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『La croisade de l'ange 4:Paris』⑩

La croisade de l'ange Chapter 4 『Paris:天使の聖戦』

10

旅の疲れもあったのか、パリに到着してすぐに熱を出したロイを、シャルルは引き続き看病することにした。ロトロアもシャルル自身の怪我が完全に治るまで、好きにすればいいと許可した。
そういうロトロアも、リシャールの話ではルジエで待つローレンツに知らせランに赴く準備をしなければならないが、ジャンがシャンパーニュから戻るまでは情勢が安定しないからとパリに留まっているらしい。
ロトロアはすっかり王宮にも馴染んだらしく、今も中庭で近衛騎士とルイの弟と木刀を振り回して遊んでいる。ふざけて大げさに痛がって見せたりするけれど、実際は脇腹の怪我もそんなに痛くなさそうだった。
シャルルはそれを窓から眺め、僕も早く動けるようになりたいと、うずうずと拳を握っては開くを繰り返す。足の怪我はまだ完全には治っていないものの、日常の動作では痛むこともなくなっていた。
「シャルル、君も散歩してきていいのだよ」
見かねたロイが笑いながら言う。
「だめだよ。ロイが一緒でなきゃ。何があるか分からないんだから、ここにいる」
「じゃあ、早く回復しなくちゃいけないね」
「そうだよ、他人事みたいに言うなよ。ほら、また野菜が残ってるぞ」
シャルルに昼食の食べ残しを指摘され、ロイはむ、と口を閉じる。
側にいて分かったことだ。ロイは野菜の大半が嫌いだ。魚はフリットにしたものしか食べない。それもイングランドで初めて食べることが出来たというのだから、シャルルは呆れるばかり。「贅沢だよ。クウを見ろよ、虫でも果物でも何でも食べるよ」
「ネズミでもね」ロイは肩をすくめ。
「シャルルも虫を食べるのかい?」と真顔で意地悪を言う。
「誰も、虫を食べろなんて言ってないだろ。仕方ないな、じゃあ、この人参一個だけ」
「食べたら何かしてくれるのかい」
「何かして欲しいのか?」
むむ、と軽くにらみ合う。
「質問に質問で答えたらだめだよ、シャルル」
「じゃあ、いいよ、してやるよ。さ、食べて」
ロイはちらりと上目遣いでシャルルを見つめ、それから貴重な氷をすくうようにスプーンで人参を一切れ、持ち上げた。しばらく眺めてから、ぱくりと。口に入れる。
「で、何をして欲しいんだ」
人参をかみ締めながら、ロイは苦い顔をする。
それが、なんだか可愛く見えてシャルルは笑い出す。
「面白くないよ、シャルル」
「いいからさ、何?」
「キス、って言おうかと思ったけどやめた」
「は?」
とくんと心臓が高鳴る。
「やめたって、なんだよ」
「いらない。案外美味しかったから。人参」
そんなはずはない顔をしていたけれど。
「君がキスして欲しいなら、別だけどね」
意地悪な言い方をする。
それも、わずかな上目遣いがまるで見透かされているようで。シャルルは内心のドキドキを押し隠して、勢いよく立ち上がる。
「食器置いてくるよ。そんなことばかり考えてないでさ、じっとしてなよね、病人なんだから」
振り返りたいのを我慢して、廊下に出た。そこに置かれているワゴンに食器を載せたトレーを置いた。
はあ、と。息をつく。
再会の時には戸惑ったけれど、ロイは以前会ったときと同じ、やっぱりどこか高貴でどこか我儘な少年のままだった。周囲が「ロイ」の名を口にするから、自然シャルルもそう呼んでいるし、それについてロイも何も言わなかった。「ロイ」というのは、名前ではなく。立場なのだと改めて理解する。誰も本名を、フィリップの名を出さないのは、やはり死んでしまった王子の名だからだろう。
まるでロイがそのことを知らないと思っているような周囲の対応。周囲もロイも、互いにどこか手探りだ。遠慮なのか警戒なのか、その空気は重くシャルルは時々こうして一人息継ぎをする。

僕の目的は、ロイに幸せを感じてもらうことだ。
あのパリへ向かう旅の途中。ロイは言った。生まれた意味も、生きる理由も分からないまま死ぬことはできない、と。だから自分から名を捨てたのだと。
ヘンリー三世が心配していたのはそういうところなのだと思う。失ったことで、自分を不幸だと感じているなら、そのいくつかでも取り戻せればいいのかもしれない。
まずは、家族だ。王族であるという証は、今はそこにしかない。死んだことになっているフィリップが生き返ることは出来ないから、せめて血のつながった家族として受け入れてくれれば。
その貴重なチャンスが、ブランシュ様との面会だった。
未だ、ロイが体調を崩したのと帰還したルイを出迎える式典だとかなんかで多忙らしいのとで、再会は果たされていない。
うつむく足元に、影がいくつか走る。
顔を上げれば、慌てた様子の従者や騎士たちが、廊下を駆け抜けていく。
「何かあったのか!?」
下働きの少女を呼び止めると、少女は足踏みしながら「シャンパーニュからのお使いがご到着されました!その、伝令の方だけでなく、シャンパーニュ伯もご一緒ということで今お出迎えに」そこまで言うと、駆けて行く。
「ティボー四世、が」
パリに来たのだ。


クリア・レギスといわれる会議が開かれたのが昨夜。オルレアンに赴いている幾人かの将軍は席をはずしていたが、ロトロアの報告によってルイとブランシュの判断が了解を得、パリは北のノルマンディーにも兵を割くことに決まった。
その前提条件が、東部の危険を排除することだった。
東部、つまりシャンパーニュとその周辺諸侯。ベルトランシェから聞いた話では、シャンパーニュ伯はブランシュ様を敵に回したくない、それはシャルルも知っていた通りだ。そう思えば、シャンパーニュがランを差し出すことで国王はシャンパーニュを許し。シャンパーニュも堂々とブランシュの味方ができるというものだ。その内容に、ティボー四世が納得するかどうかが焦点だった。
シャルルは、ロトロアとティボー四世の関係を思えば上手くいくに違いないと考えていた。以前ジャンが言った。ティボー四世様はロトロア様を頼りにされています、と。結果的には、ランを治める主が変わっただけで、シャンパーニュには何の損もなく、体面を保ったまま国王側に寝返ることになる。
今思えば、ロトロアが急いでパリに向かっていた理由はそこにある。遅れていれば、シャンパーニュが動き出し。もし、本当に開戦していれば、そう単純には和解出来なかったはず。
シャルルはティボー四世が訪れたということは、きっとパリは東にシャンパーニュと言う味方を得て、西と北に照準を合わせることになるんだろうと想像した。
その考えを話したくて、室内に戻った。
「ロイ、今ね」
言いかけたが。
ロイは横になり、眠っていた。
夜になると咳が激しく、あまり眠れていないのだ。だから、食欲もなく体力は落ちる一方。わざわざノートルダム大聖堂から来てくれる司教が処方する薬は、密かに飲まずに捨てていた。
司教は親切だったし、信頼できそうだった。だから本当は薬を飲んだほうがいいのかもしれなかった。けれど。もしかして毒かもしれないと怯えるロイに、大丈夫だから飲めと、言えるはずもなかった。
早く、ブランシュ様に会って、安心できたら。
すぐにでもと思っていたのに。
それも、ロイが不機嫌になっている原因だと思う。

まるで二人きり、この部屋に隔離されて。世の中の動きから切り離されているようだ。それが不安でも、シャルルは決してロイのそばを離れようとしなかった。


謁見の間では、ざわついた雰囲気を拭い去れないまま、衛兵がラッパを吹いた。
シャンパーニュ伯ティボー四世は痩せた肩に重そうなマントをつけ、膝をつく。
ルイ九世の先代、ルイ八世を毒殺したと噂された人物に、詰めかけた国王派の諸侯はもとより、旗持ちの従者までが興味を隠せなかった。何十、いや何百という視線を受けテオバルドは緊張のためか顔を青ざめさせていた。
大体、ロトロアやラン伯が勝手に行動した結果がこれなのだと言わんばかりに、室内の背後にいるロトロアをちらちらと睨んだ。
ブランシュとの決裂を避けたいがため、シャンパーニュの産業を守るため、ティボー四世は何とかうまく国王側と和解したかったのだ。体面を損なうやり方では側近や領内の家臣が納得しない。そこで、ジャンを使者として、交渉を始めようとした矢先だった。
国王側にとっても、広大で経済力もあるシャンパーニュは取り込んでおきたい勢力のはず。交渉にそれなりの自信を持っていたのを、とんだ邪魔が入った。
不機嫌にもなろうというもの。
その視線はそのまま、目の前のルイ九世にも向けられる。
ルイは目を細め、それから少し高すぎる王座の上で姿勢を直した。
「ティボー四世、貴方の所領であるラン伯が我が軍に戦乱を仕掛けたことについて、何か弁明があるのなら、この場で聞くが」
ルイの横でそう話を切り出したのは法律家で側近のセジュールだ。
法律家とやらはこんなにも偉そうなものか、と内心ティボー四世は苛立ったが。今はそれを押し隠すしかない。
「ランは確かに我が所領です。ラン伯マルコはブルターニュ伯モークレールの提案の通りに行動したのでしょう。私を裏切ったとしか言いようがありません」
「では、ラン伯の起こした騒乱に貴方は関与されていなかったということですか」
「もちろんです。私はそれより先に和解を求めた書状をこちらにお届けしているはず。その考えも汲まずにラン伯マルコは先走った行動をしたのです。ランを差し押さえられるのも仕方のないこととあきらめておりますが、今回のことをシャンパーニュの汚点とされるのは承服しかねます」
ふ、と。ルイ九世が深い息を一つついた。ぴょん、といった感じで椅子から降り立つとテオバルドの前に立った。
「では、ランは私がもらう。そしてシャンパーニュは、私と契約を結ぶ。それでどうかな」
契約。
ロトロアは計画にない提案をルイが示したことに小さく肩をすくめた。乗じて、ということだろうが。国王は抜け目ない。
テオバルドはしばらく目の前の国王を見つめていた。
「よろしいでしょう。ルイ九世陛下。戴冠の折には馳せ参じることができませんでした。遅ればせながら。ご即位おめでとうございます。我らシャンパーニュも貴方様へのご助力を惜しみません」
これは、テオバルドの反撃だった。
不名誉な毒殺の噂をここで拭おうというのだ。ルイが手を差し伸べれば、噂は否定されることになる。静まり返った室内。誰もが、この二人の様子を見守っていた。

ルイは不意に笑い、手を伸ばした。
「ありがとう。シャンパーニュ伯、若くしてティボー四世を継いだ貴方には、教えていただけることがたくさんあると思う。私もまだ若輩者。ともにフランク王国を支えていけることを嬉しく思う」
内心はともかく。非の打ちどころのない答えだった。
ルイ九世、弱冠十二歳の少年がここまで闊達であったとは周囲の誰もが気付けずにいた。シャンパーニュ伯の背後ロトロアの隣で。ジャンは、尊敬のまなざしを若き王に向けていた。いずれ佳き王になられる。少年の瞳には王国の未来が映っているようだ。

謁見の間での出来事は、すぐに宮廷内に広まった。
これでシャンパーニュを味方に付ければ、戦争はすぐにでも終結するかもしれない。なにしろ、シャンパーニュの力は広大。シャンパーニュに追随する諸侯も出てくるだろう。
祝祭に似た穏やかな空気が、これまでの重苦しさを拭い去った。


その夜。
ティボー四世を迎えての晩餐があると一人の女中がロイの部屋を訪ねてきた。それに是非と、シャルルは呼ばれた。
「でも」
「ロイ様は、その間にブランシュ様との面会がございます。こちらにいらっしゃるご予定ですので、シャルルさま、貴女はここにはいられないのですよ。シャンパーニュ伯のご要望もありますし、是非晩餐に出席してください」
ブランシュの側仕えの女性だった。どこかで見たことがある。
しばらく唸ってから、シャルルは思い出した。ランスで式典の最中に訪れたシャルルにブランシュの意志を伝えた女中だ。
そのことを告げると、「はい、お久しぶりでございます。あの時は男性だとばかり思っておりました」と。女中は笑った。
「どうぞ、安心して晩餐へとお出かけください。ブランシュ様が降誕祭の贈り物にとご用意された衣装もございます」
あ、と。シャルルは顔をしかめる。
「ドレスなら、着ないよ」
「私は見て見たい」
いつの間にかベッドから立ち上がり、側に来ていたロイが。シャルルの肩に手を置いた。
「君のドレス姿」
むむ。
「きっと似合うし。お母様の贈り物を断るなんて、だめだよ」
にっこり微笑まれて、そんな風に見つめられたら。断れるはずもない。
「分かったよ、しょうがないな。ロイのために着るんだから、後で絶対見せてやる。笑ったら許さないんだからな」
「そんなにいきり立たなくても似合うから、大丈夫だよ」
ロイは笑う。ベッドの天蓋の下、ランプの明かりが作る白い繭の中にいるロイ。今日は熱もなく、起こした体に枕を抱きしめる。子供のような格好に、穏やかな表情は美しい。
身分の高い人、遠い人。
その笑顔にもう一度。
「まだ。まだ、離れないんだから」
噛み付くように言うと、シャルルは部屋の外に出た。
ロイがブランシュ様に会う。それはシャルルの望んでいたことだ。きっとロイにとってイイコトだ。イイコトだけど、同時にシャルルの役目が終わるということ。
そうしたらロイが言った通り離れなければいけない。ロイは王家の人間で。
僕はただの騎士見習い。
あの柔らかな白い笑みが。最後になったらどうしよう。もう、会えなかったら、どうしよう。

久しぶりに風呂に浸かり、少し伸びた髪をとかせばしっかり結えるほど伸びていた。いつも下ろしている髪をくるくると器用に女中が結い上げてくれた。
その襟元も、広く開いたドレスの背中も、すうすうするのが気に入らない。二回くしゃみをして、ブランシュからのペンダントが胸元にゆれる。
「とても素敵ですわ」
先ほどの女中に微笑まれ。考えてみればブランシュ付きの女中に直々に世話してもらうことなどひどく贅沢なのだが、シャルルは思い至らない。「口元に紅を少しさすといいですよ。顔色もあまりよくないですわ」と勧められるままにシャルルは大人しくしている。
柔らかなレース編みのショールを肩にかけ、「さあ、できましたよ」と。女中は改めて鏡の中のシャルルを見つめた。
そうしてみると少し痩せ気味だが立派に初々しい貴婦人の卵。ミモザ色の髪がくりくりと頬の周囲を彩り、白くすんなりしたうなじは匂い立つようだ。深い菫色の瞳は印象的で、きっと男性の視線をひきつけるに違いない。自分の作品を見る画家のように、女中は嬉しげに少女の周囲を二回廻って見つめる。
と、シャルルの表情に気付いた。
「気に入りませんでしたか?」
「そんなこと、ないよ。そんなことない」
シャルルは何度も目を擦った。
ロイのことばかり、考えていた。そうするとどうしようもなく、涙がこぼれてくる。
「シャルルさま?どこか、お体でもお悪いのですか?顔色も優れませんし」
「ごめん、なさい。僕、やっぱりロイのとこに行きたい!」
と、駆け出そうとする、その足元はいつもと違う靴。ドレスの裾を蹴り上げたところでしっかりと押さえつけられた。
「ロイに、会いたい、心配なんだ」
見失いかけている、分かっている。僕がすべきこと、しちゃいけないこと。分かっているけれど。晩餐どころじゃない。
再会してから、ずっと側にいた。
「ロイ様を、慕っておられるのですね」
ぎゅと、女中に抱きとめられ、シャルルは何もかもが普段と違う自分に気付いた。もっと力があって、素早く動けるはずだ。もっと、しっかりしていて、ちゃんと考えて。だって、リシャールにだって負けないくらい剣も使える、馬も操れる。騎士になりたいって願ったそれには、十分なくらい才能がある。なのに今。
今の僕には、そんなの何にも役に立たない。
「分かってるんだ、身分が違うし、僕なんかじゃダメだって、分かってるんだ、だけど、だからっ」
「落ち着いて、ロイ様にはまたお会いできますよ、大丈夫。泣かないで」
「だって、でも」
「おいおい、迷惑かけるなよ」
背後の声にシャルルは息を止めた。
しがみつく形になっている女中は、シャルルをぎゅっと抱きしめた。
「ロトロア様、女性の部屋ですよ、声もかけずに入るのは失礼でございます」
毅然とした口調の彼女、抱きとめられた暖かい手、シャルルはふとアンを思い出した。
護って、くれている。
そう思った瞬間、力が抜けてしまった。
座り込んだシャルルは、女中にしがみついたまま泣き出した。
「おい、悪かった、だれも似合ってないって言ってないだろ」
意味の分からないロトロアは、珍しくおろおろとシャルルの頭をなでる。
そんなことには構わず、シャルルは泣き続けた。


「小娘の一人や二人はどうでもいいけど、お前が列席しないのはおかしいよね」
縄張りを主張する野鳥のように甲高くテオバルドが言葉を並べた。それを向けられたロトロアは肩をすくめ、ベッドに横たわるシャルルをちらりと見つめた。
それがまたティボー四世の癇に障る。
「大体、お前が勝手にルイと契約するから、だから私までパリなんかに来なきゃならなかったのだ。歓迎の晩餐にお前が出ないのはおかしいだろう?」
「テオ。飲みすぎたのか?ワインが匂うぞ」
わがままなシャンパーニュ伯が側近を困らせ八つ当たりしただろうことを想像し、ロトロアは溜息を一つ吐く。
「まあ、座ったらどうだ。ここに」
ロトロアが自分の座るソファーの隣を指し示せば、ぶつぶついいながらもティボー四世は腰を降ろした。
「ここはお前の部屋だろう、どうしてここに寝かせる」
「こいつには部屋などないからな」
何もかもが気に入らないのか、ティボー四世はぐるぐると室内を見渡し、噛み付く材料を探している。
シャンパーニュ伯の言うとおり、そこはロトロアに与えられた部屋だった。
続き部屋にはリシャールが滞在している。だから今、ティボー四世の剣幕に押し切られて通してしまったのを反省しているのか、扉からそっと見守っている。
その視線にロトロアは笑みを返し、大丈夫だと手で合図する。
「リシャール、伯に何か冷たい飲み物を。俺にはワインを」
黙って一礼し、向こうに消えるのを確認してから。ロトロアは改めてシャルルのほうを見つめた。
テオバルドもその視線を追いしばらく睨むようにしていたが、不意に立ち上がるとシャルルの側によって覗き込んだ。
「起すなよ」
「お前が女に夢中になるなど、信じられない」
「勝手に決め付けるな。ル・アーブルからパリまで。かなり厳しい旅だったからな。疲れていたんだろ。まともにベッドで休むこともせずにずっとロイに張り付いていたからな。自分が弱い女だということを、そいつはよく忘れる」
テオバルドの背中はしばし動きを止め。ぶ、ぶっと、噴出して震える。
「何がおかしい?」
「いや、お姫様は王子様に夢中なんだね。ロトロアは振られたんだ」
「テオ」
「思ったよりは、美しいな。でも、好みじゃないな。やっぱりいらない」
誰もやるなど言ってない、と。内心、ロトロアはため息をつく。
「ヘンリー三世には、ロイに与えるようにと言われている。ただ。肝心の王子様はお前と一緒で、要らないとさ」
ロトロアには心中を語らず、泣き続けて眠った少女。抱き上げ部屋に連れて行こうとするロトロアに女中が打ち明けた。シャルルは身分違いの恋に苦しんでいるのだ、と。
ロトロアはわずかに目を細める。
そんなことで躊躇する女ではないと思ったが。女であるには、他と変わりないということか。だとしたら、つまらん。

「おや、振られたのはこれも同じか。それは可哀想に。それで結局お前がもらうということなのか」さして同情している様子もないがティボー四世は首をかしげ前髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「もともと、そいつは俺のセネシャルだ」
「ふうん。もっと嬉しそうに言うならお前も可愛げがあるというものだけど」
「テオ。どうせまた、ブランシュに振られでもしたんだろう?いい加減にしろよ」
的を得たのか、ティボー四世は噛みつきそうな顔で睨んだ。
「お前も悪いんだぞ」
「おれが?」
「ロイ、あの子が私の子かもしれないと、言ったのはお前だぞ。ブランシュ様の要請もあったけど、それがなかったらロイを手元に置こうなんて考えなかったんだ」
「あ、ああ。それか。そういう噂もあると言っただけだぜ。考えればわかりそうなものなのに、お前が理解しなかったんだろ。ブランシュがお前を頼ったのも、お前を利用したかっただけだろうし。その逆恨みは、俺じゃなくブランシュに向けられるべきだな」
できはしないだろう。そういう顔でロトロアが笑えば、ティボー四世はその通りだと、黙り込むことで肯定する。
「ロイ、か。会ってみたかった気もするな」
ロトロアはそこで初めて、テオバルドが自らの子と対面する覚悟をしていたことに気付いた。すでにアニェスと結婚している。子もある。そのテオバルドが忘れえぬ女性との子だと思い込んだロイ。それなりに感慨深いものがあったのだろう。
「ルイが会わせないだろう。ロイの周囲はいつも衛兵で固めている。近衛騎士以外は誰とも知らされず周囲から隠され。シャルルと一緒に軟禁状態だった」
「ヘンリー三世が絡んでいると言ったね。大丈夫なのか」
さりげなく名を出したそれを、ティボー四世はしっかり心に留めている。ロトロアは面白げににやりと笑った。
「さて。ロイがイングランドの肩を持てば立場は危うくなる。それでなくとも、国王陛下はロイが嫌いだ」
「クリア・レギスもだろうね。折角落ち着きかけたところだ。うっとうしい諸侯だけで手いっぱいなのにロイの存在は邪魔だろう。二年前のブランシュ様ならいざ知らず。今のブランシュ様が、ロイを護ろうとなさるかどうか」
ロイを救ってほしいと訴えたあの時のブランシュは、今もティボー四世の記憶に新しい。
「そう、あの時はまだ、ルイ八世陛下が生きておられたし。国内は安定していた。すでに情勢が違うな」
ティボー四世はため息を一つ吐きだすと、話を逸らした。
「大体分からないんだよね。どうして、ロイが今になってパリに来る気になったのか」
「ああ、俺も分からない。危険を冒す必要があるとは思えない」
今はそのブランシュ様とご対面中だ。ロトロアが呟くように言ったとき、リシャールが飲み物を運んできた。
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藤宮さん♪

わわ、遅くなってごめんなさい(><)
もう一波乱。
そう、問題はこれから、ですからね~!!

楽しんでいただけるといいなぁ~(どきどき)

身分違い……

叶わぬ恋、ってやつなのでしょうか。

ロイとシャルルちゃん、この先で一緒にいられるときはあるのでしょうか?
ブランシュ様との再会がもたらす結果……まだ見えませんが、穏やかに過ぎていくことはない気がしますー。

ロイがなぜ、パリに来たのかも気になりますし。
たぶん、もう一波乱ありそうな予感がしますが。

そろそろクライマックスに近づいている感じですねー!
どきどきしながら、続きを追いかけていきます。
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らんらら

Author:らんらら
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