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『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑩

『Laon ‐ランの風は苦く‐』

10

パチ、と薪が乾いた音を立てる。暖炉の火を脇に置いて、小さな部屋はぬくぬくと温まっている。シャルルとジャンは近くの村の宿に泊まっていた。
決闘騒ぎのおかげで時間をとり、森を抜けたところで日が暮れてしまったのだ。ひと山越えた先はランスだが、夜中に出歩く場所ではない。
お小さい騎士様と呼んで、宿の主人は二人を喜んで迎えてくれた。
かまどに置かれた鍋が何かコトコトと美味しそうな音を立てる。夜になり冷え込んだこの山間の宿は、主人と女将さん、シャルルたち二人だけの静かな夕餉時を迎えていた。
「お二人も戴冠式を見物に来たんですかい?この辺はまだ少ないけんど、山向こうの村じゃ見物の貴族様や司祭様が大勢きているんでさ。その人たちにいろいろ売りつけようってのか、ランからの商人も来ているくらいでさ」
鼻の赤い主人はウズラの羽をむしりながら、カウンター向こうの厨房から声をかける。
「はい、そうです。僕らもランから来たんですよ」
「もしかしたら、新しい王様のお顔を見られるかもしれないから、ね」
ジャンとシャルルが夢中になってかぶりついている鶏肉から顔を上げる。子供らしく派手な勢いで腹を満たす二人を、主人は面白そうに眺めていた。
「おや、ピクルスが残っていますよ、ちょっと育ち過ぎてるけど、柔らかくてね、美味しいんだよ。肉と一緒に食べればどうです」
女将さんがそう言いながら、二人にオレンジのジュースを注いでくれた。
「あ、ありがとう」言いながら、ジャンは密かに苦手な野菜をさらに遠くへ。ちらと見れば、シャルルは早速肉と一緒に、を実践している。
「うん、美味しい。ジャン、食べ物を残すのは悪いことだぞ」
シャルルは修道院育ちだ。
「う。でも、苦手ですから」
「お前、お父さんを亡くしてるだろ。お父さんだって女将さんと同じこと言ったと思うぞ。僕は両親の顔を知らないけど、いつもそう思って食べてる。どんなものも、お母さんが作ってくれたんだと思えば残すなんてできない。僕らが食べるもの着るものは全部、誰かがお母さんやお父さんの代わりに僕らに与えてくださってるんだ」
感謝の気持ちは修道院で学んでいる。

ジャンが床に届かずにふらふらと揺らしていた足を止めた。しばらく無言でシャルルを見つめ、それからおそるおそるピクルスを口に含んだ。
結果は芳しくなかったらしいが、柔らかいパンと肉を詰め込んで、何とか飲み込む。
その姿が可愛らしかったのか、女将さんがジャンの頭をなでた。
「後で美味しいはちみつ煮を出してあげるよ。今年のいちじくはいい出来でね、とろっとね、甘いんだよ」
それにはシャルルもごくりと唾を飲み込んだ。


「着替えるなら向こうでお願いしますよ」と。ベッドで寝転んだジャンがシャルルを睨んだ。
「いい、このまま寝る。はちみつの匂いがしていい感じだ」シャルルが服をつまんでクンクンとにおいをかぐ。嬉しそうにそれにまとわりつくクウ・クルも同感らしい。
「美味しかった。なんだか、その」ジャンもどう形容しようかと、寝転んだまま空にあげた手をもよもよさせる。
「感謝しろよ、ジャン。はちみつなんて高価なもの、きっと、ものすごく大切に取っておいたんだと思う。修道院では一年に一回の、大聖堂の降誕祭の時しか食べられないんだ。しかも一人一口ずつ、子供らと分ける。貴族様と僕らは、それこそ天と地くらい違う」
「……僕じゃないですよ、シャルル。女将さんはきっと、シャルルに食べてほしいと思ったんですよ。さっき、聞いたんです。ここの息子さんはシャルルと同じくらいの歳で、ロトロア様のルジエへ、徴兵に応じるために旅立ったそうです。ときどき、手紙が届くって」
「ふうん」
「案外、いい人なんですね」
「その息子が?」
「違う、君が」
「……悪い奴じゃないと思う」
他人事のように呟いて、シャルルは照れる。
「偶然知り合ったのが、王子さまだったなんて騎士物語になりそうな出来事です。すごいなぁ。それでロトロア様がセネシャルにするんでしょうし。どうして君みたいな出身の子がって、ちょっと嫉妬しましたけど。分かりました。シャルルが前に馬上槍試合の後に言っていましたよね。王様のオマージュを受けるって。あれ、本気なんですね」
ジャンは横になり枕を抱いたまま、シャルルをしっかりと見据えている。
差し障りのない略し方をしたシャルルの説明に納得している様子だ。ロイと出会って、別れた。だから会いたい。それは、言葉が足りないとしても真実に違いない。
シャルルは自分のベッドに腰掛け、足をふらふらと揺らした。
ランプの明かりにその影は長く伸び、床でシャルルの靴に噛み付いて遊んでいた白イタチは驚いてシャルルの背中によじ登った。
「うん。本気だ。ラン伯をごまかすためじゃなく、子供じみた夢でもない。僕は、ロイの役に立てるセネシャルになる」
「シャルルなら、できるかもしれません。その、セネシャルじゃなくても」
印象に残る容貌、大きな瞳。それなりに女性らしい、いやどちらかと言えば綺麗な部類に入るだろう、目の前のシャルルをジャンはじっと見つめていた。大人になって着飾れば、どこの貴婦人にも負けないかもしれない。
「シャルルなら、王様に愛されるかもしれない」
あははと。笑ってシャルルはごろんと横になる。
「無茶言うな。身分が違う。僕はロイを護る、それでいいんだ」
「……ロイって呼ばれていたんですか」
「うん。王様の子供って意味らしいよ。本当の名は明かさなかったんだ。そりゃそうだよね、今考えればさ。王子様なんだ、正体が知られれば影響する人も大勢いるし」
知ってしまうことで、命を落とす人もいる。
「よし!そう考えれば、明日は早朝から出るぞ!御到着を見なきゃならない!寝るぞ!ジャンも早く寝ろ」
シャルルは慌てて自分のベッドにとびつき、あっというまに毛布の下。
姿が見えなくなる。
ジャンは「ふうん」と少し笑うとはみ出したミモザ色の髪を見つめた。


早朝の風はひやりとし、晩秋の匂いをさせていた。
二人は宿を出るときに女将さんにもらった焼き栗を腰につけ、ときどきつまみながら馬を歩かせる。街道はぼつぼつした田舎道から、村の境を抜けるたび整えられていった。
ランスの石畳と同じ道になった時には、山を越えた二人の目の前に麦畑と牧草地、緩やかな緑の海が広がった。
「ああ、懐かしい!こんなに、綺麗だったんだな」
シャルルがつぶやく。
「ここがランスですか?」
ジャンが首をかしげるから、シャルルは笑った。
「違うよ。ここは手前のコルベニーの村。すごい昔はね、ここに王宮があったんだってさ。ノルマンが責めてきた時に当時の王都は移動したから、残ったこの土地は聖マルクールの修道院に譲られたって話。聖マルクールって病気治療をした聖人で、だから、今は病気の人を治療する施療院に変わってる。丘の上にそれ、見えるだろ。その向こうの森と山。あの森を抜けた先に修道院があって、そこを抜けるとランスの街。山の断崖が街を護っているんだ。僕の育ったラエル修道院はその門番みたいなものなんだ。ああ、すごいな、森の手前まで人が列を作ってる。僕らも…」言いかけたところで、シャルルは遠く街道から右にそれた川岸の。あの水車小屋を見つけた。小さい丸は流れに合わせて回っている。
ぎゅ、と唇をかんだ。
「行きましょう、シャルル。早く並ばないといい場所が取れない」
「ああ」
進み出した二人の後ろから、大仰な馬車の一団が走ってきた。黒い馬を二頭付けたそれはいかにも貴族の乗り物らしく、シャルルたちは道の端によけた。
「だんだん集まってきますね」
「すごい勢いだな、式典に出る立場の貴族かな。皆よけるし、あの馬車の最後尾にくっついて行こうか」
「悪賢いですねぇ、シャルル」
「悪が余分だよ」
シャルルはロンフォルトを馬車の隊列の最後尾に寄せた。ジャンもそれに続く。
一番後ろを走る衛兵がじろりと振り返った。
シャルルはにっこりと笑って、「ごきげんよう」と声をかける。
「離れろ、貴様ら!」
怒鳴られた。
「なんだよケチ」
「シャルル、まあまあ」
ジャンになだめられ、シャルルは衛兵を睨みつけながらロンフォルトを少し遅らせる。
あっという間に馬車と騎士の一団は人ごみを掻き分け小さくなっていく。

「なんか、北の訛りだったな」
「ノルマンディー辺りからでしょうか。国王の戴冠式ですから、あちこちから大貴族が集まりますし」
「偉そうだな、ちょっとくらい、いいのにさ…?」
かりり。
腹の辺りがカリカリ言っている。
焼き栗の匂い。香ばしい。
「!?あ、クウ・クル!」
白イタチはしっかり栗の袋をベッドのようにして、腹はぷっくりと膨らんでいる。シャルルの膝や鞍には栗の殻がぼろぼろとこぼれていた。
「お前!全部食べちゃったのか!」
怒鳴れば、イタチはピクリと抜けだし、ぴょんと隣のジャンの馬に飛び乗った。
「わ!来るな、僕のはあげませんよ!」
ジャンが慌てて追い払おうとする。クウ・クルはシルベルトの頭まで駆け上り、ゆらゆらと踊るように身体を揺らしていたが、ふと顔を背けるとたてがみにぶら下がった。そのままずるずると馬の足元へ向かい。
「クウ・クル!」とシャルルが叫んだときには地面に降りていた。
そのまま、走り出す。
「ああ!イタチが」
向かう先があの水車小屋だと感づいて、シャルルは追うのをやめた。
「ごめん、逃げ出しちゃった」ジャンが申し訳なさそうに焼き栗をひと掴み、シャルルに差しだした。
「ありがと。いいよ、あいつにとっても故郷なんだ」
あの晩。ロトロアが言った。野生の生き物を飼うのは、身勝手だと。
もしこのまま会えなくても。クウ・クルならちゃんと生きて行ける。もう立派な大人なんだ。
「探さなくていいんですか?親友だって言ってたのに」
言いながら、ジャンは栗で口をいっぱいにしているから、緊張感はない。
「いいんだ。あの水車小屋、あそこで遊ぶのが日課だったから。たぶんそこに行ったんだよ」
「ふうん」
ジャンも水車小屋を少し眺め、栗で汚れた手をパンパンとはたくと再び手綱を握る。

このあたりに来ると、街道は人が増えて、シャルルたちも思うように馬を進められなかった。歩く人、馬車、馬。結局人の歩みに合わせた速さで行列は森へと吸い込まれていく。列の先を眺めて、シャルルはため息をついた。
「長いなー」
のんびりしたロンフォルトの振動は、温かくなりつつある日差しの下、眠気を誘う。ふあ、と伸びをした。畑の麦は、半分くらいは刈り取られている。まだ濃い茶色を波打たせている畑もある。一軒では大変だから麦刈りは共同で行う。懐かしい、麦を積んだ馬車。今農夫が麦の入った麻袋をドンと積んだところだ。駆り終わった畑を牛が犂を引いて、ゆっくりと耕していく。
がっしりした農民が同じ歩調で進んでいく。
ふ、と。ロンダを思い出す。
仔牛を見せてくれたことがあった。
黒い牛は目も真っ黒でつやつやしていた。額に白い星印があったから、シャルルが「こいつはエトワール(星)だ」と決め付け。結局それがそいつの名前になった。
それに、今見つめる牛は似ている。
あれ?
ふと、牛に付き添う男と目が会った。
何気なく視線を大勢の行列に流して、男は再び牛を見やり。止まる。
改めてシャルルを見上げた。
ロンダの、お父さんだ!
シャルルは目がそらせない。
「どうしました?シャルル」
ジャンの声を聞きつけ、「シャルル?」と男の口元が動いたように見える。
「シャルルじゃないか?」
男の声が届いたときには、無意識に離れようとシャルルは馬を急がせる。トンと脇を叩かれた馬はシャルルを乗せたまま、列の先へ奥へと足を速めた。
「ちょっと、シャルル!」
驚くジャンの声。振り切ろうと心は急くのにまた三人連れの騎士がのんびりと前を並んで進む。それは横に広がり道を塞ぐ。
「シャルル!」
ジャンは今呼んだのが自分だけでないことに気付いた。
目の前を横切る男に慌てて手綱を引く。見知らぬ男がシャルルの馬にすがり付いていた。
「シャルル、シャルルじゃないか!?」
手綱をつかまれ、仕方なくシャルルは馬をとめた。
人と馬が川のように流れる中。二頭の馬と男を挟み、周囲の人々は迷惑そうにそこを避けて進む。その中で何とか降り立ち、ジャンは「とにかく、こっちへ」と馬を引いて街道の脇へ抜け出た。
シャルルは凍りついたような表情で馬に乗ったまま。男はその手綱を横から握り締め、シャルルだろう?と繰り返す。
馬から降りれば男はジャンよりずっと背が高い。
「貴方は誰ですか?騎士の手綱を掴むなんて失礼でしょう」
ジャンの言葉に振り返り、男はしぶしぶ手綱を放した。
「シャルル、君も降りた方が」ジャンの言葉を聴かないうちに、シャルルはとん、と降り立った。
「シャルル、やっぱりそうだ!お前はあのシャルルだろう!ロンダを覚えているか!俺はニルセン、お前の許婚だったロンダの父親だ」
ジャンが顔をこわばらせたのも無理はない。シャルルに許婚がいたなど初めて聞いた。



「じゃあ、シャルルは二年前から行方不明だったんですか」
言いながら、ジャンは手元の茶を眺めた。隣に座るシャルルは黙り込んで、今にも消えてなくなりたい様子をしている。
ごく普通の農民の家。木を組み上げた梁に、漆喰の壁。足元は土がむき出しになっている。それでもこのあたりの農民の中では豊かな方なのだろう。部屋の奥には家人が住むための部屋がいくつかあるように見える。窓辺にはハムやニンニク、家畜の餌になるトウモロコシが干されている。
二人の前にも、干した杏が置かれていた。
ロンダの父だというニルセンはそれに客より先に手を伸ばし、がつがつと二つほど口に入れ、一気にワインを飲み干した。
「そうだ。あの夜はひどい雨だった。そんな夜に、息子は修道院を飛び出したというシャルルを探しに出かけたんだ。お前はいつも水車小屋にいた。だから、きっと、水車小屋にいると思ったんだ、ロンダはそこに向かった。ランスでは大聖堂に賊が入り込み衛兵が殺されたり、聖堂参事会役員の馬が盗まれたりした。シャルルはその賊に誘拐されたと後になって修道院の人に聞いた。ロンダはお前を助けようとしたんだろう。それで、賊に歯向かった」
賊。
ジャンがそれは、と疑問の視線を投げかける。シャルルは、じっと膝の上で握り締める拳を見つめていた。

「シャルル、お前さんが生きていてくれて、俺は本当に嬉しい。ロンダが、あの時どうして殺されなきゃならなかったのか。教えてくれ。何があったんだ」

ニルセンの、冬の空のような瞳を見返すことが出来なかった。
あの時ロンダは。僕を助けようとした。確かに、そうだ。
僕は。じゃあ、僕は。
ロイを、助けようとしてた。
ロイがあの水車小屋にいるはずだった。なのに違った。どうしてそこに、ロンダがいるのか。分からなかった。
ロイと約束したのに、どうして、ロンダなんかがいるんだ、って。
僕は。
あの時のロンダに、感謝出来なかった。

ふと、手が握り締められていることに気付いた。
ニルセンが冬の空色に涙を浮かべて、見ている。それはたった一人の息子を失った、悲しみに溺れそうになっている、だから救ってくれと訴えている。
ぽつ、と男の涙がシャルルの手に乗り。

シャルルは、唇を噛んだ。
「ロンダは」
「ああ、あいつは優しい子だった。いつもお前のことを気にしていた。仲良くしていたんじゃないか?お似合いだった。お前のためにと、無理してあんな高いドレスまで買って、あいつ、俺に何年かかっても返すから、きっちり働いて返すからと」
あれを。
僕は。
シャルルはゆっくり、力強く握り締める手を引き離した。
追いすがろうとする男の手はザラリとした感触で、シャルルの罪悪感を掴み取る。
「あの、ロンダは僕を助けようとして。殺されました」
結局。それしか、言えなかった。
そんなことは、ニルセンも承知のこと。けれど。
「誰が、殺したんだ!剣で一突き、あれは、あれは誰の仕業なんだ!お前は知っているんだろう!?」
「し、知らない。知らない、でも。ロンダは僕を助けようとしたんだ。それで、騎士に」
「お前は今、どうしているんだ。こんな立派ななりをして、騎士見習い、か?孤児のお前が、どうしてだ?あの時の騎士は、誰なんだ」
「あの、待ってください、ニルセンさん。シャルルにも、その。準備が」
ジャンが掴みかかりそうなニルセンを抑えた。
シャルルはもう。涙を抑えられなかった。
泣き出したシャルルに、ニルセンは「あの子を殺した奴を、教えてくれ」と。お願いだと頭を下げた。
「シャルル、修道院じゃお前さんが賊をランスに導きいれたと、そういってる。子供のことだ、騙されたり利用されたりしたんだろうと、そう言われている。そうなのか。お前がそいつらを修道院の検問を通し、大聖堂に導きいれたのか?」
そんなふうに、なってるのか。
シャルルは目を擦った。
あの時、ロトロアの行動を大聖堂も修道院も見過ごした。それを問われ、僕の過ちに仕立てて誤魔化したのか。
ひた、と。胸の奥に冷たい泉を感じる。暗い心の底には覗き込みたくもない淀んだ水。痛みなのか懺悔なのか。
ロンダの真っ直ぐな思いも、僕がロイを助けようとしたことも。
そんな風に、嘘で塗り固められているんだ。
ランスを守るため、ロイの存在を隠すため。僕が悪者に、なっているんだ。

シャルルは置かれていた茶の入ったカップを握り締めた。
一気に飲み干すと、音を立ててテーブルに置いた。

「僕は。今は、その時の賊に雇われている。騎士見習いにしてくれたんだ。僕は、小さい頃から騎士になりたかった。だから、ちょうどよかったんだ。ロンダと、結婚するつもりなんかなかった」
ずし、と。衝撃にシャルルは床に転がっていた。殴られたと認識すれば痛みが頬を焦がす。
反射的に体を起こすと鼻血が胸元に落ちた。影がさし。
「やめてください!」と叫ぶジャンの背中。その向こうには。
生まれて初めて受ける憎悪の視線。男は叫んでいた。
「お前は、あの子のことを!なんだと思っていたんだ!小娘が!お前が賊を引きいれたんだ、お前のせいだ!生意気なガキが、お前なんかのために、あの子は、あの子は!」
制止しようとするジャンを押しのけ、男が殴りかかった。シャルルはそれを冷ややかに見上げている。
そう、余裕を持って避けた。
大きく振りかぶった男は反動で地に膝をつく。
「本当のことだから。僕は結婚なんか考えてなかった。ロンダは嫌いじゃなかったけど、僕はこの家を継ぐような人間じゃない」
ロンダを幸せに出来るような、人間じゃない。
優しいロンダには、もっと大人しい可愛らしい子が似合うんだ。
僕は。
あの時、自分の無力に泣いた。ロンダを救うことも、ロイを助けることも出来なかった。
「力が必要なんだ。生きるために。だから僕は騎士になる。例えそれが、憎い相手に従うことになっても」
立ち上がるシャルルの足元、ニルセンは拳を地に打ち付けた。
「出て行け。お前など、ロンダの代わりに死ねばよかったんだ!」



「あの」
街道を人混みに紛れ進み始めると、ジャンが口を開いた。
シャルルは黙って前を見据える。
「賊って、……ロトロア様、ですか」
返事をするつもりはない。
溜息を横に聞きながら、シャルルはただロイに会えることだけを。ロイが無事であることだけを祈っていた。

人の列が先ほどよりずっと長くなっていた。陽が中空に昇る。昼前には国王の一団が到着する。
「急ぎましょう、シャルル」
ジャンの言葉に、シャルルはちらりと視線を合わせる。その目が赤いから、ジャンは何も言わずに馬を急がせた。


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藤宮さん♪

いらっしゃいませ♪
勢いのまま展開した第一話。ゆえに、作者のこのていたらくのツケをシャルルが背負ってます(笑

いや~。ランス。
戻れば多くの問題が待ち構えていること、分かっているのに。戻っちゃった(^^;)
何を解決し、何を新しく展開させるか。
随分悩みましたが~。

まず、最初にロンダ、いい子だったロンダのことを振り返って見ました♪
タイトルどおり、まだ全体から言えば序盤。
じっくりゆっくり、進んでいきます♪

kazuさん♪

そうなんです…第一話のあの事件。なかったことには出来ない人もいるので…ここで向き合っておかないといけないかなぁと。
そうっ!
ジャンの存在が救いなんですよ~!
実は最近はジャンにほれ込んでいる私(←浮気もの)
ロンロンとは違うかっこよさを、12歳の少年に求めようとする女です。

いつか。いつかハッピーエンドです。(いつかを強調…^^;)
楽しい冒険、にはなってませんが(笑)
楽しんでいただけるといいなぁ~♪

終わらない…のかな

ランスに向かうということは、シャルルが置いてきたままになってしまった現実に向き合うということ……。
単純ではない。
だからこそ失ったという事実は新たなる憎悪を生み、嘘で塗り固められた真実が痛みをもたらすのでしょうけれど……。
辛いけど、苦しいけど、シャルルちゃんはそれでもロイに会いたいんですね。

守りたい、それだけの想いを果たすために、シャルルはどれだけの時間と困難を越えなければならないのか。
簡単ではないけれど、シャルルちゃんならきっといつかは……と思わずにはいられません。

ちょっとしんみり。
でも、今後に期待してまた追いかけていきますね♪

あぁ……

すべては、終わったことじゃなかったって、なんだか胃にずしりときました。
殺されてしまった人達と、その家族にとっては、時はそこで止まったままで。
めまぐるしくいろんな事が変わっていったシャルルにとっては、過去になっていっているとしても。
辛いですね。
ジャンくんがいてくれてよかった。
これ以上、嫌な事がなければいいな。
ロイくんにちゃんと、会えますように。
シャルルに、幸せが待っていますように。
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らんらら

Author:らんらら
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