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『La croisade de l'ange 2:Laon』 23

『Laon ‐ランの風は苦く‐』

23

施療院の城壁と庭を仕切ろうとする鉄柵の内門は、閉じて中庭の賊から身を守ろうとする貴族と、開いて国王を逃がそうとする衛兵とで動かず。シャルルはその隙間をするりと駆け抜け、ベルトランシェの護る馬車の脇へと駆け付けた。今丁度、馬車の中からランス大司教が降りてきた。
ふと目が合う。相手は目をそらした。
ひと睨みして見送り、その奥のルイとブランシュに「出ないほうがいい!」と、怒鳴った。
ベルトランシェが気づき、「リオン、外の様子は」と敵の剣を受けながら叫んだ。
「外もひどい!このままじゃ、油壺に詰め込まれて火を放たれるのと同じ……」
ふと、目の前に一人の修道女が駆け寄る。背の高い、黒衣に顔を隠した、それ。
ルイの乗る馬車に近づき、
「陛下、どうぞ、建物の中へ。私がご案内します」
と叫んだ。ふわりと鼻をくすぐる、その香水には憶えがある。
「お、お前!!」
シャルルはその女に掴みかかった。

「何をするんじゃ、シャルル」大司教が止めようとするのを、シャルルは一蹴りで突き放す。
掴んだ修道女は衣装をはがされまいと掴みなおす。修道女にしては力強い。
「ベル!偽物だ。こいつ、ランにいた!」
叫びかかるシャルルに、女はふいに抱きついた。
「わぅ」
目の前を黒衣でふさがれ、シャルルは負けまいとぐんと踏ん張り、相手の腹辺りに衣装ごと頭突き。
手ごたえと呻く高い声。かすかに堅いものが頬に当たったのは、やはり武器を携えているからだ。
そう確か、ランの市場にいた偽修道女、腰に剣があった。
尻もちをつく女ごとごろんと転がり、そのまま一回転してシャルルは猫の子のようにすたりと立ち上がる。
低く構える手にはすでに獅子紋の剣。

「あら、坊や」と。立ち上がった今、女は赤毛を風に晒していた。
すらりと伸びた細い首に長く伸びた巻き毛。厚めの唇にはぬらぬらと紅が光る。
ひゅ、と空を切る音と共にベルトランシェの鞭が女に飛びかかる。女はすらりと剣でそれを受け止めた。鞭は剣に巻きついた。
鞭の主は「リオン、お前は陛下をお守りしなさい!」と叫ぶ。
振り返れば、修道女たちは衣を脱ぎ去り、近衛騎士と剣を交えている。国王の御者が賊に倒され、大司教が変な悲鳴をあげた。賊は御者の代わりに馬車にとりつき、ルイを引っ張り出そうとする。
「陛下!」
ベルの声。
シャルルは賊の首に剣を当てる。
「離れないと、殺すぞ」と怒鳴ると、振り返った。
「は、なんだと、ガキが。人を殺したことなどないだろう!」
男は獅子紋の刀身を手でぐんと掴み、押し返す。慌ててシャルルは飛び離れた。
ずんぐりと太った男は、身体をぐんとたわめ馬車の外に飛び降りた。
ちらりと隙間から、ブランシュの顔が見えた。
無事だ。

掴みかかる男の手をかわして、背後に回り込み。馬車と男の間に入る。
背にした二人を護るため。

敵は大柄な男一人。顔の上半分を布で覆っているから見えないが、大袈裟な構えから振りかざす剣の勢いはどこかで感じたことがある。
二度、斬り結んで突き放す。
「お前、市場の焼き鳥泥棒!」
びくりと相手が一瞬動きを止めるから、シャルルはするりと背後に回る。
そう、隙だらけの背中を思い切り蹴りつける。
結局、剣より素手の方が動きやすいのだ。まともに相手に合わせて剣を使う理由はない。シャルルは獅子紋の剣を鞘に戻し、腰を縛っていた紐をぐるぐると両手の拳に巻き付けた。これで、剣も素手で受け止められる。
「何の真似だ、小僧。あの時は手加減してやったんだぜ、付けあがるな」
振り上げる男の剣は大きく重い。上から振り下ろすのをよければ、次は必ず横に薙ぐし、その切り返しは遅い。
そのタイミングでシャルルは懐に入り、男の手首を蹴りつけた。
うが、と叫ぶのと剣が吹き飛ぶのと同時。
がらんと派手な音を立てて、男の剣が地に転がる時にはシャルルが続けざまに放った回し蹴りが男の首を打った。
ずしんと音がしそうな勢いで、男は倒れた。
ちょうど、馬車につながれた馬の足元に転がり、馬はしっかりシャルルの代わりに一蹴りで片をつけた。
「焼き鳥の恨みはまだ残ってるからな!」
動かない男に一言吐き出し、シャルルは次、と振り返る。

名を呼ばれた気がして顔をあげれば、施療院の門に待つジャンヌがまず視界に入る。そのすぐ隣に、ヘンリー三世。ジャンもいる。
「シャルル、大丈夫ですか!外はもう、安全です!」
ジャンが両手をぶんぶんと振り笑っている。隣で余裕の笑みを浮かべるヘンリー三世。そうだ、あいつがいたんだ。
イングランド王の騎士は精鋭ぞろい。
ルイとヘンリー三世。二国の王を敵に回せば賊も不利だろう。どうやら外の軍勢は制圧した様子だ。今もイングランドの衛兵たちが不利になりかけたルイの軍勢に加勢していた。

こちらは、と振り返ると赤毛の女と二人の賊を相手に、ベルトランシェが苦戦していた。
ええい、とシャルルは一番手前の男に向かう。
狙った男はシャルルの存在に気づかず、タイミング良くベルに斬りつける。無視されたシャルルの目の前に立ったのは、赤毛の女。
結っていた髪は解け、血のように流れ肩に首に絡みつく。青い瞳はどこか獣じみて、ひどく恐ろしげに見える。
「坊や、邪魔しないでほしいわねぇ」
笑みすら浮かべるそれは、余裕なのか、怒りなのか。

でも負けない。
シャルルは剣を抜き、ぎゅ、と獅子を握り締める。
シャルルはまだ人を斬ったことはない。どこか重く感じる剣はそのためだ。
ただその自覚はない。

しびれるような足元の感覚を追い払うようにぐんと重心を落とし、いつも通り剣を構える。心臓は信じられないくらい高鳴っているのに、思考は冷静でどこか非現実的。
戦いこそが騎士の本分。やるしかない。
「今度こそ、串刺しだからな」
「あら、ぞくぞくしちゃう」
意味の分からない女の台詞はぱんとはじける鞭の音でかき消される。
女の構えたサーベルはベルトランシェの鞭に巻きつかれていた。王の騎士は何人倒したのか、すでに美しい頬にどす黒い血を貼りつかせている。
「赤毛の女傑リノーラ、お前はブルターニュの手のものですね」
「あら、お見知りおき光栄ですわ」
ぎり、と。女が鞭を引き、そこは力比べだ。その隙にシャルルは女に剣を突きつけようと一歩踏み出す。

生け捕りにできるかも。

それがかすかな隙を生むことを、シャルルはまだ理解できない。
女の脇に近寄った瞬間。
ぶつ、と鞭がちぎれた。反動でよろけた女の剣は、間合いを詰めていたシャルルの目の前に薙ぎ下ろされる。
うわ、とかわす目の前を今度は違う白刃がかすめる。

女は右にサーベル、左に短剣を構えていた。
両刀使い。偽修道女は相当の使い手なのだ。
剣一つ扱いきれないシャルルは自らの不利を悟りつつ、短剣と長剣、両方を刀身に受けた。片手では支えきれず自然両手がそれにふさがり一歩下がる。

狭くなる視界の端、ふ、と女の唇に笑みが描かれるのが見える。
不意に圧力がなくなって、突き出される短剣。
続けてサーベル。
間なしの攻撃を何とか刀身で受け、持ちこたえたものの。
「くっ!」
つと踵がもつれ、シャルルはそのままころんと尻をついた。
隙を突こうとした女の視界からシャルルが消えた。シャルルは転がる勢いのまま地を背に、女を蹴りあげる。下から手元を蹴りつけられ、女は長剣を取り落とした。それがシャルルの顔の横をかすめ地面に突き立った。
「ぎゃ」
自分でしたことなのに、髪を串刺しにされた気分だが、くるりと持ち前の素早さで起き上がる。

「なかなか、やるわね。坊や」
僅かに息を切らせる女。
ベルはと見れば、なぜか腕を組んで立っている。その足元に倒れているのは、先ほどの賊二人。
見回せば、残る敵はシャルルの目の前、ただ一人だ。

あれ?
背後ではジャンがこっちを見つめ、その肩を押さえるように手を置くヘンリー三世。心配そうに口元をハンカチで覆うジャンヌ。
あれ?
「な、なんだよ!見物かよ!?」
「シャルル!」
飛び出しかけるジャンを、なぜかヘンリー三世が止める。

「駄目だよ。誰も手助けしたら許さない。いいかい。ここで手柄をあげたら、シャルル、お前を認めてあげる。私に仕えるにはそれ相応の力が必要だよね、ベル」

やけに落ち着き払った声は、ベルトランシェの向こうに見える馬車から。ゆっくりと降り立った少年王は、腕を組み口元に笑みさえ浮かべシャルルを見つめていた。その奥に座るブランシュは、白い顔をして人形のように見える。
「騎士として、聖なる王に剣を向ける異端者を殺すのだよ。シャルル。君はまだ幼くて、人を斬り血に濡れれば、可愛らしく震えてしまうかもしれないけれど」
自分の発想に何が楽しいのか、ルイはにやにやとする。

「こ、この!変……」
「シャルルっ!?それだけはだめですっ」
ジャンが危うく止めた言葉は、誰にも聞かれずにすんだらしい。
倒れている賊以外は、シャルルと女を囲んで円を作り見物している。まるで闘技場だ。

「ローマ帝国には獅子と奴隷を戦わせる見世物があるという。ねえ、シャルル。リオン・ド・リタには、ふさわしい会場だね」
穏やかに笑うルイ。

「くそ」
再び見つめた正面の敵は、青ざめた顔でシャルルを見ていた。
赤毛の女はわずかにひきつった笑いを浮かべ、不意に大声をあげた。
「陛下!私がこれを倒したなら。我が実力を認め、お仕えさせていただけますか!」

「はあっ!?」
シャルルは思わず力が抜ける。
「だって、あんた、敵じゃないか!」
「おバカさん。私は力ある方にお仕えする騎士になりたいのよ。このままでは私には死しかない。例えお前に勝っても、ね。こうなれば契約した主君など見捨て、目前の可能性にすがるのよ。雇ってくれるのなら、私の命はつながる」

女は、死を覚悟している。
こんな状況でも、生き延びたいと願い、その方法にすがりつく。
ごくりと、シャルルは唾を飲み込んだ。
その同じ場所に、自分もいる。他人事じゃない、命がかかっているのだ。
ちらりと視界に入るジャンは、今は衛兵に抑えられ、食い入るようにこちらを見ている。

「嫌だよ。いらない」

無情な少年王の声に、その場は再び静まり返った。
見物と決め込んだ貴族たちも厳しい表情をしていた。
「ブルターニュに捨てられた貴方を私が引き取る理由はない。リノーラ・パダム。ブルターニュ伯モークレールはそういう人だと聞いたけれど、陪臣を大切にしないのだね。この無謀な作戦を引き受けた時点で、貴方は判断を誤った。ねえ、そうだろう?ベル」
穏やかな口調が告げるのは、女にとって死刑宣告。
シャルルは、剣を握る女の手がかすかに震えるのを見つめていた。

「ええ。捨て駒にされるような女は不要ですし。もともと、女の部下はいりません」
ちらりと目が合う。シャルルのことも言っているのだ。
「でも、主君の命令を断れば騎士は職を失うじゃないか、引き受けるしかないのに……」
女を庇う気持ちはないが、雇われるものの弱さはシャルルにも分かる。第一、女だからいらないって。それは。
「リオン、物事を見極めなさい。リノーラはここで死を待つくらいならば、初めから違う道を選ぶべきだったのです。あわよくば陛下の御命をなどと考えての行動、許されるはずがないでしょう」
ぐ、と。シャルルは黙る。
「そうかも、しれない。でも。馬鹿でも強ければ、僕は生き残れるんだろ!」
なんで自分がこうなっているのか、とか。その理不尽さまでシャルルは気が回らない。それを言ったところで状況が変わるはずもない。
僕だって、死ぬわけには行かない。

ふわと香りが動いた。
開始のラッパも、何もない。
女の香水だと気付いた時には、目の前に白刃。わ、とかろうじて飛び退くと剣を地に刺し、クルリと身を翻す。
とん、と軸足をついた時点で、シャルルは女の脇にいる。
勢いのまま剣を抜き、薙ぎ払う。
僅かに手ごたえ。
く、と身を沈めたリノーラが息を詰め、間を置き、シャルルも再び二人を隔てる宙をにらむ。

「ごめん、僕は、負けられない」
たとえ、女の運命は絶望的だとしても。
同情なんか、しない。
シャルル、小さく呟いたジャンの応援が耳に届いた。


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藤宮さん♪

そうなんです。こんなことを用意していました。

ルイ…。彼の性格、大人しいようでいて苛烈な部分もあったらしいです。キレやすい感じの。
今後にもずっと活躍(?)するキャラなので♪冷血だけどそれなりに面白みのある子にしてみようかと♪

さて。戦いです。はい。
こんなに戦闘シーンに文字を割いたのは初めてですが~。
うまく書けているといいなぁ!!
お楽しみにっ♪

そう簡単にはー?

うう、シャルルちゃん……。
そう簡単には終われないとは思っていましたが、この展開とは……。

リノーラさん、敵なのは確かですけど、こうも追い詰められてしまうとなんだかなーと思ってしまいます。

ルイ、やっぱり冷血ー? それとも王様ってそういうものなのか?
ベルトランシェも女の部下はいらないとはっきり言うし。

……まあ、別にシャルルちゃんはベルさんの部下になりたいわけではないでしょうが、そう言われるとやり切れない気がしますー。

しかし、これで本気の戦いが始まるのですね。
女同士の命を懸けた戦い……。
いくらシャルルちゃんでも簡単に勝つことはできないでしょうが、頑張ってくれると信じています。

どきどきと本気で緊張しながら、話に想いを馳せながら。
続き、またじっくり追いかけていきますねー!
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