10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『La croisade de l'ange 4:Paris』②

La croisade de l'ange Chapter 4 『Paris:天使の聖戦』



ジャンがしばらくぶりに訪れたパリは、相変わらずごたごたとした町並みの中さらにどこか慌しい空気が漂っていた。街道のあちらこちらに武装した若者がいる。代わりに女性や子供の姿が少ないのだ。いつもなら声を張り上げ野菜を売る少年や、水瓶を引く商人がいるはずなのに。
セーヌ川沿いは両岸とも家が増え、国王の住む町に来たのだと思わせる。シテ島へのミルブレー橋を渡るためには、検問を通らなければならない。
そこは、子供のジャンは有利だ。シテ島内にあるノートルダム大聖堂の工事現場へ、村の司祭からお届けものだ、なんていう単純な理由でいい。馬を引いた少年を衛兵はにこやかに送り出す。
渡って右には建築中の大聖堂が、木々の間から体躯を表す獣のように見える。礼拝堂は解放されているから、出入りする人々も多い。
左側には、城壁がめぐらされていた。ここが、国王の宮殿。かつてノルマン人が攻め入った時には城壁はなかったというが、同時にノルマン人側にも、川の対岸から届くような弓はなかった。
今は投石機や石弓が発明された。同時に城壁はより高く、より強固にと増築を繰り返される。進歩していく武器製造や造船技術。それと一緒に築城技術も向上していく。こちらが伸びればあちらも伸びる。背比べみたいだ、とジャンはふと思い、自然つま先立ちして背伸び。
城壁の門の前には、二人の衛兵が槍を構えて立っていた。
いつもなら閉じている門も、今は開かれたままで、その中では馬具や武器を整える男たちの姿が見えた。馬の鳴き声も聞こえるから、中庭か厩舎では馬が用意されているのだ。
堂々と馬を引いて入っていくジャンに、門番はにらみを利かせただけで、動こうとしなかった。
それもそうだ。
内部では周辺の町からの徴募兵らしい男たちが、慣れない手つきで武器を用意している。彼らの世話をしようというのか、下層の兵らしき若者が大きな声で「剣は腰の左側につけるように」と怒鳴っていた。
子供ではあるが、見習いとしてすでに腰に剣のあるジャンは、少しばかり誇らしげな気分で素人くさい徴募兵の塊をすり抜けていく。

国王の本来の軍隊、騎兵隊や弓兵隊は中庭なのだろう。
少年には規律正しく並ぶ騎兵隊などはやはり格好良く見えるから、その姿を想像して胸を高鳴らせる。馬を厩舎に預けると、庭の東側を回って中庭にたどり着く。回廊を渡っていた近衛騎士を見つけると、駆け寄った。
事情を話すと、快くベルトランシェの居場所を教えてくれた。


麗しい近衛騎士団長は、中庭を一望できる二階の部屋でジャンを迎えた。
バルコニーに立つ彼は眼下に居並ぶ兵たちを背景にして、穏やかに笑った。
「おや、ジャン。ノルマンディーに向かったのではないのですか?」
忙しいのだろう、わずかにやつれた様子だが、その眼はギラリと怪しく光り、ジャンは胃の奥で警戒を強める。
言葉より先にジャンはベルトランシェの前で膝をついた。
「ブランシュ様よりのお手紙は拝読いたしました。シャルルはすでにノルマンディーのル・アーブルに向かっていると思います。私はその前にまず、ティボー四世様よりのご命令でまいりました」
なんだ、と。小さく舌打ちが聞こえた。
顔を上げずに、ジャンは続けた。
「お手紙を預かっておりますので、どうか、ブランシュ様に」お会いしたい、と続けようかと一瞬迷う。国王の摂政であるブランシュは今や国の実権を握っている尊い方。一介の騎士見習いが会いたい、などと言ってしまっていいのか。
シャルルなら会いたいと、言うんだろうけれど。
ふと視線を上げると、目の前に手が差し出されていた。
ティボー四世の手紙を、渡せというのだ。
「恐れながら。私は手紙の中身を存じませんが、ブランシュ様に直接お渡しするようにと、命じられております」
「直接渡したことにすればいいでしょう?渡しなさい。いいですか。私は国王陛下とブランシュ様の安全を維持する役目。この戦時下にあり、敵とみなされるシャンパーニュ伯の手紙を、中身を知らずにブランシュ様にお渡しできるはずはないでしょう。私には、責任があります。子供のお前にはわからないかもしれないけれど」
細める視線に凶暴な笑みを感じて、ジャンは唇をかんだ。
子ども扱いは、悔しいから嫌い。けれど、まるでジャンの反応を見るかのように視線に、ぐっと黙って耐える。急に心臓が音を立て始めたように思う。
「ジャン。そもそも、シャンパーニュ伯の使者をすんなりここに招き入れた。我らの意図も考えずに、お前は今そこにいるのです。自分の状況を理解できていますか。なるほど、諸侯の正式な使者を手にかけたとあれば騎士道にもとるでしょう。けれど、ジャン。お前がここにたどり着かなかったとしたら。だれもお前がここにいることを知らないとしたら。健気なお前をひどい目に合わせることも、平気で私はするかもしれませんよ」
ベルトランシェが手にした鞭を左の掌でぺちぺちと音をさせている。
威嚇なのだと、思う。思うが、ジャンは足元が緊張に固まってしまっている。自分がどういう状態なのかと、ぐるぐる考えると余計に不安が増した。
それは、残念ながら顔に出る。
ベルトランシェは不意に笑顔を見せた。意地悪なほどそれは美しく。ジャンは思わず目をそらし何度も瞬いた。
「冗談ですよ、ジャン。恐怖に震えるお前は美しいですね。もっと虐めたいところですが、ブランシュ様のお気に入りのお前に下手なことをしたなら、私が叱られます。捕えたりはしませんから安心しなさい。ただ、手紙は渡しなさい」
そこで素直に手紙を出してしまうのは、もしかしたらうまく乗せられたのかもしれない。
それでも今のジャンに、ベルトランシェに反抗する勇気はない。

受け取ったベルトランシェはそれを開かず、ジャンに部屋を用意するよう部屋の外に立つ衛兵に指示して出て行ってしまった。
「こちらです」気の毒そうに少年を見下ろす衛兵に、ジャンはただうなずいた。


こんなことなら、手紙の内容を聞いておけばよかった。ジャンは一人与えられた部屋で悶々としていた。内容によって、宮廷の自分に対する態度が変わるのだとしたら、場合によっては二度と、そう。生きて帰れないかもしれない。ベルトランシェが言った「ブランシュ様のお気に入り」という支えだけがジャンの命を保証しているように思えた。
小さな窓から見下ろすと、中庭で隊列を組んだ兵たちが何やら歓声を上げた。目の前に伸びる柱が邪魔で彼らが何を見上げているのか知ることはできないが。どうやら国王陛下や将軍といった、彼らを鼓舞する存在がいるのだと思う。
一斉に勇ましい声を上げる兵たち。
常ならば、かっこいいと思うのに、今はなぜか怖いように思った。
戦争。ジャンも、見たことはない。
こういう大勢の騎士が、いっぺんに向かってくる。
ぶつかり合えば、もちろん各々の戦いになる。いつかロトロア様が話していた。戦争などというものは、直接兵を戦わせることなく終わらせるのが賢いのだと。結局、人対人で殺しあっても、その向こうにある敵軍の城を落とし、敵の大将を殺すか捕らえるかしなければ終わらない。チェスならばポーンやビショップにも意味はあるが、現実には歩兵の死も勝利も大きな戦争では意味はないのだ。だとしたら、大軍を率いていたずらに町や村を巻き沿いにするなど愚行だ。
よく訓練した五人の騎士が、こっそり敵城内に入り込み、敵大将を殺せばそれで済む。
だからロトロア様は街道の閉鎖や包囲に最低限必要な兵しか使わないという。
彼の持論では一人の命令で正確な行動ができるのは最大で二十騎まで。五人のセネシャルに指示をし、その五人が二十人を操る。全部で百人の兵士。それで事が足りるのだと。また、足りるようにしなければならない。足りないならば、戦争など最初からしないことだ。

「いいか、ジャン。戦場で指揮をするということは、多くの命を預かることだ。その責任を果たすことができる者か、あるいは責任を感じないバカ者でなければ、勤まらん」
ジャンはできれば前者になりたいと、答えた。ロトロアは「きっとお前ならなれる」と頭を撫でてくれた。
普段はそんな子ども扱いは嫌なのに、ロトロア様なら許せてしまう。
自分の頭を撫でながら、ジャンはいつの間にか気持ちが落ち着いて、もう一度室内を見渡した。今何ができるか。
何をすべきか。
それは常に考えなければならないのだとジャンは知っている。

会いに行こう。ブランシュ様に。
ジャンはそっと扉の外をうかがった。



石積みの城は深部に向かうほどひやりと空気が静まっている。
衛兵が出発する軍隊を見送ろうと窓から身を乗り出したすきに、背後を駆け抜けたジャンは、あとは悠然と歩く。いかにも騎士見習いの貴族の子供は、衛兵が呼び止める存在ではない。近衛騎士にさえ合わなければジャンは城内を自由に歩けた。
人気がない回廊を進んでいくうちに、人声に気付く。
曲がり角で立ち止まると、どうやら突き当たった廊下は明るい南の中庭からつながっているらしい。日差しの明るさが、向こうから歩いてくる数人の足音とともにジャンの立つ暗がりの足元を横切っている。
声の主は子供。それに、女性。足音とともに拍車と鞘鳴りが聞こえるから、そばに無言の騎士がいる。とすれば。

身分の高い人。
ここでそういう人物とはつまり。
女性の声が再び聞こえた。
それは近づいてくる。
「ルイ、まだあなたが出る時ではないのよ。初陣となるのですから、もっと状況が落ち着いてからでも遅くはありません」
「嫌です。王としてこんな*小島に潜んでいるのは、卑怯に思える。情けないよ」
「ベル、あなたからも言ってちょうだい。物事には時期があります。忍耐を学ばなければ、良き王にはなれません」

(*小島=シテ島:パリの国王の宮殿はセーヌ川の中洲であるシテ島にあった)

ジャンは壁に張り付いたまま、じっと息を殺す。
近づいてくるのは間違いない。ブランシュ様と、ルイ九世陛下。それにベルトランシェがそばにいる。
どうしよう。

迷う間に、声は近づいてくる。
ジャンは、三人の前に飛び出した。

「恐れながら、ブランシュ様!」

ちょうど、廊下の向こうが大きな窓。その明りで彼らの顔はほとんど見えなかったけれど、逆にブランシュの目に陽に照らされるジャンはすぐにそれと分かったらしい。
「ジャンではありませんか!」
ブランシュとルイ九世の前に素早く立ちふさがったベルトランシェは、すでに鞭を手にしていたが、それが放たれる前に「ダメですよ、ベル」と。ブランシュの声がとどめた。
膝をついた姿勢のまま、ジャンは安どのため息をつく。
「申し訳ございません。お部屋をご用意いただいたのですが、外の様子が気になってしまって。様子を見ようと出たのはいいのですが、迷ってしまいました。ですが、ブランシュ様のお声に、お顔を拝見せずにはいられなくて、その」
そこで、上目づかいで顔を上げる。
想像通り、ブランシュはにっこりと笑っていた。
「いいのよ、お立ちなさい。ベルトランシェ、ジャンには直接シャンパーニュの様子を聞くわ」
「ブランシュ様、この後将軍たちとの会合があります。どうか、その後ということで」
「そうね、仕方ないわ。ジャン、おとなしく部屋で待っていてちょうだい」
言い残し、三人は歩き出す。
ジャンが見送っていると、廊下の先の部屋にブランシュとルイは入っていく。一礼して見送ったベルトランシェがジャンを振り返った。
目があったと思ったとたん、ものすごい勢いで走ってくる。
「わぁ!?」
思わず逃げ出そうとしたけれど、走り出すはずの足は床に張り付いたみたいになり、転ぶ。
体を起こすと、足首に鞭が巻き付いていたのだと気付く。
当然、目の前にはその主が。
「ジャン。来なさい」
息が乱れる青年は、ジャンの襟首を後ろからつかみ、引きずるように歩き出した。

「いいですか」耳元に囁く近衛騎士団長は、ジャンの予想もしなかったことを口にした。
「手紙はルイ陛下にお渡ししました。ブランシュ様に届けることは出来なかったのです。陛下はそのことをブランシュ様には知らせずに置くようにと命じられました。手紙の存在すら、陛下は抹消するようにとおっしゃる。お前も知らないことにして欲しいのです」

ジャンがよろよろ歩きながら顔を上げると、ベルトランシェは子供にするように顔をしかめて見せた。美しく恐ろしい近衛騎士なのに、まるで母親のように。
思わずジャンは口元を緩めた。
「おかしくないですよ、ジャン。陛下はシャンパーニュを嫌っておられる。お母上が噂のあるティボー四世と通じるのは我慢がならない様子です。ブランシュ様はお美しい方。想いを寄せるものは大勢いる。陛下のお気持ちが分からないわけではないのです」
「…では、その。ティボー四世様から、陛下への手紙ということに」
「聞き分けのいい子供は好きです」
そこでいつの間にか肩に廻された腕でぐんと抱き寄せられ。ジャンは思わず身を堅くする。
「ベル。子供相手に何を絡んでいるのですか」
その声と同時に、ベルトランシェはするりとジャンから離れた。
覚えのある姿が、書物を片手にこちらを見ていた。側にいた従者が立ち止まった青年にぶつかりそうになり慌てて留まる。
「セジュール様!お久しぶりでございます」
ジャンが駆け寄れば、セジュールは髪をかき上げジャンを見下ろした。
「ジャン・ド・ジョワンヴィル。貴方がここにいる。騎士団の報告にはありませんでしたね、ベル」
「別に隠そうとしたのではありませんよ、セジュール。何しろ、つい先ほど。式典の直前に私の元に来たのですから」
そんな風に言いながら、ベルトランシェはすでにセジュールの肩に手を廻していた。
「話を聞かせてもらいます。こちらに」
セジュールはニコリともせず、歩き出す。
関連記事
スポンサーサイト

楓さん‼

今、香川が一点入れました~(⌒▽⌒)

って、今日はのんびり1人でワイン片手にサッカー観戦です(^∇^)
テンプレ、小説専用から足を洗ってみました。
自分でインデックスをつくらなくていいとか、
表紙がシンプルだとか、いいところはたくさんあったのですが、
可愛らしいパリの誘惑に負けました\(//∇//)\

ジャン。あちこちに物語が飛ぶので、なんだかもうしわけないです。
いずれ、様々なファクターが集まってくるはずですので~
楽しんでいただけるといいなぁ~ドキドキ。・°°・(>_<)・°°・。

ども!

こんばんは。
ついに最終章、読みに来ました。
そしてジャン!
ああ
なんかちょっと懐かしいぞジャン!

何よりですね、ジャンの目で見えるパリの町が、僕の頭の中で広がっていくのです。

ああ、一度は行ってみたいパリ!

テンプレ変わりましたね。
凱旋門にエッフェル塔!!!!ああ、何てタイムリーな♪

ブランシュが登場すると、ふわりと柔らかい風が吹くようで好きです。

藤宮さん♪

うふふ~♪ありがとうございますっ!!
シャルルちゃん、髪も伸びてますます可愛くなっています~!
期待通り、ロイとのシーンも♪
早速、奪ってしまいますよ!

ジャンの行動が、何に発展するのか。
むふぅ。楽しんでいただけるかな?

お楽しみに♪

ジャン、登場ですね

ジャン、遂に登場ですねー。

しかし初っ端から、不穏な感じがしないでもない……かな?
ベルトランシェ、相変わらずの女王様っぷりですが、果たしてジャンはどうなってしまうのか! とか言ってみたり(笑)

戦乱の近付くパリ、まだ危機的状況は感じませんが、それももう少しすれば変わるのでしょうか。

セジュールさんとか、関わりの会った面々も再登場して、色々動きがありそうですね。

シャルルちゃん到着までに、パリはどうなっていくのか。

どきどきしながら、また追いかけていきます!



……で、この前お約束したイラストなのですが。
何とか完成しておりますー。URLに貼り付けておきますので、もしよろしければご覧くださいー。

あ、相変わらずのへたくそぶりで申し訳ないのですが(汗)
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。