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『La croisade de l'ange 2:Laon』 ⑲

『Laon ‐ランの風は苦く‐』

19

青いドレスはあの時、ロンダにもらった以来の女の服。
ろくなことが起こらないんだ。心地悪さを思い出し、ますますシャルルは憂鬱だ。
「あら、こうすればみられるじゃない」
と、偉そうに女中に笑われ、シャルルは口元に紅を塗ろうとするその手を叩いた。
「いらないってば!」
「んまぁ!それが淑女のなさることですか!?」と逆上され、いつの間にか増えた女中三人に押さえつけられて、なすがまま。
はあ、と。誰だよこれ、とシャルルが鏡の前でため息をつくころには、満足そうにリサリがルイに声をかけた。
「陛下、何とかなりました」

何とかなったっていい草も失礼だろうとむかつきながら、背中を押されるまま、先ほどの部屋へと戻る。
一人の女中がシャルルの服を持ったまま退室しようとするから、「ちょっと、それ、かえせ!」と、とにかくしがみついた。上目遣いで見つめるシャルルを、同年代の女中はどう思ったのか、手を緩め渡してくれた。いつもの自分に戻るための退路をやっと死守した気分だ。

はあ。と。溜め息をはき。
なんだか、ここに来た理由ってなんだっけ、と情けない気分に浸る。その肩にぽんと手が置かれた。
振り返れば、ルイがにっこりと笑っている。
「こっち」
「なんだよ?」
白い手がしっかりつながれて、シャルルは引かれるまま歩く。
ついて行けば先ほど着替えたカーテンの向こう、そこはそう。寝室。
「!?あの、何のために僕をここに呼んだんだよ?」
「ああ、聞きたいことがあるから」
「じゃ、こっちの部屋でいいだろ」
「せっかくきれいになったのに、無粋だよ」
「何がどう、無粋なのかというか、その。意味が分かんないだろ!」
手を振り払う。
「あれ?そうか、君、男の子のふりをしているから、まだなんだ」
まだってなんだ、まだって!
また手を伸ばそうとするから、ひらりと飛び退く、つもりが。着地と同時に裾を踏みつけた。
「わ!?」
どたんと尻もちをつき。「いて、だいたい長すぎるよ!こんなずるずるした」
だから嫌いなんだ、ドレスなんか。
と。目の前に手。
「て?」
トンと肩を押されれば、不安定な体勢も手伝ってあっさり背中に絨毯が当たる。
目の前に迫るルイに、ぎょっとして思い切り頬を叩いてやる。
「!!!」
声にならない何かを発して、ルイは顔を押さえて座り込んだ。
「お前、十二歳だろ!?なんだよ、その変態ぶりは!」
「関係ない、私の言うことを聞かない女などいない」
可愛げのない台詞を吐いて、ルイは床に膝をついたまま、立ち上がるシャルルの裾を掴もうとする。
「このっ」蹴りはドレスに阻まれて幾分和らぐ。それでもしっかり当たった感触、何か唸ってルイは腹を押さえて座り込んだ。

「言ったろ、僕は男なんだ。お前の言う事なんか聞かない」
「……ランス」
「え?」
「ランスであったこと。ロイを誘拐した犯人。君は知っているね」
ゆっくり立ち上がったルイは、またあのいつもの笑み。殴られても蹴られても懲りないのは忍耐力を褒めるべきか。いや、やっぱり気持ち悪いだけ。
「知らないよ」
「嘘をついては困るな。ロイを探していたのはなぜだい?君は誘拐の事実を知っていた。ロイが王子だということもね。平和なランスで事件があったのは十一月の臨時聖堂参事会が開かれた夜。君が誘拐されたのだと司祭は言っていた」

ごくりと、シャルルは警戒し口も心も堅く閉じ、身構えは美しいドレス姿に似合わない勇姿。
ルイはふ、と首をふり、顔にかかる前髪を払った。
「王領のリスリア村で、ロイはいつもどおりの生活をしていた。護衛の騎士は二名。屋敷には乳母と女中が一人。その日、馬の蹄鉄の修理のために鍛冶屋が呼ばれ、騎士は屋敷内の馬屋にいた。女中は食材の買出しで市に。屋敷内に三人の騎士が入り込み、一人は馬屋を見張る。一人は裏口。もう一人は正面から。そして、首謀者は離れた場所に身をおく」
なにを、言ってるんだ、こいつは。
シャルルはルイの話に立ち尽くす。今また、一歩。ルイが近づいたことにも気付かない。

「合図は教会の鐘の音。一斉に襲撃した彼らは、ロイを捉えようとした。顔の半分を兜で隠した彼らは乳母を殴り倒した。驚いたロイは窓から庭に飛び出す。騎士の名を呼んでも、賊は騎士を厩に閉じ込め剣を構えている。ロイは庭を走り出したけれど、正面にもう一人の賊を見つけた。ロイは慌てて庭の石垣が崩れている場所、そこに向かった。白馬の騎士が追ったときにはロイはひび割れた石垣の隙間から走り出していた。子供を馬で追うのだから、余裕だと思ったのだろう。騎士はのんびりと白馬を駆った。予想外だったのは。丁度市場で仕入れた食材を積んだ女中が、荷馬車で通りかかったことだ。ロイはそこに駆け込み、女中は慌ててロイを乗せ走り出す」

それは、あまりにリアル。ルイは見ていたのかと思うくらい、克明に話した。
「女中も馬を操れないわけじゃない、だけど荷を積んだ馬車では逃げ切れない。ロイを馬の背に乗せ、馬車から外すと、その尻を叩いた。馬はロイを乗せたまま、走り出す。そう、そして辿り着いたのが、ランス」

「なんだよ、それ。なんで、そんなこと知ってるんだ」
ルイはシャルルの肩に手を乗せた。
「女中や乳母、騎士たちから報告を受けたすべてだ。シャルル、白馬の騎士は名の知れた男だった。シャンパーニュでは知らぬもののない、男。見たのは女中だけだが、あいにく年頃の女性の方が、諸侯の、特に若い当主については詳しい。獅子紋の剣、丁度君が持っていたのと同じものを、騎士は腰にさしていた」
ロトロア。にやけた黒髪の男を思い出し、シャルルはごくりと唾を飲んだ。
知られて、いるじゃないか。

「シャンパーニュ。シャンパーニュ」
ルイは吐き出すように呟いた。
「うるさい、本当にうるさい。あの当時もそうだった。そして父上が亡くなったときにも。シャンパーニュはいつも我がカペー家に嫌な思いをさせる」

ルイの手に力がこもる。暗い何かを灯した視線はシャルルをぞっとさせた。
子供らしさの欠片もない、王。
「シャルル、君のご主人はロトロア伯だそうだね。あの事件の日。ロイと供に行方をくらました君が、なぜ今シャンパーニュにいるのかな。ロトロア伯は」そこでくすと笑った。
「子供趣味なのかな」
思わず眼を閉じた。ロンロン、まずいんじゃないのか、これ。

ふと頬に当たる手に気付いて目を開けた。
すぐ目の前に、ルイ。
「ね、シャルル。ロイを誘拐したロトロア伯も、父上を暗殺したティボー四世も。罰しようとすればいつでもできる。兵を差し向け、村を焼き、城を落とす。簡単なことだ。だけどね。敵は殺すより利用する方が賢いのだと私は思う」

耳元にルイが口を寄せた。
「君や、あの坊やを使ってね」
ぞく、と。
震える。
つ、とルイの手が、シャルルの頬から首、鎖骨をなぞる。そのまま、胸元へ。
「ぎゃ!!?」

やっぱり殴り倒されて、ルイは床に座り込んでいた。
「触るなってば!」
「言うことを聞かないなら、シャンパーニュを狩る」
「そ、それ!?」なんだ、それ!?
「ねえ、シャルル。私にはその力がある。お母様が何をお考えなのか知らないけれど。ロイを探すのはもちろん、他にも、私のために役立ってもらうよ。とりあえず、ベッドに行こう」
バチン、と派手な音がルイの言葉を遮る。
「だから!それは嫌だって言ってるだろ!」
頬を押さえ、幼い王は苛立ちを眉にあらわした。ずっと笑っていた、あの気持ち悪い顔もさすがに怒りで歪み始める。
「シャルル、私に手を上げるなど、何度も」
ルイが伸ばしかけた手は空を切る。
シャルルはドレスの裾を膝上までかかえた格好で扉の側に避難している。
「そういう目的しかないなら、僕は部屋に戻る!シャンパーニュのことはシャンパーニュの人間が何とかする。僕には関係ない。僕はロイのためにここにいるんだ!シャンパーニュのためでもないし、ランスのためでもない!お前のためでもね!」
かっこよく言い放ったのだからさっと姿をくらますのが正解だが。手を伸ばした背後の扉はしっかり外から鍵がかかっている。
くそっ。
振り向いてふと、ルイの視線がむき出しの自分の足に向いていることに気づく。
「ホントに、変態少年王だな!」
「変なあだ名をつけるな!」
飛び掛るルイなどさらりと交わす。邪魔な裾がなければシャルルが不覚を取ることはない。
「この、待て!」
追いすがるルイをシャルルは片手に服、片手に裾を握り締め、身軽に駆け回った。
どれだけルイが追いかけても、ソファーに乗っていたクッションを投げてきても。ただ逃げるだけ、一対一なら負けるはずもない。
「ええい!」
ルイが業を煮やし、ベル!と声を上げるから。シャルルはそそっと扉の側に駆け寄る。
ベルトランシェが扉を開けた瞬間。それにあわせてぐんと扉を引っ張った。騎士がバランスを崩すその隙に、さらりと飛び出していく。
ベルトランシェが持っていた獅子紋の剣もいつの間にかシャルルの手にある。
「な!?お前!」
不意をつかれたベルトランシェが王に怒鳴られている間に、シャルルは大聖堂を駆け抜けた。そのまま、ジャンのいる宿に向かったのは言うまでもない。


見たことのない生き物を見つけた顔をしていた。
「シャルル、ですか?」とジャンが。
「お嬢さん、どちらさまで?」と宿屋の主人は目が悪いのか、指で瞼を押し上げた。
遅い時間にドンドンと扉を叩いて迷惑顔だった主人も、その背後にいたジャンも。ドレス姿のシャルルに言葉がない。
しかも裾をはしたなく捲り上げて足をさらしているのだから。ジャンが頬を赤くしながら、「シャルル、その格好は」と視界を手で塞ぐ。
「あ?ああ、これさ、あ、いいから部屋で」
言葉を口にすればいつも通りのシャルル。
ジャンはそれで少しは落ち着いたのか、シャルルが着ていた少年の服を受け取ると、二階へと連れて行く。
「おやすみなさい」と手を振る宿の主人がニヤニヤしていた意味は、二人には分からないだろう。

ドレスの贈り主について、シャルルが熱く怒りをかみ締めながら語り、ジャンは抱えた枕を縦にしたり横にしたりしながらそれを聞く。クウ・クルはシャルルのいつもと違う服、匂いが気に入らないのか、近寄ろうとせずジャンの脇に寝転んでいた。

「知ってるんだよ、あいつ。ロトロアのこと。それでいて、わざと知らん振りしてる」
はあ、と。ジャンは溜息を枕の柔らかなくぼみに落とした。
「僕より一つ年上ですよね、ルイ様。そんな方なんですね」
「そう、変態少年王!」
「それは、言いすぎですけど。やり方に問題はありますけど、男たるもの女性に対して当然そういう気持ちはあるものです。騎士物語では、お仕えする貴婦人に求められたら断ってはいけないって言うくらいで」
「お前もそういう感情あるのか!?」僕に、といわんばかりに自分を指差す。
「あの、いや、その。僕は、まだ。そういうのあんまり分からないです、けど。きっと王様ともなると違うんですよ。女性は早い人ならシャルルの年齢で結婚しているでしょう?シャルルだって、十一歳で許婚がいたくらいじゃないですか」
「でもさぁ、結婚してないのにそれ教会の教えに反するし、罰当たり……」
そこでふとジャンの視線に気付く。眠りかけていたのか、眠いのか。とろりとした大きな目はいつもよりもっと垂れ気味で、幼く見せる。
「ジャン?」
「似合いますね、綺麗です。僕が思ったとおりだ」
「何が?」
「君が。言ったでしょう、ロイが王様だとしても君なら御寵愛を受けられるって。それ、ロトロア様に見せたらきっと」
「殺される」
「へ?」
「前に言われたんだ。二度と俺の前でそういう格好、つまり、こう胸元とか出てる奴ね、そういうのはするなって言われてる。僕の男装はある意味命令だし、ロンロンの趣味なんだ」
シャルルは威張って言い放つ。多少、意味合いが違うのだが、反論する本人はここにはいない。
「は?趣味…?」
ジャンは憧れの兄貴分、ロトロアの肖像がシャルルと話すたびに崩れていく気がして、それ以上シャルルの言葉の意味を追求する気も失せていた。
「とにかく、国王陛下の話では、ブランシュ様との契約を利用してシャンパーニュを罠にかける場合もあるわけですから。僕はやっぱりティボー四世様と相談しながら約束を果たします」
「ジャンは、なんて呼ばれるんだ?」
「ジャンです」
むむぅ。「なんだ、そのままじゃないか」とつまらない気分を顔全面に出しながら、シャルルはドレスを脱ごうと四苦八苦。
「どこか他で着替えてくださいよ、シャルル!」
「じゃあ外で着替えろっていうのか」
結局、脱ぐのを手伝わされたジャンは、最終的には鼻血を出し、頭が痛いとベッドにもぐりこんだ。風邪を引いたのかジャンは熱があるようだ。
心配するシャルルに「たまにありますから、平気です。寝ていれば治ります。いいから早く服をちゃんと着てください」と、ジャンは毛布で顔を覆った。

「明日、さぁ。フランドル伯ジャンヌ様が、来られる」
シャルルの呟きに、ジャンは毛布からちらりと顔をのぞかせた。
「だから、僕。戴冠式には行かない」
「ええ?」
フランドル伯がお母さんじゃないかと思うと、昨日シャルルが話したばかりだ。
「なんでですか!?チャンスじゃないですか!そのために陛下の前でドレス着たんでしょう?」
「あれは悔しかったし勢いだし。だってさ、だって」
「威張っている割に意気地がないんですね」
シャルルは黙った。
「いいですよ、好きにしてください」
ジャンは再び毛布の闇に隠れた。

聞いてくれないのか。
だってさ。
僕はいなかったことにされている、要らない奴なんだ。
それはロイみたいに病気だったからじゃないんだ。
僕が、僕だったからだ。

ふわりとした枕はシャルルの頬も溜息も受け止める。もぐりこんできたクウ・クルはシャルルを笑わせようと喉もとで何度も寝転んでは体勢を変える。
「くすぐったいよ、ばか」
だから。シャルルは眠れなかった。


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藤宮さん♪

お台場冒険王はなくなったので(笑)

シャルルがこういう子だし、ルイも子供だから(中身はともかく…)シリアスな場面にならなかったりします♪

ロトロアぐらい怖い奴なら、いくらでもシリアスにしますが~。
っていうか、それはかなり危ないシーンになってしまうな…^^;

人間関係が何しろ、複雑な感じになってきてます…やばい、書ききれるのかとドキドキしてます♪
短く終わろうと、目論んだのはもう諦めました(^^;)

代わりにきっちり、しっかり描きます!
戴冠式、これ、今回の山場のはず(←?)なので。うん。

がんばりますよ~!

kazuさん♪

むふふ。ジャン君のそこはお約束です。出血です。ジャンもまだまだ可愛くいてくれないと(^^)b

ルイが可愛くないので…。

少年キャラがこれほど嫌いになるとは自分でも不思議なのですが、親でありながら嫌いです(笑)

ルイ九世、実在は聖王ルイと呼ばれるのに。
彼の人間像をここまで崩していいものかと、あまり深く考えずに描いていますが(殴)
そのほうが楽しいので~いつか、ロイと対決させたい、ともくろんでますっ♪

さて、戴冠式。むふ~。期待に応えられるかな~

もっとひどいことにした方がいいかな~なんて、コメント見て思いましたよ(笑)

じわじわ行きます~お楽しみに♪

ひやり?

変態少年王って(笑)
いや、笑うべきところではないのかもしれませんが、笑うしかないような……?

シャルルちゃんにとっては受難の連続で、危険がいっぱいですね。
ルイは……本当に十二歳なのか……国王だけあって、子供はもういない十二歳なのか……ううん……。

色々バレていて、今後の展開に影が差しておりますが、どうなる事かと思いながら読んでおります~。
もうすぐ戴冠式! 様々な思惑やら謀略が現れそうで、ドキドキですが。

でも、きっと、シャルルちゃんなら乗り越えてくれるに違いない、と思いながら、次をお待ちしております~♪

シャルル(笑

ジャンくんも、どきどきものだっただろうに(笑
鼻血を出してしまったジャンくん、かわいいな~
って言うか、男装が趣味って、ジャンくんの中のロンロンのイメージを崩さないで~。
違うから!違うからね、ジャンくんっ

もう、ロンロンがロイくんを誘拐したっていうのが、ばれてしまっていたんですね。
そしてシャルルはロンロンの部下で。
それもばれてしまっていて。
あぁ、でも戴冠式。何かがあるはずのそれに、出ないで帰ったほうがいいよーっと心の中でジャンくんとシャルルに伝えたいっ

どきどきしながら、続き待ってます^^
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