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『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑪

『Laon ‐ランの風は苦く‐』

11

街道にはランスの衛兵らしい姿が立ち、ぞくぞくと集まってくる人々を誘導し始めていた。
途中、通りかかった水車小屋。
ジャンはじっとそちらを見つめた。
シャルルが、目を背けたいのは分かる。
小屋の扉は開かれていて、通りを進む群集を小さな子供が口をあけて見つめていた。二年前のシャルルを見るようで、ジャンも目をそらした。
シルベルトの耳がぴくりと普段と違う動きをした。
「?」
つるりと白い何かが昇ってきた。
「わ!?クウ・クルか!びっくりした」
白イタチは悪戯そうな目をぱちくりさせ、ジャンの目の前で気持ちよさそうに寝転んだ。
「お前…いい身分ですね」
ピクリと顔だけ上げてこちらを見る。思い出したようにイタチはシャルルの方を見つめた。
飛び移るには少し距離がある。ジャンは抱き取ると馬を寄せ、シャルルの目の前にトンと親友をプレゼントする。
「クル…」
それは首をかしげ、それからいつものようにシャルルにすがり昇ってくる。
抱きしめ、シャルルはすん、と小さく鼻をすすった。


森の中は色を変えた葉を黒く湿った土に積もらせ、枯れた木立の間を抜ける日差しがそれを温める。街道沿いは落葉しない木々が並び、それが作り出す日陰で冷やりとする空気も、何か厳かな雰囲気をかもし出す。自然と人々も口を閉ざし、静かに進んでいく。時折、子供が甲高くしゃべる声、馬が鼻を鳴らすのが聞こえるくらいだ。
木漏れ日を浴びながら、ジャンはゆっくりと山道を登っていった。
「ここが、君の故郷なんですね、シャルル」と。言いながらジャンは手を伸ばしシャルルのケープについたフードをすっと被せた。
「かぶっていた方が、いいでしょう?」
「……ありがとう」
「リシャール様から聞きましたよ。リオン・ド・リタって、呼ばれていると。僕もそう呼んでいいですか」
「うん。僕も、そう名乗る」
獅子、そんな強い名前が、今はわずかでも勇気をくれる気がした。

森の中きょろきょろ見回すジャンと対照的にシャルルはひたすら目の前の地面を見つめていた。
見覚えのある建物、石造りの門。どれも今は見たくない。
道に歩く人々も、もしや知っている人だとしたら。
シャルルは人々の顔見ないようにうつむいていた。

「かなり、登るんですね。紅葉が綺麗だな」
シャルルが今、ただ一人信頼する人間。ジャンがのんきに空を見上げた。
「そうだよ、自然の要塞なんだからさ」
「要塞?修道院が門番がわりなんですか?」
「そう、だから僕は小さいころから体術を習っているんだ。今度から喧嘩するなら覚悟してからにしろよな」
シャルルの声も少しだけ元気が現れる。

それも修道院の前で馬を降りたときにはまた姿を消した。
うつむいて進むシャルル。少年の服を着、フードを目深に被っていれば誰も気付かないのかもしれない。
修道院の門を左右から見守る修道女たちは、じっとしたまま人々を穏やかに送り出す。その中にシャルルがいることなど、気付かないようだ。
気を使ってくれるのか、二頭の馬をジャンが曳き、ときどき後ろを歩くシャルルを振り返る。大勢の人に紛れ、二人は街への小道をゆっくり進む。
建物の角を過ぎれば一気に広場が目の前に広がった。
「わ、広い」ジャンが思わず呟いた。
ざわざわとした人声と屋台の店が並び、香ばしい食べ物の匂いが漂ってくる。
ランスに入った者は皆、そこで一度立ち止まる。閉ざされた感のある森を抜け、荘厳な修道院を抜けた先に広がる明るい広場は別世界を思わせる。シャルルは日差しが眩しいふりをしながら何度もごしごしと目を擦り、湿ってしまった目と心を奮い立たせた。
「うん、広いな」
背が伸び視界が変わったことで、見えるものも増えたのか、感じることも増えたのか。ランスの街は賑やかで、記憶にあるよりずっと色鮮やかだ。
何も持たない孤児には無関係だった宿屋や酒場、野菜売りや市場の屋台。今は心をくすぐり煌いて見えた。連なる家々の屋根、三角に尖りレンガ色の層をなして向こうまで広がっている。こんなに広い街だっただろうか。
広場の先にまっすぐ伸びる街道沿いには、聖堂の衛兵たちが並んでいる。誤って道の真ん中に出てくる子供をなだめ、道の端にと促す。
それでも時折、ふざけた子供たちがきゃあきゃあ笑いながら通りをわざと横切って渡る。
そこに貴族の馬車が走り、慌てて衛兵は子供たちを引き寄せた。
振り返ればまた新たな馬車がまた到着し、街道を大聖堂めがけて進む。カラカラと車輪の音を石畳に響かせる。
「まずは馬を預けてきましょう。何とか国王陛下の御到着には間に合ったみたいですよ。宿はどこがいいんですか」
ジャンの問いに応えられる経験はないが。顔を覚えられていると困るから、通りの奥にある知らない店を指差した。
「部屋が空いていればいいですけど。…大丈夫ですか」
「ああ、平気。僕がここを出たのは二年前なんだ。事件があって、ロトロアと一緒にここを出た。一連の事件の後で、僕は」
シャルルは鼻を鳴らす馬に手を当てた。ロンフォルトは優しい馬だ。主人の気持ちを良く分かっている。すり寄るように顔を向けるのは、慰めてくれているから。
「僕は、自分がランスでどう扱われているのか分からなかった。罪を背負って追い出された罪人かもしれないし、誘拐された可哀想な子供なのかもしれない。僕は、あの時僕の身に起った現実しか知らない。だから。ほら、ニルセンさんの言ったように。僕は帰らないほうがよかったんだと思った」
「……その、ひどく抽象的な説明で、僕は我慢しなくちゃならないのですね」
ジャンの言葉にシャルルは顔をあげた。
年下の生意気な騎士見習い。鼻もちならない、でも頑張っている奴だ。
まっすぐシャルルを見ていた。いずれ応えるべきなんだろうと思える。
「いつか、話すよ」
「子供だと思っていますか?僕は今、二年前のシャルルと同じ年齢ですよ。君が耐えられたなら僕だって大丈夫です。受け入れられる」
ぶ、と。シャルルは噴き出した。
「馬鹿だな。僕が今はっきり口にしないのは巻き込みたくないからだよ。あのとき僕は、ロンダを巻き込んで死なせてしまった。後悔しているんだよ、ずっと。リシャールも、多分ロトロアも、すべてを明かさないには理由があるんだ。自分のための場合もあるし、相手のための場合もある。そこを信じて聞かずに待てるのが、大人ってもんだよ」
口にしながら違和感は随分ある。それをジャンが言い当てた。
「君に大人なんて言葉聞かされるとは思いませんでした」
「ほんと、僕も今初めて使ってみた。いい響きだな。ブリュージュでは僕が最年少だったからなぁ」
「何を悦に入っているんですか、いいです。待ちますよ。僕も大人だから」
聞かなくていい事がある。知らなくていい事がある。
知ってしまったら、忘れることはできない。
そう、あの時ロイが忠告していた。
今ならその意味が分かる。だけど。ロイのことを忘れたいなどと考えたことはない。
「じゃあ、君は当分リオンのままなんですね」
「そうだな。僕はあの時やり残したことを、心残りになっている一つを解決できると思ったから。ここに来たんだ」
ロイが、生きていてくれたら。
たとえば今更。僕が巻き込んだロンダが帰ってくるわけじゃない。僕が修道院に帰ることもできない。だけど、ロイが生きていてくれたら、少しだけ救われる。


宿に疲れた馬を預け、二人は早速大聖堂へ歩いて向かった。
すでに人があふれ、大人も子供も商人も農民も、見たことのない王様を待ちわびている。
戴冠式第一日目はランス大聖堂への入城の儀式。
今夜は大聖堂でにぎやかな祝宴が開かれる。
先ぶれの一団が到着し、道を清めるためなのか可愛らしい少女が二人先頭に立ち、白い花をはらはらと撒きながら踊るように進んでいく。それを見ると、通りにはみ出していた子供たちも慌てて道を空けた。無邪気に振りまかれた花を拾って、大切にしまいこむ少女、もう一度行列に向かって「えいっ」と投げ返す少年。
白い羽飾りをつけた馬が列を作り、赤や黄色の衣装の衛兵が大きな王国の旗を掲げて行進する。ユリの紋章が並ぶ旗は昼前の日差しに揺れ、槍の穂先が眩しく輝いた。
「国王陛下!」
「国王様」
「ルイ様ぁ!」
口々に声援が飛び、いよいよ馬車が見えてくる。歓声は高まり、この田舎のランスにこれほど人がいたのだろうかと思えるくらい、人が街道にひしめいていた。
立派な白馬を二頭立て、周囲には衛兵が青いマントをなびかせ、護るように並走する。
近衛騎士団。「王の騎士」たちだ。ロイを護るならああいう役もカッコいいなと。美しい騎士たちに自分の将来像を重ね、シャルルは一瞬我を忘れた。
「国王陛下!」
すぐ隣でジャンが叫び。
その声にびくりと目的を思い出す。
「ルイ様!」
シャルルも声をあげる。隣の男に肩を押され、よろめきかけるが、ジャンが支えてくれた。
おお、と。馬車の目の前の集団からどよめきと拍手。ますます高まる歓声。
ルイ様が姿を見せたのだろうか!
シャルルは精一杯背伸びし、まだ目の前までたどり着かないそれを懸命に見つめる。
馬車の窓、振動と風に合わせて揺れるカーテンが白いベールを脱ぎ。その奥の姿を垣間見せる。
少年、だ。馬車の中の暗がり、髪の色や服装は判らない。にこりと微笑み、手を振る。それは、ロイなのか。記憶にある顔はもっと幼かった。
「ロイ!?」
思わず叫ぶ。もっと、前に、もっと近くに。ちゃんと、顔を見せてほしい!
こちらを見て、僕はここに。


風に舞う花が白い影となって視界を遮った。
人々の歓声は森のざわめきのように風に溶け意識から遠ざかり。シャルルはただじっと、馬車の中の姿に目を凝らす。
煌いた馬車はゆっくりと目の前に差し掛かる。風にフワフワとレースのカーテンが揺れ。ああ、もっと、ちゃんと見せてほしい!
シャルルはじりじりと前に進み。気付けば一番前。
「ルイ様!」叫んだ。風がゆらぎ、少年の一瞬の顔。前触れもなく目の前を衛兵がふさいだ。
今のは?
「ロイ!?」
その背後に座る王妃ブランシュの振っていた手が止まった。
王太子はしばらくシャルルと見つめあっていた。
「ルー……」
長いようで、それは一瞬。ルーはカーテンの後ろに隠れた。慌てたように見えた。
僕を覚えているんだ。あの日、水車小屋であったことを覚えてる!
「ロイは!?」
シャルルは叫んだ。どこかでジャンがやめろとわめいている。
「ロイはどこ!?なあ!ロイは」
ロイじゃなかった、違った!
押さえる衛兵の腕をすり抜け、シャルルは過ぎ去ろうとする馬車の背後に飛び出した。
「何をする、貴様!」怒鳴り声とともに振りかざされた槍。
無意識にひらりとかわし、シャルルは馬車を追いすがる。からからと石畳を蹴る車輪、あと少しで、手が車体に届く。
と、両側から突き出され交差された槍が行く手を阻んだ。
「ルー!ロイはっ!」

槍が腹でぎし、と軋む。押しのけようとし跳ね返され、再び前を見ればすでに馬車は小さくなっている。
どんと背中をひどく小突かれて、シャルルは石畳に転がり込んだ。気づけば衛兵に囲まれ、腕を、肩を取り押さえられている。花を踏みつぶしている兵たちの足元から顔をあげると、人ごみの中にジャンが見えた。
怒った顔をしていた。殴られたのか衝撃に視界がぶれ、次に顔をあげた時には人々の陰に見失う。

「祝いの式典です、ここで死者を出すのは縁起が悪い。放してやりなさい」
ロイと同じ、綺麗な発音で命令が下され、シャルルは解き放たれた。
わけのわからないまま、石畳に身体を丸めていた。手を引かれ、起き上る。帽子はいつの間にか取れていた。風がふわと髪をなびかせる。
「お前は何者です?」
シャルルは騎士をじっと見上げた。身分の高い騎士らしい、立派なマント、肩の徽章は金で飾られている。蒼い衣装は近衛騎士団なのだろう。兜の下からは口元だけが見えた。端正な、少し紅すぎる唇が笑った。
「どこかの騎士見習いですか。ふうん、優美な獣のようですねぇ。お前、名前は?」
そういう表現をするのは大抵リシャールみたいな人間。
気持ち悪いな、シャルルは睨み返した。
「リオン。リオン・ド・リタだ」
どう聞いても偽名と分かる名だが。「獅子ですか、ぴったりですねぇ」と青年は笑った。
「ところで、リオン。私は地理には詳しいほうです。リタと言うのはシャンパーニュ地方の山村でしたねぇ」
青年の笑みの理由が、間延びする語尾に響き。
「シャンパーニュ伯の命令ですか?」
「違う。見物に来たんだ、ただ王様に会いたくて」
「会わせてあげますよ、着いて来なさい。大人しくしてくださいね。会いたくて、来たんでしょう?」
背後から槍で急かされ。
シャルルは仕方なく、騎士の隣を歩き始めた。並んでみると、騎士はそれほど背が高いわけではなかった。
「あの、貴方は?」
「私はベルトランシェ。国王陛下付き近衛騎士団『王の騎士』を率いています。ブランシュ様は凛々しく美しいものがお好きです。私のようにね」
何が凛々しいのか、その辺りを追求するつもりはない。シャルルはただ、ベルトランシェが言った「会わせてあげる」それをひたすら反芻していた。



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kazuさん♪

そうです~ごめんなさい♪ロイとの再会は、この物語の重要な展開なので、まだお預け。
ロイをきっかけに、シャルルの状況はまたまた、変化していきます♪
ロンロンの配下。そう、立場ってものがどうなるのか。

うふふ。
楽しみにしてくださいね♪
変なキャラ続出、かもです。

松果さん♪

いじらしい~(^∀^)
ありがとうございます!
子供って、案外しっかり考えているんですよね。ただ、視野が狭いだけで。自分なりの理論、正義で物事をすすめようとする。

第一話のシャルルはまさに突っ走っていましたから。
世の中は一方通行の見方だけでは、すまされないこと、このランスで味わいます。
ライオン娘(笑)の魅力を損なわずに、描けるかな~♪
ロイとの再会。
ちょっとお預けでしたけど。それなりに楽しんでいただけるかと♪

えぇぇぇっ!?

ロイくんじゃなくて、ルーくん!
なんですとー;;
シャルル、凄く喜んでいただけに、叫びたくなるのも分かります><
でも、なにやら裏がある様子……
連れて行かれてしまいましたが、どうなっちゃうのか……
シャルルはシャルルだけど、ロンロンの配下で。
一応の立場があるし、それが災いなのか幸いなのか――
続きまってますーっっ

えええええ~

辛い体験というのは子供を成長させるもんですね。
シャルルもジャンも、一生懸命背伸びして、大人びた分別を身につけようとしてるのがのがいじらしくて、可愛くって。
でもやっぱりライオン娘だ。相変わらず行動は無鉄砲なんだから~(汗)
折角ロイに会えると思って行ったのにね。

またまた気になる人物が登場しましたね。ふむう。
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