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『La croisade de l'ange 2:Laon』 21

『Laon ‐ランの風は苦く‐』

21

修道院の門から森の中の細い道を下っていく。来た時と同じで馬と馬車がひしめいていた。それは、ちっとも進んでいかない。
「遅いですね。進んでいないみたいです。これでは間に合わないかもしれませんね」
ジャンの言葉に、シャルルは馬上から遠く前方の人馬を眺める。
「道を知ってるよ。急ごう、ジャン」とシャルルが列の脇を抜けようと進ませるから、自然二人は前後に並ぶ。
「こっち、もう少し先に抜け道があるよ」
「我が馬車を脇から抜こうなど、許さないよ」
横から抜き去ろうとした馬車から声がした。
「へ?」
聞いたことのある声。振り返れば、黒い馬車からのぞく男の顔。式典で隣になった、ヘンリー三世だ。
「あ」
「おお?君はリオネットではないか?男だったのか!」
「ええと。女だけど、騎士見習いなんです、陛下」
面倒だから適当に説明し。シャルルはさっさとその場をすり抜けようとする。
「何を急いでいる?我が馬車を抜くなど許さないよ」
「でも、その。急がないと、治癒秘蹟が見れないし」
「急いでいるのは我らも同じだよ。どうやら、この先で馬車の転倒事故があったらしいのだ。ルイや諸侯は先に通ったらしいが、我らのように後回しにされたものはこの森において行かれた。まったく何のために衛兵を配置しているのか、セジュールに文句を言ってやらねば。君は道を知っているのか?」
シャルルは視線を宙に泳がせ、それからはい、と頷いた。
でも、馬車は通れませんよ、と釘を刺す。
「案内しなさい。私も行く。馬を引け」
「陛下、お止めください」
と馬車の脇を警護していた、尖ったあごに髭を蓄えた騎士が馬を寄せた。そんな表現しか出来ないのは、兜で顔の上半分を隠しているから。ヘンリー三世の衛兵たちは皆同じ兜で顔を隠しているから、口元とあごとでしか区別がつかない。
それは少し物々しい感じだけれど、国王なのだからそれなりの武装は許されるのだろう。
馬車の中、同乗していた側近らしい声が「私も、ご一緒いたします」とヘンリー三世にすがった。
声はひどくかすれている。
「ノルフェノ、お前はダメだよ、ただでさえ風邪を引いたのに施療院など。ここまでつれてきてやったのだから、満足しなさい」
「しかし、陛下。私は」
「ノルフェノ。従者のお前が役に立たないと不便で仕方ない。馬車でゆっくり来なさい。命令だよ」
ジャンとシャルルが顔を見合わせている間に、ヘンリー三世は馬車から降りると、先ほどの騎士が連れていた馬にまたがった。

「従者の人、風邪を引いているの?」
シャルルが問いかけ、後ろではジャンが気を利かせて荷物から煎じ薬を引っ張り出していた。自分用に煎じたものを小瓶に入れて持っていたのだ。
「これを。よく効きます」
差し出されたそれをヘンリー三世はちらりと見つめ、顎で示すとあご髭の騎士が馬を寄せて受け取った。そのまま、馬車の中の人に渡す。

「お目にかかれて光栄です、陛下。私はジャン・ド・ジョワンヴィル。亡き父より、陛下のお話は伺っております」
ふん、とヘンリー三世はジャンを眺め、それからシャルルのほうに向き直った。
「リオネット、お前には私の前を行くことを許す。さあ、行こう」
ジャンとの間に二人が入る形になった。ジャンのさらに後ろに、五騎くらいの騎士が隊列を組み始め、ついてくるつもりなのだ。
シャルルは心配そうに眉をひそめる。
まったく無視されたジャンは顔を真っ赤にして唇を噛んでいた。
きちんと名乗り、挨拶をした少年の何が気に入らないのか、青年は相手にしない。
ジャンにとってそういう扱いは耐え難いのではないか。からかって、泣かせたことを思い出した。精一杯大人ぶって頑張っているジャンが、大人に相手にされないことほど、つらいことはない。
シャルルが心配したとおり、ジャンはひどく悔しそうに、顔をうつむかせていた。
「あのぅ」
「お前はさっさと案内しろ」
あごの騎士は、聖堂でもシャルルに注意した男だ。威嚇するように低い声で命令する。
「陛下ならともかく、あんたに命令される覚えはないぞ」
睨み返せば、隣でヘンリー三世が笑う。
「君は面白いね。媚びへつらう輩は信用できないから」
それがジャンのことを言っているように思えて、シャルルはまたそっと後ろを振り返った。

幸いジャンは少し離れていた。丁度、ヘンリー三世が乗っていた馬車の脇で馬を止め、馬車から顔を出す従者と何か話していた。
先ほど、ジャンが風邪薬をあげた相手だろう。
灰色のフードを被り顔は見えない。わずかに首元からはみ出した薄茶色の髪は、素直にさらさらと風に揺れた。
礼でも言われたのかジャンが笑顔に戻っているから、シャルルはホッとして再び前を向いた。


森の街道の途中、わき道がある。その先には修道院の薪置き場がある。
作った薪を干しておく場所だ。わき道はそのまま村の川の向こう側に出る。森の道から少し外れるが、この渋滞ならそちらを抜けたほうが早い。わき道と言っても獣道のようなものだから、地理に疎いよそ者は通らない。
そんな説明をしながら、シャルルは背後に二人の騎士、その後ろにジャン、さらにヘンリー三世の衛兵たちをつれて進んでいた。

思わぬ道連れは迷惑だけど。それでも前を見ればただ続く林間の小道。木漏れ日を浴び、深呼吸すれば心地よい。
伸びをして、「気持ちいいなっ、クウ・クル」と声をかける。目の前の親友は、返事はしないが嬉しそうにロンフォルトの頭に乗る。きっとこいつも気分がいいのだろうとシャルルは決め付ける。

「この道、というか。道って呼んでいいのか怪しいですけど。大丈夫ですか?」

少し後ろからジャンが声をかけた。並んで話したいのに不便だと思っていたから、シャルルはロンフォルトを止めジャンを待つことにした。
「リオネット、どうしたのだ」
なぜかヘンリー三世まで止まるから、従者も止まって結局四頭の馬が狭い獣道に並ぶ。
「ジャンと並んで話をしたいんです。大体、陛下は勝手について来るんだから、先でも後でも好きにしてください」
「シャルル、そんなこと!!」
咎めるのはジャン。貴様、と怒鳴りつける衛兵の隣、ヘンリー三世は口をあけてシャルルを見ていた。
「いいんだよ、僕にとってはお前の方が大事だしさ。行こう、ジャン。このまま行くと、コルベニー施療院の裏の林まで抜けられるよ。街道の方が真っ直ぐだけどさ、この状態ならこっちのが断然早いから」
「シャルル、……あの」
ドンドン進み始めるシャルルにジャンは慌ててついていくものの。
黙って睨んでいるヘンリー三世が気になって、何度も振り返る。
いい加減離れても、まだ動き出そうとしない様子だ。

「いいんですか?怒ってますよ!?」
「いいよ。好かれる必要もないしさ。面白いけど変な王様だよな。大聖堂で知り合ったんだ。隣にいてさ」
「ヘンリー三世。イングランド王ですよね。連れていた人たちは、フランス人みたいでしたね。先ほどの、ノルフェノさんもフランス人でした」
「ああ、馬車にいた?ヘンリー三世は、フランス人が気に入ってるとか言ってた」
「そうですか。ノルフェノさんはいい人でしたよ。ヘンリー三世が僕のことを無視したのも、父親を尊敬しそれを堂々と表現する僕が気に入らなかったのだろうって。謝られちゃいました。確か、ヘンリー三世の父親は諸侯の反乱に遭って亡くなったんですよ。ヘンリー三世は周囲に裏切られたのですから、イングランド人が信用できなかったんですね」

「ああ、なんか、そういう感じのこと言ってたな。ルイのことも若くして王になるのはどうのって。ま、僕にはよく分からないけどさ。ロイもそうだけど、王家に生まれたって、皆が幸せじゃないってことだな」
「そうですよ。少しは分かってくれましたか」

想像はできても、シャルルはやっぱり貴族ではない。

「分からないよ。違う立場や考えがあるのは当然だ。だけど、貴族や王族は忘れちゃいけないだろ?どんなに大変な状態でもさ。それでも自分たちが他の人よりずっと楽に生きているってこと」

ふわりと金の髪が風に揺れた。しっかりとジャンを見つめるシャルルの菫色の瞳は、木陰の中しっとりとぬれて光った。
「パンを一つ作るための麦を、ちゃんと育てるのがどれだけ大変なことなのか。半年かけて収穫した小麦がパンになる。パンにしたら十数える間に食べきれちゃう。あっけなくね。僕らはそういうものを食べて生きてる。自分ひとりじゃ、絶対に作れないものを」
「感謝、ですか」
だよ、と。シャルルは頷く。
「なんだか、シャルル、すっかり修道女みたいです」

「修道院育ちは関係ないよ。昔、水車小屋で毎日みんなの話を聞いていたんだ。麦を粉にしながらね。大切に育てた麦だから、大切に扱えって教わった。麦を育てる農民とか、水車小屋の仕組みを作る大工さんとか。何かを作り出す人を尊敬しなきゃいけない。皆、すごいんだ」
「じゃあ、騎士もすごいです。王様も」
何でだよ、と反論するシャルルに、ジャンは暑くなったのかマントを脱いで肩にかけた。

「騎士はその職人や農民の命を守るためにいます。王様は、その騎士も農民も平民も、皆が平和に暮らせるように国を作ります。この世で一番大きなものを作り出せる人、それが国王です」
話しながらマントをぶんぶん振り回すから、当たった枝がぱらぱらと色づいた葉を落とした。
「なんか、違う気がするぞ」
「そんなことないです。シャルル、頭が固いんですよ」
「じゃあ、分かった!一番すごいのは、お母さんだ!命を作る!」
「それはお父さんも同じじゃないですか?」
「何でだよ!お母さんのがすごいよ。子供を産めるんだ」
「……ブランシュ様に会ってから、すっかりお母さんびいきですね。それとも、ジャンヌ様に会えたからですか?」
きゅ、と。不意に切なくなる。
会えた、というほどのものではない。
「なんか、ジャン。お前、やけに嫌味だぞ。一々口答えしてさ」
「別に」
「…お前だって、お母さん好きだろ?」
ぶ、と。噴出して、ジャンは手にしたマントで顔を覆って笑い出した。
「シャルル、君って、可愛い」
「なんだそれ!もう、急ぐぞ!」

結局。十三歳と十二歳。視界に大人がいなくなれば、気が緩むのか。二頭の馬を駆って無邪気に追いかけっこに興じる。森を抜け、川沿いの小路をきらきらとした水面を眺めながら風を切る。心地よい昼下がりの日差し。
小さくても侮れない、とシャルルの語る河を下り、途中の橋を渡ればコルベニーの村。街道から外れているためか人影もなく、のどかな秋の畑の脇を進む。だんだん民家の見えない山際に近づき、その道は林の中へと続いていった。

「あ、日陰は少し寒いですね」そういってジャンはマントをつける。
「あと少しだ。ほら、右、左その先にもう一回右で、施療院の裏庭に出る」
「あれ、先客がいるみたいですね」
ジャンが言うとおり、シャルルのさした道の先、今わずかに通り過ぎる馬の姿。
それはすぐに木々の向こうに消えた。
「え、でも。こんな道、知ってても普通使わないのに」
「案外、皆考えるのは同じなんですよ」
そういうものかな。
シャルルは首をぐんと伸ばして、先を行く騎馬の姿を見つけようとする。
「ほら、騎士が三人、あ、違う。まだいる」
ジャンが数えようとし。シャルルは黙った。

葉が散りかけた木立の向こう。黒い衣装の騎士が、三人や五人じゃない。数十人はいる。クロスボウを背にした馬上弓兵も見える。
それは歩兵こそいないが、軍隊に見える。

「……ジャン」
シャルルは、馬を止めた。
ジャンも察してとめる。
「あれ、武装してる」
「おかしいですね、こんなところにあんなにたくさんの騎兵。見物でも、国王の護衛でもないとしたら」
「……物騒なことが始まるのかも」
「どうしましょう」
どうしようって、言われても。
シャルルもジャンも一応剣は持っているがそれだけ。槍も盾もない。その上子供二人、見習いの身だ。勝算なんかない。

今、わずかに有利であるとすれば彼らはシャルルたちの存在を知らず、シャルルたちは相手の存在を知った。
ただそれだけだ。



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藤宮さん♪

藤宮さん

うふふ。
武装集団、ヘンリー三世、その先にルイ九世、ベルトランシェ。

いやぁ。書きづらくなってきました。

先頭に突入したら…

この時代は、歩兵と騎馬兵ですしね。作戦も何もないし。

人が多くて、乱戦になったらそれはもう、大変(笑)

そうそう、リノーラさんも登場なのです。ぽつぽつとしか出てこない人なので、思い出してやってください。
色っぽい赤毛のお姉さんです(^∀^)

一応、そろそろ第二章の山場なので~じっくり描きます♪

お付き合いくださいね~!!

シャルル、頑張りますから!

kazuさん♪

kazuさん♪

うふふ、そう。リノーラさん。ここで登場です♪
ヘンリー三世もしっかり巻き込みますが~。
kazuさんの美声に遠くで二人が反応してます(笑)

ロンロン 「……」
テオ「誰だよ」
じろりと睨まれました、ごめんなさい(笑)

リシャールっ……
「……どこかで、乙女の声が…?」
未だワインに酔っている様子です。

じゃあ、ジャンしかいないかな。
いや、ベルもいるし。
ルイに大司教に、ジャンヌに~多すぎるっ(><;)
と、こんな状態ですが。

どうなるかお楽しみに~!!

何とも危険な……

危険だー、武装しているなんて尋常じゃないですよー!

向こうが気づいていない分、手を打てるかもしれないけれど、シャルルちゃんとジャン君二人でどうにかできる相手でしょうか?

ヘンリー三世も来るかもしれないし、またシャルルちゃんに苦難が……ああー(汗)

半分忘れかけていましたが、リノーラさんはここで再登場?
なんにしても気になるところで終っていて、次はどうなるかドキドキびくびくとしてしまいますよー。

シャルルちゃん、今度は大丈夫か!?
活躍を期待して、またじっくり追いかけさせて頂きます!

おはようございます^^

こっ、これは……
軍隊にも見える、武装した集団って、あのもしかして、リノーラさんの??
……もしヘンリー三世がシャルルたちの後を辿ってすすんできていたら……、やばいですよね……??

事を起こすだけでいい、その言葉を思い出しました。

何かあったらシャルルが案内したようになっちゃいませんかね><

ロンロンッ リシャールさんっ
シャルルとジャンくんを助けてーっ

ジャンの方が大事っていった言葉、そのままに偽らずに行動ができるシャルル。
かっこいいし、素敵だな~と思います^^
頑張れ、シャルルっ
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