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『La croisade de l'ange 4:Paris』⑭

La croisade de l'ange Chapter 4 『Paris:天使の聖戦』

14

ふわりと頬に触れる温かい風に、リシャールは眉をしかめた。
昼を一時間ほど過ぎたところで空には灰色の形もわからないような雲が広がっていた。
風向きが変わったから、天候が崩れる。
ロトロアは何もなければ、新たな領地ランに向かう。リシャールはそのために一人馬の準備をしていた。
ルイ九世は軍隊を中庭に集め、出陣の式典を行っている。
おかげで厩はがらんとし、馬番の姿もなかった。
国王の依頼があれば、今のロトロアには断ることは出来ない。ベルトランシェの様子からも、ノルマンディーの動向を知らせ、地形にも敵にも詳しいと期待されているのが分かった。
鞍を据えていたブロンノが、ふん、と鼻を鳴らしリシャールのわき腹に擦り付けた。
「大丈夫ですか、お前の主人は」
リシャールは時折脇腹を押さえるロトロアが気に懸かっていた。
尋ねても笑ってごまかす。いつもの軽口で。
せめて、戦闘に駆り出されない内にここを出ようと、リシャールは作業に集中する。


と、ふと視界を横切った影に気付き、顔を上げた。
二人の女中が、礼拝にでも向かうのか白いベールを頭からかぶり、厩の入り口付近に止まっていた馬車に近づいた。
「女中?いや、大聖堂の下働きか?」
リシャールはそのうちの一人がちらりと美しい横顔を見せたので、習慣でつい見つめている。
また、こちらをちらり。女は慌てて顔をうつむかせる。
照れているのか、と。そう、リシャールの思考はそうなる。

「ご婦人方」
声をかけようと、一歩踏み出したとき。
二人の足元を白い獣が走って戯れた。
見覚えのある白イタチ。

「シャルル!?」

リシャールが目に留めた女性を背後から守るように立つ女。
その背格好は覚えがある。
「シャルルではありませんか、こんなところで何をしているんです。体調はもういいのですか?ロトロア様が心配していらしたんですよ、ちゃんとお礼をしたでしょうね?」

シャルルだと、決めたそれがリシャールの正面に立った。
勢いよく白いベールを取ると、「リシャール!いつもそればっかりだな!ロンロンにはちゃんと言ってきたよ」
何をだ、と内心自分に問いながら、シャルルは背後で黒馬車に乗り込むロイを確認する。
馬車は目立つが、食料や水のことも、ロイの体調のことも考えれば馬車がほしい。

「どうしたんです、その恰好は?さすがの貴女も改心したのですか」
「改心って程じゃないけどさ。女中の支度部屋にいったら、いろいろあってさ。ちょっと面白かったから、借りてみたんだ。お礼にこの人の護衛について、ちょっとランスまで行ってくるんだ」
「ランス?」
「そう、僕ランスには詳しいからさ。ここからなら日が暮れる前に着くよ」
「向こうに泊まってくるんですか」
「うん。お使いだからさ、明日には帰るよ。リシャールは?何してるの」
「いつでもランに旅立てるように、準備ですよ。ここには従者も下男もいませんから。自分でやるしかありませんし」
ちらりとシャルルを見つめるから、「そ、じゃあ。頑張ってね!ロンロンには自由にしていていいって言われてるし。僕は僕のことやるんだ」
と、妙な用事を言い渡されない内に自分の作業に戻る。
御者台に登る前に、馬車の中を覗き込んだ。
ロイがこちらを心配そうに見つめているから、シャルルはにっこりと手を振って見せた。
さあ、出発、と。振り返ると目の前にリシャール。
シャルルと同じように馬車をのぞいていた。
「わ!?なんだよ、びっくりした!」
「いえ、そのご婦人」
「なんだよ」
リシャールは無遠慮にじろじろと見つめる。
「いやらしい目で見るな!」と慌ててシャルルは引き離そうとする。
「熱い視線といってほしいですね。美しい方ですね、あとで紹介してくださいね」
「あ、そう」
そうか、リシャールは今のロイと面会したことがないんだった。
あきれたふりをして安堵をごまかしつつ。シャルルは御者台に登った。
馬を歩かせれば、リシャールが無邪気に馬車の貴婦人、ロイに手を振った。


中庭は封鎖されている。
シャルルは城壁に沿った道をぐるぐると大きく回って城門の前までたどり着く。
城門は正面には三つ。中央が最も大きく広く、その左右は比較的小さい。軍隊のために中央の門の周辺には見送りの兵が詰めかけている。
並ぶ兵たちの背中を見ながら、シャルルは通用口のようになっている小さいほうの門に向かった。
門の前では商人らしいロバに荷を積んだ男が、ちょうど今、門番の質問に答え通してもらったところだった。
シャルルは胸を張って、ゆっくりと門番が止まれと言うまで馬車を進めた。
「お使いか」
シャルルの服装が宮廷内の女中と同じだからどうしてもそう思うらしい。
期待に応えて「はい、ブランシュ様のお使いで、ランスへ参ります」と。猫なで声で答えてみせる。
ふうん、と。門番はじろじろとシャルルを見つめ、それから槍を持ち上げる。
思わず反射的に受け止めたそれは。どうやら胸元を狙ったいたずらのようで、男は「なんだお高いな」と下卑た笑いをもらした。
「お前、名は?戻ったら兵舎に来いよ」
「シャルルです。もう、通ってよろしいですか?」
「シャルル、な。生意気な名前だな。楽しみにしてるぜ」
くそー。
すねた顔を隠せずに、シャルルはとにかく門をくぐる。


城門の向こうはちょうど大聖堂。工事中だけど大勢が参拝に来る。創りかけの圧倒的な大きさの塔をシャルルは見上げる。空全体を覆う雲の天井は、少し低くなったようで、出来上がった塔がそれを突き破る姿を想像した。
まあ、あと百年はかかるだろう。
気の長い話だ。
僕らは今、この瞬間で精一杯なのに。そんな遠い未来を思う人間がいるなんて不思議だ。
感慨を少し尖らせた口に表し、シャルルは大聖堂と宮殿の間の道をミルブレー橋に向かう。
ロンフォルトがふんと鼻を鳴らしたのと。
ちょうど街道の脇を二人の男が走り抜けるのとすれ違う。
「わ」
あの牢番の二人だ。
二人は青い顔をして、宮殿へと走っていく。
ばれるのは時間の問題だ。
馬車は目立つ、急がないと。
「ごめん、ロンフォルト」
シャルルは馬に鞭を入れた。


中庭を見下ろすバルコニーで、ルイ九世がちょうど姿を現した。
すでに集まった兵たちはぎっしりと物々しい姿でその場を埋め尽くしている。どよめく低い声は港町で聞く海鳴りのようでもあり、そう思うと兵たちの兜一つ一つが波のように揺れている気がしてきた。見ているうちに気分が悪くなりジャンは、青ざめた顔で一歩下がる。
「どうした」
ルイに問われ、ジャンは「いえ、高いところが苦手です。少し、目が回りました」と笑った。ふ、とルイが大人びた笑みを浮かべ、「ワインでも飲め」と冗談とも嘲笑ともつかないことを言って少し笑った。
その低く抑えた口調はすでに、ルイが戦場にいるかのような迫力を見せ。ジャンは心のどこかで怯えた。シャルルたちが逃げたことを隠している罪悪感も入り混じって、ジャンは一人、内心の緊張を押し隠していた。
「すみません。あ」
ふと、視界の中の兵たちの海に、違う流れが通り抜けた。
その視線を追ってルイもそれを見下ろした。
「あれは?衛兵が二人、走ってきますね。馬鹿ですね、軍の隊列を横切ろうとしている」
側にいたベルトランシェが目を細め。片手を上げる。背後に控えていた一人の近衛兵が姿勢をただし、すぐに駆け出して行った。
何事が起ったのかを、ルイもベルトランシェも。ほどなく知ることとなる。


作業を終えたリシャールは中庭のうっとうしい軍隊のざわめきに、意識的に耳をふさぎながらロトロアの部屋へと向かった。歩きながら、考える。もちろん、女性についてだ。シャルルがドレスを着るなど、まあ。ロイの効果だとしても、ロトロア様にとって悪いことではないだろう。いつの間にか青年の口元は緩む。
ロイは捕らわれていると聞くし、あくまでもシャルルはロトロアの側近。臣従礼を結び側にいるからにはあれはロトロア様のものだ。性格はあれだが、女であることに代わりはない。ロトロア様ならお好きになさるだろう。
それにしても、あの一緒にいた女性は美しかった。
ちらと見ただけだが、淡い青の瞳に白い肌。少し茶色の勝った金の髪。細身で小柄だが凛とした様子からいずれ身分の高いお方に違いない。まだ十代、これからが楽しみだ。
素晴らしい発見をした嬉しさにリシャールはいつも以上に華やかな笑みを浮かべ、すれ違う女中たちを振り向かせていた。
部屋の扉が開いたままなのを気にも留めず、リシャールは軽やかな足取り。
「ロトロア様、準備が整いましたよ」と。心なしか声も高い。

が。その笑みは一変する。
近衛兵二人がこちらに背を向けて立っている。その腰には剣。
物々しい彼らが相対しているロトロアは、頭に包帯を巻いている。
「!?ロトロア様。これは」
リシャールはまっすぐ衛兵の脇を過ぎ、主君に駆け寄る。
ロトロアは剣を腰に括る。手足には軽微な皮の籠手や膝当て。戦闘の支度だ。
「ああ、リシャール。シャルルがやってくれたぜ。ロイを牢から連れ出して逃走中だ」
「シャルル、が!?」
ではあの、貴婦人は……。
そういえばロイは子どもの頃、女装してランスから逃げ出したと聞いた。未だ手口の成長していないことに飽きれる前に、同じ手口に引っかかった自分を思えば。見聞きした事実を口に出すのははばかられた。
何しろ、リシャールは女装のロイに対して様々な想像を楽しんでいたのだ、つい先ほどまで!
「我がセネシャルの裏切りなのでな。俺たちにその処分を命じられた。ま、ルイ九世陛下のご心情もよくわかる。でな、リシャール。すぐに出発だぜ」
「あ、はい、馬の準備はできております」
リシャールは顔を赤くしたり青くしたり。それを宥めるようにロトロアは穏やかに笑い、リシャールの肩をたたいた。
「リシャール、これが終わればランに。帰れるぜ」
ランに、帰る。
ランに。それを強調したロトロアの気持ちが、リシャールにも伝わる。
そう、ランは今やロトロアの領地。ロトロアの両親が亡くなった時からずっと願っていた。真の故郷に帰ることができる。
まともな思考に戻ると同時に、リシャールの中の怒りは深く静かに熱を帯びた。シャルルは裏切ったのだ。かねてから言い渡してある。ロトロアを裏切れば、死だ。
「では、失敗できませんね。シャルルの件で国王陛下に借りを作っては、今後の憂いとなりましょう。この際、ロトロア様。シャルルには痛い目を見てもらいます、場合によっては命を奪うことになるかもしれませんが。かまいませんか」
「ああ。あいつも覚悟の上だろうぜ。ハムのように刻む、のが得意なのはあいつか」
「はい」
二人の会話を複雑な顔で見守っていた近衛兵が口を開いた。
「陛下は歩兵なり騎士なり、好きなものを使えとおっしゃっております。ご希望の隊を編成いたします」
「ああ、わかった。あいつらが向かう先は分かっている。今すぐ早馬を出して、前線に連絡を。街道を封鎖し、見つけたら捕獲しろとな」
シャルルたちの目的はル・アーブル。ひいては海の向こうの、イングランドだ。


***


「よくも、まあ」と。あきれた声を出したのは、ロトロアだ。
シャルルを追うのに五騎の騎士が必要だとロトロアが申し出て、選別をベルトランシェに任せたところ。まさか当の本人がくっついてくるとは思っていなかったからだ。
脚の速い馬を手配し、従者もつけない。身軽に動けることを最優先に装備を軽くした。この戦時に隊列を割く余裕はない。
しかし、だからと言って。
「近衛騎士団長自らがお出ましというのも、まあ、シャルルは喜ばないだろうが」
ロトロアのはっきりした口調に、美しい騎士団長は風に髪をなびかせ、笑う。
「戦時ほど、近衛騎士団が不用となることもないのですよ。何しろ、我らがいなくとも陛下の周囲には多くの兵がいることになる。それに、ロイ様のことは。下々の者には伏せてあります。近衛騎士団の精鋭を率いるのですよ、光栄に思いなさい」
「まあ、華やかなことは申し分ないが」
ロトロアは近衛騎士団のマントについている白い羽飾り、肩を飾る金の飾り紐なんかを順に眺めた。
もちろん、ベルトランシェの容姿自体、華やかだ。
「光栄に思いなさいといっているでしょう?シャルルがシャルルなら、お前もお前ですね、ロトロア。陛下はこの件で失敗したなら、お前の特権のいくつかを剥奪なさいますよ」
「雇われ代官はつらい立場ですな。雇われ騎士と同様に」
それは近衛騎士団のことを言っているのですか、とベルトランシェが睨みつけ。
二人の牽制は、徐々に程度を下げていく。

リシャールと二人の近衛騎士がかわるがわる先頭に並ぶ二人を見つめ。ふと視線が合うと、困ったように肩をすくめる。
リシャールのすぐ隣に馬を駆る黒髪の日に焼けた青年が「貴方も大変ですね。気概のありすぎる主君というのは」と白い歯を見せた。リシャールは「ええ、まあ。飽きることはありませんよ、貴方もそうでしょう?」と応える。
「はい。機嫌の悪い時には、手がつけられませんが。それでいて後で妙に大人しくなって、あれでも反省なさるんだと、まあ。悪戯ボウズみたいなものです」
ベルトランシェよりは、年上だろう。近衛騎士団長を悪戯ボウズとは。
リシャールの表情を読み取ったのか、黒髪の青年は魅力的な笑みを浮かべて笑った。
「隊長が、実は一番年下なんですよ、近衛騎士団の中で。それで、まあ。尊敬申し上げつつ、皆可愛くて仕方ないというか」
我慢できずリシャールは噴出す。
「様々、忠誠の仕方はありますから。それを思えば我がロトロア様は、気さくな様子でいて実はかなり怖い方ですから。我らセネシャルはどこか畏怖を禁じえない」
「なるほど、切れ者と噂されるのはそういうところにありますか。私はスタラスです。こっちはユーリー。短い作戦ですが、宜しく」
リシャールはこの青年に好感を持った。さすが、近衛騎士団ともなると礼儀も正しく見識も高い。その上、面白みがある。
「私は」
「リシャール様、でしょう。お噂は聞いておりますよ」
「様は、いりませんよ。こちらこそ、宜しく」
率いる二人が犬猿の仲らしき事を除けば。まさしく精鋭、といった五人だ。
パリを真っ直ぐ北に、ノルマンディーに向かっていた。
ロイのためかシャルルは馬車で逃げた。馬車が走れる道というのは街道の他にはない。馬であれば山野に潜む方法もあるだろうが。
その推理の通り。シャルルたちは正直に、街道を真っ直ぐ北に向かっていた。
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藤宮さん♪

手口に成長のない二人です(笑

ロンロン。リシャール。
ベル。

平穏無事に…。うふふ。

うふふ…ごめんなさい~(←?)

そう、終わりが迫っています。

シャルルちゃんたちがんばりますが。
がんばりますが…。
終わりに向かって口が重くなっていく私です。

祈ってやってください~(><)

たぶん12月の半ばで完結です。

次の作品は全然考えていなくて(笑

新しいものを、と思うとまた無性に気持ちだけわくわくしてしまうのに、行動が伴っていないです…。

逃走の果ては

少し、いや、かなりまずい状況になってきていますね。

シャルルちゃんとロイ、昔を思い出させる格好でリシャールさんから逃げましたけど、そのあとは……。

ロトロアに対する裏切りを許すリシャールさんではないだろうし、ロトロアのとる行動も気になります。

ベルさんも一緒だし、相当な修羅場になりそうな予感が。

ロイと無事、切り抜けることができるのか……うう、心配です。

おそらく、平穏無事には済まないのだろうけど。

シャルルちゃんたちが、それぞれ幸せな未来に進めることを祈らずにはいられないです。

終わりが迫っていることを感じて、少し切なくなりますが。
続きを、こっそりいつも通りお待ちしています。
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らんらら

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