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『La croisade de l'ange 3:Le havre』 ⑬

La croisade de l'ange Chapter 3 『Le havre:ル・アーブル、港に詩う』

13

ジャンへの手紙が手元に届いた時、それはすでに封を解かれ、ただの小さな羊皮紙になっていた。それをテオバルドに手渡されたジャンは、大きな目を真っ直ぐ主君に向けた。
「今朝、お前宛に届いたものだよ。お前の言うとおり、ブランシュ様はロイを探そうとしているらしいね」
テオバルドは口元をわずかに緩め、機嫌の良い様子で膝をつく少年に語った。
「そこにあるように、ノルマンディーに手がかりがあるんだろう。お前の代わりにサールに行かせたよ」
声にはならないが、ジャンの口が「え」と開いた。
窓から入り込んだ湿気を含んだ風に少年の黒髪が震えた。
「今、我らが表立って王領のノルマンディーに向かうことは出来ない。それはお前も承知だろう?だが手紙につられたシャルルが向かっているかもしれないし、ロイの行方も気になるところだ。ついでに、国王軍の様子も分かれば便利だからね。ジャン、心配しなくてもシャルルにはすぐに会える。こちらに呼び寄せることにしたんだ」
長い睫毛の下からちらりと少年を見下ろすテオバルド。反応を試されている気がし、ジャンは内心首をかしげた。
手紙の件はどうでもよかった。もともと、ブランシュとテオバルドをつなぐ役目と心得ていたから。ただ、シャルルを呼び寄せるという意味が分からない。
そんなことを何のためにするのか。シャルルが手紙を見たのなら、喜んでノルマンディーに向かっているはずなのだ。

「畏れながら、シャルルを呼び寄せるというのはどういうことでしょう。ティボー四世陛下」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりにテオバルドは目を細めた。
「ロトロアが気に入っているらしいんだよね。お前の言う、シャルルって女を。私も会ってみたくてね。私はロトロアにとって大切な主君だから、私が所望すれば当然、女くらい差し出す」
「あ、あの。それは」
「お前は、賢いようでお馬鹿さんだな。私が言っているのはね、ロトロアが女なんかにうつつを抜かすのが我慢ならないってことだよ。あれは私に尽くすべき存在なんだよ。だから女をよこさないならリシャールを差し出すように命じてある。シャルルはフランドル伯の娘だという話じゃないか。丁度いい人質にもなるしね。これならロトロアにも文句は言えないね。今回ばかりは、私の勝ちだな」
ジャンは、いつの間にか唇をかんでいた。
「ロトロア様が、悲しまれます」
間をおいて紡いだ言葉には、選び抜いた感がある。シャルルを庇えば怒りを買う。主君の嫉妬に似た行動を責めれば返って逆効果。吟味した結果、テオバルドのロトロアへの気持ちに訴えることにしたのだ。
「ジャン、お前が口にすべきことじゃないよね。お前もシャルルにロトロアを取られれば面白くないだろう」
「あ、いえ、シャルルとは、その」
ごほんと、テオバルドの脇に控えていたダンデルトが咳払いした。
ジャンはそれを警告とみ、口を閉じる。
ダンデルトはジャンの指導をしてくれている、最年長のセネシャルだ。シャルルとのことやブランシュ様の様子などすべて彼を通じてテオバルドに報告されていた。まだ、ジャンが直接ティボー四世と話ができる機会は少ない。

「ジャン、シャルルがなんだい?」
「あの。友達に、なりました」
口に運びかけた水を飲み損ね、ティボー四世はむせた。
慌ててダンデルトが駆け寄り背をさする。
「お前、まあ、ああ、お前も子供なのだし、そういうこともあるか」
ティボー四世はこの件をジャンに話した自分の短慮を恥じた。黙って顎に手を当て、うむと唸る主君に、ジャンはますます恐縮し、「あの、ランスで供に行動したんです、それで、無謀なところもあるけれど真っ直ぐないい子で」と、主君の隣でダンデルトが目を覆うのも分からないくらい慌てていた。
「よい、ジャン。お前には別の任に当たらせる。今回の開戦に先立ち、重要な伝令を頼みたい。お前はノルマンディーのことやロトロアのことは考えなくとも良い」
「あ、あのっ」
「ジャン。お前も、私に仕える身であること、忘れるな」
その一言は、常にどの臣下の口をも閉ざす力がある。
ジャンにも例外でなく、顔を真っ赤にしたままうつむいた。ティボー四世が「下がりなさい」と冷ややかに告げるまで、ジャンは身動きもせず唇を噛んでいた。

私は間違っていたんでしょうか。
ジャンの真っ直ぐな問いに、ダンデルトは溜息で答えた。
そこはダンデルトの私室。他に聞くものもない。
黙っていつもどおりダンデルトの部屋の隅に置かれた自分の机で書類の整理をしていたジャンが、ダンデルトを出迎えての第一声だった。
すでに日が暮れ、ランプの炎に少年の睫は揺れているように思える。
「ジャン・ド・ジョワンヴィル。ティボー四世陛下がコルベイユで下した結論は、知っておるな」
ジャンは膝をついて頷いた。
「はい。シャンパーニュは、国王陛下に対し宣戦布告し、ブルターニュに協力するのだと」
「うむ。あの会合で、ブルターニュの計略に嵌められたのじゃ。ロトロア殿はそんなものと突っぱねたらどうかとお考えだったが、マルシェ伯やブーローニュ伯、大勢が渋々モークレールに対し協力を約束し、考えた末の結論だった。ロトロアどのはいつもの調子でティボー四世伯が決めたことなら文句はないと笑っておられたのじゃが」
腕を組んでわずかに遠い目をしてダンデルトは続けた。
「但しルジエは巻き込むなと、そこは強く求められてな。ティボー四世様は承知したもののロトロア殿を側に置けないのが面白くない。それで、ラン伯の持ち込んだシャルルの噂話にあのような戯れを考え付かれたのだろう。ラン伯はロトロアが事あるごとにティボー四世様に重用されるのを妬んでおったからな。まあ、ロトロア伯のこと、ティボー四世様に本気で歯向かおうなどなさるはずはないが」
ジャンは口を閉じたままだった。その無言が、抗議と感じられたのかダンデルトは続けた。
「ジャン、お前が友人のシャルルを心配する気持ちは分かる。わしもシャルルがこちらに送られたなら、力になるつもりじゃ。ここは耐えるのだ」
「シャルルはフランドル伯の血を引いていないのだと聞きました。そのことで随分傷ついていました。それはそうですよね、孤児として生きてきたシャルルにはフランドルの血を引くことが唯一の救いだった。誇りだった。それが違うのだとリシャール様に告げられ、泣いていました。なのに、今更それを理由に自由を奪おうとするなんて、僕は、悔しくて。ティボー四世様とロトロア様の間のことなのに、シャルルを巻き込むのはおかしいと思うんです」
自分も何度か不自然に瞬きを繰り返し、ジャンはうつむいたまま目を擦った。
「ジャン。すまんな。子供を泣かせるような方法が、良いもののはずはないのだが」
「シャルルのこと、僕が守ります」
「ジャン、お前はこれからブランシュ様に会いに行くのだ。これは命令なのだ」
ぐ、と珍しく反抗心を視線に含め顔を上げる少年に、ダンデルトは白い髭をなでた。
「ジャンよ。お前はセネシャルを目指すのじゃろう。時に主君は我らの想像を超える行動を起される。それでも理解し成功に導かせようとするのが、我らの役割。戦いを挑もうとする最中に元王妃への密通。何を意味するのか、わしにも分からん。分からんが、命令には従うしかあるまい。大人の伝令が行けば危険も多い。子供のお前ならば、相手も油断することもある。その上ブランシュと密約を結んだお前ならば安心と、そういうお考えだろう」
「それが、シャンパーニュのためになること、なんですよね」
ダンデルトは黙って頷いた。
「もし、もし、シャルルがここにつれてこられることになったら、お願いします。元気で男勝りで乱暴で。強そうに見えるけど、中身は優しい女の子なんです」



ざわざわと草を鳴らす夜風に混じる何か異質な音を、シャルルは聞いた。
寝転んだまま、枕もとの白い生き物がわずかに揺れるのを認め、それからゆっくりと頭だけ起してみる。
「起き上がるな」
背後の声にびくりとし。それがロトロアだと思い当たれば、「なんだよ、ビックリするだろ、ばか」と悪態を囁き返す。
離れた場所で寝ていたはずなのに、すぐ脇にいるのが意味もなく腹立たしいが、起きるなという理由が何か別のものであることに気付いてシャルルは再び耳を澄ます。白イタチはすでに立ち上がり、シャルルの目の前で向こうの様子を伺っている。
林の向こう、街道を馬と馬車らしきものの駆け抜ける音がした。
多い。
「軍隊?」
「違う。あの速さで走れば歩兵がついて来れないだろう。十一騎、程度だ。騎馬と馬車が二台。この時間に街道を行くのだ、商人や旅人ではないな」
すでに走り去ったそれを少しでも見ようと、シャルルは今度こそ起き上がり木立の間に街道を探す。
朝もやに濁され始めた早朝の闇に騎士の甲冑らしき輝きを認めたが、それはすぐに小さくなって消える。
「後を追ってみる?」
興味のまま提案し、シャルルは一つ伸びをして早朝の空気を吸い込んだ。
「お前は。余計なことに首を突っ込むな、といいたいところだが。あいつらが橋を渡れるものなのか、渡れないものなのか。後者なら、どさくさに紛れてすり抜けられるかも知れんな」
「じゃ、決まり!行くぞ、クウ!」
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藤宮さん♪

はい、ジャンです。この子を書いているとホッとするのはなぜだろう(笑

テオはいま一つ考えが足りないのです。まあ、そこがロトロアが憎めずにいるところでもあります、ふふ。

二人の関係は微妙にすれ違っていますが~今後は~むふふ。

さて、シャルルたちのパリ紀行は…。すれ違ったままのロイとの再会は…。なんだか濁してばかりです。

私ももどかしいけれど、馬か徒歩で旅したこの時代のように、のんびりじっくり進んでいます♪お楽しみに~♪

裏ではこんな風に

久々のジャンですね。しかも、ティボー四世がらみとは。
テオはロトロアがどう言ったか知らないせいで、ああいうことを言うのでしょうが、知ったらどうなるのか。

どちらかと言えば、ジャンの方がロトロアの考えを読んでいる。
友情というのは……なかなか難しいところですが。

ジャンも行動開始ということは、シャルルちゃんと再会することもあるのでしょうか。
何にしても、シャルルちゃんが無事パリにたどり着けるのか……。

ちょっとどきどきしながら、続きをお待ちしてますー。
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