10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『La croisade de l'ange 4:Paris』③

La croisade de l'ange Chapter 4 『Paris:天使の聖戦』


ジャンは目の前に出されたレモンの入った水を、手に取った。
先ほど聞かされた、手紙の内容で。どうにも、どこか納得がいかない気分なのだ。
本当だろうか。
今ベルトランシェは警護の勤めに戻り、目の前にはベルトランシェよりは話の通じそうなセジュールがいる。
ふと、視線が合う。
珍しく、セジュールの黒い瞳が笑った。
「お前も、意図せず難しい役を担ったものですね。同情します」
ジャンは、答えが見つからずに黙った。セジュールは手紙の内容を反芻する。
「カペー家が望むならばシャンパーニュは国王側に着く、とは。元々、シャンパーニュは我らに協力的でした。先の十字軍遠征までは。ですが、遠征先でルイ八世陛下と仲違いし、シャンパーニュ伯は戦線離脱。直後の陛下の病死。そのために疎遠となった。本意ではなかったかもしれませんが、その関係を修復するのに戦争を利用しようとは」
ジャンは、いたたまれない気持ちで何度も瞬きする。
先ほどから手にしたものの、水は口に運ばれずに揺れる。
遠征先での仲違いはともかく、毒殺説のために戴冠式にすら招待しなかったのは宮廷側。突っぱねられた形のシャンパーニュ伯が頭を下げるような真似は難しい。だから、これを機会にということだろう。宮廷から和平を持ち出すなら、応じようという。けれどそれは、宮廷側からしたら高慢な行動に思えるのだ。

「表現を選ばなければ子供っぽい行動です。剣を突きつけておいて仲直りしようというのは、如何にも見下していませんか」
そうつぶやくセジュールの気持ちもよくわかった。
「ええと。ティボー四世様は常々、領民を大切にされております。商業や工業の発展が、民を助け領地の繁栄になると。ですから、もともと戦争はお嫌いです。今回もブルターニュ伯の脅迫に折れた形だと聞きました。ティボー四世様も国王陛下を敵にするのは領民のためによくないとお考えでは、ないかと……」
そう、思いたい。
「だとしたら、始めから我らに味方すればよかったのです。忠義に厚いのですね、ジャンは。お前のようなものが、陛下のお側にいれば」
ジャンはやっと口につけた杯をまた止めた。
セジュールは穏やかに笑っていた。
「ジャン・ド・ジョワンヴィル。ルイ陛下に、お会いしてみないか」
「え?」
「様子が想像できるであろう?陛下と、ブランシュ様。お二人ともご聡明であられるが、互いに親と子となれば、些細な対立も多い。ブランシュ様がお前やシャルルをいい子だと褒めれば、陛下は子供らしい嫉妬をなさる。逆にルイ陛下がご立派に初陣をと意気込んでも、ブランシュ様はまだ早いとたしなめられる。我らも、困っているのです」
「幸い、お前はブランシュ様に信頼されている。そのお前がお二人の間にあれば」
それは、今回の手紙以上に、重圧のかかる仕事に思えるが。
ジャンはにっこりと笑った。
「光栄に存じます。お目通り願えるならば、喜んで」
自分から上手く話ができれば、シャンパーニュとルイとの戦争は防げるかもしれない。なにしろ、ティボー四世様は仲直りしたいのだ。それがはっきりしているなら、ジャンは自分が今やるべきことを、「関係の修復」と定め、そのためにはルイにあって直接話ができるのはいいことだと即断した。
そう、シャンパーニュと宮廷を影でつなぐ。そんな役割にジャンは胸躍らせる。

ジャンをセジュールが紹介し、一通りの挨拶を済ませた後も若い王は顔をあげようとしなかった。居室に置かれた長椅子にだらしなく寝転び、東方の鳥の尾羽で出来た飾りをひらひらと揺らしている。
不機嫌なのは、誰が見ても明らかだった。
「お話し相手?セジュール、冗談はよせ。そんな気分ではないよ。敵はオルレアンに近づいているというのに、私にはそこにいることすら許されないのか」
「畏れながら、摂政であるブランシュ様とクリア・レギスでの決議でございます。ノルマンディーよりの援軍を待つべきだと。陛下が承服なされないお気持ちも十分存じ上げますが、私に何かできるものではありません。ここにつれてきましたジャン・ド・ジョワンヴィルは陛下より三つほど年下でございますが、シャンパーニュ伯に重用される伝令にございます」
シャンパーニュ伯、その言葉にルイが顔を上げた。
ジャンを眺め、ふうん、と一言。
「そういえば、コルベニーで見かけたね。シャルルと一緒だった」
ジャンは頷き「はい、彼女とは友達になりました」
堂々と言ったそれに、ルイは目を見開き、それから立ち上がる。
「シャルルのこと、聞かせて欲しいな。今、どんなところに住んでいるのか、あの孤児がどうして騎士見習いなんかになったのか。セジュールは飲み物を」
言いながら、ルイはジャンの手を取ると立ち上がらせる。部屋の隣、明るい日差しの射すバルコニーへと連れて行く。

セジュールを振り返れば、力強く頷くから、ジャンは腹を決めた。
隠すこともない。前回ブランシュ様に会ったとき、ロイの話をしているのだ。シャルルが体験したことを語っても、問題はない。

ジャンはシャルルから聞いた話を、残らず話した。
ランスで育てられた孤児だということ、二年前にシャンパーニュの軍勢に追われたロイを庇おうとしたこと。ロイが行方不明になって、責任を感じていること。
「ランスでブランシュ様にお会いして、ロイを探すお手伝いをさせていただくことになりました」
そこまで話すと、ルイは飲めといわんばかりに温かいミルクを差し出した。
そういうものはひどく久しぶりに飲むことになる。ジャンには子供の飲み物、という印象だ。
ルイは自身のカップにたっぷりと無花果のジャムを落とした。
見つめていると、「お前も入れるか」と、ジャムのツボを差し出す。何となく受け取って、ジャンも同じようにしてみる。
そんな贅沢な飲み方は、したことがなかった。
「これをね、寝る前に飲むとぐっすり眠れるのだ。それでも眠れないと、母上がワインを入れてくれる。それも美味しい」
ワイン入りは想像ができなかったが、ジャンは口に含んだそれが自然と頬を緩ませるのを感じて、にっこり笑った。
「美味しいです」
「そうだろう?」得意そうな笑みでルイが返す。
「高価だとか、贅沢だとか言われるけどね。ロイが飲む薬湯の方が余程贅沢なのだ。あれは食べられないものがたくさんあって、鶏肉も上手い脚しか食べないし、野菜も苦いのはダメ。それでも許されるのだから、病人は恵まれているのだ」
そこでロイの名が出ることが、少し不思議だったがジャンはそうですか、と二口目を口に運ぶ。
「そうか、お前はロイに会ったことがないな」
「はい」
「私とは少し、違う顔立ちだ。髪も茶色味が強く、真っ直ぐだ。色が白くて、まあ、それは寝てばかりだからだが、女のようなのだ。私は五歳から父上について乗馬や狩にも参加していたし、たくさんの訓練を受けてきた。そういうことをロイは何一つしなくて良いのだ。幼い頃には、羨ましく思っていた」
まだ、十二歳のルイに幼い頃と言われても、通常はぴんと来ないが。ジャンなら分かった。
「私も五歳でお母様や乳母のいない暮らしになりました。長男でしたし、何でも出来なくてはならないと、厳しくしつけられて」
「そう、お前も分かるか?世に言わせれば贅沢だの我侭だのというが、我らほど厳しく育てられた子供はいない。農民など、何も学ばなくてもいいのだぞ。文字すら書かずに一生を終えるのだ。贅沢に生きるための努力をしているよ、私たちは」
ルイの言い方は、少し変な気もしたがジャンは頷いた。
「そういう考え方があるとは気付きませんでした。旅をして、貧しい人を見かけると、裕福な自分が恥かしいような、そんな気分になっていました。でも、違うんですね」
「そう。我らには我らの苦しみがある。代わりに得るものもある。神は人を平等に創られる。働かないものが食べられないのは当たり前だろう?同じことなのだ。我らが負う重責は、我らに豊かな生活を与える。馬は賢く脚が早いがため人に飼われる。獅子のような牙はないから、獅子に出会えば馬は食われる。だがその獅子は、人に疎まれ狩られる運命にある。それぞれ持って生まれた性分を変えることは出来ない。同じことなのだ」
なるほど、と。ジャンが感心していると、ルイは嬉しくなったのか、にっこり笑うと残っていたミルクを一気に飲み干した。

「ジャン、私は母上を疑っているのだ」
ミルクにワインでも入っていたのかと、ジャンは首をかしげた。
ルイはジャンのすぐそばに座り、肩を寄せた。
ひそひそと耳元で甘い香り。
「ロイがシャンパーニュに追われたと言うけれど。それは、母上が考えたことだと思っている。実はね、父上はロイを亡き者にしようとしていたのだ」
「亡くなったことに?」
「違うよ。もともと本当に殺すつもりが遅くなっただけだ」
ジャンは、ぞくりと背中に震えが走るのを感じた。
ルイは、目の前のルイは笑いながら話しているのだ。
「あ、あの」
「一月もしたらロイの生活を支えていた従者たちは引き上げる予定だった。年老いた乳母一人残してね。従者たちはロイに情が移っていたから。なのに、直前であの事件だ。すぐに捜索すればいいものを、母上はベルトランシェと共謀して放って置いた。シャンパーニュのティボー四世伯にロイを委ねようとしたのだ。お前も知ってのとおり、シャルルのおかげでそれはなくなったけれどね。大体、ティボー四世伯の元に王位継承権のあるロイが匿われては、今後の王国の治世に余計な火種を遺すことになるだろう。シャルルの活躍は私としては感謝しているよ。母上は私に黙ってロイを探そうとしているけどね。どうせ、もう死んでしまっているよ。あの身体だもの」
ジャンはいつの間にか自分の右手をぎゅっと握り締めていた。
この、歳若い国王は何を言っているのか分かっているのだろうか。
「あれ。どうしたかな」
「あ、いえ、驚いて」
「これは、お前と私だけの秘密だ。父上と私だけが知っていた。父上が亡くなって、私は誰にもこれを話さずにいた。今お前に話すのは、お前が信頼できる人間だからだ。大人ではだめだ。この世には単純な理屈や常識では解決できないことがあるのだ。ロイは王家の人間として生まれるべきではなかった。力のない人間に、王の椅子は用意されない」
ジャンは何度も瞬きする。どうしたらいいのだろう。
とても、恐ろしいことをこの王は言っている。やはり国王ともなると普通の人とは違うのか。理解できないのが当たり前で、それでもなぜか打ち明けられてしまったからには、黙って頷くしかないのか。
シャルルが、聞いたら。
胸がどくどくと音を立てた。
「どうか、陛下。それは、ここ以外では二度と、口にされませんよう」
ジャンはそう言葉を紡いだ。
脳裏に想像するシャルルは憤り、すでに剣を抜いている。
そう、こんなことは許されない。
「分かっているよ。どちらにしろ、ロイはいなくなったのだ。ことは済んでいるよ。ジャン、顔色が悪いぞ。ワインが多かったかな」
「え?」
見上げれば、ルイは悪戯な顔で片目をつぶった。
「ジャムにはもともとワインが入っているのだ。美味しかっただろう?」と。
ジャンは手元のカップを嗅いでみたがよく分からない。
ルイの言った「ことは済んでいる」と言う言葉がなぜかジャンをホッとさせた。そうだ、ルイ八世はすでに亡くなっているし、ロイは結局暗殺の手を逃れたのだ。ルイ九世が語ることもあくまで予定だっただけで実行されたわけじゃない。
「陛下は、その。ロイを、嫌っておられたのですか」
「あれは。父上の子ではないと言う。だとしたら、汚らわしい子供。それなのに長子というだけで常に私の前に立つ。この宮廷から田舎に移されたとき、私はホッとした。父上も同じだった。邪魔だったのだ」
ロイも、こんな環境より。親しい従者と田舎暮らしのほうがましだっただろう。
もしや、真実に他の男の子であれば、生まれた時点で殺された可能性もあった。それでも産み育てようとした、ブランシュ様はロイを愛していたのだ。
ひやりと胸の中に冷たいものが落ちたようで、ジャンは悲しい気持ちで一杯だった。ルイはブランシュ様に特別に扱われていたロイに嫉妬していたのだ。母親の乳を奪い合う子犬のように。他にルイがロイを恨む理由などない。王としての資質はすべてルイの方が勝っていたはずだ。
淋しいのかも、知れない。
ふと、そう想いが巡るとジャンは改めてルイを見つめた。
ルイ九世はいつの間にか水を汲んだ杯を、ジャンの前に持ってきた。
「ワイン、多すぎたかな。大丈夫か」
そう、ごく普通に心配そうな顔を浮かべている。
「ありがとうございます。陛下に、そのような」
「ならば、ありがたく飲め。ほら。悪かった。お前、ワインはだめか」
「あまり」
「なあ、ジャン」

「ロイは、生きているだろうか」
口にした水を吐き出しそうになる。
むせるジャンの背中を、ルイはさすった。
「お前は母上の命令でベルの配下につき、シャルルと供に探すのだと聞いた。皆、私に黙って物事を進めるのだ。知らなくていいことだとか、陛下が自らなさることではないとか。そういって都合のいい時だけ私を王様扱いする。私には、何の力もない」
寂しげに目を伏せるルイ。
子ども扱いされるつらさはジャンにはよくわかる。国王ともなれば周囲にいるのは真に大人ばかりだろうし、要求されることは限りないだろう。それに応えようと努力しても、何かが自由になるわけではない。結局は大人が物事を決めていく。敵わないのだ。
ルイが身近に感じられるからこそ、ジャンはその気持ちを推測する。想像する。そうなると、同情せずにはいられない性格だ。
「あの、今はル・アーブルに手掛かりがあるかもしれないという程度で。まだ、何もわかっていません」
「ふうん」

それ以上、ルイは言葉を続けなかった。
見つけたならどうしろとか。ジャンがロイを探すことをどう思うのかも。
遠く、視線を景色の向こうにある何かに向けている。
「陛下。お疲れみたいです。お昼寝しましょう。きっと気持ち良いですよ」
「お前、私を子ども扱いしたな!」
「今、眠そうなお顔をされました。分かります」
「……母上みたいだ。お前。お前が側にいるなら、昼寝する。どうだ」
どこかで見たような甘え方。
ああ、と。ジャンは思い出す。
ティボー四世は、ロトロア様にいつも甘える。それに似ている。だとしたら、陛下にとって僕はロトロア様なのだ。それは少し、誇らしい。
この世に悪い人などいない。
陛下も、心に深い痛みを持っているのだ、だからそのはけ口をロイに持っていったのだ。
ジャンは立ち上がり、ルイと供に室内に戻った。明るさに慣れた目に、日蔭は闇のように映る。見るべきものすら、見えなくなる。
今のジャンのように。
「では、ご一緒にお昼寝ですね」
関連記事
スポンサーサイト

chachaさん♪

ルイ、そうですね~毒を持っていますv-391
ジャンがこれからどうなっていくのか。
生真面目で大人しく(思慮深い)ジャン。最後の描写。はい、匂わせてみました~♪

ベルトランシェ、初登場からはだいぶ人間らしいところが見えてきています(笑
案外、お気に入りなのですよ~♪

そういえば「小説家になろう」に登録されているんですね!!アルファポリスからのリンクで知りました♪
小説家になろう…私登録していたのですが、入れず出れずになっています(笑
あそこのパスワード、複雑で、覚えていなかったのが悪いのですが。
問い合わせようと思ったのだけれど、登録時のメルアドも、ちょうどアドレスを変えた時期に重なってしまって、思い当たるものを全部入れてみたのだけどダメでした~。
中途半端なままで、作品を下げてしまいたいのにそれもできず…。
我ながらお馬鹿さんだあ、と。そんなことを、思い出します…くすん。

ふむ~…

なんだろう、ルイ怖いぞ…@@;
いつの間にか私のお気に入りとなったジャン(笑)久々登場嬉しいです~♪
一つ前の話で、ベルトランシェがブランシュ様たちを見送った後、ものすごい勢いで走ってくるシーン、大笑いでした(笑)ジャンと一緒に「わぁっ!?」ってなっちゃいました^^ぷぷぷ☆

ジャンはジャンでなんだかシャルルの影響もあってか(?)、成長してますよね^^
でも。優しいジャンにルイの甘い毒は危険です。わからないもの、じわじわ回ってくるんですよね、毒。そんな感じのルイの言動に、内心ひやりとしています。
どうなるんだろう。
最後の三文に込められた、先の暗示のようなものが非常に気になります…

ああ~一話ずつと思っていたのに、つい二話読んじゃった><
また明日来ます♪

藤宮さん♪

何気に怖いルイ九世です(笑

ジャンの立場も微妙ですし。
シャルルたちの今後も~そこはご想像に任せますよ♪

恋愛メインのつもりで書いたのに、どうしてもそれ以上に不穏な問題に突き当たってしまうロイとシャルルです。

きゅんとなるシーンを書きたいと思いつつ、そっけないロイに「もう少し何とかならないのかしら」と私もため息。
それでも、元気なシャルルのがんばりを、期待していてくださいね♪

ルイも色々……

何となく恐ろしげな話もありますが、どうなる事か……。

ロイとルイ、最初は仲の良い兄弟のように見えましたが、裏には様々な感情が渦巻いていたのですね。

確かにジャンの思う通り、シャルルちゃんが聞いたら斬りかかっていそうな話です。
平然とそんなことを言えるルイは、やはり王だからなのか……。

この話の展開で、シャルルちゃんたちがパリに来たら、恐ろしいことになりそうで怖いですー。

たぶんそう簡単な話ではないでしょうが、今から緊張してしまいます。

さて、これからどうなっていくのか気にしながら、また追いかけていきますね!
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。