやく。
「リシャール様、どういうことですか」
「いずれ話します。私が黙っているのには理由がありました。知らせたくないと願うのに、お前は強引にシャルルに知らせました。理由はどうであれ傲慢な行動でしたね」
「…す、すみません」
「ここに来たのもロトロア様の指示ではないはず。傍にいたいのなら、大人になりなさい」
はい、という少年の声は小さくなる。
「分かればいいのです。私は素直な子には優しいつもりです」
リシャールの笑みは変わらず。
だからこそ、ジャンはますます縮こまり大人しく床に着いた。
二人の子が寝静まっても、リシャールは一人、ワインを飲み続けていた。


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chachaさん♪

chachaさんに褒められて、ジャン、照れまくりです。
でも、大人ぶって中途半端なツンデレ状態(笑

シャルルの明るい未来想像図が、これからどうなるのか。
ロイの傍らで、笑っている~ああ、素敵♪

じっとしていられるシャルルでは。
はい。

そこが、彼女の良いところでもあり…
ふふふ。
どんなことになるのか~。
お楽しみに♪

テンプレ、小説用もよかったんですけど、さびしい感じのが多いので、華やかにしてみました♪
似合ってます!?
嬉しいです~!
目次とか、「次へ」みたいなものがきちんとできているのか、もう一度確認しなくちゃです…。
リンクも、以前のは消さずにしまっておいて、新しく作ろうかと…。
いろいろと、手間がかかりますね~(^^;)

おお~^^

シャルル、良かった!良かったね~!
もう嬉しい気持ちがすんごく伝わってきたよ~~><。
うんうん、良かった!ロイ、生きてた!
シャルルと別れたあの雨の日のこと。またロイから話してくれる時があるのかな?
その時はきっと、シャルルもロイの傍にいて。笑い話にでもなってたらいいなぁ、なんて。

ジャン、よくやったな!リシャールだけじゃ絶対知りえなかった情報だから、今回のことはよくやったぞ!^^
でも…シャルルのことを悪く言うから、まだ心許さないもーん! ←

うん。でもシャルルですよね、シャルル。
このまま大人しく…してるかなぁ?^^;そこが心配だったり(笑)

また来ます♪

※テンプレ変わりましたね♪可愛くって、らんららさんのイメージにぴったりです^^

kazuさん♪

はい~♪ロイくんを、あのまま死なせちゃうことは私にもできなかったのです(いくら冷酷な作者とはいえ…笑
今は、はしゃいでるシャルルですが♪うふふ。
再会、できるのかな~^^

リシャールはロンロンと対比させたい人物なの。実際、シャルルが一番苦手とする類です。それなりに魅力的にしたいな、うふふ~(←なにか企んでいる

とにかく。ロイとの再開に向けて、シャルルはまた、走り出しますから♪見守ってやってください~♪

藤宮さん♪

おお~!!(←コメントより先にジャンくんを拝んできた)
可愛い!!可愛い~!
ありがとうございます!!v-344
シャルルより可憐だわ♪

ジャン:「当然です。藤宮様はよく分かっていらっしゃるv-392
リシャール:「……」
シャルル:「何、声ださずに笑ってるんだよ、不気味だなっ!」
リシャール:「いえ、可憐とお前が結びつかなくて」
シャルル:「……v-359
↑再び戦いの幕が…?

彼らの反応はともかく。早速、いただきますっ!

リシャール。シャルルにとっては敵になりえますからね~v-390
どう出るか…。とにかく、今のシャルルは突っ走るのみ、です♪(もともと慎重な性格じゃないので…^^;)
何が起こるのか。うふふ。お楽しみに~♪

花さん♪

うふふ~♪
シャルル、舞い上がっております♪ジャンの活躍、これがもたらす結果は~今は秘密♪
あらゆる意味で、シャルルも、ジャンも活躍予定です~!

良かった!!

ロイくんは、生きてたんですね^^
何よりも幸せなその事実に、リシャールさんに抱きついちゃう気持ちが分かります~♪
でも、ジャン君にしないでよかった^^
女の子ってばれちゃいますもんね。
でも、リシャールさん、確かにロンロンより怖いかも。
静かに怒る人って、感情のままに怒る人より怖いですよね。
続き、楽しみにしてます^^

喜ぶべきか…それとも

シャルルちゃんにとっては、嬉しい事実!
ですが何かひと波乱ありそうな予感が……するのは私だけでしょうか?

何にせよ、事情を知らないジャン君の言葉で、別れの日からシャルルちゃんの心に引っかかっていたのもが取れたのだから、ジャン君なかなかいい役どころ♪

しかしリシャールさん……状況によっては、本気のロトロアより怖いかもと思う藤宮です。

これから何が起こり始めるのか。
じっくりこっそり追いかけさせていただきますね♪


……あ、そうだ、えーと、実はですね……。
勝手にお約束した(と思っている)ジャン君のイラストが完成しました~。
前回と同じように、URLに貼り付けておきますので、もしよろしければご覧ください。
……いろいろ突込みどころ満載なので、何これと思われましたら、ひと思いにばっさりとやってやってくださいな♪

ふふ、無邪気なシャルルちゃん、可愛いw
小生意気なジャンの坊っちゃんも、まぁ結果的にはいい働きをしてくれた訳で。
盛り上がってきましたよ~^^
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