08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『La croisade de l'ange 3:Le havre』 ③

La croisade de l'ange Chapter 3 『Le havre:ル・アーブル、港に詩う』



シャルルが旅立って数日後。
リシャールは静かな朝食を楽しみながらシャルルがもらった手紙の内容についてどうロトロアに報告しようかと考えていた。ふと、クウ・クルの鳴き声が聞こえたような気がし、顔をあげる。
いや、気のせいだと再びベーコンと玉ねぎの入ったエンドウ豆のバター炒めにスプーンを差し入れた時、明らかに普段と違うざわめきを感じて手を止めた。
ばたん、と開かれた扉の向こう、まさしく想像していた主君を見つけリシャールは立ちあがった。

「ロトロア様」
言いかけた声を遮るように「リシャール、一昼夜走り続けてクタクタだ、水を!」
叫ぶなりロトロアは自分の席にどんと座った。そのまま、リシャールの飲みかけを口に運ぶ。
マントをつけたまま、雪でぬれたのだろう、髪は額に張り付き冷え切った様子が唇の色で分かる。
「ロトロア様、すぐに寝室をご用意いたします。とにかくお着替えを。ルワソン、湯を」
言いながらリシャールはロトロアの脇で剣を受け取る。
ロトロアはするすると解いたマントを煩そうに取り払うと、それもリシャールに押しつけるように渡した。
「今、温かい飲み物をご用意いたします。どうか、濡れた服をお着替えください。お風邪を召します」
「いい、ああ、とにかく。お前も来い」
珍しく言い淀んだロトロアは、ぐんと立ち上がるとリシャールの腕を掴んで二階の自室へと向かった。
途中すれ違った女中に「飲み物を俺の部屋へ。ブロンノを休ませてくれ」と頼む。
あまり見た覚えのないロトロアの慌てた様子。リシャールは、幼いロトロアが木に登ったまま降りられなくなった子猫を庭で見つけ、リシャールを呼びに来たのを思い出していた。

「何が、おかしい」
は、と気付けば、リシャールは自分が口元を緩めていたのだと理解する。
「あ、いえ。すみません。ロトロア様のそのようなご様子、あまり憶えがありません」
無造作に上着を脱ぎ捨てるロトロアの足元、甲斐甲斐しくそれを拾い上げる。
ロトロアは上半身裸のまま、椅子に座った。暖炉の炎が肩の筋肉に明るい光を投げかける。椅子に身体を預け、乱れた前髪を無造作にかき上げた。
目を細め見つめていたリシャールは脇に立ったまま微笑みかけた。
「何があったのですか、ロトロア様。シャルルがいれば笑われますよ」
「叔父上に、言ったのか」
「え?」
「シャルルが、フランドルの血を引くと」
ふとリシャールの笑みが途切れる。
リシャールがラン伯に問われ、応えたそれ。
「お前が、何故そんなことを話したのか分からんが。あれはフランドルとは無縁だと言ったのに、それとも……」
「理由を聞かれたのです」
するりと流れる高い声はロトロアの苦悩を撫でるように涼やか。
平然とリシャールはほほ笑んだ。二人が見つめあっていたなら、その笑みが先ほどの笑みとは異なることにロトロアも気付いただろう。
「貴方の叔父上に、なぜにシャルルを傍に置くのか、と。問われましたので」
「だが」
「私には、シャルルがフランドルの血を引く可能性がある、それゆえに傍に置く。他の理由が思い当りませんでした」
ロトロアは黙った。
眼を細め、自分の上着を主君の背にかける青年を眼で追った。
「納得できないのです。何の価値もないあれをそばに置くことが。あるいはロトロア様。貴方が女としてあれを気に入っているというのでしたら、それなりに理解できます。私なりに納得しようと努力はしたのですが。シャルルは相変わらず男装していますし、生意気この上ない」
「リシャール」
「随分我慢しているのです。貴方のためであるなら、と」
「リシャール!」
立ちあがったロトロアは、目の前に立つ青年を睨んだ。普段なら、ロトロアの前では恭しいはずの男が、今はわずかな身長差のため上から見下ろしている。
そのタイミングでノックの音、ルワソンがスープを持って入ってきた。
かちゃと鳴る食器が、緊張感の中テーブルに収まるまで二人はじっとしたまま。
「あの、失礼しました」
と、何とか命じられた仕事を終えた女中は退散する。
「声を荒げるのは、いかがかと」小さいリシャールのささやきに、ロトロアは深く息を吸い吐き出した。
「リシャール。シャンパーニュ伯の命令で、叔父上がシャルルを差し出せと言ってきた。叔父上からテオバルドにシャルルの話が流れたんだ。テオはテオでシャルルにつまらん嫉妬をして、叔父上と口を合わせている。戦時にありフランドルの態度は宮廷寄りだ、だからシャルルを人質として傍に置くと。それが嫌なら、お前を参謀によこせと。……リシャール。お前、叔父上と契約しているそうだな」
僅かにリシャールが眉をひそめ。ロトロアはそれを見逃さない。
「黙っていろと言われたのだろう。それをあえて俺に突きつける、叔父上らしいやり方だ。お前が契約を結んだのなら、それを責める理由もない。お前が誰に就こうが、俺に止める権利はない」
吐き出された溜め息に、リシャールは強張った表情で立ち尽くす。
「お前の自由だ」
「それは、あまりにもひどいお言葉です」
「違うのか。では、なぜお前は叔父上と契約した」
リシャールは肩を落としソファーに座りこむ。流れる金髪の下、うつむく表情は青年を小さく見せ、年下の幼さじみが心を冷たく凍りつかせたのがロトロアにも分かった。ひどく、傷をつけた。
「俺にはお前が必要だ。リシャール、色々苦労をかけるが。俺は至らんところが多い、それでも……必要なのだ」
溜息と共にロトロアも額を覆い、テーブルにうつむく。
「俺は、お前に会いに来たのだ。シャルルではない、お前に」
ここまで慌てて会いに来た、それはリシャールのため。幼いころから共に育った。ロトロアの人生で言えば命運を共にした戦友と同じ。ラン伯が仕組んだ刃は鋭くはなくともロトロアに致命傷を負わせる力がある。
その様子は僅かにリシャールの胸を溶かした。切望される、それのみが人生を捧げるに相応しい報酬となる。
「ロトロア様、私が契約したのは貴方様のためです。シャルルがランを抜けだしたことをラン伯に追及され、果ては命令に従わない責任を貴方に取らせると言われました。貴方からルジエを取り上げると。それが嫌なら契約をしろと。意地の悪い嫌がらせです」
素直に語る親友にロトロアは目を丸くし。それから苦々しく目を伏せた。
「そうか、すまない」
疲れもあるのだろう、ロトロアは顔を両手で覆った。リシャールは改めてロトロアの側に立ち、肩に手を置いた。
「シャルルを残すのであれば、私がランに向かわねばなりませんね」
いや、ロトロアは首を横に振った。
「ですが、シャルルは今、ここにおりませんし、シャルルを人質に渡すなどできないでしょう?貴方はあれを気に入っておられる。お認めください」
「お前を、やるわけにはいかない」
「ロトロア様」
「シャルルを連れて行く。あれはもともと政治目的で得た子供」
「ロトロア様、貴方が悲しまれるお姿は見たくありません」
「平気だ。リシャール。お前が聞いたんだぜ?何のためにあれを傍に置くか。こういう時のためだ、そうだろ?あれはどこだ」



くしゅん、と。くしゃみを一つ。驚いたクウ・クルは馬の額でぴょんと跳ねた。
「うへ、風邪かな」
シャルルは昼過ぎになって曇り始めた空を見上げた。
右には森、左にはまだ日蔭が凍っている畑。向かう先には小さく光る海らしき帯。そこに注ぎ込むセーヌ川。右岸のごちゃごちゃして見えるのが、ル・アーブルの港町だろう。

海路、という案もあるにはあった。
けれど、ロンフォルトを船に乗せるのがどうにも心配だった。リシャールもそれは賛成で、大型の船と言っても、衛生状態は悪いし、乗ってしまったら陸に着くまで降りることはかなわない。海賊が出る危険な海域もある。すべてを比較するなら、少し遠周りでも陸路が安全だとリシャールが教えてくれた。

ブリュージュから西へ七日。
美しき港、という古い言葉を名に持つル・アーブルは、セーヌ川の広く美しい河口の脇にある。小高い丘陵地の緑と突き出た地形、川の青と海の青に挟まれ、蒼い海原に横たわる蜃気楼のように見える。
山岳地帯からル・アーブルに近づくたび、土地は平らに、視界も開けていく。
セーヌ川からの支流なのか、あるいは嘗て氾濫した際に出来た沼地からの水路なのか。シャルルは一つ集落を過ぎるたび川を渡った。橋のあるものもないものもある。ない川は浅瀬を馬を引いて渡った。
農作業をしている人や、街道を通る人に会うたびに、ル・アーブルのバイイはどこに住んでいるのかと尋ねてみた。
先刻も髭をもしゃもしゃさせた男に「バイイ?知らんねぇ」とじろじろと嫌な目つきで眺めまわされた。かなりの回数、様々な人に尋ねたはずだが一向に答えは出ない。誰もバイイの所在を知らないというのだ。
ブリュージュであれば、バイイは王国から派遣されている役人だった。だから土地の古くからの領主が貸し出している館に住んでいた。そしてそれは誰もが知っている。このル・アーブルでは知っている人がいない、なんて。
「そんなの、おかしいだろ!地図で言えばとっくにル・アーブルの街に入っているはずなんだ!街を代表するバイイを知らないなんて、おかしいよ。そう思わないか?」
返事をするはずのない親友は先程拾ってきたドングリに小さい牙を突き立てている。
空しい気分になってシャルルは腹ごしらえのことを考え出す。目の前に座り込むクウ・クルが美味しそうにドングリをかじるからというのもある。
一つ横取りしてみたものの苦いだけ。首をかしげるクウに「分かった、悪かったよ」と謝った。次の橋を超えた時、ふわりと香ばしい匂い。
見回してみてもすぐそばに民家はない。人気のない畑と黒い枝だけを晒す林。さらに進めば集落があるだろうがそこから匂いが漂うのだろうか?風もあまりないのに?
シャルルが馬を止めると、クウ・クルは林でまた、何か見つけようというのか馬からつるっと飛び降りた。
「わ、馬鹿!クウ・クル!お前、置いてくぞ!」
叫ぶのもむなしく、イタチは本能のまま、気の向くまま林にかけ込んでしまった。
「もうー。お前のせいでかなり時間を無駄にしてるぞ、言うことを聞かないとその内、縛り付けるからな!暴れても許してやらないから!」

「物騒なことを、と思ったが。なんだ、子供かい」

え?
振り返っても誰もいない。
「ここだ、ここ。橋の下だよぅ」
橋の下。
馬からすとんと降りると、石を積んだ小さな橋から下を見た。大人の背丈ほどの高さしかない。不格好な石がうまい具合にバランスを保つ橋梁に寄り添うように男が座っていた。目の前には焚き火、魚が焼かれている。
男は、多分男だろうと思う。柔らかい明るい色の長い髪を三つ編みにし、背中の中ほどまで伸びている。見たことのない赤い飾り紐で結んでいる。その背には小さなハープ。端がひらひらとちぎれた感じのケープを着ている。足元は編上げの靴、腰には短剣。肩にかけて引っ張れるようになっている小さい荷車のようなものに、荷物が縛り付けられている。
こけた頬に不精な髭が生えているが、よく見ればまだ二十代前半。下がり気味の目じりと大きめの口元が穏やかな顔を作る。
少し変な訛りがあるのは、遠い地方の人間ということだ。イングランドの訛りとも違うから、南の民族だろうか。
―――白い馬には小さな幼子。くるまれた布は絹。もしやこれはと拾い上げた農夫は、大事に抱えて修道院へ。珠のような男の子はどこぞの貴族の子やもしれん。探す親はさぞかし心配しているだろう。二月の空の冷たい月。星が瞬く―――

詩、だ。
聞いたことのない柔らかな声にシャルルはあっけにとられていた。
「南の土地で、そんな話を聞いたんだよ。坊や、一曲聞いて行くかい?」
「あ、分かった!吟遊詩人(サルバドール)だ!」
ぽんと手を打ったシャルルに、男は笑いだした。
「初めてかい?私はローマからはるばる北を目指してなぁ。行く先々で面白い話を聞きながら歌を作っているよ。ここにほら、おいで」
手招きに、シャルルは慌ててロンフォルトを引いて河原へと降りる。
美味しそうな魚の匂いに引かれたのもある。
携帯している乾燥肉には飽きていた。
関連記事
スポンサーサイト

藤宮さん♪

ああ!?コメントにお返事したつもりでいたのに~っ(><)
なんと、こんなに遅くなってしまってごめんなさい!!

シャルルの知らないところで世の中は動いていっています。シャンパーニュ伯やラン伯の動きが、シャルルやロンロンに何をもたらすのか…うふふ。

とりあえず。シャルルはまっすぐ、思うとおりにがんばります♪
サール、登場しましたっ♪
吟遊詩人、どうしても書いてみたくて~♪
そんな気まぐれから生まれたキャラですから、何か、活躍できるといいのですけど(笑

不穏な感じが……

ううん……シャルルちゃん出発後に、ロトロア……。
なんだか、不穏な感じがしてきましたね。
シャルルちゃんかリシャールさんか。そういう選択はなかなかつらいですねー。

ロトロアの中の重要度がすけて見える会話のような。
でも、ラン伯とテオ……意図は違えど結託してしまうと、始末に負えないですね……。
腹黒い大人たちのせいで、みんな大変な目にあうという(笑)
まあ、それくらいじゃないと、偉い人は務まらないのでしょうが。

それでやっと、シャルルちゃんはル・アーブル到着?
なんだか謎の吟遊詩人に出会ってますが、この人は今後の展開に絡んでくる?

色々不穏な話も出てきてますが、きっと何とかな……る、と信じてますー。
この次も楽しみに、追いかけていきますー!
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。