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『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑫

『Laon ‐ランの風は苦く‐』

12

後続の馬車の一つにベルトランシェに連れられ乗り込むと、シャルルはじっとしていた。
その馬車には男が一人乗っていた。ベルトランシェが「ちょっと面白そうな子でしょう?リオンというんだそうですよ」と笑いかけるが、男は少々うんざりした表情で黙ってシャルルを眺め回した。
その視線を真っ直ぐ受け、シャルルもそいつを観察する。失礼なのかもしれないが、十分まずいことをしたのだから、今更気にすることもなかった。
役人風の青年だ。短くした茶色の髪、少しくぼんだ目がぎょろりとし、美男と言えないこともないけれど高すぎるように見える鼻と印象が強すぎる目つきには女性の好みが分かれるだろう。リシャールとは比べ物にならないし、キ・ギの熊みたいな顔の方がまだカッコイイ。と、評したのはシャルルの勝手な了見だ。

「セジュール、気持ちは分かりますが少しは落ち着いたらどうです?」
そう青年に笑いかけながら、ベルトランシェは兜を脱いだ。
ふわりと長く伸ばした銀の髪を一振り、肩に解き放つ。シャルルは男だよね?ともう一度じっくりと隣に座る騎士を観察する。
リシャールほど綺麗な顔の青年はいない、と思っていた。世の中は広いな。
それが、ベルトランシェを見た感想だ。
ちらりとシャルルにウインクして見せるのは、どういう意味なのか知らないが、ぞわ、と変な気分になった。思わず肩をすくめ。咳払いした目の前に座るセジュールという青年と目が会った。こちらもどうやら、あのウインクに非難じみた視線を送っていた。
「リオン・ド・リタ。リタ村を持っている。この子供がですよ?あそこは確かシャンパーニュ地方ルジエの一部、このランスにも程近い。となれば、どこかの貴族の系譜かと。シャンパーニュ伯は貴族の子弟を幼いころから宮廷に登用し、教育を施していると聞いたことがあります」
「この忙しいのに、余計なものを拾われても困るが」役人が呟く。
「どうなさるかはブランシュ様にお任せします。ご報告のみで解放するかもしれませんし、場合によっては式の後でパリに連れて行き、調査してもいいでしょうしねぇ」
「パリ?!それは困るよ!僕はただ、式典を見たかったんだ、新しい王様に会いたかっただけで……」
「お前が会いたいのは陛下ではなく。ロイ、でしょう?」
ベルトランシェの言葉にセジュールがびくと身体を強張らせた。
ロイという名に対する彼らの緊張が伝わってシャルルは自然と口を閉ざした。何か、ロイの名が問題なんだ。
ごくりと、シャルルは唾を飲み込んだ。
「入城の式典の後なら、ブランシュ様のお時間をいただける。それまで私の部屋を提供しよう」そう言ったのは役人男。ベルトランシェが強く頷いた。彼らはもの問いたげにシャルルを見つめ、シャルルも聞きたいことは山ほどあるが口に出せずにいる。


シャルルは大聖堂の裏口へ連れて行かれた。敷地内は見たこともないくらいたくさんの馬や馬車が置かれ、綺麗に着飾った貴族たちがうろうろと歩き回っていた。
ベルトランシェが背後にぴったりと着いて先を急がせる。
聖堂の脇を進み、厩のある界隈を抜けた先に裏口がある。つい、白馬に目が止まった。ロトロアの馬のはずはないのに。自分に呆れる。
ふと、先ほどの黒馬の馬車が目に付いた。他の馬車よりずっと強い鋼で作られた車体。車輪も一回り大きいように見える。それが三台行列で並ぶのだから、村を疾走したときには迫力があった。
「ヘンリー三世公も、お見えか。遠いところ、ご苦労なことですねぇ」
隣を歩くベルトランシェが呟いた。
「ヘンリー三世、公って、イングランドの?それで北の訛りで、見たことのない馬車なんだ」
シャルルは修道院の手前で見た、衛兵の視線を思い出した。
「そうです。先の戦争でノルマンディー界隈は我が所領となったというのに未だにノルマンディー公を恥かしげもなく名乗る。ノルマンめ、いずれ、この王国から追い払って見せます」
ベルトランシェの口調が低くなる。ヘンリー三世はカペー王朝の遠い親戚に当たるはず。追い払う、か。そういえば、ここに呼ばれているはずの大貴族たちは皆、多少なりともルイ九世と血の繋がりがある。
親戚同士、平気で領地を奪い合った時代があったというから、戦争が耐えないのも仕方ないのかもしれない。誰が誰を恨むとかではない、邪魔者は排除する、それが諸侯にとって当たり前なのだ。だから貴族は大半が領地に城を建て、騎士となって戦う。
カペー家がフランク国王を宣言し、諸侯に知らしめ優先的なオマージュを結んだ。こうして、国王は戴冠を大聖堂で行い、聖なる神に近い存在だと皆に知らしめる。
諸侯とは違う特別な存在、聖職者より強い権力を持ち、どの貴族より聖なる存在となる。
あれがロイだったら、どれだけ嬉しかったか。
シャルルは溜息をうつむいてごまかした。


大聖堂の中、客間らしいところにつれてこられた。あの時、ロイを閉じ込めていた部屋に少し似ている。
「私は務めがある、大人しくしてくださいね。縛って欲しければ喜んで縛ってあげますが」
ベルトランシェは花がこぼれるような笑みを浮かべ、腰につけていた鞭をするりと取り出す。あまり、見たことのないくらい、長い鞭。
シャルルは一歩下がる。
「誰も、逃げるなんていってないし。逃げるならもう、とっくに逃げてる」
ぱん、と。
何のことか分からないまま、シャルルはよろめいて尻餅をついた。痺れるような痛みを感じ左腕を見れば、袖が裂けていた。二の腕はぬるりと生暖かいものが滴り、それが赤く服を染めるのを呆然と見ていた。
「今日の無礼の罰です。私としてはしたくないのですが、部下の手前もありますしねぇ」
にやりと。楽しそうに笑う。
「意味が、分からないよ」部下の手前?そんなの誰もいないじゃないか。
「部下の前では鞭はめったに使いません。怖がらせるのは、人徳を失いますからね」
「…」
「自由に出られるようにしてあります、楽しみですねぇ」
「だから!逃げないって言ってるだろ!」
ベルトランシェは肩をすくめ、長い髪をはらりと翻すと背を向けた。
「つまらないですねぇ」と、小さく呟いたのが聞こえる。

扉の向こうに青年が消え、その足音が聞こえなくなるまでシャルルはじっとしていた。
外の日差しが窓から室内を照らす。かすかに楽曲の音が聞こえてくる。式典が始まったんだろう。
左手はじりじりと熱く痛んだ。
左でよかった、右じゃ、剣も使えない。
シャルルは腰の剣に触れてみる。獅子紋の剣。ロトロアが預けると、言った。

ふと。それを取り上げられなかったことに気付いた。
もし僕が剣を抜いたら。ベルトランシェは喜んで襲い掛かっただろう。
そのために、その口実のために剣を取り上げないのだ。縛りもせず、扉に鍵も閉めない。
侮られている、が。それが現実。相手は『王の騎士』。
ぞくりと寒気を感じシャルルは震えた。
まだ昼過ぎなのに気温が下がってきていた。


「リーオンっ」
緊張感のない呼び声に、シャルルは顔を上げた。
扉から黒髪の少年が顔を覗かせていた。
「!?ジャン!どうして!?」
きょろきょろと周囲を見回し、それからジャンはのんきな様子で部屋に入った。
「誰かさんが無謀にも、飛び出して捕まっちゃうから。貴族の小姓になり済まして入り込んだんです」
「お前も正体がばれたら危ないぞ!バカ、早く逃げろよ!」
ジャンは王の騎士の怖さを知らないんだ。
「ほら、ベルトランシェって怖い王の騎士がいて、鞭で痛めつけるんだぞ!捕まったらお前なんかまた、ひーひー泣くことになるんだ」
「鞭…」ジャンは口元を押さえシャルルの傷をじっと眺める。上目遣いでシャルルを見上げた。
「痛そう。泣いてもいいですよ」
「馬鹿か?」
「…だって血が出ているし、鞭は痕が残ると聞きました。女の子なのに」
「剣を振り回す人間が血を恐れてどうするんだよ。いいから、あっちに行けよ」
「何言っているんですか、怖い騎士がいるんでしょう?早く、行きましょう」
シャルルはむと口を尖らせた。
首をかしげるジャンは不思議そうに眼を大きくしている。睨み切れずにシャルルは座り込んだ自分の足元を見つめる。
ルイ九世はロイじゃなかった。ロイがどこにいるのか、ロイが本当は誰なのか。今調べなきゃチャンスはない。ルーは僕のことを覚えてる、絶対に。王様に会えるなんて、もう二度とないかもしれないんだ。
「……行かない。夜にはルイ九世陛下かブランシュ様に会える」
「ロイに会えるんだとしても、この扱いは納得できません。本当に、シャルル、貴方の言っているロイがルイ九世陛下なんですか?」
ジャンに返す言葉はない。
ふう、と溜息を耳にしてシャルルは少年を見上げた。
「やっぱり違ったんですね。あの時、ロイはどこだって飛び出して行ったくらいですから。ルイ九世がロイなら、戴冠式を終えるまでじっと待っていることだってできたはずですよね」
「お、お前には分からないよ!」
そこでジャンが、急に表情を硬くした。握っていたシャルルの手を放し、一歩下がる。
「ええ。僕は事情を知らないし。でもだから、冷静に判断できる。シャルルが本気でこのままでいたいなら僕は仕事に戻ります。僕も遊びに来ているわけじゃないから」
かすかにジャンの口調に力がこもる。
「シャルル、今決めないなら、僕は君を置き去りにしてでも仕事を果たして一人でランに帰ります」
「言っただろ。お前を巻き込むつもりはない」
「分かりました。シャルル、これ以上だれも、君の身勝手に巻き込まないようにお願いしますよ」
ふいと背を向け。あっけないほど素早くジャンは姿を消した。
どうやって忍び込んだのか、見つかればただではすまない。それでも単身で派遣されるだけのことはあるのか。喧嘩した時にはたいして強くもなかったのに。十一歳で伝令を任されている。シャルルがバカにできるほど、子供でもなかったのかもしれない。

シャルルはふと、部屋の隅のベッドに気付き、ずるずると身体を引き寄せて寄りかかった。ベッドを血で汚したら、あの役人男は顔を青くして怒りそうだから体の右側を預け、目をつぶる。
そうしてひんやりとした毛布に頬を押し付けていると、ひどく気だるくなってくる。
昨日までの幸せな気分がうそのようだ。ロイじゃなかった。
僕は、ロイを失ったままだ。
ルーが、そうだよ。あいつがいたんだ。弟のロイが王様のはずないじゃないか。代々長男が王を継承するんだ。バカだな、思い出して冷静に考えてみれば。
冷静じゃない、と。そういったジャンの言葉を思い出す。
冷静でなんか、いられない。
昨夜、嬉しさに興奮して眠れなかったことが皮肉にも今、気持ちとは裏腹に睡魔を誘う。
シャルルは耳に心地よいベッドの感触に、何度かすりすりと頭を擦り付けた。


雨が降っている。
暗い空に冷たい雨粒の洗礼。ぎっ、ぎっと規則正しい音は水車。懐かしい、あの水車小屋。僕は一人でのんびりできるそこが好きだった。僕だけの領地みたいなものだ。自分の家、自分のもの。今思えば、修道院では何もかもが共同だった。自分のものなど、ないに等しかった。あの頃、水車小屋の管理ができることは僕にとって特別なことだったんだ。
初めてブリュージュで、自分の部屋、自分の衣装棚、自分の食器。そんなものをもらって、ひどく感激した。ロトロアはそんな僕を面白がって、ついでだと馬をくれた。

あの当時、雨の夜は怖かった。一人で眠るのが怖くなって女中の部屋に行って一緒に寝ようとしたら、またあいつに馬鹿にされて。それ以来僕は一人。
それもいつの間にか平気になっていた。
自分の部屋も、自分だけが使うベッドも。当たり前になった。
ロトロアが僕に笑いかけたりからかったりするのも、いつの間にか慣れた。

だから、僕は今。ロイの身に起ったことを隠しているんだろうか。ここでもし、僕が「ロイを誘拐したのはシャンパーニュで、ロトロアがそれを実行したんだ」と。ロンダを殺した犯人は彼なんだと、訴えたら。
どうなるんだろう。


いつの間にか、涙がこぼれていた。
僕は卑怯者だ。
自分のために、手にしたものを失いたくないから、ロンダのこともロイのことも裏切っている。ううん、ずっと裏切ってきたんだ。ロトロアに脅されたからじゃない、僕はロイのことを追求することで、今僕が手にしたものが無くなってしまうことが、怖かったんだ。もしかしたら、もっと真剣にロイのことを知ろうとしていれば違ったかもしれないのに。僕はずっと、あの日のことはしまいこんで、誰にも話さずにいる。「ロトロアが脅すから」と理由をつけて。
ニルセンの表情を思い出した。

ロトロアのそばにいれば騎士になれる。そうしたら、成人して自由になって。
僕が、そんな卑怯な僕がロイに会って。僕はどんな顔をしたらいいんだろう。ロイはどんな顔をするんだろう。ロイは、それでも笑ってくれるだろうか。

かすかな振動が空気を揺らした。
それを頬で感じ、シャルルは目を開いた。闇の中の雨音は昼の日差しの中人々のざわめきに変わり、明るい室内に何度も目をこする。

「ベルトランシェが、ここにいろって?」
声に顔をあげた。
金色の髪がふわりと耳の横に伸びて揺れる。一つに縛ったそれが重そうな衣装をまとった肩に乗り、金の刺繍と重なればきらきらと瞬いている星のようだ。
ランの香水売りが売っていたあのにおいとは違う、柔らかな花とはちみつの匂いみたいなものが鼻をくすぐり、シャルルはすんっと鼻をすする。
背が伸びたルーは大人びた顔で笑っていた。


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藤宮さん♪

ありがと~!!
ぶふ♪女王ベル。24歳オス。
色物キャラが欲しくなったのでした。私の趣味です(笑

あの日のまま。はい。シャルルにとって、あの事件のままランスでの時間は止まっています。
彼女なりの精一杯は、他人から見たら『卑怯』なのかもしれないし、間違っているのかもしれない。
ロンダのパパ事件から凹み気味ですが!
シャルルらしく、いずれ、じめじめ感は追い払って見せます♪

ロイの真実。
次回、分かる~かなっ?(←^^;)

kazuさん♪

うふふ~。11歳。時々ありますよね、子供なのになんでこんなしっかり考えてるんだろうっ!って思うこと。
ジャンくん、大人ぶることに関しては得意な子です。
逆に子ども扱いされると、一気に子供っぽい反応になりますが(^^)
シャルルは素直すぎて同年代の友人がいないですが(←そうなの)、ジャンは大人ぶりすぎていないのです。
二人ががんばるこのランスでのシーン、楽しんでいただけると思いますよ~。
ロンロンがトップ(笑
ルーは果たして…何位くらいなのかしら~v-391
次回のkazuさんの反応が今から楽しみです!

何というか……複雑~

ベルトランシェ、新キャラですが……鞭って、どこの女王様だと変な感想を持ってしまったのは私です(爆)

シャルルちゃんが、気付かずに目をそむけてきたこと。
ロイのことを追いかけるつもりで、あの雨の日に立ち止まったままだったのかな、と思ってみたり。

ロイがいないことと、ルーが王様になるという理由。
これから明かされるのでしょうけれど……何とも複雑です~。

あまりつらい現実を突き付けられなければいいと思いながらも、たぶんそう簡単にいかないのだろうなー、と思うのでした。

とにかくシャルルちゃんの冒険、また追いかけていきますよ♪

おはようございます^^

ジャンくんいいなぁ~
大人びていても11歳の子供らしい雰囲気だったけれど、シャルルを気遣い、連れて行かれてしまった彼女を連れ戻すために、身分を偽って潜入して。
う~ん、ギャップに弱いkazu。
今回ジャンくんがダッシュで、私の中の上位に駆け上がってまいりました(笑
ロンロンがトップですが♪

ベルトランシェ、怖いですね><
綺麗なバラには棘があるじゃないですが、ありすぎです~><

そしてルーくん登場。
ロイくんの現在を知ることができるのか、次回、待ってますーーっ!
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