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『La croisade de l'ange 4:Paris』⑪

La croisade de l'ange Chapter 4 『Paris:天使の聖戦』

11

ロイが久しぶりに見る母親は、想像した以上に小さい女性に思えた。
それは、ロイを見るなり駆け寄り、柔らかで甘い抱擁をする。
これをシャルルが望んだのだ。香水らしき甘さにシャルルの顔を思い出しながら、ロイは静かに深く息を吸う。
ブランシュの背後を護るベルトランシェ。他には誰もいない。シャルルが毎晩薪をくべ、灰を片付けて整えている暖炉。その前に近衛騎士は真っ直ぐ立っていた。

「無事で何よりだわ、フィル」
ブランシュはしっかりと抱きしめたわが子に頬ずりする。
ロイはただ、立っていた。ロイは抱きしめ返すわけでも、涙を流すわけでもない。
その白磁を思わせる頬はブランシュのやわらかい手に包まれても、冷たいままだった。

「お久しぶりです、母上。私の記憶には、五歳の誕生日にお会いしたあの時のお姿しかありませんが。相変わらずお美しいように思います」
「お前は、立派になったわ。そんなにきちんとした言葉で、そう、少しイングランド訛りがあるようだけれど」
「ええ、ここ数年は向こうですから」
そこでブランシュは少し黙った。
ロイの意図を、計りかねている。
「警戒なさらずとも大丈夫ですよ、母上。私はもともと、人懐こい性格ではありませんし、シャルルのように泣き虫でもありませんから。あなたを傷つけたいと思ってきているわけではありません。ただ、理由を知りたいと思ったのです。だから、パリに出てきました。本来ならひっそりと、誰に迷惑をかけることもなく生きているはずでした」
「……ロイ」
「今更、子供のように甘えるつもりもありません」
表情を強張らせたブランシュから、そっとロイは離れた。再会を喜ぶことも、甘えることも、出来なくなるような対応を示したのは、宮廷側だ。
女中すらつけず、誰一人、位の高いものはロイに近づかなかった。歓迎されていないのは想定の範囲だけれど、歓迎していないくせに再会を喜べと。そんな態度を示すとは思わなかった。
ロイは口元には穏やかな、いつもの笑みを浮かべ。穏やかならぬ波を立てる心中を自らなだめる。
悲しげに、それこそ芝居の役のようにブランシュが息をつき、
「そうね、貴方にはいつも、寂しい思いをさせていたから、それも仕方ないのかもしれません」と低くつぶやいた。
「お聞かせください、どうぞこちらへ。ベル、少し寒いから薪を足してくれないかな」
黙って一礼し、ベルトランシェが傍らにあった薪の山から数本、暖炉にくべる。
その動作を見つめながら、ロイはシャルルが普段眠るのに使っているソファーに母親を座らせた。その隣に腰を掛け、改めてブランシュを見つめた。身長の伸びた今は、見下ろしていると言っていいくらいだ。

「教えていただけますか。私が、ルイ八世の長子であるフィリップが。なぜ、死んだことになっているのかを」
冷静な口調で突き付けられたそれに、ブランシュのほうが動揺を隠せない。再会の嬉しさを飾った表情も今はない。
「わ、私は反対したのです。貴方は生まれながらに余命いくばくもないと言われ、常に病気がちでした。この王家を守るには、少し」
ブランシュはそこで、ロイの顔を見つめた。
「少し、弱すぎたのです。本当にすぐに、死んでしまうかと」
「ところが、私は想像以上に長く生きた。聖職者の道を選ぶにしろ、騎士の叙任を受けるにしろ、本来ならば五歳くらいから修練を積む。十歳にはそれなりの形を成していなければならない。王の子であれば、将来国王になるのであればなおさら」
そうでしょう、問いかける静かな口調に、ブランシュは何度も口を開きかけ、また閉ざした。まるで口にするのを恐れるように。
ロイが返事のない母親に、あきらめたのか続きを語る。
「けれど私にはそれができなかった。それでフィリップ王子は十歳を迎えることを許されなかった」
「わ、私には、どうしようもなかったのです、陛下とクリア・レギスで決められたこと、私にはなんの力もありません。どの子も、私の子供です。ルイもあなたも。他の兄弟たちも。皆を愛しています。王家を守るには諸侯を抑えるだけの力がなくてはならない、国王は強くなければならない」
「私は権力など望んだ覚えはありません。ひっそりと田舎で暮らすことで、たまにお手紙をいただくだけで十分満足していました。幸せでした。あなたたちはそれでも気に入らなかったのですね」
「それは誤解だわ、ロイ。陛下も苦渋の決断でした。仕方なかったのです。どうか、そんな冷たい目で見ないでちょうだい。私は、こんなことしかできないけれど、貴方の母親です。愛しているのよ」
抱きしめようとするブランシュを、ロイは避けようとした。反射的につかんだブランシュの手首。背後でベルトランシェがわずかに身じろぎする気配。
「ベル、何も乱暴なんかしない、大丈夫だよ。お母様の手が、こんなに細く小さいなんて思わなかった」
ロイはしばらく、ブランシュの両手首をつかんだまま見下ろしていたが。
小さなため息とともに手を放した。
「貴女はいつも、仕方ない、仕方ないとおっしゃった。本当はこうしたくない、そういいながら結局は父上やルイの言うなりです。本心から、私を大切に思い救いたいと願ったなら、どうして行動を成されないのですか。曖昧な態度で自分を正当化し、罪の意識から逃れようとでも?」
涙をこぼしていたブランシュの眼から、何かが消えた。
「罪、などと。確かにあなたにしてみれば私は罪を犯したかもしれない。けれど、お前も。期待にそえない、未熟な子として生まれたお前にも罪はあるでしょう!愛されないのもお前に原因があるわ!お前はいつも、そう。いつも可愛げがなかったわ。シャルルのように泣いてすがれば可愛いものを、拗ねて愛情などいらないかのような顔をする。それでいて、飢えた犬の子の様に私を見る。まだ、尾を振る犬の方が可愛いわ」
私とて人間です、すがって愛情を求め笑いかける子のほうが数倍可愛い。

ベルトランシェは美しい口から紡がれる針に似た言葉に、視線をそらした。上手く解けないために余計に絡まってしまった母子の気持ちが息苦しくさせる。ここにシャルルでもいれば二人の間に入っただろう。
幼いうちに引き離され病と闘ってきたロイに、それでも迷惑をかけまいと、甘えてはいけないと我慢してきたロイに。器用な愛情表現など求める方が無理だ。
そっと覗い見た少年は、口元に笑みをうかべた。
「私の心のうちには、貴方を慕う情があるかもしれません。けれど貴女の胸の中には、そのような気持ちがあるのですね。残念です」

ブランシュは頬を赤くした。ソファーに座り込んだまま、両手でショールの端を握り締めていた。
ロイは構わず、ベッドのわきにある棚から荷物の袋を取り出した。
側に寝転んでいた白イタチが、体を起こして人間たちの様子を見つめる。
ロイは荷物から丸められた書状を取り出し、二人の前に膝をついた。
あわてたベルトランシェが同じ高さにと拍車の音を立て床に膝をつく。ロイは首を横に振った。
「言いませんでしたか。私は、もともと、王権など必要としていません。すでに、フィリップ王子は亡くなっております」
ブランシュの瞳が、数回。また涙を含んで瞬いた。
「フィル……」
「今からは、私はノルフェノ。ヘンリー三世陛下の伝令として、摂政ブランシュ様に申し上げる」
ベルトランシェが職業柄の習慣で、姿勢を正した。
ロイの声は凛とし。夜風をも静まらせるような、迫力に満ちていた。

「ヘンリー三世陛下はノルマンディーに対して力をお持ちです。ルーアンを含む北部地域をイングランドに返還するならば、ルイ九世陛下に協力し、ともにブルターニュを討つと。書状にて提案されております。これは、国王陛下からの正式な書状です」
掲げた書状の封印は、イングランド王家の紋。
ブランシュは目を丸くした。
「そ、そのような……」
「どうか、クリア・レギスにて、お諮りいただきたい。私はヘンリー三世陛下の命を受け、ここまで来ました。期限はあと三日。お返事がなければ、イングランドは何もせず、ノルマンディーとブルターニュが共謀しパリに侵攻するのを静観します」

ロイは挑戦しようとしていた。
自らの、運命に。
これまで抗いようのなかったすべてに、今初めて爪を突き立て、歯をむき出して。
その姿はどこか人の心を震わせた。ロイは確実に、かつてベルトランシェが知っていた大人しい王子ではなくなっていた。
ほう、と。
ベルトランシェは穏やかなロイの表情に目を細め、獲物を眺める猫のように見詰めた。自然、指先が腰にある鞭を撫でている。
ロイは改めて言い直した。
「ブランシュ様、どうか、摂政としてのご判断を」
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藤宮さん♪

はい~。
ロイ、がんばるのだけど。

おっしゃる通り、シャルルが願うものと、ロイが感じるものは違いますよね~。
親子、っていうつながりは、実は兄弟や恋人なんかとは全然違うもののように思います。
そのつながり自体をシャルルちゃんは体感したことがないですしね。

ブランシュはいつまでも自分の手元にある、かわいい子供たち、と考えていたでしょうし、親にとって子供は御しやすい存在であると認識されがちです。
けれど、男の子は成長につれ、母親の精神年齢を上回ることになると、思っています。
その状況を表現したくて。

異性であること、親子であること。
成長を余儀なくされたロイが、どうなっていくのか。

うふふ。
ご期待ください~♪

複雑、です

シャルルちゃんが望んだ、再会の光景。
あまりにも、複雑に絡まっていて。なんだか見ていて痛々しいです……。

会いたくなかったわけじゃないでしょう。でも、親に本音で語られてしまったら、子供には行く場所がない。
仕方ない。その言葉に、反発を覚えてしまうのは私だけでしょうか。

シャルルちゃんがいたら、怒って泣いたかもしれないな、と思ったり。
たぶん、ロイの描く幸せと、シャルルちゃんの願った幸せは違うのかもしれないのでしょうけど。

何にしてもやりきれないですー。ロイがブランシュ様に突き付けた提案、それが物語にどんな結末をもたらすのか。

うーん、だんだんわからなくなってきました。
でもだからこそ面白い♪ というわけで、続きこっそり待ってます。
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