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『La croisade de l'ange 3:Le havre』 ⑩

La croisade de l'ange Chapter 3 『Le havre:ル・アーブル、港に詩う』

10

ロトロアが宿の主人から買い取った息子の服をシャルルに与え、シャルルもいつも通りの自分に戻れたような気分で腰に剣をさす。
「さて、パリを目指すぞ。ここからなら、五日は覚悟が必要だぜ」
肩に乗せられた手をパチンと叩いて振り払うと、シャルルは「いいよ。ブランシュ様にロイのこと報告するつもりだし。ロイがいるかもしれないイングランドに行くには僕一人じゃ無理だしさ」
一緒に行くけど、昨日みたいのはだめだからね、と睨みつける。
肩をすくめるだけのロトロアはいつも通りのにやけた顔だから、承服しているはずもないが、ここからシャルル一人でパリへはたどり着けない。同行するしかない。
「大体、昨日は剣を身に付けていなかったのがいけないんだ」
と改めて短剣と長剣を確かめる。
「おいおい、殺されるのはたまらんな」
「触ったら斬る」
「一回やれば二回も三回も同じだろ」
ふわりと髪に伸ばされる手を、シャルルはひとっ飛びで避けた。内心密かに、いつもより必死で。
「違う!!あんた、そんなだから女にもてないんだよ!」
「ほう、お前が女心に詳しいとは知らなかったな。女に目覚めたのか、それとも、ロイに処女を捧げたかったとでもいうのか?」
すでにシャルルは剣を抜いている。
そんなこと、「相手は王族だぞ、僕みたいな身分の人間が相手にされるはずもないだろ!」と唸って斬りかかれば、ロトロアは笑って逃げ回った。
分かってない、分かってないんだ。
僕が、どんな気持ちなのか。
会いたいと願い好きだと自覚したロイに、恋人としての関係を期待したわけじゃない。だけど、裏切っている気分になるのは仕方なかった。こんな自分に腹が立たないはずはなかった。
再会できた時にロイはどんな顔をするんだろう。僕はどんな顔を、できるんだろう。
ロトロアの冗談に怒ったふりをしてごまかす。
本当は泣きたいくらい胸が痛むことは、なぜかロトロアにだけは知られたくなかった。


朝の風も、灰色のかすみに濁って見える遠い海も、晴天の明るさに今日は温かく感じられた。
ロンフォルトにまたがり潮風を背に受けながらシャルルはル・アーヴルを後にする。
通りは昨日と同じで、人々で賑わっていたが広場から街道へと進むと急に人影が少なくなった。
小さな石積みの排水路を渡るとそこから先は石畳もないむき出しの灰色の土が続く。畑や潮だまりのような沼が民家に混じりだし、街の城門が近づいたのだと分かる。緩やかな上り坂をじっとロトロアのブロンノの尻を眺めながら進む。その尻にクウ・クルがしがみついていて、こっちを見つめロンフォルトに飛び移ろうとするそぶり。
「やめとけ、馬鹿、落ちるぞ」とたしなめると、首をかしげた。
不意にブロンノが止まり、近くなった目標に、あっと声をあげる間もなく白イタチがジャンプ。ロンフォルトのたてがみにしがみついて、シャルルは慌てて手を伸ばして支える。
「シャルル、道を変える」
低いロトロアの声に前方を振り返れば、二、三軒の民家の屋根の向こう、ル・アーブルの城壁に松明が焚かれているのが見えた。それは青い空を黒い煙で汚していた。遠方の城塞や城に何か合図を送るのだ。さらにその向こうの山手にも、小さく黒い煙が見えた。
「なあ!あれ何!?」
「ノルマンディが動き出すんだろうぜ。シャルル、一度しか言わんぞ。よく聞いておけ。大河は天然の城壁に値する。地図を見てみろ。ブルターニュは北をセーヌ川、南をロワール川にはさまれている。おそらく、国王軍をロワール川沿いのオルレアンに引き寄せ、その背後にノルマンディー軍を配する。国王軍はノルマンディーを援軍だと信じているが、実際は違うわけだ。ルイに味方する振りをしながら、ヌーヴェル、いや、このノルマンディーは密かにブルターニュを受け入れている。泡よくば独立を勝ち取る腹積もりだ」
「裏切る、ってことか」シャルルは地図を取り出した。
大陸の北西部、このノルマンディーとその西隣のブルターニュ。確かに、両方に大河が流れている。
「ええと?」
ロトロアがうねうねした線で描かれるセーヌ川の先、パリを指差し、そこから真っ直ぐこのル・アーブルへとなぞってみせる。
「俺たちが向かう方角だ。国王軍は都市を中心に守備をする。最初にブルターニュ軍が狙うのはパリの西、オルレアンだ。ブルターニュからパリに攻め入るには、山岳地帯とロワール川との狭間に位置するこのオルレアンが要所となる。軍隊は周辺の街や村を焼き払い、物資を補給しながら進むのが普通だ。当然、国王軍も援軍を送り守りを固める。その援軍とはこのノルマンディーのことだ」
「うんと、山と河を楯にしたオルレアンの、右側からノルマンディーの援軍、のはずなんだね」
「そうだ。だが、ブルターニュは海路からノルマンディーと連携し、すでにノルマンディーは敵側だとしたら」
「そうか、オルレアンは挟み撃ちだ。正面からブルターニュ、気付けば背後にノルマンディーだ」
「お前の頭でも理解できたか」
シャルルは悔しさも忘れ強く頷いた。
地図に描かれたオルレアン、その背後に隠れるようにしてあるパリ。そこにルイがいて、ブランシュ様がいる。実際の戦争は見たこともないけれど、そう説明されれば彼らの側面が危機に面しているのだ。
「知らせなきゃ。ロイのこともだけど、それも」
「そう。だから、パリに向かう。で、シャルル。俺たちの動きと同時にノルマンディーも動き始めている。ほら、見ろ」
背後を振り返れば、遠く港には船が多数群がって見えた。
商業船なのか、漁業船なのか、あるいは。軍の船なのかは区別できない。けれどかすんで見えるそれをシャルルはじっと睨みつけた。
ぽんと肩をたたかれ、シャルルは振り返る。ロトロアが眩しそうに同じ方角を見つめていた。
「シャルル。ベルトランシェがどこまで疑っていたかは知らんが、お前をここに向かわせたのも無意味ではないと思うぜ」
「どういうことだよ」
「お前を利用したということさ。ノルマンディーの様子を探らせようとしているわけだ。そんなこと承知だろう。ブランシュが本気でロイを探そうとしているかすら、俺は危ういと思うがな」
「そ、そんなことないよ!ブランシュ様は、本気でロイのこと心配してるんだ!あんたには分かんないんだ」
「ああ、分からんね。行くぜ、街道は封鎖されるかもしれん。いつでも剣を抜けるように心して置けよ」
シャルルは素直に頷いた。いつも通りの少し軽い口調なのに、ロトロアの目は決して笑っていなかった。
遠く背後の港町から、教会の鐘の音が聞こえる。
それは何かの始まりを告げるようでもあり、シャルルはぎゅと腹に力をこめた。

***

「何の鐘でしょうね」
通常とは違う時間だと、青年が顔を上げた。被ったフードが海風をはらむ。
その傍らで今丁度港に降り立った男が、青年の見やる方を見上げ笑った。
「さあね、異国の教会は我が国とは違うのかもしれない。ああ、しかし。相変わらず、船は退屈だね。こうして人の行き交う陸に上がればホッとする。ノルフェノ、毛皮はどうした。天気がよくても海風は身体を冷やす。温かくしていなさい」
ヘンリー三世はすぐ横で荷物を馬車に積み込んでいる男に手で示し、男は黙ってノルフェノのための毛皮のケープを取り出した。
ありがとうございます、陛下。そんな青年の幾分幼い声は、港の喧騒と周囲の慌しさの中にあって、奇妙に響いた。それに呼応するようにヘンリー三世の語りかける声も優しく、会話する二人は荒れた波間に浮かぶ白い海鳥を思わせた。

男たちの掛け声にあわせ、船からは巨大な石弓の木材が下ろされていく。滑車がきしみ、何本もつながれた太いロープが十数人の男たちの手で引かれる。
商業船の多い港に、この異質な船は人目を引いた。遠巻きに漁師や船乗りが集まり始め、一人の老婆が近くにいた大柄な水夫に声をかけた。
「なんだい、あんたたちは。何を降ろしているんだい」
声をかけられた男は首をかしげ、異国の言葉で何か話した。
「ああ、イングランドの船なんだね、また、たいそうなものを持ってきたもんだね」
老婆は首をひねり、その言葉を聴いた周囲の漁師が「おい、なんだって?こいつら、なんだって?」と老婆に聞きたがった。
「ああ、イングランドの王様が領主様にお届けものだってさ。なんだろねぇ。この大きなもんは」
騎士見習いだの、吟遊詩人だの。おまけに今度は王様かい、と。老婆はここ数日の出来事に非日常の興奮を覚え、ふうんとしきりに頷きながら嬉しそうに歩き出す。
吟遊詩人の歌った海の歌の一節を、小さく口ずさみながら。

老婆がいつもの船小屋に向かって進むと、丁度領主のヌーヴェルの馬車とすれ違った。
ああ、と売られそうになった少女を思い出し、何となく見送る。
馬車はイングランドの船の前、大勢の衛兵の囲う前に停まると、転がるようにヌーヴェルが飛び出した。従者が馬車の扉を開けるのを待てない様子は滑稽で面白い。
「なんだい、なんだい。領主ともあろうもんが、情けないねぇ」
呟く間にも、衛兵の輪が領主に向かって入り口を作り。
その中から二人、背の高い金髪の男と、やけに厚着の青年が進み出た。
へこへこと領主が膝をついているのだから、あれがイングランドの王様ってことだね、頷く老婆はいつの間にか立ち止まっている。
ふわりと、風が吹いた。
ヌーヴェルが立ち上がるのと、若い従者のフードが風にめくれるのと同時だった。
柔らかな茶色の髪、色の白い優しげな青年が顔を覗かせた。
その容貌はどこか老婆の心を揺さぶった。なぜだろう、なんだろう。疑問を抱えたまま踵を返し、船小屋にと入ったところで、老婆は思い出した。
なぜだか知らないが、あの少女が言っていた探し人に似ている気がしたのだ。薄い茶色の勝った金髪、優しくて穏やかな少年だと。そんな大雑把な説明で、あの従者と合致した気がしたのは、やはり気のせいだと老婆は肩をすくめた。そんなもの、大勢いる。
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花さん♪

あう、あんぐりですか(笑
ロンロンの性格上、仕方なかったのです。
ほんと、男ってやつは(笑

そして!!そう。いい加減出てきてくれないと、シャルルちゃんがどうなってしまうことか、というタイミングで出してみました♪
再会は~。

うふふ。
ほろ苦く甘いのが、いいかなぁなんて。企み中です♪

いたーッ!!
すれ違っちゃったけど、ついにロイ君再登場ですね♪
シャルルちゃんはお手つきになっちゃったけど(前回あんぐりとコメ出来なかった臆病者です 笑)、ロイ君の気持ちは変わってない、ハズ…だよね?
またシャルルちゃん泣かすような素振りしたら、この私が黙っちゃいないですよ!!

藤宮さん♪

ありがとうです!!

シャルル、複雑な状態です~♪
そういう恋も切なくていいかな、なんて(笑

やっと、やっとロイが登場です。
ああ、藤宮さんの期待に応えられるかな?
ふふ。
さて、パリ紀行。とりあえずはロンロンとの冒険になりますが~。
楽しんでいただけるといいなぁ~!

ついに……ですか

パリへ向かうシャルルちゃんとロトロア……。
ついに、戦いの火蓋が切って落とされるのでしょうか。避けられないものだとは思っていましたが、目前に迫ると不安になってしまいます。

シャルルちゃんも戦うことになるのか……何にしても平穏無事には済まないのでしょうが。

そしてついに……ついに! ですね!
イングランドにいるロイにどう会いに行くのか気になっていましたが、こういう展開とはー!

すべてはこれからというような気もしますが、正直……何となく複雑です。
会うことを願い続けていた相手と会えることを素直に喜べないというのは、なかなかもどかしいというか、苦しいというか。
でもシャルルちゃんはきっと前を向くのでしょう。
その強さがうらやましくもあり、もっと弱くなってもいいのではと思ったりもするのですが。

何にしても、次はパリ、でしょうか?
ルイたちがどういう行動に出るのかわかりませんが、今からドキドキしてしまいます。
続きを期待して、またじっくり追いかけていきますね!

ちなみに、やっぱり断然私はロイ派ですね!再確認しました!(笑)
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