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『La croisade de l'ange 3:Le havre』 �

La croisade de l'ange Chapter 3 『Le havre:ル・アーブル、港に詩う』



ところが。会場は静まったまま、誰も手を上げない。
「どうした、誰もいらんのか!美しい生娘だぞ」さらに男が声をかけるが、商人たちは顔を見合わせ困惑した様子で見守るだけだ。
「1ドール」
柔らかな男性の声が通り。振り返る人ごみの中からサールが姿を現した。

「サール!」
シャルルが叫び。同時に「落札!」と、金貨一枚と言う高い値に焦れた男が鐘を鳴らす。サールはひらりと煌めく一枚の金貨を男に投げつけ、シャルルの腕を引っ張った。
鐘の音と同時に商人たちが夢から目覚めたかのように一斉にざわざわとどよめき、「あれは嘘か」「いや分からん」とじっとシャルルを引っ張っていくサールを見送る。
「待て!お前、なぜここにいる!」
幕内からヌーヴェルが飛び出し、捕らえろ!その取引はやり直しだ!と叫んだ。
競り人の男はヌーヴェルを引きとめた。
「取引が成立したら誰も取り消しは出来ません。いくらヌーヴェル様でも、だめですよ。競売の信用に関わります」


人ごみの中、サールはヌーヴェルを無視してどんどん歩く。
「サール、サール!あの、どうして?」
「ああ、噂がねぇ。フランドル伯ジャンヌ様の娘が出品されるってねぇ。それで慌ててもぐりこんだんだよ。そういう噂には皆敏感だ。だから、皆、見当のつかない値段と、買ったら何か困ったことになるんじゃないかと怖がってね。手をあげなかった。ついてるねぇ、金貨一枚で済めば安いもんだよね」

噂?フランドル伯の娘かもしれないなんて、僕はサールに言ってないはず。
なんでそんな噂が?
先を行く痩せた青年を、シャルルは訝しく見つめた。
本当に、ただの旅の吟遊詩人、なのか?
そう言えば僕と同行するって決めたのも、今思えばやけに簡単だったし、あの橋で声をかけてきたのもサールだ。
「困っている子供を助ける」そう言ったのは本当に同情からかな。

引かれるままテントを抜けると、ふわりと潮風がサールの髪を揺らした。夜闇にも明るい色の長い髪が市場のランプに煌めいて、喧騒の中どこか異世界めいた様相をしている。テントの前にある木箱をテーブルに見立てた酒場からは酒が匂い、その隣は武器商人が剣を並べる物々しい店。行き交う言葉も、ブルトン語やフラマン語、フランク語に後よく分からない言葉。
「サール、これ、この市場」
「ああ、これ。言ってなかったかなぁ?夜の間だけ寄港する海賊船や異国船が荷揚げしたものを売り買いする市場なんだよ」
海賊!?
異国船!?

闇、市って、名前を聞いたことがある。
「闇市なの?」
ふと、サールが振り返った。
「まぁ、夜の市場ってことなら、そういうことだねぇ。ただね、こういう市場は異国の情報や珍しいものを手に入れるには便利だよ。私もたまに立ち寄るんだよ。しかもこの港を半ば公然と解放し、好き勝手に取引させている、これもこの街の領主の商売の一つさ」
「サール!詳しいんだね」
「お前さんが知らなすぎるんだよ。この界隈に海賊船が出るのは知っているだろう?海賊だってお宝をかじって生きていけるわけじゃないんだ、こういう場所で、戦利品を金や食糧、水に変えるのさ。互いに必要なものを持っているんだ、取引はいくらやめさせようったって無くなりはしない。だったら堂々と領主お墨付きの市を開き、商人を集めて取引させれば街では管理しやすいってことさぁ。一種の智恵だねぇ、そうだろ、ロトロア様」
サールの視線を追って人ごみの先を見つめた。
「ああ、この街の船はおかげで海賊の被害にあうことがない」

腕を組んで立つ黒髪の男。その向こうにロンフォルトと荷物!!そこからクウが顔を出す。
「あんた!」
「よう。似合うじゃないか、シャルル」
「なんだよ!なんで、邪魔しに来たんだよ!ばか!」
「なんだ、売られてみたかったのか?それならば今からでも遅くないぜ?」
眉を下げて笑うから、シャルルは思いきり頬を膨らめた。
「そうじゃないよ、もっと前のことだよ!」
ロトロアがにやにやするから、余計に腹立たしくなって掴みかかる。
あの地下牢で鬱々としていた自分を思い出せば、やっぱりこいつが全部悪いんだと悔しくなる。拳の一つ二つは受けてもらわねば、納得がいかない。
ところがシャルルは相変わらずスカートが苦手。尾を踏むように裾を踏みつけ、つんのめって支えられる。
「ほら、しっかりしろ。また、抱き上げてほしいか?」
「そんなはずないだろ!」
腰に手を回そうとするそれを、ペンと叩いた。
「お二人さん、じゃれていないで急ごうよ。ヌーヴェルがくるよぅ」と、内容とは裏腹にのんびりとサールが笑った。
振り返れば、衛兵らしき男たちが鋭い視線を雑踏に投げかけている。
小柄なシャルルにはロトロアのケープがかけられ、人ごみに紛れ市場を抜けだした。


昨夜雨宿りした小屋に逃げ込むとシャルルは息をついた。
「おや、よかったねぇ」と。あの晩の老婆がにこにこと迎えてくれた。
「あんたが人買いに捕まったって聞いて、心配していたんだよ」
ケープから顔を覗かせたシャルルに痩せた手が伸び。されるまま、大人しく頭をなでられてみる。小さな老婆の目には、シャルルは息子と重なって見えるのだろう。

「実はまだね、追われているんですよ。だから、ここにしばらく隠れていたいんだけど」
「ああ、いいよいいよ。あたしはもう帰るからね、好きにしておくれ」
「ありがとうございます」
にこにこと笑うサールは、すっかり老婆と仲良しになっているようだった。片や吟遊詩人だと蔑み、片や蔑まれることを卑屈に受け入れていた、あの様子が今はない。それが、なぜかシャルルには嬉しかった。

三人に席を譲るように、老婆は家に帰っていった。
漁師小屋の中は、焚かれた薪でぬくぬくと温かい。
シャルルは自分の荷物とロンフォルト、そしてもちろんそこに隠れていたクウ・クルを見つけ喜んだ。
クウ・クルはシャルルの服が嫌いなのか抱き上げられても身を捩って逃げ出そうとする。
「なんだよ、感動の再会なのにさ」
「お前が匂うからだぜ、地下牢のいやな匂いがする」
「ば、ばか!仕方ないだろ、大体誰のせいで僕が地下牢に行く羽目になったんだよ!」
訴えてみても、ロトロアは鼻をつまんだまま笑う。
「お前が悪いんだろうが。俺やリシャールだから許すが、普通ならただの伝令が貴族である領主にあの態度じゃ、殺されても文句言えないんだぜ。俺が行ったときにはお前、領主の前で剣を抜いていただろう?俺が間に入らなければ殺されていたぜ。感謝してほしい位だな」
自分のせい、というのも分かっているだけにシャルルはむっとする。
「違うよ、僕が可愛かったからだ。だから売ろうとしたんだ」
「自分で言うな、価値がさらに下がるぜ」
「価値、そう、金貨(ドール)一枚ってどうなんだよ!安くないか?」
「まあ、まあ。お二人とも。まずは座ってくださいよ」
サールはいつの間にかワインを開け、干した魚を火であぶっていた。
いい匂いにシャルルは腹が鳴った。
笑いをこらえて、サールは「出会った時を思い出すねぇ」と歌うようにいった。
そこで、ふと、シャルルは大事なことを思い出した。

「そうだ!なんで、サールと一緒なんだ!偶然?」
ロトロアはにやりとし。サールはごほんと咳払い。
「ロトロア様は以前から存じておりますよ。シャルル。君を街道で待っていてねぇ、ジャンの言うとおりだったからホント、面白くて」
シャルルは目を丸くした。
「ジャン!?」
「そう、私はシャンパーニュ伯にお仕えしているんだよ。まあ、ほとんど一年中旅をしながら、シャンパーニュに立ち寄っては情報を届ける。その程度だけどね。だから吟遊詩人であるのも間違いないんだよ」
サールはシャルルが喰ってかかるのを予想するように、切っ先を制した。
「お前と同様手紙を受け取ったが、ジャンはシャンパーニュ伯の元を離れられないらしい。まあ、そうだろうな。それで、サールがこの街に派遣されたんだ」
ロトロアが言葉を補う。
「なんだ、ふうん。ジャン、会いたかったのにさ」
魚を一つ受け取りながら、シャルルはつまらなそうに呟いた。
「会えるよ、すぐに。シャンパーニュ伯ティボー四世様にはお前さんをシャンパーニュに連れてくるようにってね、命令されているしねぇ」
「なんで、僕をシャンパーニュに?」魚を飲み込みながら、シャルルは首をかしげる。
同時にロトロアがワインの杯を持つ手を止める。
扉からの隙間風が三人の中心にある炎を揺らした。

フランドル伯の娘、それならば人質として傍に置く。シャンパーニュ伯ティボー四世が決めたそれは当然シャルルの知らないことだ。それのためにロトロアがこの地に赴いたことも。

サールは穏やかに笑いながら続けた。
「いいですよ、シャンパーニュは。特にこんな魚と飲むなら、あそこの白ワインがいい。フランドル伯ジャンヌ様の御子と聞けばなるほど、面影があるような気がするねぇ」
シャルルは両手で頬を押さえた。隠した、と言ってもいいが、それを照れと受けたのかサールはにこにこと笑いかける。
深いため息で二人の視線を引き付け、ロトロアが口を開いた。
「目的はそれだけかな、サール。テオバルドはお前にシャルルを連れて来いとだけ命じたはずだ。ロイの捜索に手を貸すなど、命じられていないはずだぜ」
低くなるロトロアの口調に、シャルルは二人を見比べた。
穏やかなサールの目がわずかに細くなって、笑みを浮かべたままの口元は張り付いているかのように動かない。笑顔のまま睨み合う二人に、シャルルは。
「サールは、僕を助けてくれようとしたんだよ」
多分。

シャルルの声を完全に無視し、ロトロアは続けた。
「サール、興味をそそられたんだろう?シャルルが捜す少年に。情報屋だからな、テオに売りつけようって魂胆だろう」
昨夜ここにいた老婆以上に冷たい口調。ロトロアの怖い顔を久しぶりに見て、シャルルは自然緊張する。
「知らないほうがいいこともある、それもよく分かっているはずだぜ」
その台詞。かつて自分に向けられたそれを思い出した。そうだ。ロイのことを知ることは、時に不幸を招く。ロンダのように。
喉元まで出かかっていたロイの消息を慌てて飲み込んだ。押さえる手と共に胸に封じる。
その様子をちらちらと横目で眺めていたサールは幾分声を低くし、それでも、ロトロアの警告を無視し平然と笑いかけた。
「お友達、見つかったのかい?」
シャルルは助けを求めるように、ロトロアに視線を泳がせた。
「馬鹿正直だな、お前は。黙ってろ」
ロトロアに睨まれ。やっぱり言っちゃだめだとシャルルは慌てて手元の器を口に運んだ。
それがワインだと気づいても、口に運んだ勢いでそのまま飲み込む。
結果むせかえるその間、「教えてくださってもいいでしょう?ロトロア様」とサールが喰い下がり、「死にたいならな」とささやき返すロトロアの応酬がされる。
口を挟もうにも、シャルルは赤く熱る頬と口の中の酸っぱく苦いそれに声を出せずにいた。


「貴方にも知りたいことがあるのではないですか、ロトロア様。たとえば、この港に夜間寄港したブルターニュの船の話とか」
ロトロアが黙り、やっとワインの余韻から抜け出したシャルルが「ちょっと、二人ともさぁ」と口をはさんだ。
「お前は黙っていろ」声だけじゃなく、ロトロアが腕を肩に回して押さえるから、なんだよとぶつぶつ呟きながらシャルルは口を尖らせた。力強いロトロアの手は、雨に打たれ身を寄せ合っていたサールとは少し違った。何とは具体的に言えないけれど、その感触に何の違和感もない自分に気付いた。ロトロアがからかう腕や手、その感覚に自分が慣れている、その事実に気付いたのだ。
そう、僕はロトロアのセネシャルで、雇われ人だ。
「言わないよ、分かってる」
シャルルは一人、二人の男の間に小さくなって溜め息をついた。
ロトロアは改めて足を組みかえると、サールに問いかける。
「サール、お前が言いたいのは、ここノルマンディーが国王を裏切りブルターニュと通じていると。そう言う話だろう?」
ふんと鼻息を吐き出しそうなにやけたロトロアの笑顔、サールは目を細めてこれまた歌うように笑った。
「さすがですねぇ。ブルターニュ公は我らシャンパーニュを巻き込んでおきながら、多くを隠しているに違いない。シャンパーニュ伯はもちろん、側近の皆さまもそう疑っておられる。伯からの命令がなくとも、ブルターニュ軍と国王軍、二つの情勢は常に目を光らせておくに限る」
「そこまで分かるなら、取引と行こうか」
不意にロトロアがワインの瓶を差し出し、まるでそれは、取引を受けるか受けないかを迫るような様子だ。じっとロトロアを見つめていたサールは、しばらく躊躇していたが磁器の器を差し出した。
「取引と言うからには、双方に得があると、そういうことですよねぇ?」
サールは少々不安があるのだろう、念を押した。
「ああ、もちろんだ。お前はシャルルが捜す少年のことを知りたいのだろう?確かにこれは慎重に扱えば有用な情報だろうぜ。教えてやる。代わりにシャルルは俺が預かる。シャンパーニュにはやらん」

サールは眉をひそめた。
「それはまた。確かに私は情報を土産にシャンパーニュに戻る。連れて帰る予定の少女はロトロア様に預けたと、それで済みますが。ロトロア様。シャルルをよこさないならば貴方のセネシャルであるリシャール様を呼び寄せると、そんな話を聞いています。よいのですか。如何に貴方様がティボー四世様の信頼を得ているとしても」
「信頼は裏切るためにある」
静かな一言にサールは黙る。
シャルルも、間近にあるロトロアの顔を見つめた。
「とは言いすぎかもしれんが。シャルルもリシャールもやらん。テオに言っておけ。友情の器をひっくり返すのなら、信頼と言う美酒は二度と戻らないのだと。甘えるのもいい加減にしろ、とな」
「い、言えませんよ!そんなこと」
慌てたサールに、ロトロアは面白そうに声をあげて笑った。
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藤宮さん♪

うふふ~♪
ええ、ええ。そんなところです♪
だから、もうすぐ。ええ、もうすぐロイ君を書けるんですよ~♪

まあその前に、シャルルの受難は続くのです(笑
どんなときにも元気で前向きだから、いじめがいがあったり…(←?)

色々と絡みあって、うまく描くのが難しくなってきていますが~がんばりますっ♪
藤宮さんのコメント、やっぱり嬉しくて励みになります~!!

よかったー!

変な所に売られないでよかったー、シャルルちゃん。

というか、サール。出会ったのは偶然ではなかったのですね。
ジャンはやっぱり来られないのですか~。また二人の冒険も見てみたかったのですが。

色々絡み合って、どんどん楽しくなってきます。
その分シャルルちゃんの受難は続くのですが、それもドキドキしながら見守ってみたり。

ロトロアもちゃんと助けてくれたし、ロイにも会えたら一番いいのですがそうもいかないでしょうか。

……でも、よく思い返してみたら、ロイってもしかしてあの体調を崩して馬車の中にいた人……。

まあ、何にしても、また一波乱ありそうですね。
じっくりまた、お話を追いかけていきますよー!
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