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『La croisade de l'ange 4:Paris』⑥

La croisade de l'ange Chapter 4 『Paris:天使の聖戦』



三台の馬車で大きな円を作り、その内側で陣を構える。国王を守護する五十人くらいの近衛騎士団と、それぞれの従者、下働きをするためだけに同行している異国の奴隷。全体で百人くらいなのだろうか。シャルルは食欲がないと訴えるロイを説得して、二人で御者台に座った。パンを頬張りながら周囲を眺めた。
炊き出しをしている風下の一角では、煙が白い渦を作って、いつもより強い西風をさらに強調していた。周囲は開けた草原で、今も吹きぬけた一際強い風が白茶けた大地の毛皮をなでていく。まばらにある木は、すぐ先で林を作り、さらにその向こうは森になる。シャルルの感覚で言えば、向こうが透けて見えるのが林。木立が生い茂って見通せないのが森。そんな判断だ。
その基準で言えば、街道のある南北は見通しが利くが、東西は両側に森がある。遠く西にはオルレアンだという。
自然、シャルルはそちらを熱心に見つめる。
「どうかしたのかい?シャルル」
シャルルの視線を気にして、ロイが尋ねる。ロイは先ほどから、水と干した無花果をかじっている。あれから発作らしきは治まって、かえってその前よりは気分がよくなったと。少し無理した感じで笑う。
シャルルは寒さに少し背を丸くする青年に、改めて肩のストールを巻きなおしながら、笑いかえした。
「あっちにね、オルレアンがあるって聞いたんだ。戦争はそこから始まっているって。不思議な気がしてさ。きっとすごく遠い、例えばローマ帝国から見たら、僕らも戦争している仲間に入るんだろうけど、実際今、僕らはのんびり朝食をとっている」
「ああ、実感がわかないのだね」
「うん、それ」
ハムを食いちぎる。パンからはみ出たそれを、側にいたクウ・クルが素早くくわえ引っ張り出す。
「こら、クウ」
シャルルがパンを持つ手を高く上げたときには、そこに挟んでおいた肉はちょうどよく全部白イタチのものとなる。
「ああ!」
笑いながら、またロイが咳き込むから、シャルルは隠れて肉に噛り付くイタチにかまう余裕がなくなった。文句を言いながらも、ロイの背中をさすった。
「にぎやかですね、リオン」
そう呼ぶ人はここでは一人。
ベルトランシェが朝から派手な笑顔で馬車の脇に立っていた。
「こちらに来ませんか、ロイ様も是非。焚き火に近いほうが温かいですよ。ブランシュ様は、心より貴方様のお帰りを望んでおられました。あなた様が北に向かわれたこと、耳にはしていたのですが。とかくあの界隈は、我らには近寄りがたいので」
「それで、シャルルをよこしたと言うのは、先ほどシャルルから聞いたよ。ベル、私は今ヘンリー三世陛下にお世話になっています。これを機に、カペー家とプランタジネット家との親交が深まれば良いと思っています。そういうことも含めて、私は母上や、ルイ。そしてクリア・レギスの皆に会いたいと考えています」
ベルトランシェの表情が少し強張った。
静かに語るロイの口調が、やっぱり僕とは違うんだなとシャルルはロイの横顔に見とれていた。
会話が途切れたことに気付いて、ベルトランシェとロイとを見比べる。
ロイはただ、穏やかな笑みを口元に浮かべている。
ベルトランシェは、黙ってその場に膝をついた。
「ロイ様。貴方様の、想いが、神に届きますよう願っております」
かみ締めるような、一つ一つ選んだような言葉だった。
シャルルには意味が分からない。
けれどそれを問いただすような雰囲気ではなく、誘いに来たはずのベルトランシェが一礼して近衛騎士たちの輪に戻っていくのを見送った。

「ベルの言っている意味が、わかんなかった」
「ああ。私がクリア・レギスに同席することが、叶えばいいですねと。逆に言えば、困難だと言うことだよ。彼らしい、押さえた言葉だけれど。穏やかに警告してくれたのだね。私が権利や提案を主張するのは、そしてそこにヘンリー三世陛下の後ろ盾を見せるのは、危険だと教えてくれている」
「大丈夫なのか?」
ロイは柔らかな風のように笑った。
「シャルル、君は君の自由にすればいいのだよ。君が私の護衛をする理由もない」
「ばか!」
シャルルの勢いに、ロイ葉目を丸くした。
「二度とそういうの、言うなよ!僕はいつだって自由にしてる。僕の考えで、僕のしたいようにしているんだ!誰かに言われたからとか頼まれたからとかじゃない。嫌になったらここにいないし、好きだから側にいるんだ。それをさ!」
一気に話して、シャルルは息継ぎ。
「そんな風に言うなよ!ランスで会った時だってそうだっただろ!助けがいるなら助けてほしいって言えばいい。僕を利用すればいい!僕はいつだってロイの味方なんだ」
きゅうと、抱きしめられる。
う、と。
シャルルはそこであふれかけた涙に気付いた。
「シャルル」
「側に、いたい」
シャルルは涙をぬぐった。勢いで言ってしまった「好き」にも気付いていたけれど、本当なんだ、何が悪い、と開き直る。

「ごめん」
ロイは、囁くように言った。
「ごめんね、シャルル」
とくとくと、心臓が泣いた。
「それは。どういう、ごめんなんだよ。突き放すようなこと言ったから?泣かせたから?抱きしめているから?それとも」
「ずっとは、側にいられない」

言葉が続かなかった。
「君を、きっと、傷つける」
思わず声が漏れる。ロイの肩の向こうでこちらを見ている騎士たち。それが一瞬で涙の向こうに消える。泣くまいとか、そんなこと。
ただロイにしがみつく。

嫌だ、側に。
我儘な、勝手な気持ちだってわかっていても。
抑えきれずに、シャルルは泣いた。
ロイはじっと、抱きしめてくれていた。

誰だろうか、大丈夫ですかとロイに問いかけロイは答える。
「大丈夫だから、任せてほしい。私が泣かせてしまったのだから」
耳元に響くロイの声がわずかに涙を含んでいるようで、シャルルは顔を上げた。
ロイの瞳も、泣いているように見えた。
それはすぐに優しい笑みに隠される。

しばらくそのまま見つめ。シャルルが言葉を発した。
「いつまで、なら?」
「いつまでなら、側にいていいんだ?僕はロイを守るって、決めた。ずっと、ずっとそう思ってた。あの夜、一緒にランスを出るって決めた時から」
もう一度、ぎゅっと抱きしめられる。
返事は耳元に。
やっと慣れたロイの声が、深く耳に染み入った。
「パリまで」
そんなの、あと二日もない。
また涙があふれてきて、シャルルはうつむいた。
「嫌なら、今すぐに。私から離れてもらう」
「ひどい、こと言う」
またひとしきり泣いた。

「分かった、よ」
いつまで泣いても、時が止まるわけでもなく。ロイの気持ちが変わるわけでもないことをもう一度自分に言い聞かせた。
大体、僕に。もともと身分の違う僕に、ロイのそばにいる権利なんかない。
「僕が、ブランシュ様に会わせたいって、思った。だから、ロイを無事にパリに届けるのは僕の責任だ」
「ありがとう」
シャルルは、自分から離れた。
そのまま何度も目をこすり。頬を二回、ぺんぺんと叩いて立ち上がった。
遠くから眺めていた騎士たちが、目をそらしたり肩を竦めたり。その中に、ベルトランシェの姿を見つけ、シャルルはそこに向かって駆け出した。
獅子の子に狙いをつけられた青年は困ったような顔をしたが、シャルルの意図を知れば目を細めた。
「ベル!僕と剣の相手してくれ!」
何もかもを吹き飛ばすように、シャルルは怒鳴った。
見つめる近衛騎士たちの中、ベルトランシェは立ち上がった。
「お前ごときにそう呼ばれる筋合いはありませんよ。リオン、覚悟しなさい」
言いながらも。青年はまぶしいほどの笑みを向けていた。
どこまで聞かれていたのか、わからない。
けれど、今のシャルルの気持ちを察してくれている気がして、シャルルは遠慮なくイタチ剣を抜き放った。


シャルルの素早さに、時折騎士たちの歓声が上がる。
「なかなか、鍛えられていますね」
そう口にして、ベルトランシェは終わりにしようと手を挙げた。
シャルルほどではないにしろ、そこそこ息を弾ませていた。
「団長相手に、見られる試合をするとは、お前すごいな」
名は知らないが、近衛騎士団の中でもひときわ大柄な日に焼けた男が笑った。
褒められたシャルルは、走り回ったために熱くなり、ストールを引きはがす。
と、動きを止め耳を澄ませた。

「どうかしたか」
先ほどの騎士がシャルルの見つめる方角を振り返る。
東。
地平線の近くに影のような煙が漂う。
騎士たちの動きが一斉に止まり、ベルトランシェが「陛下を!」と。
叫ぶと同時に立ち上がる。
シャルルがロイのほうへ、と駆け出したときには、すでに馬を駆る三騎の騎士が音のする方角に向けて兵を移動させ始める。

ロイは御者台に立ち上がり、遠く、東を見つめている。
「シャルル、何かあったのか」
「なんか、軍勢が」
声を遮り、ラッパの音が甲高く響いた。
まるでそれに応えるように、東に見えた林の向こうからもラッパの音。
おおお、と。それはオルレアンを思った時と同じ。最初に森を抜けて姿を現したのは黒い騎馬。その横に二騎目、三騎目。その時には森のもっと東のほうからも、西のほうからも。
まるですくった掌の隙間から砂がこぼれるように森の中から軍勢が姿を現した。
と思えば、弓の音が空を切る。
シャルルはロイを馬車のなかにかくまい。自分はその前に立っていた。ロンフォルトを馬車から離すわけにはいかなかった。いざとなったら、ロイだけでも馬車で逃げられるようにしなければいけない。

とん、と一本の矢がシャルルから数歩先の地面に突き立った。
構えた盾にがつ、と感触がある。敵軍から離れていては、ただ守る一方。それでもここを、ロイのそばを絶対に動かない。
今一つの矢を剣で薙ぎ払い、シャルルはなぜもっと弓の訓練をしなかったかをわずかに後悔した。


現れた軍勢が、どうやら本当に戦争なのだと意識させるほど東の地を埋めたとき。敵陣にひらめく旗が目に留まった。それが、見たことのある旗だということも。
「あれは!」
シャルルは中央で指揮をしているベルトランシェのそばに駆け寄った。
「あれは、ラン伯!?」
「どうやら、そのようですね。シャンパーニュ伯の申し出が、これで嘘だったとわかりました。ジャンは無駄足に終わりました。かわいそうに。リオン、ロイ様を陛下の馬車に。守りきるなら一つにしたほうがいい。お前も騎馬がほしいでしょう」
「はい!」
一瞬、ルイと一緒に、というあたりに懸念を感じたが。そんなことを言っている場合ではない。
まだ火矢でないだけましだった。
すでに防衛線として前に出ている騎士たちの守りは崩れを見せ。その隙から数騎の敵がこちらへと駆け寄ろうとする。ちょうど、先ほどシャルルをほめた大柄な騎士がそれを横から槍でとどめ。二騎は戦闘に入る。
シャルルはとにかくロイのもとへと走り。途中、馬から落ちた敵兵を一人やっつけて、黒い馬車に駆け込んだ。
「ロイ、ルイの馬車に移るんだ!一緒のほうが安全だ、早……」
左足に痛みが走る。
「シャルル!」
ロイが駆け寄り、うずくまりそうなシャルルの肩を支えた。
見れば、左太ももの外側を、矢でえぐられていた。
「大丈夫!かすり傷だ!行こう、僕の背後から離れないで」
「駄目だよ、おいで、ここで止血しないと」
「そんなことしてる場合じゃない!早く!」
いう間に、シャルルは視界の隅に火矢が突き立つのを認める。
早くロイを移動して、馬たちを解放してあげなくては。
ロイは自分の荷物から剣を取り出した。
行こう、そう目で合図し、二人は矢が降り注ぐ中を走り始めた。
流れる視界の中で馬や騎士が入り乱れ、怒号や叫び声が耳をついた。
夢中でルイの馬車に、守っていた近衛兵の助けを借りてロイを押し込む。
ルイ九世は「私も出るぞ」と怒鳴ったが、近衛兵が「今しばらく、お待ちください!不意を狙われた状態では、われらの不利。すでに半数が命を落としております!せめて、陛下のお命だけは、救わせていただきます!」
悲壮感に満ちた叫びに、ルイは黙った。
多勢に無勢。
シャルルは振り返ったロイに、大丈夫、と笑った。
「行ってくる。約束は守るから」
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藤宮さん♪

ロイとシャルル。
なかなか、想うようにいかない二人です…
一応、恋愛ものにするぞ!という意気込みで書き始めていますので、いずれ。恋にも決着が~♪

最後に笑えれば、……むふぅ。
最後に……。(←妙な反応?)

実は第一稿、終わったんですよ…はふうぅ。

楽しんでいただけると。うん。
いいなぁ~♪

ついに……!

始まりましたね、戦いが。

やっとロイと再会できたのに、ずっとそばにいることさえできない。
離れてしまえばきっと、二度と会うこともかなわないかもしれない。
それでもシャルルちゃんは戦うのですね。

……他ならぬロイのためだけに。きっとシャルルちゃんは、ロイだけの騎士なのでしょうから。

恋も、戦いも、そろそろ激しさを増してきますね。
シャルルちゃんとロイが、皆が辿りつく先に何が待っているのか。それはわかりませんが、救いがあればいいなと思います。

悲しいのも優しいのも、一緒になって最後に笑えればいい。

そう思いながら、続き、お待ちしています。
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