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『La croisade de l'ange 3:Le havre』 ⑮

La croisade de l'ange Chapter 3 『Le havre:ル・アーブル、港に詩う』

15

「触るな!」
もう何度怒鳴ったことだろう。
荷馬車に積まれたロトロアに、誰かが手を伸ばそうとするたびに、シャルルは全身の毛を逆立てた獅子のように殺気を放って怒鳴った。
眼を閉じたままの男は、シャルルがあまり見たことのない顔で横たわっていた。別人のようだった。気を失っているのだから当たり前だが、その生気のなさにシャルルは悔しくて目を真っ赤にしていた。
何度声をかけても目を開かず。死んでいるのかと恐る恐る首に手を当てれば、温かい。

荷馬車には剣を携えた衛兵が二人。シャルルたちを見張って乗り込んでいた。縛られてはいないものの、シャルルとロトロア、そしてサールは荷台の隅に座り込み揺られている。
「そのまま、ひっぱたいてみたらどうかなぁ」
のんきな口調のサールに、シャルルはきっと睨みかえし「何言ってるんだよ、馬鹿」と。言ったところでぐらと馬車が揺れた。
弾みでシャルルの手のひらがぺんとロトロアの頬を打った。
「あ」
う、と。男は呻いて身じろぎする。
「ほらね、起してみなよ。案外、お前さんを心配させようとの演技かもしれないよ?ロトロア様は戦略に長けたお方だと聞いているからねぇ。ああ、そうだ!シャルル、お前さんがここにほら、ちゅっとね、キスなんかしたらきっと嬉しくて昇天しちゃうね」
「サール、陽気な吟遊詩人を苛めたい衛兵の気持ちが分かった気がする」
「え?まあ、まあ、シャルル。落ち着いて、ほら、ロトロア様、起きてくださいよ、シャルルを苛めちゃいますよ」

「「サール!」」

シャルルが怒鳴ったのと、ロトロアが呟いたのと同時だった。
「え!起きた!」
シャルルの膝の上で、ロトロアは頭を押さえ顔をしかめた。
「いて、お前か。このがりがりの脚は。材木でもまだましだぜ」
ぶ、っと。噴出したサール。
「これが膝枕だとは、信じられんな」
「はあ?!」
言いながらロトロアはシャルルの腰にそのまま手を回し抱きついた。
「放せ、ばか!」

反射的に殴った拳は、どうやら馬に蹴られた衝撃よりひどかったらしい。
その後もしばらくロトロアは呻きながら荷台の隅でサールの陰に隠れていた。
「くそっ!心配させてさぁ!!近寄るな変態!」
ロトロアはサールの向こう座り、笑いながらわき腹を押さえた。
わずかに男の息が乱れているのをサールは黙って見つめていた。


ルーアン、ル・アーブルとパリを結ぶ中継都市。ランスと同じような大司教座がおかれているから、大聖堂がある。物々しく兵が守る橋を渡るとシャルルたちを乗せた馬車を大きな塔が出迎えた。ランスが森に隠された聖堂ならば、この街の聖堂は街を守る城壁のようにセーヌ川を渡る人々にその威厳を見せ付ける。
シャルルは菫色の瞳を不満げに聖堂に向けていた。
聖堂に至る道筋にはランスと同様に市が開かれ、川を利用する近隣の村からの品々が並び、その隣には明らかにル・アーブルの港からと思われる外国の茶葉や塩、工芸品などが売られている。
それらは当然、ル・アーブルの港で買うより数倍の値段がつけられ、物知らぬ近隣の農民や豪商がありがたがって見てまわる。
そんな中を家畜のように荷馬車に詰まれたシャルルたちは、屋台の肉や酒の匂いを髪に絡ませながら風を切る。
大聖堂の門をくぐるとそこには、はちきれんばかりに大勢の兵が詰め掛けていた。
「なに、これ」
シャルルがきょろきょろと見回し、サールが寝返りをうちながら肩をぽりぽりとかいた。
「戦争だもんねぇ。ルーアンの持つ聖堂騎士団は早々動かないだろうからね、近隣の街や村から借り出された人々だろうね。お前さんは見たことないだろうけど、戦争の時にはこんな風に一杯集まるんだよ。それで、敵と互いにぶつかり合って、殺しあう。なんていうか、美しくはないねぇ」
肩をすくめるサールに、ロトロアはふん、と苦々しい溜息を吐いた。
「どっちの味方なんだよ、ここの兵は」
シャルルは二人の顔色を見比べながら、疑問を口にした。
国王の領地ではあるが、ロトロアの話ではどうやらブルターニュ側。だとしたら、シャンパーニュとも盟約を結んでいるはずで、ロトロアやサールを捕まえるのはおかしいことになる。逆に国王ルイに味方すると言うならば、シャルルは国王の伝令なわけだから、シャルルが捕まるのがおかしいことになる。
複雑、と首をひねりながら二人の回答を待った。
ロトロアは口を利かない。
サールが「どっちって、多分ブルターニュ伯だろうねぇ」と頭をかいた。
「じゃあ、シャンパーニュの味方なんだろ?捕まるのはおかしいよ」
「シャルル、私はただの吟遊詩人だしね、ロトロア様はシャンパーニュ伯を裏切るとかおっしゃるし。お前さんはルイの手下ってことだしねぇ。こんな、怪しげな人間、自由にさせておくのは嫌なんだろうさ」
「ロンロンがシャンパーニュを裏切るなんて、ここの人が知るはずないだろ、僕だってこの間知ったばかりだし」
シャルルの一言は何か触れていけない部分をついたらしい。サールがふと真顔になった。
「え?」
「シャルル。それ以上追求するなよ。サールにはサールの事情ってもんがあるんだぜ」
「なんだよ、それ」
「サールが、俺たちを売ったんだろ」
丁度、馬車が停まった。

サールは照りつける陽光の下、長い睫に彩られた瞳をシャルルに向けていた。口元はいつもどおり、笑って。
「ほんと、お前さんは素直でいい子だよねぇ。シャルル。ロトロア様が悪いんですよぅ、シャンパーニュを裏切るなんてなさるから。驚いちゃいましたよ」

え?

ロトロアはサールに支えられて身体を起した。
「これで何を得るのか知らんが、吟遊詩人。よくものを考えて行動しろよ。これが本当にテオのためになるのかどうか。俺はともかく、テオを裏切るならいずれ殺す」
「またまた、そういう怖いことを。私はあくまでもティボー四世様のためを思っているんですよ。貴方こそ、女で身を滅ぼすことはないでしょう」
そりゃ、シャルルは可愛いけどねぇ、と。笑いながら、サールはロトロアに肩を貸す。見た目だけは仲良さそうに二人の男は荷台をそろそろと下りていく。
「え?あのさ、ちょっと!」

シャルルも慌てて二人の後について、トンと飛び降りた。
「シャルル、サールの演技に騙されたんだぜ、お前」
ロトロアが振り返り、言った。
「騙したってほどじゃないですよぅ、ひどいなぁ。私だって橋を渡れないんじゃ困るんですよね、急ぎシャンパーニュに戻らなきゃならないのに。言っときますけどねぇ、ロトロア様、私がティボー四世様を裏切るはずがないですよ。裏切られているのはもしかして、ロトロア様、あなたかもしれませんよ。もし気が変わったなら、いつでもシャルルちゃん
を連れて来てください。どうもシャルルちゃんも貴方の側を離れたくない様子ですし、暴れる獅子を連れて旅する勇気は私にはありませんしねぇ」
あはははと明るい笑い声といたずらな視線がロトロアの横顔を眺めまわした。
「ちょっと待てってば!サール、ホントは何なんだよ!!」
シャルルが掴みかかったところで、三人を連れてきていた衛兵たちが周囲を囲んだ。同時にサールは肩を貸していたロトロアをどんと突き飛ばした。
「わ!?」
倒れこむロトロアを慌てて支え、シャルルは座り込んだ。
サールはひらりとケープを肩にかけ直す。その笑みに日差しがさし、吟遊詩人に相応しく自由の風をすと吸い込んで詩うように語った。
「じゃあ、私は一足先にシャンパーニュに戻りますよ。お元気で、ロトロア様。あ、そうそう。シャルルちゃん、これだけは覚えておきなよね。あんたに声をかける男のほとんどが悪いことを考えてるってね」
サールは衛兵の間をするりと通り抜け、向こうへと消えた。
「なんだよ!サール!ちょっと、ロンロン!ちゃんとしろよ、ばか」
ロトロアとシャルルは地に座り込んでいた。両ひざをついた姿勢のまま、ロトロアは左手で右脇腹を押さえていた。シャルルがその腕を叩いても、動こうとしない。乱れた前髪が額にかかる。
「お前は……それが、主君に語る言葉、か?」
「……怪我してるんだろ」
シャルルは立ち上がろうとするロトロアの手を握り締めた。
「痛いならじっとしてればいいだろ、いつもはぐらかしてさ!」
座り込んだままシャルルを見つめ、ロトロアはふと笑った。
そのまま目を閉じると、静かに息を吐き出しじっとしている。こめかみを伝った汗が、ロトロアの痛みを訴えるようでシャルルは唇をかんだ。
シャルルは周囲を囲む兵たちを睨みつけた。


衛兵の向こうから、見覚えのある姿、ル・アーブルの領主ヌーヴェルが現れた。
隣に立つのは聖職者の服装、ルーアンの大司教だろう。

シャルルは二人を見上げ、腹に力を込める。
「この人はシャンパーニュ伯領ルジエの領主、ロトロアだ。僕は前王妃ブランシュ様の伝令でシャルル・ド・リタ。このルーアンが敵なのか味方なのか分からないけど、仮にも大司教座。身分を明かし、助けを求める我らを丁重に扱わないと大陸中に不名誉な話が流れるぞ」
ペンダントを巻いた腕を掲げて見せる。その美しい百合の紋章がきらきらと揺れた。
真っ直ぐ大司教たちを睨みつけながら、シャルルは自分の手を握り締めるロトロアを思った。
その大きな手は、今シャルルの助けを必要としているように思えた。


ルーアン大司教は「自由は約束できないが十分な手当てと休養を差し上げましょう」と聖職者らしい丁重さでもって、二人を聖堂内へと連れてこさせた。
言いたいことがある様子のヌーヴェルも、大司教には逆らえないらしかった。
傾き始めた日差しが聖堂内の回廊を蒸し、どこか土の匂いをさせる建物はランスを思い出させた。
与えられた部屋で衛兵に支えられベッドに横たわったロトロアは、いつもの軽口も軽薄な笑みも潜めて大人しくしていた。治療に当たる司祭に腹を見せると、シャルルも覗き込んだ。
ロトロアはちらりと少女の方を見つめ、それから視線をまた天井に向ける。
「脇腹を傷めておられるな。冷やして様子を見るしかないでしょうね」
髭の司教が従者に水の入った桶と布を持ってこさせる。
シャルルはそれを受け取ると慣れた手つきで濡らして絞った。

「あの、当分動けないのかな」
シャルルの問いに司教は目を細め、「腫れと痛みが引けば大丈夫だろうね。熱が出たり食欲がなかったりしたなら、内臓に傷を追っている可能性もありますよ。そうだとしても、様子を見るしかないのは同じ。大事にしてあげなさい」
そう笑った。
司祭たちが部屋を出て、衛兵が外から扉に鍵を閉めるとシャルルは「はあ」と大きなため息をついた。
布をまた水でぬらし当て直すと、シャルルはふらりと立ち上がり室内をぐるりと一周した。窓は格子がはまり、覗いてみると小さくなった中庭が見える。井戸が黒い丸をこちらに向けていた。
二つ目の窓からは大聖堂の鐘楼がよく見えた。
鐘楼の背景は青く暮れ始めた森。赤い夕日を溶かして流すセーヌ川が輝いて見えた。しばし、その景色に見とれ、それからまたため息をつく。

「シャルル」
ロトロアの声は、心なしか弱々しく感じた。
それがどうにも、シャルルには腹立たしかった。
「何?」
振り向いてなんか、やらない。
「こっちに来い」
「なんで?」

返事が途切れた。
口を尖らせ、窓枠に置いた手を見つめていたシャルルは、ふん、とまた息を一つ吐いて振り返る。
ロトロアは体を起こして、こちらを見ていた。
「な、んだよ!寝てなきゃダメだろ!」
駆け寄れば男の手が髪に触れようとするから、シャルルは慌てて飛びのいた。
「ばか、何すんだよ!」
「お前、なぜ泣きそうな顔してる?似合わないぜ」
「な、泣いてなんかない!」
シャルルは慌てて目を擦った。
その手が暖かい手に握られた。顔を上げたときには引き寄せられ抱きしめられている。
「放せ、ばか!」
「暴れるな、痛む」
「何が痛むだよ!馬の前に飛び出すなんて、無茶してさ、僕も大概無謀だって言われるけど、あんたほどじゃないぞ!死んじゃったかもしれないんだ、分かってるのか!?」
「ああ」
熱っぽいロトロアの胸元は汗でひんやりと湿っていた。突放してやりたいと思うのに、怪我人にそれは出来ない。頬を男の肩に押し付けたまま、シャルルはじっとしていた。
変な体勢で、支える手が痺れてくる。それでも何となく、動いてはいけない気がして息を潜める。
「俺も馬鹿だと思うぜ。こんなところに、足止め喰らってる場合じゃないんだ。いいか、シャルル。俺は急いでパリに向かう。お前とは違う思惑があるが、今は話すつもりはない。決してお前の邪魔をするわけじゃない、お前、俺をパリまで連れて行けるか」
「それ、どういう、こと」
ロトロアの声が低いからか、近すぎるからか、シャルルも自然ひそひそ声になる。
「明日にはここを抜けだす。司祭が言ってただろ。こんな怪我は腫れが引けば治る類だ、多分な。俺は馬に乗るくらいはできるだろうが、剣を握ることは出来ない。お前に、俺の護衛を頼む。それこそ騎士の役目だぜ。たまには従者らしい働きを、して見せろよ」
「僕に、あんたを護れってこと?」
「ああ」
ああ、は溜息交じり。痛みに耐えている気がして、シャルルはぎゅっと目をつぶった。
抜け出すって、どうやってだろう。そんなことして、大丈夫なんだろうか。
それでも耳に届くロトロアの鼓動は落ち着いている。自信があるのかもしれない。シャルルは頷いた。
「分かった。でも。今夜だけはちゃんと休まなきゃダメだよ。いくら僕でも動けないあんたを背負うことはできないんだからな」
「ああ、お前、いい子だな」
「いい子っていうなってば!」
顔を上げた反動でロトロアはトンと押され、そのまま、脇を抑えてぎこちなく横になった。
ちょうど扉が開かれ、顔を覗かせた司祭の従者が「お二人にお食事が出来ましたよ。取りに来てください」と無表情な顔で淡々と告げた。
「はい、今行きます」
シャルルは一度、ロトロアを振り返り、それから従者の後について部屋を出て行った。


物音にロトロアは閉じていた目を開ける。
「なんだ、早かったな」
いつの間にか日が暮れ、暗がりとなっていた室内に、ランプの明かりが差し込まれた。
そこに立っているのは、小柄な少女ではなかった。
金髪を短くし、面白そうな笑みを浮かべて立っている、男。面白そうにきらきらとした瞳が強い光を放ち、存在を際立たせている。
ロトロアは、似顔絵で見たことがあった。
「こんばんは、ロトロア・ド・ルジエ。初めて会うな。そうしているとあの子が言うほど凶悪には見えないね」
凶悪。
ロトロアは自分について語られる様々な噂の断片を思い出し、仮面を被るように心の表に凶悪な自分を張り巡らせた。それは獣が静かに毛を逆立てて、敵を警戒する様子に似ていた。
表情はいつもの不敵な笑みに戻っている。
「これは、ヘンリー三世陛下。このような場所で、お会いできるとは思いませんでした。何故、この時期に、この場所におられるのか、不思議でなりませんが」
流暢なイングランドの言葉に、ヘンリー三世はふんと顎に手を当てた。

「……交易のためと言って信じてもらえるのかな」
ロトロアは腹を押さえながら、身体を起こした。
「何を売買なされているか、想像はつきます。時には、少年を買い受けることもあるらしいですね」
ふと僅かな間。二人はにっこりとほほ笑みあう。
「ああ、そういうこともあるね。貿易は様々な面白いものが手に入るよ。だからお前もブリュージュに拠点を持っているだろう?私はお前が嫌いじゃない。フランク人には珍しく思慮深く、大胆だ。見聞も広い。私は今回の戦乱は見物のつもりでいるが、お前のシャンパーニュには桟敷席ではなく競技場があてがわれた様子だね」
「我がルジエは棄権しました」ロトロアが笑った。
「ロトロア、お前がシャンパーニュを裏切ろうとしているというのは、あの吟遊詩人に聞いたよ」
小さく肩をすくめるロトロアに、ヘンリー三世は続けた。
「ヌーヴェルはノルマンディーとブルターニュとの中継を果たしている。お前を引きとめておいた方がいいという吟遊詩人に従って捕らえることにしたようだよ」
そんなところだろう。予想していた内容を確かめ、ロトロアは息を静かに吐き出した。
ヘンリー三世。嘗て、このノルマディー界隈をも治めていたイングランド王。
何を目的にしているのか、問いかけて答える輩ではない。見物というからには、どちら側につくつもりもないということだ。
ロトロアは賭けてみることにした。
「吟遊詩人はティボー四世の斥候です。ノルマンディー・ブルターニュ連合軍に気を取られ、ルイがオルレアンに進軍したなら、パリの守りは薄くなる。そのタイミングでシャンパーニュは無防備なパリを目指す。吟遊詩人が戻れば、シャンパーニュは動き出すでしょう」
「それをお前は国王に知らせ、妨害しようというのだろう?シャンパーニュにとっては裏切りと映るだろうね」
「そうでしょうね。ご存知ですか。フランク人の軍隊は我先にと戦利品を強奪する諸侯の集まり。自らの所領ですら平気で荒らす。戦場となった町や村は荒廃し、多くの人や物が失われます。せっかく交易を盛り立ててきた所領が荒れるのです。ノルマンディーの裏切りをパリに知らせ、シャンパーニュの土地が戦禍にさらされる前に戦乱を収めたい。ここでのんびり静養しているわけにはいきません。陛下、見物ついでに一興、ご協力願いたい」
は、と。ヘンリー三世は額を押さえ笑った。
「それを裏切りというかどうか、難しいところだね。しかしその身体でよくそんなことを考えるね。死ぬよ?」
「さて、どうでしょうね」
「お前の噂からは身を呈してシャンパーニュを守るような男ではないと思ったが?そこまでして、何故あの甘ったれに尽くすのかな」
「尽くす、ですか。なるほど。それならばそれで結構です」
ヘンリー三世の言葉に面白みを感じたのか、ロトロアはくくくと笑った。
震えるたび痛むのに、湧き上がる笑いをこらえられない様子だった。
「食えないね、お前は。何を目的に行動するのか知らないが、協力を頼むのなら私の頼みも一つ、聞いてもらいたいものだな」

交換条件だよ、ヘンリー三世の言葉にロトロアは顔をあげた。
「リオネットをね、私の友人に与えたいと思っている」
空気が張り詰め、ただ窓からの風にランプの炎だけが揺れた。
「友人、とは」
「お前も知っているだろう?フィリップがあの子を気に入っているんだよ。リオネットは真っ直ぐで生意気で面白い」
「あの方が。今、ここに来ているのですか」
「もちろん。リオネットもフィリップを探しているという話ではないか、丁度いい。二人とも我がイングランドに連れ帰って側に置く。代わりにお前を自由にしてやろう。どうだい?いやならここの地下牢で戦争が終わるまでじっとしていてもらってもいいね。私は見物したいんだから」
ロトロアはしばし、うつむき、額に落ちた髪を拭った。
試すように見下ろしているヘンリー三世の視線を感じながら、痛む脇腹を押える。
「嫌なのかな?これまで女の影のないお前が、もしやそれはリオネットのためなのか?」
「そんな甘ったれに育った覚えはありません。ただ、シャルルは私の従者。パリまでは随行させるつもりです。何しろこの体ですしね。……それ以降であれば、どこへ連れ去ってもかまいません」
風向きが変わったのか、窓からの冷気が二人の間に流れる。中庭に集い陣を張る兵たちのざわめきが風に乗って届いた。
ロトロアは返事のないヘンリー三世を見上げた。
ランプの光がちょうど大きく揺れ、イングランド王の顔が改めて照らされる。
「なんだ、案外素直だね。それほど重要な何かを、企んでいるのかな」
「私の考えを理解できるのは、私だけ。それでいいのではありませんか、陛下。お約束通り、私がここを出られるよう協力していただきますよ。とにかく、明日の朝にはパリに向かわなくてはならない。サールが私をここに足止めしたのは、私より先にシャンパーニュへ戻ろうというのでしょう。急がなくては間に合いません」
ふうん、ヘンリー三世は分かったと言った様子で片手をあげた。
「まあ、今夜はゆっくり休むことだね。ほら、ねえ、リオネット。立ってないで入っておいで」

シャルルは食事の入ったトレーを抱えたまま、立ちつくしていた。
「会いたいだろう?お前の探していた、ロイに」

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